「・・・妙だな」
昇りきった朝日を背にした経公さんがそう呟く。
その呟きを頭の片隅におき、俺は今の状況を分析する。
まず俺の状態だ。
瞬龍が手元に戻ってきたとはいえ、ISとの物理的なリンクが切れていた代償は大きい。
先ほどから俺のデータを再び入力しているのか、視界の隅に複雑な文字や数字の列が流れている。
俺の身体の状態から言ってもあまり長い時間の戦闘には耐えられそうにないぞ。
次に、サラ。
サニーラバーを再展開したサラは俺と違ってISの方は問題ないようだが、ウェルクから受けた杭のダメージが意外に効いているように見える。こちらも全力とはほど遠そうだ。
そして束さん。
束さんの操る武器は正確にはISではないがその戦闘力は高く、事実ウェルクのIS『牙龍』を圧倒していた。
対して相手は経公さんとウェルクの二人だが、ウェルクの方は戦えそうにはない。
三対一。
客観的にはこちらが有利だが油断するわけにはいかない。
先ほどの台詞――
『―――瞬龍置いて逃げるか、ここでこの青龍偃月刀の餌食になって死ぬか。どっちか選べよ』
――からも分かる通り経公さんは俺たちに対して敵対的な立ち位置にある。
死んだはずの人間が生きていた例はウェルクの時に経験しているから分かるが、恐らく経公さんは双龍側の人間―――つまり敵だ。
「――なにが妙なんだよ。俺にとっちゃ生きてるあんたの方が妙に映るぜ」
俺は戦闘に備えて密かに展開した「流桜」の薬室に通常の弾頭とは違う特殊弾頭の弾を籠める。
もし、経公さんが本当に双龍の人間だった場合―――
――――鈴が来る前に仕留めてやる。
「おおっ、良いねェその眼。状況的にはBシステムになり得ないってのにその殺気。―――さっきの質問への返答ってことで良いんだよなクレ坊?」
「悪いが俺は双龍について色々知らなきゃならないんだよ。だから
俺が向けた眼に俄然やる気を出したのか、経公さん―――経公が背負った青龍偃月刀を手にした。
「束さん、サラ。俺にやらせてくれ。あの人と話がしたい」
背後にいる二人に向けて告げると同時に、経公が手にした武器を構えて先手をとってきた!
「わりぃがクレ坊! 俺達も大人の事情ってやつが有ってだなァ、ソイツと甲龍が必要なんだよ!」
上段から降り下ろされた刃を時穿で受け止める。
青龍偃月刀――俗に言う青竜刀は日本刀とは違い、重さで相手を叩き潰す武器である。
その重い刃を受けた俺はその衝撃を受け止めきれず、バックステップでその場から回避。
離れる際に先ほど籠めた銃弾を経公に向けて発砲する。
銃弾が見えているのか、経公はなんと自身に迫り来る銃弾を斬ると言う技術を見せつけ―――。
「・・・・・?」
―――ると同時に、割れた弾丸の内部から白い煙幕が噴出し、辺り一辺を真っ白な煙で染め上げていく。
煙幕の範囲外にいた俺は両手の衝撃砲『轟砲』を構えるとエネルギーの許せる限り連射していく。
打ち込んだ砲弾の数は23。そのすべてに手応えがあったが―――まだだ。
「ハッハー! 今のはスカッとしたぜクレ坊!」
笑い声を上げながら煙から突進してきた経公は言わずもがな無傷。
それどころか余計に相手を昂らせてしまったようだ。
「俺も衝撃砲積んどけば良かったかもなぁ・・・。ちっ、共青団出身の政治家は頭が固くて用意してくれなかったからなぁ」
「共青団って・・・。あんたもしかして中国政府の元エリートかなんかかよ・・・ッ?」
咄嗟に時穿を前に突きだし、青龍偃月刀の一撃を受け止める。
て、手がビリビリしやがる・・!
