インフィニット・ストラトス~オーバーリミット~   作:龍竜甲

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朝陽の向こう

「んじゃ、手始めに行ってみよー!」

 

束さんが激しくコンソールのキーを打鍵する。

すると背後に十連装ミサイルポッドが顕現し、束さんの「ゴー!」の合図のもとそのすべてが射出された。

 

「この程度を手始めだなんて・・。舐められたモノですね!」

 

ウェルクは迫り来るミサイルに対して、銀色の剣を一振り。

放たれた空間断絶の刃――斬空がミサイルの半数を凪ぎ払う。

 

爆炎を突き破って突進する残りの五本は、新たに召喚された短機関銃の掃射で全て撃ち落とされてしまった。

その光景を目を細めて見た束さんは更にコンソールを操作し、立っている足場から六本の機械の腕(マニュピレーター)を伸ばす。

まるで、蜘蛛の脚のように。

 

「おおっ、良いですねぇ! まさか貴女自身が格闘戦を行うとは!これは予想外です!」

 

腕に近接ブレードを召喚した束さんを見て昂るウェルク。

そんなウェルクに向かって束さんは疾駆する。

 

「べっつにぃ! 束さんだって運動が得意なんだって見せつけておかないとねー!」

 

アームを自分の腕のように操る束さんは次々とウェルクに向かって剣撃をくりだす。

六本のアームによる多重攻撃。

そ、想像を絶する速さだ・・・・!

目で追えなくてくらくらするぜ。

 

「なるほど。攻撃手段を限界まで引き上げて間断なく攻撃しようという腹ですか・・・。ですが、それだけの処理を一人で行っていると、流石の束博士も隙が生まれるようですね?」

「――――!? 何が―――」

 

一瞬、ほんのコンマ一秒だけ束さんのアームが停止し、その隙を突いてウェルクが反撃に出た。

六本ものマニピュレーターをそれぞれ一人で操作し、相手の裏をかくように責めさせる。

いくら天才束博士でも負荷が大きすぎるのだ!

ウェルクは動かなくなったアームを切り落とし、背後から迫ってきたアームを(バンカー)で破壊。

残りのアームも瞬く間に処理してしまった。

 

「――――人である限り限界は訪れる。私はそれを身をもって実感しています」

「・・・・・・化け物め・・・」

 

全ての腕を失った束さんが珍しく憎々しげな表情でウェルクを睨み付ける。

 

「大体、我々を模倣した兵器で我々に勝とうと言うのがそもそもの間違いなのです。やはり人類は殲滅されるべき対象だ」

「・・・・ふん、えーっとぉ、どっちかっていうと模倣に関しては君の領分だと思うんだけどぉ、束さんもただやられてるだけってのは性に合わないんだよねぇ~!」

 

憎々しげな表情から一変。いつもの笑顔に戻った束さんは再びキーボードを打鍵する。

まるでオーケストラの指揮者のような滑らかで優雅な動きだ。

 

「さぁて、行くよ『超界者』くん。これなら多少は効くでしょ?」

 

そう言って召喚した兵装。それは。

 

「ま、まさか、それ全部『展開装甲』かよ・・・・!」

 

束さんが数十本の金属棒を召喚したかと思うと、その全てが宙に浮き、浮遊している。

ISの非固定武装(アンロックユニット)と同じ技術だ。

 

「おや。大正解だよクーちゃん! その名も展開装甲Ver.束さん! 束さんの思考をダイレクトに読み取り思いのままに動かせるまさにファンネ○! 時代がついに追いついたって感じで、蒼いカラーリングがなんとも言えないかっこよさを表現してるよね! それと正解者には後でハグしてあげよう!」

 

要らんわ。

 

「展開装甲ですか・・。多少は本腰入れて当たった方が身のためですね」

「え~、よくいうよ身のためなんて。君たちは肉体なんて持つ必要が無いんでしょ?」

「確かにそうですが、生きるためには色々必要になることが多いのですよ」

 

会話の最中にも順に装甲を開き、蒼いブレードを露出させていく束さん。

どうやら準備が整ったみたいだぞ。

 

「さてと、それじゃここからは手始めじゃなくて本気モードだからねー!」

 

言うが早いか束さんは両の腕を大きく振り、展開装甲に指示を送った。

展開装甲は、それぞれが意思を持っているかのように統率のとれた動きでウェルクを翻弄していく。

 

「・・・・くっ」

 

ウェルクの顔に焦りの色が見える。

牙龍の特徴はパイルバンカーによる強大な攻撃力と、強固な防御力だ。

だが、展開装甲にはシールドそのものを無効化する性質がある。

これによってウェルクは守りを失い、一方的に追い詰められ始めているのだ!

