インフィニット・ストラトス~オーバーリミット~   作:龍竜甲

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こんばんは! 
二巻分の最終話です。よろしくお願いします!


終わったあとに。

 

「―――――――っ・・・?」

「あ、あれ・・・・クッちゃん・・・起きてる・・?」

 

いきなり意識だけが覚醒し、顔の見えない雨の声が聞こえた。

なんだよ・・・・? 寝てたんだから起きるのは当たり前だろ。なんでそんな心配そうな声なんだよ?

 

「あー・・・。雨、今何時だ・・・?」

「時間の確認!? それよりもまず確認することがあるよぅ、クッちゃん!」

 

珍しく雨が語気を荒げているので、体を起こそうとするが―――――イテっ。

なんだこれ。上手く腕が上がらない。

いや、それどころか首から下がほとんどの動かない。

少し感じる痺れたような感覚が嫌な予感を冗長させているのだろう。

 

「そうだな。それじゃあ――――ラウラは?」

「まずクッちゃん自身の心配をしてよ!?」

「してるよ。爆発の衝撃を真正面から受けたんだ。ISがあっても無事でいられるなんて思ってない。どうせ暫くは痺れて動かないんだろ?」

 

そう確認すると、雨は俺が意外に冷静だったことに驚いているのか、怒ったように手を振り上げたまま首肯した。

 

「それで、俺が倒れた後何があった」

 

開いた目で回りを確認すると、どうやらまた保健室で寝かされているらしく、薄い布団が被さっているのが分かる。

オマケにフォルテもよだれを垂らして被さっているが、蹴り起こそうにもそれができない。すごく、残念です・・・。

 

壁にかけられた時計の時刻は、俺が記憶しているものと変わらぬ日付を指していて、まだあの出来事から一日と経っていないことが分かる。

 

(暴走寸前のISに飛び込むとはな・・・・俺もよくやるぜ)

 

学年別タッグマッチトーナメント初日のAブロック第一試合。

選手として出場したラウラ・ボーデヴィッヒは謎のプログラムにISの制御を奪われ、暴走状態に陥ったのだ。

そんなラウラを颯爽と助け出そうとしたのだが、結果はこの通り。ベッドの上だ。

Bシステム発動状態でもできないことってあるんですねー。

 

「ぼ、ボーデヴィッヒさんは過度なストレスとダメージを負っていて・・・・・その・・・・」

「? なんだよ。いつも以上に歯切れが悪いな雨」

「それ嫌味クッちゃん?」

「・・・・悪い。ちょっと性急過ぎた」

 

落ち着きを取り戻すために一つ息を吐くと、それにあわせて雨が口を開いた。

 

「ボーデヴィッヒさんはね・・・・・クッちゃんの一時間前に起きてからずっと・・・・・・、隣にいるよ?」

「―――――え?」

 

シャ―――――――――ッ!

 

雨の不意を突く言い方に呆気に取られていると、またまたいきなりベッドを個室に分かつカーテンが勢いよくレールを走り、夕焼けに染まる空がお目見えする。

急激な光度の変化により俺の瞳孔が収縮し、一瞬視界がボヤける。

そのボヤけた視界の中には夕日を背に俺を見下ろす長髪の女性の姿があった。

 

「・・・・大丈夫そうだな、ラウラ」

「はい」

 

短い返答。俺が眠っている間に何かがあったのは間違いなさそうだ。

俺ははっきりと見えるラウラの金色の瞳から、確かな意思の存在を感じた。

 

気がつくとベッドの脇には雨の姿はなく、落ち着いた状況でラウラと話すことができる。

 

「―――――柊特別少佐」

「・・・・・」

 

ラウラが俺のことを階級をつけて呼んだのはいつぶりだろうか。

確か二年前の初顔合わせ以来か。

 

「私は先程の自分の失態で様々なことを学びました。 IS戦闘技術はもちろん、教官の思いや人柄。織斑一夏という少年の強さ。柊特別少佐の優しさ、といった人々の抱く心。そして最後に、私自身を」

 

ラウラは俺に話しかけているようで、自分に言い聞かせるように呟く。

そしてベッドから下りて―――どうやら動けるらしい―――右手を俺に差し出した。

 

初めまして(・ ・ ・ ・ ・)。ラウラ・ボーデヴィッヒです。所属は1年1組。家族構成は義兄が1人と嫁が1人。どちらも私が心から信頼する人物です。同じ釜の飯を食べる間柄として、仲良くしてほしい」