「ああ、そうだ。俺は今じゃ双龍で全体の指揮取ってたりするがな、元々は中華料理人な上に中華政界の秘蔵っ子だぜ? 笑えんだろ?」
「笑えるかっての!」
強引に経公を押し切り、続けざまに斬空を二撃放つ。
「一体なんで瞬龍や甲龍・・・・いや、鈴を欲しがる!? 親の情とか言ったら絶対に斬るからな!」
意図も簡単に斬空の見えざる斬撃を避けた経公は俺を見るとハァー、とため息をついた。
「なんだよお前、自分が戦ってる世界のことも知らずに力を振るってるのかよ。おい篠ノ之博士。息子に状況説明ぐらいしてやったらどうなんだよ?」
「今は束さんは関係ない。あんたは双龍の幹部的な地位にいるんだろ。だったらあんたから聞かせてくれよ。どうして二年も鈴の前から姿を消した?」
そう言うと経公は――
「・・・・仕方ないな。――聞けよクレ坊。
そう、話始めた。
「今から12年前、とある女の子が自分の家が所有する山中で奇妙な物を見つけた。なんだと思う?」
「・・・・知るわけないだろ。良いから話せよ」
「あーあ。イヤだねぇせっかちは。聞き手の反応がねぇとこっちも話す気が失せてくるぜ。・・・・・まぁいいか。とにかくだ、その日少女は光る人間を見つけたんだ。裸の上に何故か鉄の鎧を纏ってな」
経公は自身が纏っている偃月の装甲をこんこんと叩いて続けた。
「―――それが世界に初めて現れたISだ。――といっても技術化されるのはもう少し後なんだが今はいいだろ」
「・・・・・待て、それじゃあ今俺達が纏っているのは・・」
「違う違う、落ち着け。話はこっからだよ。―――女の子が少女を見つけたとき、その少女は今にも死にそうな状況だったんだ。見つけた女の子はなまじ頭が良かっただけにその場で技術を駆使し、本能に従った」
「本能に・・・?」
俺が意味が分からないという顔をすると経公はニヤリと口元を歪めた。
「少女はその生まれ持った強い探求心に従い――少女の身体を開き、その場で中核を成す部分の組織を一部切除した」
それは、つまり・・・・。
「―――そう、あの日の私は異常だった。彼女に魅せられた私はその場で彼女の核を奪い、心を手に入れた。人を殺したんだよ。――ーううん、人じゃない。世界初の『超界者』を」
俺の言いたいことをいつの間にか隣に居た束さんが代弁し、更に説明を付け加える。
「そう、そうだったよな篠ノ之博士。でも俺はあんたを責めないぜ。あんたは『核』を利用はしてもその『心』までは棄てなかった。だから、今起きてる問題は解決できる」
・・・マズイ。早くも話に取り残されてる感じだ。
経公が言った女の子とやらは恐らく束さん。そして山中で死にかけていたと言う少女がISを装備していたってことか。
「まて、それじゃあ束さんはISを開発した訳じゃないってことか?」
「いいや、それも違うぜクレ坊」
またもや、経公が否定する。
「確かに篠ノ之博士はISを根っこから開発した訳じゃない。だが、手に入れた核を複製することには成功したんだ。昔は今ほど『超界者』の数も多くは無かったしな。それに、ISを一機作る為に超界者を一人殺してたんじゃ効率が悪い。だから世界中のあらゆる機関が血眼になって超界者の核―――即ちISの元となるコアだわな。それをかき集めてるっていうのにそれを余所に核を複製、それをもとにISなる兵器まで作っちまった時には笑いが止まらなかったぜ?」
経公は当時のこと――10年前を思い出しているのかクックックと喉を震わせた。
「―――でも、私には理念があった! 私が解析したコアには想像を絶する力が秘められていた。 あれがあればエネルギー問題は元より、私が提唱した外宇宙への進出だって可能になるはずだったのに、それを
束さんが経公を責めるように言う。
すると、経公の笑い声はぴたりと止んだ。
「――――クレ坊。こっからが本題だぜ。さっき言った篠ノ之博士の輝かしい功績はな、
経公が束さんに向ける目。
それはとてつもなく冷ややかで、侮蔑するような力が込められていた。
俺に向けられたわけではないのに、思わず身震いしてしまった。
恐怖。俺は今、あの男に恐怖している・・・・ッ!?