 

「まずは剣をぉ!!」

 

注意が散漫になった瞬間、束さんの操る一基が正確にウェルクの手から銀剣を弾き飛ばす。

ウェルクが目を見開くが、その隙を逃す束さんではない。

 

「ほらほらぁ!もういっちょーう!」

 

続いて左右から挟み込むように現れた二基が、ウェルクの体をかすめエネルギーを削り取っていく。

 

「これは・・・!」

 

自分が攻撃から逃れられないと悟ったウェルクは何を思ったかいきなり反転。

背中の可変ウィングらしき翼を変形させ、離脱姿勢―――瞳によると、急激な加速で一気に戦場を脱する状態―――に入った。って、逃げる気かアイツ!

 

背中のスラスターの出力を増大させ、今にも飛び出しそうなウェルク。

 

「ここで逃げるのは情けないですが、次のためには・・・!」

 

―――だが。

 

「―――させないわよっ!」

 

突如飛来した両刃の大剣によって脚部のスラスターを貫かれ、失敗に終わる。

あ、あの大剣・・! 

まさか・・・。

 

「か、回復したというのですか!? この短時間で―――サラウェルキン!」

「そのまさかよ。打鉄の防御力を舐めたようね。あと、兄さんの顔で名前呼ぶのやめてもらっても良いかしら? ヘドが出るわ」

 

荒れ狂う海風のなか、金色の装甲―『明日を奪う者(サニーラバー)』を纏ったサラは、不敵に笑って見せる。

 

「ほらっ! ぼさっとしないで拘束!」

 

サラが俺に向かって叫んだので、それに応えて銃のマガジンに電磁弾を装填。

瞬時に照星を合わせると発砲し、ウェルクの周囲に電磁波フィールドを発生させた。

 

「よし、これでISは停止。チェックメイトね」

 

サラは止めにと、大剣で脚部スラスターを破壊する。

・・・・終わったな。

始めはリヴァイヴでなんとかなんのかと、自分自身でも不安だったが予想外の増援で収集はつけられた。

福音と戦闘中だったハズの鈴に連絡を取ってみると、あちらは既に決着がついており、一夏が白式の第二形態を発現したらしい。鈴は既にこっちにむかってるとか。

 

「さてと・・・束さん、ちょっ―――」

「クーちゃーん! お久しぶりだよ~。さぁさぁ、親子の再会を喜び合おうぜェィ!」

 

・・・・俺の言葉は遮られた。

圧倒的な質量を持つ、温かい双丘によって。

 

「ちょっ、まずい! 待て!待ってくれ束さん! 離れろッ!」

「え~、どうして~? 親子のハグだよ? どうってことないでしょ~?」

 

瞬龍が無くったってまずいものはまずいんだよ!

て言うか!

 

「それだそれ! 聞きたいことはたくさんあるが、息子ってどういうことだ!」

 

息苦しい空間から顔を出し、見上げた束さんの顔は・・・ん? なんか少し焦ってる?

 

「え、え~、まだちーちゃんバレてなかったのか~。案外お間抜けさんなところあるから速攻でバレると束さんは予想してたんだけどなぁ・・・。・・・説明めんどくせー」

「めんどくせーってなんだ! めんどくせーって!」

「あーうん。バレてないなら良いや。クーちゃん、束さんはまた旅に出るね! また来年の七夕に!」

「行かせると思ってんのか!」

 

コンソールをカタカタしながら「次の~隠れ家は~どーこにしよっかな~」なんて歌い始めた束さんのウサギ耳を掴む。黙ってトンズラかこうなんてあまっちょろいぜ。

 