「・・・・・っ」

 

・・・不思議と言い表せない感動が胸の奥から沸き上がってくる。

これは、不器用で恥ずかしがり屋な、ラウラなりの仲直り。

更には所属をドイツ軍と言わなかったことから推察するに、どうやらIS学園を自分のホームだと認めたようだ。

ちょっと気になるプロフィールも飛び出したが、追求せずにスルーしてやるよ一夏。

 

「ぐ・・・」

 

外傷は無いのに痺れだけが色濃く残るという不思議な腕を懸命に挙げる。

さっさと通常生活に戻るためにもしっかりとリハビリしとかないと、だ。

 

予想以上に強く握ってしまった手からパチンと音がなる。

 

「ああ、よろしく頼むぜ。妹よ」

 

こんなに可愛い妹から兄と慕われるんだ。兄貴冥利に尽きる話だろ?

 

 

・・・・・とかなんとか言ってかっこよく〆るつもりだったのに、またもや締まらない結果に終わってしまった。

 

後から千冬さんに聞いた話なんだが、事態を収束させたのは正確に言うと、俺じゃなくて一夏らしかった。

ラウラの救出のためにシュヴァルツェア・レーゲンにとりついた俺は、爆風に揉まれながらも瞬龍の最後のシールドエネルギーのお陰で怪我を負わずに済んだが、強い負荷が掛かったためそのまま戦線を離脱。

気を失わなかったラウラに引きずられる俺の姿には千冬さんも眼を覆ったらしい。情けない、とな。

 

その後、レーゲンはあり得ない再起動を果たし、完全なる暴走を開始。

それを倒したのが一夏を初めとする一年生数名の仮設チームだったのだ。

俺がやったことは一般人観客の前で姿をさらして学園上層部の仕事を増やしたことと、人命救助。

 

・・・・いやいや人命救助だって大事な事だぞ? ていうか最初にすべきことだろ。

しかし先生方は仕事を増やしたことに対してご立腹のご様子。

今回の事件のせいでトーナメントは一回戦を残して二回戦以降の試合はすべて中止。それにともなって各国スポンサーへの事情説明とその他もろもろの雑事に追われているのに、俺についての情報操作まで追加されるのだ。 そりゃ保健室出た瞬間に銃撃されるわな・・・。

 

そうして、大倭先生を筆頭とした先生陣対俺という絶望的な対戦カードが用意された結果。

 

「・・・・・身体ダルいってのにこの広さはあんまりだぞ・・・」

 

見事に敗北して、風呂掃除を大倭先生の代わりに行うことになったのだった。

 

誰もいないはずなのにカポーンという音が何処からともなく鳴り響く。

ていうか体調的に考えたら普通、風呂に入って湯治する側の人間だと思うんだけど、俺。

今年まで男子がいない、という体を保ってきたIS学園には当然男子大浴場なんてものは存在しない。

俺自身これまで部屋のユニットバスで済ませてきたから良いとは思ってたんだが、実際見てみると羨ましくなってくるぜ。大浴場。

よし、決めた。

掃除をちゃっちゃと終わらせて黙って入ってしまおう。

清掃業者の看板が何処かにあったはずだ。あれを前においていれば入ってくるやつはいないだろ。

よし、作業を進める理由ができた。後は早いもんだぜ。

 

楽しみが出来ると人間、作業効率が上がるモノらしく、予想されていた時間を大幅に短くする形で俺への嫌がらせ罰掃除は終わった。

 

「あーー・・・」

 

手早く湯に浸かると全身の力を抜く。

少し熱いが中々にいい湯だ。

だが、俺は気づいてしまった。

 

「・・・・サウナ、水入れてないぞ」

 

ここのサウナは贅沢にも熱した石に湯をかけて蒸気を作り出す手の込んだタイプで、掃除する際に蒸気発生用の水を抜いておくのがルールらしいのだ。

俺はそれにしたがって水を抜いたのだが、入れることを忘れてしまっていたようだ。

 

「だとしたらあの中は灼熱地獄だな・・・」

 

ウゲゲ、と思いつつもここでスルーしたらあの暴力教師に吊し上げられかねないので仕方なく水で満たされた桶をもってサウナに向かう。

ガチャ・・・うわ、やっぱり熱いぃ・・。さっさと水入れないと大変なことになってたな。

ザーっと水を掛けると一気に蒸気が噴き出す。

はー、銭湯とかによくある石に水をかけないでくださいってこう言うことだったのか。

視界が蒸気で潰されたので、サウナの温度を下げるために調節システムのある脱衣場に向かおうとドアノブに手をかけた時だ。

 

「うおーっ、スゲー!」

 

!? なん・・・・だと!?