「篠ノ之博士がISを発表してから数ヶ月経った頃だ。隠蔽されてたが世界中のIS研究機関がいくつも襲われ、または破壊されていた。
心――。これが意味するモノとは一体何なのか、俺の頭は一歩一歩理解に近づきつつあった。
「俺はその頃には共青団から双龍の指揮官になってたんだがな、事態を重く見た中国は早急に対超界者用の武器にISを利用することを決定付けた。技術が進歩し完成された兵器を駆る超界者に太刀打ちできるまで待ってな。そうして始められたのが『双龍計画』だ」
「つまり瞬龍、甲龍ってのは――――」
「そうだ。超界者――次元の向こう側の世界からやって来る破壊者に対抗すべく造られたISだ」
頭のなかがぐらりと揺れた。
俺は知らないことが多すぎたのだ。
元より二年ほどしか生きていないから仕方のないことかも知れないが、衝撃が大きすぎた。
「・・・・それじゃあ、なんで俺達が操縦者に選ばれたんだ・・・?」
俺は聞きたいとは思っているはずがないのに、それを問い掛けてしまった。
俺と鈴は何のためにISに乗っているのか、ここからの話はそれを悪にも善にもすると言う直感があった。
「――それに関しちゃソッチが説明してくれると思うぜ?」
予想に反して、経公は顎で束さんを指し示した。
指された束さんはとても言いづらそうに語りだした。
「私が死なせてしまった『超界者』は、所謂女王、という地位にいた個体だったようで、『核』と『心』を奪われたとだけあって、その他の超界者はその両方を探し始めた。理由は簡単。その二つがあれば再び女王を再臨させることができるから。中国に加えてイギリス、日本は二つともを超界者に返還する、ということで合意がなされた・・・。でも私はその時には既に核をISのコアとしてとある実験に使っていたの。――そのISが瞬龍」
束さんはそう語った。
「―――それを知った俺達双龍は実験事故を装って瞬龍を奪取しようと考えた。篠ノ之束が所持していると思われる『心』も一緒にな。それがあの日、俺が姿を消した実験の日の真実ってわけだ。先攻部隊が突入し、試験稼働中の瞬龍を奪い取る。そういう手筈だった」
「―――だけど、俺が暴走したせいで失敗したって訳か」
束さんから引き継いだ経公の話を更に俺が引き継ぐ形で完結させる。
「暴走って言うとちょっと語弊があるよクーちゃん。あの時の暴走の正体は『
「切り札・・?」
束さんの説明に眉を寄せる。
ISの切り札といったら言わずもがな
束さんの話からすると、このIS、瞬龍にはそれ以上の能力があることになるぞ。
「分からねぇかクレ坊? そのISはオリジナルだ。世界中で流通しているコアが篠ノ之博士による複製品だとしたらお前のそれは紛うことなき本物だ。だから俺達はその女王の核で造られた瞬龍と鈴を必要とする。――と言うよりアイツの頭の中にある情報に用があるんだ」
「頭の中にある情報って・・・」
俺の身体は無意識に説明を求めようと束さんを見つめていた。
今までの話のなかに鈴が出てくることはなかった。
更に未だに一つだけ分からないのは、現在の『心』の在処。
大体予想はついていると自分でも自覚しているが、それを認めるわけには行かなかった。
それが本当なら、俺が負けるとどういう形であれ鈴は死ぬ。
目の前で束さんは俺を見ることなく真っ直ぐに経公を睨んでいる。
まるで、俺と話すことを拒むように。
「・・・本当は話すつもりはなかったけれど、クーちゃん。何があっても凰 鈴音を護って。私は彼女の脳内に情報として『心』を埋め込んだ。あの日の事故のあとだよ。あんなに都合のいいタイミングで襲撃があったおかげで、私は核と心が狙いだと知ることができたから、二機で一体と成れる双龍の傑作機、瞬龍と甲龍の中にそれぞれを封じ込めた。彼女が狙われるのはそれが理由。その後三国内で責任の擦り付けをしている間に双龍は独立した組織として活動を始め、今に至っているの。中国は私の取った行動を正しい判断だと認め、その事実をデータ上から抹消したけれど、双龍は知っていた。経公、貴方が知っていたから」