「むー、ウサ耳は最近の束さんのトレンドなんだよ? それを無下に扱うってことは束さんを激怒させる行為に等しいね! と言うわけで束さんは自分で作ったマシーンで走り出しちゃうから!」

「盗んだマシーンじゃない辺り束さんらしいが、もうあんた15って年じゃねぇだろ!?」

「失礼な!束さんは最新のアンチエイジング技術で肌年齢はちーちゃんの歳のマイナス12! 束さんをなめてもらっちゃあ困るよ!?」

「実年齢より下とかすげぇな!」

 

なんだこの会話。俺は聞きたいこと聞いただけなのになぁ・・・。

 

「・・・まぁいいや。とにかく息子ってことは置いといて、だ。先ずはアイツ(ウェルク)のことについて説明してくれよ」

「えー、それもちょっとなぁ・・・」

 

しぶる束さんにイラッと来たので、もう一度うさみみを掴んでやろうかと画策したとき。

 

「―――――篠ノ之博士。貴女は後悔していますね」

 

いきなり、拘束されているハズのウェルクが喋り出した。

拘束している電磁フィールドの状況を見ても異常は無し。喋れる状態じゃないはずなのに・・・!

 

「・・・・してないよウェルキン博士。束さんは後悔なんて無駄なことはしないの」

 

束さんがコンソール操作を中断する。

 

「それに、後悔してるのはそっちの方じゃないのかなウェルキン博士? 『鍵』を二本に分けるなんて面倒なこと、しないほうが良かったんじゃないのかな?」

「必要だったのですよ。『彼女』は私たちでも制御がしきれない不完全なものでしたから。暴発を防止するためには必要な措置だったのですよ」

 

鍵? 彼女? 暴発? 

わ、分からない。二人がなんの話をしているのかが、分からない!

 

「・・・・最後に言いましょう。篠ノ之博士。もう一度我々の側につく気はありませんか?」

「ないよ」

 

ウェルクの誘いをキッパリと断る束さん。

 

「正直なところ、私にとって世界なんてちっぽけなものでしかないよ。だからどこで戦争が起ころうと基本的にはどうでもいいの。束さんは世捨て人だからね。ちーちゃんや箒ちゃん、いっくんが死なない限り外にも出たくはないって思ってるよ」

 

そう言って束さんは俺を見た。

真っ直ぐ、俺の目を見ている。

 

「――――だけど、どう言った経緯で親になろうとも、息子のピンチには駆けつけてあげたいって思っちゃうのが母親の気持ちなのですよ。だから、私はクーちゃんに敵対することはないよ」

 

その時、俺は束さんに、普段感じたことのない感覚を覚えた。

そう、言うなれば『母性』と言うべき感覚。

それが、本物のはずがないのに、俺にはちゃんと両親がいるはずなのに、そう感じてしまった。

 

「・・・・・く、はははははははは!!」

 

ウェルクが笑う。

束さんを嘲笑する。

 

「息子? 母親? 気持ち? 自身の研究の為に作り出した人形に吐く台詞とは思えませんね!」

 

その時、フィールドに異常が発生し、拘束力が低下。

フィールドが弾け飛び、ウェルクの四肢が解放される。

 

「――――クーちゃん、これから話す内容は多分これまでのクーちゃんを壊してしまうことになりかねない。だから先に言っておくね」

 

束さんは、俺に向かって笑みを浮かべた。

・・・・本当は何かを後悔しているのだろう、本当に、悲しい笑顔だ。

 

「――ーゴメンね」

 

 

「――――柊暮刃。貴方には記憶がありますか?」

「き、記憶?」

 

俺はリヴァイヴの近接ブレードを二振り構えながら繰り返す。

 

「そうです。過去にあった事柄や覚えたことを忘れないように心にとめた経験の結晶。それが記憶です。それが、貴方にはありますか?」

 

粛々とした口調で、まるで追い詰められていることを感じさせない口調でウェルクが言う。

俺は、ウェルクから放たれる異質な圧力を感じ、じっとりと汗をかく。

記憶。

ヤツは俺に記憶があるのかと聞いた。

だったら在ると答えられる。 

ここ二年間で過ごした時間の記憶。瞬龍や、鈴との出会いに、束さんのラボで過ごした時間。

ラウラとペアを組んで戦ったドイツでの時間。IS学園に来てから色々あったが良い奴らとも出会えた。

そうした全てがあって俺は今ここにいる。

 

