インフィニット・ストラトス~オーバーリミット~   作:龍竜甲

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お久しぶりです。インフィニットストラトス~オーバーリミット~投稿します。

本編どうぞ!


変化のサラ

サラ・ウェルキン。

IS学園二年生。

双龍の関係者で五月に俺と鈴を葬ろうとした張本人。

それが今、ホノルルで俺の右手首を掴んでいる。

 

「柊・・・・クレハっ?」

 

呆然と呟くサラに俺はただ「おう」とだけ返すと、サラは弾かれるように俺から距離をとった。

 

「ん? なんだよオマエラ? 知り合い?」

 

アイスをペチャピチャしながらマキナが聞いてくるが取り敢えずスルーして、サラと向き合う。

 

「意外だったな。どこにいるかと思えばリゾートでバカンスか。てっきり龍砲の衝撃で野垂れ死んでるかと思ってたぜ」

「そっちこそ、そんな服着て何をしていると言うのよ? 米軍のキャンプにでも参加しているの?私相手に二人で掛かってくるような腰抜けにしては殊勝な心掛けね」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

「「ああんッ!?」」

 

二人同時にガンを飛ばし合うと、即座に状況は肉弾戦に移る。

サラは右足を引きその場で半身になると、俺を誘うように左の人差し指をクイクイと揺らす。

舐めやがって。

その誘いに乗るべく、俺は街中にも関わらずサラに飛びかかる。

てっきりISが出てくるかと思ったが流石にここでは憚られたらしい。

突き出されていたサラの左手を取ると、動きを封じるために極めようとサラの腋の方にねじり込む。

だがサラはそれを右手でパンッと払うと俺が次の動きに出る前に、どこからか銀色のバタフライナイフを展開。それで俺の首に突きを放ってきた。

コイツッ! 頸動脈をカッ切る気かよ!?

だが武器が出りゃこっちも出すぞ。

喉元に迫る白刃を抜銃した愛銃(ワルサー)のスライドで受けると、そのままずらして刃をトリガーガードの中に固定する。そして、銃自体を捻ってサラの手からナイフを奪ってしまう。

武器を奪われたサラは銃を警戒してか距離は取ろうとせずに、そのままキレのあるワンツーを放ってきた。

 

・・・・・・迷彩服の男にサマードレスを着た美少女がボクシングやってるとか、夢のような光景だな。

 

しかし、変だ。

さっきから受けているサラの拳。

ナイフを簡単に手放した時には気のせいかと思ったが、どうやらそうじゃないらしい。

異様に、弱い(・ ・)

軽いのだ。サラの攻撃が。

学園を出てからスタイルが変わってスピード重視に成ったのかと言えばそうでもなく、俊敏さには特に変化は見られない。

なにより、Bシステム未発動状態の俺でも対処できてしまう攻撃だ。

いくら男女の体格に差が有ろうとも、日頃から軍人並みの訓練を積んでいる学園生の攻撃は、ただの俺ではいなせない。

それほど、学園の女子は強いのだ。本来は。

しかし、サラは確実に弱くなっている。その理由がわからない。

・・・・・ついでにもうひとつ気づいたことが有るんだが・・・・・。

俺は、頭ひとつ分小さいサラのジャンピング頭突きを受け止めながら聞いてみることにした。

 

「なぁサラ。お前の胸、そんな小さかったっけ?」

「――――――――」

 

そう聞いたとたんに、サラの動きが止まった。

俺の方に向ける視線は焦点があっておらず、ゆらゆらと泳いでいる。

あー、聞かなかったほうがよかった話題かなこれ。

純粋に女性のバストがこんな短時間で縮小するなんて聞いたことが無かったから聞いてみただけなんだが、様子から察するに、これはサラのぶちギレパターン。

俺を男子だと知ったあの時の全力モードだぞ!

 

「ふ、ふふ。そこに、気がついてしまったのね・・・・?」

 

な、なんだ!? サラの声がいつも以上に冷たい! 普段をマイナス20度くらいだとすると、今の声は一気に下がってマイナス273度―――絶対零度級だッ!

