インフィニット・ストラトス~オーバーリミット~   作:龍竜甲

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鈴とクレハの関係とは!?


再会と再起動

「『甲龍』・・・・・・」

 

闇夜に、街頭の光を受けて輝くISに、俺は呆然とした呟きしか洩らせない。

なんで、アイツがこんなところに・・・・・!?

混乱の最中にある俺をおいて、当の鈴は体勢を立て直したISに向かって突進する。

その両手にあるのは甲龍の基礎武装―――『双天牙月』だ。

 

「ハァアアアアアアッ!」

 

鈴は分割状態にあるそれを縦横斜めと、振り回す。

その猛攻を捌ききれないのか、敵ISは両手にバリアーを張り踏ん張っている。

一際強い斬撃を鈴は放つと、遂に敵のバリアーが粉々に砕ける。

 

「『龍咆』!!」

 

鈴はその隙を逃さず、甲龍の第三世代型兵器『衝撃砲』を相手に直接撃ち込んむ。

ハンマーで殴られたかのような衝撃が二発。相手の真芯に当たり絶対防御が発動。エネルギーが大幅に削られる。

吹き飛んだISは、そのまま東京湾に落ち、見えなくなった。

 

―――敵ISの沈黙を確認

 

「・・・・・っ!?」

 

突然走った痛みに、俺は胸を押さえる。

くそっ、目標が沈んだことに安心したのか、さっきの疼きが酷くなってる・・・・!

 

「・・・・あー、逃げられちゃったかー。ま、いいや。ねぇ、ちゃんとやっつけたんだし、案内してくれるよね?」

 

着地した鈴がISを起動したままこちらに歩み寄ってくる。

まて、来るんじゃない・・・・。こっちに来るな・・・!!

 

――――特定のコアの反応を検知、Bシステムを起動―――

 

遂に俺の視界内に、そんな表示が出てきたときだ。

 

「―――凰 鈴音!今すぐISの起動を解きなさい!」

「抵抗は無意味です。既に五機のISがあなたたちを包囲しています!」

 

黒塗りの大型バンの登場とともに、二機のIS(リヴァイブ)を纏った女性自衛官たちが銃を構えたまま俺たちのそばに着地した。

 

「コイツら、日本のIS部隊・・・? 今更何しに来たって言うのよ!」

 

突然のIS部隊の登場に驚く鈴。

 

「何をしに来たのかと、問うのはこちらの方です。IS学園編入手続きを終えるまでの勝手なISの展開は、アラスカ条約に抵触します。よって、我々は貴女を拘束しなければなりません」

「え・・・? ちょっと! 勝手になに両脇に手ぇ突っ込んでんのよ! 放しなさいよ!」

 

そのままずるずると、甲龍ごと引きずられていく鈴。

凄いなあの女性官たち。完全にパワータイプ仕様の甲龍の抵抗を簡単に抑え込んでいる・・・。

やがて、鈴が俺から離れたせいか、胸の疼きも段々と収まっていく。

 

(・・・まぁ、なんにせよ。敵のISを一機落としたか・・・)

 

俺は立ち上がり、まだ痛む胸を押さえながら大倭先生を探す。

ISの反応がないから、恐らく展開が解けているのだろう。

 

――そう、安心していた。

 

――――敵ISの再起動を確認! ロックされています!!

 

(再起動だと!?)

 

慌てて海を見やれば、海中から覗く2つの赤いアイカメラ。

その付近に、チャージ中なのか光が集まっているように見える。

 

(マズイ、今後ろには鈴を乗せた車が――――――!)

 

一瞬の間のあと発射される最大出力形態(バーストモード)での荷電粒子砲。

俺は紙切れのようなシールドエネルギーを使って、それを抑え込む。

 

「うおおおおおおおおおっ!」

 

五重に張ったシールドが、一枚割れる。

後ろではこっちに気付いていないのか、ISを解いた女性自衛官が鈴とともに車に乗り込み、発車の瞬間を待っていた。

 

また、一枚割れる。

大倭先生にも、千冬さんにも連絡が通じない。他の先生にもだ。

完全な孤立。俺は一人であのISに立ち向かわなければならないのか!?

 

また一枚割れ、残り二枚。

ISの適合率が、胸の疼きとともに下がっているのか、マニピュレーターが揺れる。

シールドも維持できなくなりそうだ・・・!!