「それじゃあアイツに記憶がない理由は・・・」
「強制的な脳内情報の上書きのせいよ。負荷が掛かりすぎて一部記憶情報を抹消したの。そうした方が都合もよかったから」
束さんの物言いに、俺は小さな憤りを感じた。
束さんや経公が何を思ってどうしたのかは理解できた。
だが、実の娘を平気で犠牲にしようとする経公の不快な覚悟が、都合がいいというだけで人の記憶を消してしまえる束さんの達観が、気にくわない。
心の整理がついた瞬間、やるべきことがわかった気がする。
「整理するぞ。詰まるところ、女王を復活させて世界を守ろうとする双龍と、対超界者用のISを持つ俺達がどうにかしてくれるだろうと思っている日中英の三ヵ国がいざこざ起こしてるって訳か」
「・・・・まぁ、そう言うことだな」
「・・・そう言うことだね」
俺の強引な纏めに二人が曖昧に頷く。
「そうか―――――だってよ。サラ」
「そうね。一言で言うなら腹が立つわね。核と心があれば超界者は再び現れることができる。だったら肉体はどうするのよって話よね。 ・・・まぁ、この人を見れば一目瞭然なんでしょうけれど」
呼び掛けたサラは彼女の意見を言うと足元で再び捕縛されてるウェルク改め、バースを見下ろす。
「―――経公、あんたいったよな。核と心を返すって。それ、
彼らはわかっているはずだ。
その女王の復活。そのよりしろとなる肉体は鈴が使われると言うことを。
それでいいのか。
本当にいいのか。
少なくとも、俺は嫌だ。
「あんたら二人のどっちかに付け、と言われたら俺は渋々だが束さんの方に付く。その世界を壊す超界者ってのがそこにいるバースみたいなやつなら全部俺が相手をしてやる」
怒りから来る感情が俺の心臓の鼓動を早める。
ドッドッドッと単調なリズムを刻みながら、身体の機能が上昇していることに気がつく。
――――――特定のISコアを検知。Bシステム、起動。
瞬龍の指示にしたがって見た方向には。
「なんで・・・・・なんでお父さんが・・・」
鈴がいたのだ。
@
・・・・遅かったか。
俺は歯噛みした。
出来れば鈴がいない間にケリを付けたかったが、こうなってはそうもいってられない。
Bシステムが発動したお蔭でさっきよりはマトモに戦えそうだ。
「おお、鈴! まさかそっちから来てくれるとは思わなかったぜ。久しぶりだな覚えてるか? 俺だよ俺!」
経公は隠した思惑を窺えさせない笑顔で鈴に向かって手を振り、親しみ深い笑顔を向ける。
一方鈴は感極まった様子で、実の父がISを纏っている事実を気にしていない様子で目尻に涙を浮かべている。
ISを纏った二人が再会の喜びを分かち合おうと駆け寄る、が。俺はその光景があまりにも自然すぎて一瞬反応が遅れてしまった。
凰 経公。
その男の狙いは―――ー!
「鈴ッ! 離れろッ!」
とっさに叫んだ。
俺の叫び声に反応した鈴が俺の方を向いて「え?」と小首を傾げる。
その首の横を。
ブンンッ!!
―――振り下ろされた巨大な刃が通りすぎていった。
「・・・・・ちっ。別に殺しはしないぜクレ坊。鈴の身体は女王の復活に必要なモノだからな」
さも当然のように娘をもの扱いする経公。
異常だ。
改めてそう実感する。
鈴は反射的に武器を展開し、経公から距離をとる。
「クレハッ! どういうことよ?」
「訊くよりまず逃げろッ! その男の狙いはお前だッ!」
そういった瞬間、又もや経公の青龍偃月刀が煌めき、鈴に向かって振り下ろされる。
ギンッ!