 

「私の中では幾らか整理が突きかけていたけど、やっぱり無理な話よね。いくらあの人が戻ってきたからって貴方が兄を傷付けた事実は変わり無い・・・。 殺すわ」

「ちょっ、待て! 今なんていった!?」

「殺すわ」

「そうじゃねぇ!」

 

俺が空を仰いで突っ込んでいる間にサラは攻撃体勢を整えると猛然と拳打を浴びせてきた。

は、速い! 

さっきよりも上がったスピードもさることながら、なにより正確だ。

正確に人体の急所という急所を突いてくる。

顎、鳩尾、喉仏、後頭部への回し蹴り・・・。果ては股間にまで蹴りを放ってくる。

鬼気迫る猛攻に、俺が怯みながら後退していると、不意に貰った右胸への一撃のせいで大きくバランスを崩し、よろけてしまう。

 

ドンッ

 

ん? なんかにぶつかったみたいだな。

何かがぶつかったと思われる背中に手を回すと・・・なんだこれ。冷たくてべちょっとしてる。

すると隣で俺たちのケンカを傍観していたマキナが青ざめているのに気づき、後ろを見やると・・・・・・・・ぶふっ、なんだよ教官その頭! マンガみたいにアイスなんか載っけてどうしたんだよ・・・・・・・・・・アイス?

 

俺は先ほど触れたべちょっとした冷たいものに舌を伸ばしてみる。

・・・・甘い。

あ、やっべー・・・。

 

「なぁ? 柊訓練兵」  

「は、ハイッ! なんでありましょうか教官殿!」

「俺は休めといったが、観光客で溢れ返る街中で喧嘩しろとは言ってないぞ・・・・? どういうことだ」

「は、ハイッ! これは全てあの女が―――ーって」

 

居ねぇし! 状況を見て逃げやがったなアイツ!

 

「女が、どうしたんだよ? 柊訓練兵」

 

ポンと叩かれる肩。背後には正しく鬼の形相の教官が立っていた。

 

 

クソ提督ならぬクソ教官の三時間耐久スパーリング地獄から生還した俺は、宿舎での夕食時間が過ぎていたため、ナターシャさんやミナトと来た基地内部のカフェテリアで自腹の夕食をとっていた。基地の内部っていっても空港と共用だから結構人がいて、明るい雰囲気だ。

にしても、外国のハンバーガーがでかいってのはホントだったんだな。俺の顔の半分くらいは高さがあるぞ。

そんな日本とは違う海外の常識を再確認したと言うこともあって気持ちのよい満腹感を味わっていると。

 

「・・・・・相席、良いかしら」

「ああ、どうぞ―――――ってオイッ!」

 

危うくスルーしかけたが、目の前に座った茶髪、サラじゃねーか!

 

「何かしら? 食事中は静かにしてほしいものね。女性の胸を注視している変態柊さん?」

「してない。あとその呼び方止めろ」

 

サラは俺の頼みを華麗にスルーし、カウンターから取ってきたマルゲリータピザを口に運んだ。

いくつものチーズの混ざった濃厚な薫りが鼻を擽る。

 

「・・・・旨そうだな。それ」

「貴方さっきバカみたいに大きいハンバーガーを食べてなかったかしら? ウェイトコントロールは操縦者の基本よ」

「そんな常識、俺には通用せん。昼間の迷惑料だ。ひと切れくれよ」

 

図々しいとは分かっていたが、ノリとは言え、一度言い出したからには途中で「やっぱいいや」と言うのも恥ずかしく、俺はサラに皿を突き出す。駄洒落だとか思わない。

するとサラは、にやっと笑みを浮かべると―――――なんと先ほど口を付けた食いかけをポイと載っけてきやがった。

 

「・・・・おい、これじゃ食べられないだろ。口つけてないのにしてくれよ」

「あら? それがお願いする者の口の利き方なのかしら? タバスコが大量に欲しいならいつでも言ってちょうだい?」

 

くっ、こいつ。

俺を逆に困らせて弄ってやろうと言う魂胆が丸見えだ。食べる手止めてまで俺をニヤニヤ眺めてやがる。

俺が精神的に不安定になるとBシステムが発動すると言うのを知っているからこんなことをしているんだろう。

もし俺がこのまま口をつければめでたく間接キスが成立。サラはどう思うか知らんが、俺の方はBシステムが発動し、妙にチャラい俺が出てくること受け合いだ。それだけは絶対に阻止せにゃならん。

・・・・・。間接キス、キスねぇ・・・・。

 