ようやくこちらの状況に気付いたのか、展開されたISがこちらにかけてくる。

でも、遅い!

 

残り、一枚。

どうする、どうすればここを乗り切れる!?

援護は間違いなく間に合わない。もう俺のリヴァイヴも限界だ。

さっきから偽物の心臓がここから出せと言わんばかりに跳ね回る。

 

――――Bシステムを・・・・

 

ああ、わかってるよ。

ホントは会えてうれしいんだよな。お前も俺も。

でも、過去の出来事が許せなくて、お前をここに埋め込んだあの人が許せなくて、正直言ってお前をまた見たいとは思えないんだ。

 

――――Bシステムを・・・・

 

だから、塗り替えたくて、越えたくて、いつまでもいつまでも無様にここで足掻いてる。

いつかは使えるようになる。いつかは完璧に自分のモノにして、大手を振って謝りに行こう。

そう、頭では考えながら毎晩眠れない夜を過ごしている。

だから・・・・・・あ。

 

俺のハイパーセンサーが、IS『甲龍』を纏った『鈴』を捉えた。

それと同時に俺のなかで、何かがカン高い音をたてて広がっていく感覚がした。

 

――――――――Bシステム、起動。展開準備(スタンド・アップ)

 

シールド一枚を支えている、リヴァイブのマニピュレーターが溶けていく。

それでもシールドが消えないのは、また新たにISを構築している(・・・・・・)からなのだろう。

 

緑色の装甲がとけ、真っ白な装甲が姿を表す。

両肩の角ばった装甲は、綺麗な流線形を描く白銀の装甲に替わり、固定ユニットが消え去り、背後に新しく非固定ユニットが現れる。

 

――――――――展開準備、及び展開完了 IS『瞬龍』起動します

 

「――――ハッ!!」

 

俺は両拳を握りしめ、前に向かって正拳突きを繰り出す。

両腕を離れたエネルギーは、最大出力の粒子砲をも押し退け直進する。

 

「おいあんたら! さっさと逃げろ!!」

 

自分でも驚くほど低い声で叫んだと思う。

俺は背後の連中にそう叫ぶと姿勢を低くとり、『瞬間加速(イグニション・ブースト)』で相手との距離を一瞬で縮める。

ビームを照射するISを真下に見ながら、俺は再び拳を固め降り下ろす。

ドォン! という水を弾く音が周囲に響き渡り、俺の衝撃砲が相手にヒットする。

 

「――――――ッ!」

 

続けて二発。更に続けて三発。

合計六発の衝撃砲を真上から浴びせた。

装甲をベコベコに凹ませたISが、最後に俺のほうを見てきたので。

 

「俺に勝負を吹っ掛けてきたことがマチガイだったな。なぁ? 無人機(・・・)さんよ」

 

爆発するISに向けて、そう手をふってやった。

 

 

あの後、呆然と状況を理解するだけのことに脳の処理能力を割り振っているのか、全く反応しなくなった鈴を、ISごと車の天井に縛り付けた自衛官たち(俺を見ても何の反応も無かったから、もしかしたらIS委員会の連中かもしれん)が連行するのを見送ってから、しばらくした後に他の先生方がこちらに急行してきた。おそっ。

怪しいと見ていた他のコンテナは、全てISが収納されていたような痕跡があったが、戦闘の最中に逃げてしまったらしく何の情報も得ることは出来なかった。

で、現在の俺は、と言うと。

 

「まったく、たいしたことをしてくれたな。この馬鹿者が」

 

千冬さんの説教を受けていた。なぜか轡木用務員も同席して。

時刻は朝の6時。そう、朝の。

 

(おかしい。俺は昨日の二時くらいまで事後処理におわれていたはずだ。なのになんで寝ていない・・・!?)

 

俺の疑問を全く意に介せずに千冬さんは説教を進める。

 

「敵を撃退したのは褒めてやろう。だが、撃墜するバカがどこにいる。死体が上がってこなかったか良かったものの、上がってきたら柊、お前は間違いなく処分を受けてたぞ」

 

そうそう。あのISだが、俺の予想は的中していた。

突撃前、熱源反応のなかったコンテナに、最後の粒子砲の容赦ない攻撃。

あれはどちらも人が乗っているという仮定では成り立たない事象だ。

人が居たのなら、熱感知に引っ掛からないのはおかしいし、後ろに生身の人間がいる状態で粒子砲を最大でブッ放すなど、マトモな人間の戦いではない。

以上のことから無人機だと仮定してのラストアタックだったのだが、引き揚げられたISを調べたところ、完全に人の痕跡はなし。晴れて無人機だったということが証明された。

だが、千冬さんはその情報を箝口令が敷かれている、と他言無用を押し付けてきた。

もともと秘密の仕事なので、言うつもりは無いが、どうにも気になる。

 