「・・・・ある」

「そう、ある。確かに貴方には記憶がある。それは貴方を実験の被検体とした我々『双龍』の検証データからも明らか。ですが、無いのですよ。貴方の記憶には『重み』が」

「重みがない・・・?」

 

意味不明な記憶の重みと言う概念に混乱がさらに極まる。

瞬龍の処理能力があれば理解出来るのだろうか? いや、頭が理解することを拒んでいるのか。

 

「そうです。重み。貴方の記憶には出来事や事象の記憶はあっても、その場にあった感情の記憶がまるまると欠け落ちているのですよ! まるで初めから無かったようにね!」

「な、何を言っているんだお前はッ!」

 

これ以上しゃべらせてはいけない。

俺はそう判断するとサラに視線を送り、同時攻撃を仕掛ける。

前後からの同時攻撃。タイミングは完璧だ。避けられるハズがない!

なのに――――

 

 

「そうやって、思い出す事を忌避しようとする。篠ノ之博士が貴方に教え込んだ(インストールした)最初の本能ですよ」

 

 

刃が空を切る。

避けられた。

そして、すれ違い様に囁かれた言葉が頭の中で反響する。

 

束さんが教え込んだ。束さんに教え込まれた。俺の記憶の重み。記憶の中の欠落した感情。まるで最初から無かったかのような――――。

 

「ダメだよクーちゃん考えちゃ!」

 

束さんの声が聞こえる。

だが俺の思考は止まらない。

俺の記憶、俺の経験。俺の誕生。

・・・・俺はどこで生まれた? どこで育った? どこに住んでいた?

家は? 家族は? 両親は? ―――――名前は?

 

―――――クソッ!

 

思い出そうとすればするほど、記憶が不明瞭になっていく。

日本を出る前に、雨の部屋で両親を思い出そうとしたとき、俺は顔を思い浮かべることが出来なかった。

だが、あれは思い浮かべられなかったんじゃない。

 

――――――思い出す顔を知らなかったのだ。

 

「教えてあげますよ柊暮刃! 貴方は人ではない! 篠ノ之束が自分自身の遺伝子を使い、作り上げられた遺伝子強化体(アドヴァンスド)――――。記憶なんてものは初めから無い、ただ瞬龍と適合するためだけに造られた実験体(モルモット)なのですよ!」

 

・・・・視界が揺らぐ。

ウェルクの言葉は耳に入った。

だが、意味がよく理解できない。

俺はここにいる。

記憶もなにも、欠けているハズがないのに・・・ッ!

 

「貴方が生まれたのは丁度二年前。そうですね。熱い陽射しが苦しい日だったと、この男は記憶していますね。つまるところは貴方は成長促進剤に浸されて無理やり成長させられたたった二歳の赤ん坊だと言うことですよッ!」

「―――――ヤメロォォォォォォ!」

 

俺の背後から、誰かが飛び出した。

 

「クレハの事を実験体だなんて言うなッ! クレハは私の・・・たった一人の息子だッ!」

 

束さんだ。

束さんは自分自身で剣を握ると、ISを纏っているワケでもないのに激昂して斬りかかる。

 

「ハハッ! 何を怒っているのですか! 貴女も我々と同じように彼の事を使い、研究を進めた仲では無いですか! ―――――貴女に怒る権利があると思っているのかッ!?」

 

ウェルクは躊躇なく束さんにパイルバンカーを打ち込み、吹き飛ばす。

吹き飛ばされた束さんは足元にシールドの足場を張ると、それを蹴り、再びウェルクに肉薄する。

 

「確かに私は最低の母親だ! 自分の血を持つ息子をただの道具のように思っていた!だけど今は違う! クレハはちゃんと人の心を持ち、人と接するただの人間だ! 苦しんだり、大切な人の隣に居ようとする心を持ってる人間なんだよ!」

 

束さんの操作したミサイルポッドが全てのミサイルを吐き出し、全弾ウェルクに命中。爆煙が辺りに立ち込める。

 

――――そうだ。

俺の記憶の大半が不完全なもの。だったら完全なものはどこからだ?