サラの歯形がついたピザを眺めながら思い出すのは今年の5月。

俺はクラス代表対抗戦の日、サラの攻撃で負傷した鈴を助けるために瞬龍の生体再生機能を使用した。

その際に、してしまっているのだ鈴と。キスを。

 

ドクン

 

鈴は気絶してたから覚えてないと思うが、鈴の冷たく、小さな唇でも俺の心臓に火を点けるには十分な魅力を備えていた。

 

ドクンッ

 

覚えてないならいい。むしろ好都合だ。アイツは一夏を追っ掛けて日本に来たとも言ってたし、それなら俺も――――って、あれ?

 

―――心拍の急激な変化を感知。特定の脳内神経伝達物質の生成を確認。Bシステム、起動します。

 

気づくと、俺は変わっていた。

 

「・・・・ど、どうしたのよ? 食べたかったのよね? 食べればいいんじゃないのかしら?」

 

ハッ、と現実に引き戻され、長考に耽っていた俺をサラが覗き込んでいる。

俺は逆にサラをイジメてやろうと思って、内心ほくそ笑んだ。

 

「――――じゃあサラ。本当に食べていいんだな?これを?」

「え、ええそうよ。食べたいならそれをあげるわ」

 

流石に過去の出来事の記憶で俺がBシステムを発動させていると言う発想はないのか、先ほどと変わらない様子でニマニマしているサラに、お仕置きの意味も籠めて不意に囁いてやる。

 

「間接キス、意識しないのか?」

「ッ・・・って、きゃぁっ!?」

 

身を乗り出して接近した俺から距離をとろうとサラは上半身を退いたが、椅子に座っているのだから後ろに下がれるわけもなく、ひっくり返るサラ。その際スカートがヒラリと捲れていたが、そこは武士の情けだ。見ないでおいてやるよ。武士じゃないけど。

 

「あ、貴方、一体どうやって・・・?」

「そんなことどうでもいいだろ。今はこのピザについてだ」

 

サラの肩がピクッと跳ねる。

 

「サラがくれたこのピザ、旨そうだけどサラが食べてたものだから俺でも意識させられてるんだぞ? もちろんホントに食っていいなら俺は遠慮せずに頂くぜ?」

「・・・・・・・・・・(ぷるぷる)」

「ひょっとしたらサラはホントに気にしてないかも知れないと思ったら、断るのも嫌だしな。男らしく堂々と食ってやろうと思ったけど、今のサラを見る限りそんなことは無いよな?」

「ッ!・・・・・ッ!」

 

自分から言い出したことなのはサラも同じだ。俺に食べ差しのピザを差し出し、俺はそれを使ってサラを逆にイジリ返そうとしている。先に折れた方の負け。

だが今の俺は些細なことなら力業で押しきってしまうB―俺。恥ずかしさなんて微塵も感じないね。

サラは自分のしたことの浅はかさを呪っている頃だろう。

「分かってやってるでしょ?」と真っ赤な顔で睨んでくるが一年間その顔でにらまれ続けてたら流石に慣れるよ。むしろ赤面も相まってカワイイ顔してるよ、とサラの美少女っぷりを再確認する余裕さえあるな。

 

「返事がないってことはいいって事だよな?」

「ッ! だ、ダッ―――!・・・ぅぅぅ・・・」

「・・・・・・えーと、ホントにいいの? 食っちゃうよ?」

「だ、ダメに決まっているでしょうッ! この恥知らずッ!」

 

ようやく羞恥心が臨界を越えたサラは俺の手からピザを引ったくると、パクパクゴクン。

アメリカ人のようにコーラをがぶ飲みしてピザを胃に流し込んでいる。

まるでモンハンのハンターのような食いっぷりに圧倒されていると、ピザ一枚を平らげたサラがドンッとテーブルにグラスを叩きつけた。

 

「い、いつか仕返しをしてあげるから、覚悟してなさいッ!――けぷぅ」

 

と、サラは可愛らしいげっぷを残してテーブルを去ってしまった。

それにしても、打算で起こしたこととは言え、サラの新しい一面が見られたな。

――――百合趣味でも、男に対して恥ずかしいことは恥ずかしい。っと。帰ったらフォルテに教えてやろっと!

 

 




読んでいただきありがとうございました!

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