「(バシッ)・・・私からは以上だ。轡木用務、貴方からは何かありますか?」

「そうですねぇ・・・・・。まぁ、良いでしょう。結果だけを見れば敵の戦力は確かに削られました。この場合、叱責を受けるのは新任とは言え、戦闘中に生徒を残して気絶した大倭先生でしょう」

 

千冬さんは俺の頭を叩き、轡木用務員に話を薦めた。

 

「確かに、今週編入予定だった凰 鈴音さんを条約違反で強制帰国させたのはまずかったですが、貴方の存在が明るみに出なかったことが幸いし、数週間後に再来日することが決定しました。なんの問題もありません」

 

そう言うと、用務員は指導室を後にした。

 

「・・・柊」

 

千冬さんが椅子に深く腰掛け、俺を見据える。

 

「・・・・Bシステムを起動させたらしいな」

「・・・・・・ええ、ホントにイヤなことを思い出しました」

 

千冬さんは、俺と一緒にあの場を経験した一人だ。

勿論、俺の胸・・・と言うか心臓の代わりとなっているIS『瞬龍』についても知っているし、それに搭載されたシステムの危険性も熟知している。

 

「・・・制御は?」

「昨日の状態では少し気性が荒くなっている、と言うことを自覚しましたが、常識的な範囲です」

「そうか。何よりだ」

 

千冬さんは安心したように息をつく。

 

「私にもなぜこのタイミングで凰と、あの機体がやって来たのかはわからん。だから特に注意できることは無いんだが、気を付けろ」

「ええ、もう丸一年以上気を張った毎日ですよ」

 

チョッとしたジョークを言ったつもりだったが、千冬さんは「そうか、アイツが迷惑をかける」といって、それきりなにも言わず、欠席許可証をおいて指導室を去った。

・・・・・えっと、つまりこれ休んでいいって事なのか?

 

 

二年前の冬、イギリス、中国、日本の共同で、あるISが極秘裏に造られた。

計画のコードネームは『双龍』。

そのISは、特定のISと特殊なネットワークを構築することで、あるシステムが起動し機体全体の出力を格段に上げると言うものだった。

システム名はBerserker system。縮めてBシステム、と呼ばれた。

 

計画には、日本側から数年ぶりに表世界に顔を出した篠ノ乃束博士が参加。

イギリス側は、当時イギリスが最も研究の進んでいたBT兵器の技術の基盤、非固定浮遊部位の技術を提供。

同じように中国側も、空間を圧縮し、自在に砲弾を操る衝撃砲の技術を提供した。

 

試験操縦者は、日本で発見され、未だに公表されていなかった存在である当時14歳の少年だった。

Bシステムにおいて重要な、特定のISには中国の未完成IS、『甲龍』が選ばれた。

試験は成功。

その場で、システムを搭載したISは『瞬龍』という名称がつけられた。

ここまでは、誰もが幸せに計画を進められる、そうおもっていた。

だが、試験終了直後、国籍不明の武装集団、及びISが研究所を――――――。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・朝か」

 

何やらイヤな夢を見た。

俺は頭を振るうと、カレンダーを見る。

あの事件から今日で6日。

千冬先生の残した欠席許可証は、一週間の許可が出ていて、度肝を抜いた。

だから俺はその許可証を盾に、一週間の休みを得たのだ。

することもなく、唯一したことといったら、トレーニングぐらいだろうか。

じっとしていると、俺のIS『瞬龍』が、生体再生で補った血管に血液を送り出す鼓動が聞こえて気分が悪くなった。

許可証も明日で期限が切れる。

 

「・・・・・・学校、出るか」

 

そう言えば、今日一年がアリーナで何かする、という周知メールが出てたな。

気晴らしになるか分からんが、出てみるか。

目的を持つと、幾らか行動する気力も湧くようで、俺はやっと重いからだを上げたのだった。

 

 

 

 




え? 中途半端?
すいません、いい区切りが見つからなかったんです。
次は多分イチカやセシリアとの絡みがあると思います。・・・・・多分。

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