答えは簡単だ。

鈴との記憶。あれは本物の記憶であるはずだ。

瞬龍とのマッチングの苦しみも本物、身体を改造される痛みも本物なら、アイツと過ごした一時の時間だけは本物の記憶であるハズなんだ!

そうだ、剣を構えろ。まだ行ける。全てが全て偽物である訳ではないんだ。多くの偽物の中にも確かな本物はある!

 

「う、うぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

再び弾き飛ばされた束さんと入れ替わるようにウェルクに肉薄する。

 

「くっ、人形が・・・ッ!」

 

降り下ろした剣をウェルクは再展開した銀剣で防ぐ。

 

「まだ、まだぁ!」

 

瞬時にハンドガンを展開した俺は立て続けにフルオート掃射で銃弾をウェルクのシールドに叩き込み、エネルギーを削る。

 

「瞬龍を失った今のあなたでは我々にとって何の価値もありません! 戦う理由は無いはずです! 大人しく身を引きなさい!」

「んなこと関係ないんだよ!」

「だったら何故!?」

 

銃弾を撃ちきった銃を投げ捨て、剣を二本構える。

 

「決まってる! ――自分の為だ! 鈴が認めてくれた俺自身の為に戦うッ! だからアイツも死なせはしないし、アンタもここで止めるッ!」

 

赤い装甲を朝日に輝かせる牙龍に向かって急上昇する。

下から切り上げるように剣を振り、サラが傷つけた脚部スラスターを切り落とし、機動力を奪う。

 

「分からない・・! 理解できないッ! そうしてまで戦う理由なんて!」

 

打ち出された杭が、頬を掠めて後方へ流れる。

ブレードを腰にすえ、いつでも振り抜けるように構える。

一瞬にして物体を両断する、瞬撃の刃――――

 

「――――きっと昔のアンタなら理解できただろうよ。ウェルクさん」

「ふざ・・けるなぁああ!!」

 

ウェルクの杭が、再度俺を貫くために伸ばされる。

 

「―――――迅閃(じんせん)ッ!」

 

俺の放った瞬時加速での居合い切りはまさしく閃光の速度で放たれ、正確にウェルクの杭を破壊し、そのまま絶対防御をも越えてウェルク本体を斬り付ける。

 

その際、ウェルクの胸から輝く結晶が出現し、俺にはそれが瞬龍のコアだと分かった。

・・・・お帰り、瞬龍。

それを握りしめた瞬間、光の塊が砕け散り、それらの全てが俺の胸へと吸い込まれるように消えていく。

 

「・・・・・・ぐ、ぅ・・・。あ、あなた方は間違った選択をした・・・。これから巻き起こるISによる戦争・・・・。それは間違いなくあなた方を中心としたものになるでしょう・・・・ッ」

 

息も絶え絶えにISの解けたウェルクが言う。

 

「いずれあなた方は知ることになる! 双龍の真意を・・・・・ッ」

 

海へと落ちるウェルク。

そのウェルクをサラが空中でキャッチした。

息は・・・あるな。傷は深いが死んではないみたいだ。

束さんの下に戻ると・・・・相当疲れたみたいでへたりこんでる。

 

「・・・・・運動できることを見せつけるんじゃ無かったのかよ?」

「クーちゃん・・・・・」

 

顔をあげる束さん。

 

「まぁ、なんだ。全部を全部受け入れる訳じゃないが、取り敢えず今は気にしないことにした。・・・アンタを母親と呼ぶにはちょっと抵抗が・・・」

 

瞬時に全てを受け入れるだけの器のデカさは俺にはない。

だけど、少しずつ。少しずつ受け入れていけばいつかは全部を飲み下せる日が来る。

 

「今の俺は甲龍()のパートナーなんだ。だから、そうやって生きていく。気にする必要なんか無いさ、束さん」

「う、うぇぇ・・・クーちゃぁん!!」

 

ちょ、ちょっと待て!泣き出すのは予想通りだが、飛び付いてくるとその胸が・・・・・ッ!