鈴と経公の間に咄嗟に体を滑り込ませた俺は、時穿で青竜刀を受け止める。
「なによ・・・・何なのよこれぇ! なんでお父さんがIS使って・・・・わけが分からないわよ!」
「落ち着け鈴! とにかく逃げろ!」
混乱している鈴は今にもしゃがみこんでしまいそうなほど狼狽している。
まずい。非常にまずい。
このまま動けなくなってしまったら俺は鈴を護りながらこの男と戦わなくてはならなくなる。
本調子でも無いのだからその状況は絶対に避けたい・・!
「なんだよ坊主。やっぱりBシステムのトリガーは鈴になってたのか」
「それがどうしたよっ!」
一瞬だけ時穿の柄から片手だけ離して、流桜を握ると至近距離から通常弾を経公に打ち込む。
「ぐっ・・・・!」
シールドバリアーの効かない範囲、絶対防御が発動したのか経公の顔がほんの少しだけ歪む。
経公は先程とは逆に俺を蹴り飛ばすと、スラスターを吹かしながら距離を開ける。
空中で姿勢を整え、経公の姿を探そうとした瞬間、アゴに強烈な衝撃。
メリッと頭の中でイヤな音が鳴り響き、激痛が走る。
あ、顎を蹴り割られた・・・・!?
そう自覚した瞬間、続いて右脇に冷たい感触が一瞬だけ感じられ次の瞬間にはそれが猛烈な熱となって俺に襲いかかってきた。
「あ、アガッ・・!? が、アアアアアアッ!?」
顎の骨が砕けているため声がうまく出せない。
痛いと言うより熱い金属棒でも差し込まれたかのような猛烈な熱を右肩に感じ、自分の右肩を見るが、そこにはあるべきはずの肩が、ない。
「おーい。探し物はこれか?」
経公が、手に何かを掲げている。
―――――俺の、右腕―――。
頭が真っ白になる。
痛みすら一瞬消え去って、その事実を受け入れる準備をする。
シールドバリアーに絶対防御もあるはずなのに、それを突破して攻撃された。
肩から先がない。
時穿すら右腕が握ったまま経公の手にわたっており、俺は左腕で今さら出てきた出血を抑える。
「く、クレハァッ!?」
鈴の声が聞こえる。
だがその声も一瞬でかき消された。
どうやってか一瞬で移動した経公によって鈴が気絶させられたのだ。
しまった。鈴が向こうの手に落ちた。
なんとか・・・何とかして剣を手に取らないと・・・っ!
「ぐ・・・・フゥゥゥ・・・ッ」
そうは考えられるが身体が石のようになって動かない。
肩の熱が過ぎ去り、明確な痛みが俺の脳内を犯し続ける。
痛い痛い痛い痛い痛い。
・・・・・・・・止めてしまいたい・・・・ッ!
「――――止まってはダメだよクーちゃん! ぐっ」
束さんも、経公によって封じられる。
俺が謎の硬直で動けない間にサラも倒された。
なんで・・・、なんで。
Bシステムは効いているハズなのに。
経公はその先を行っていると言うのか・・・!?
血が・・・・・止まらない。
流れ出る赤い液体は重力にしたがって真下の海へと落ちていく。
俺にはそれが止められない。
まさに一瞬で俺たちを倒した経公が俺に向かってほくそ笑む。
これで、文句ないよな? とでも言うように。
ああ、そうさ。文句なんてあるわけがない。
俺には力がなかった。
鈴を護るだけの力が。
四月のクラス代表トーナメントの日、箒相手にかっこよく見栄張っておいていざとなったらこの様かよ。
くそッ。
欲しい。
力が。
必要なんだ。
だから、くれよ。
何人をも切り裂く絶対の刃を。
アイツを護れるだけの鎧を。
ちくしょう・・・・・・・・・・・・―――――――――――。
――――『