アゴをカチ上げられるように(胸での)アッパーを喰らった俺は一瞬昏倒するも、なんとか落ちる前にリヴァイヴを再展開する。

まぁ、こう言うところもあるから母親って思えないところもあるんだろうな・・・。

 

「親子の触れあいっていっても、ちょっと過剰すぎるんじゃ無いかしら束博士?」

 

と、そこへウェルクを担いだサラがイラッとした顔で現れた。

だが、束さんはそんな事気にしてないとばかりに、俺に鼻水やヨダレを付けまくる。バッチィ!

 

「あー、なんだ。多分そろそろ鈴も来ると思うから、離れた―――」

「なぁんでぇ~! クーちゃんは束さんが迷惑なのぉ~!」

 

うん。今はめっちゃ迷惑だから離れろください!

 

――――――だが、まだこの戦闘は終わっていなかった。

忘れていたのだ。

ミナトが言っていた敵の総数は、3だと言うことを。

 

 

「――――――無様だな。ウェルク・ウェルキン。いや、バースと呼んだ方がいいのか?」

 

低く、良く通る声。

それが聞こえたとき、俺は反射的に声のする方向に向けて部分展開した瞬龍の衝撃砲『轟砲』を放つ。

撃った直後、ハイパーセンサーがIS反応を掴み、視界内に敵性(エネミー)の表示を出す。

 

「おいおい、こちとらさっき終わったばっかりだぜ・・・?」

 

放った衝撃砲は、当たり前のように消し飛ばされ、昇った朝日を背に一機のISが佇んでいるのが確認できる。

 

「くっ・・・・(ファン)・・・・・!」

 

気を取り戻したウェルクが呻く。

・・・・凰だと・・?

俺の記憶の中で凰の名字を持つ人間は二人しかいない。

即ち、鈴と――――――その父親。

 

「・・・・・なんで、アンタが」

 

ハイパーセンサーが操縦者の顔をアップで写し出し、その映像に俺は言葉を失った。

 

「よう、久しぶりだな坊主。二年前の事故以来か? 鈴はどうしてる。元気か?」

 

娘の心配をする姿は父親のそれだが、その瞳の奥にあるのは獰猛な肉食獣のような激しく燃える輝き。

 

――――(ファン) 経公(キョウコウ)

 

鈴の父親にして、俺が事故に巻き込んだ人物。

 

「にしても焦ったぜ。さっき来た青い嬢ちゃん達をちょっと驚かしてたら織斑さんとこの坊主までいるんだもんぁ。お前といい、一夏といい。今日は懐かしい顔に会える日だなこりゃ!」

 

ガハハと中華料理屋の店長らしい豪快な笑い方をする経公さん。

だが、まとっているISは凶悪の一言に尽きた。

原型は中国製作の量産機、偃月(えんげつ)らしいが、改造度が半端ではない!!

各部ブースターに増設された推進装置に、機動性を上げるための制御翼。

背に背負った巨大な刃物と、他にも挙げていったらキリがないぞ・・・!

 

「どうしてだ・・・。どうしてアンタがそっち側にいるッ!」

 

瞬龍を全身に展開させながら問う。

 

「ひゅぅ、懐かしいな。瞬龍じゃねぇか! って、てめぇ捕ってこいって言ったのに失敗しやがったなバース!」

「ぐ・・・申し訳、ありません・・・!」

 

ウェルク―――バースと呼ばれていた―――が経公さんに謝罪する。

あ、あれだけ強かったウェルクがあんなに下出に出るなんて・・・。

強さが未知数だ。

いや、もしかしたら戦う展開にならないなかもしれない。

一方的な殺戮。それが起こる確率もゼロじゃないと、瞳は表示を出している。

だから、警戒する。

経公さんの一挙一足に!

 

「まーいいや。どうせ終わりだからな」

 

経公さんは首筋を掻きながら俺を見据えてこう言った。

 

「――――――おい坊主。今すぐ瞬龍置いて逃げるか、ここでこの青龍偃月刀の餌食になって死ぬか。どっちか選べよ」

 

 


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