ガラリラとスライドドアが引かれて姿を表したのは腰にタオルを巻いた織斑一夏だったのだ。

なにが可笑しいのかヤツは子供みたいに浴槽の周りを「わはははー」と笑いながら走り回っている。

なんだあれ。

て言うか、今日は貸し切りのつもりだったんだけどな・・・。いや、俺が勝手に言ってるだけなんだが。

しかし、まさかあの看板の圧力をモノともせずに入ってくる強者が居たとは・・・。畏れ入ったぜ織斑一夏!

 

そんなどうでもいいことを考えている内に一夏は身体を洗って湯船に浸かった。

そうだ、どうせ男同士なんだからいいや。一夏が入ってきたってことは先生か誰かから正式に許可を貰ったんだろう。

そうすると少し悪戯心が沸き上がってきたので、折角だから驚かせてやることにした。

風呂場のエコーを楽しむかのように「生き返るぅ~~」とジジ臭いことを言う一夏の背後に回ろうとサウナを抜け出した時だ。

 

カララララ・・・・

 

またしても侵入者の登場である。

だが、俺はこの時油断していたのだ。悪戯心が先走ってこの学園における男女比についてまで頭が回っていなかったのだ。

今ここにいるのは俺と一夏、つまり男子二人。

それはつまり・・・・。侵入者が女であることを意味していた。

 

その事実に遅れながら気がついた俺はつい、本当につい、ペタペタと濡れたタイルを踏み鳴らす侵入者の方を見てしまったのだ。

 

「お邪魔します・・・・・」

 

若干頬を赤く染めながら身体を隠すように俺の前を歩いていくのは、シャルル・デュノア! マジで女子だ!

だが、お湯の温度が高めなのが幸いした。湯気でほとんど前が見えん。ツイてるぞ、俺。

デュノアも俺の存在に気がついていないようなので、一瞬始まりかけた心臓の疼きを抑えながらソッと(サウナ)に帰る。

 

(システムチェック、システムチェック、と)

 

ドアに背をつけて座り、常時起動している瞬龍のシステムウインドウを表示する。

・・・・良かった。トリガーにはなり得なかったみたいだな。

って、安心してる場合じゃない。

なんであの二人一緒に風呂にはいってんの!?

 

一夏もデュノアの登場に驚いたらしく、激しい水飛沫の音がする。

チラッと窓から覗いてみると、あーあ。どこのラブコメだよって感じの雰囲気で背中合わせで座ってるよ。

て言うか湯船にタオルつけられるのイヤなんだが、相手がデュノアだけに注意しにも行けん。我慢だ。

 

暫く我慢してあいつらが出ていくのを待とうと思ったが、どうやら女子のデュノアは言わずもがな、一夏も風呂が長いタイプらしい。一度出ようと腰を上げていたが、デュノアに引き留められて惰性で堪能しちゃってるよ、風呂。

 

(しかし、俺はそろそろ限界だ・・・・)

 

ずっとサウナに籠っているせいか、頭がボーッとしてきた。病み上がりなんだからサウナなんて入るんじゃなかったぜ。

 

(よし、死ぬ前に脱出するしかない・・・ッ!)

 

本来ならあいつらが入ってきた直後に出ていれば、偶然ばったりを装えただろう。ていうか事実偶然ばったりなんだがな。

しかし、時間がたった今はその手は通じない。

今、この瞬間にフラッと出ていけば、女子(・ ・)のいる風呂場で隠れて(・ ・ ・)コソコソと仕掛け(・ ・ ・)終わった、みたいな感じになっちまう。

それだけは避けねばならぬ展開。

いくぞ俺。作戦名は「花のある道を走る(ダッシュ・ガーデン)」だ!

 

俺は窓から外の様子を感じとり、出ていくタイミングを計る。

そして、来た。

 

(今だっ!)

 

二人が長々と話し込んだ瞬間。

俺は瞬時加速もかくやというスピードと、

ヘビを思わせる体捌きでサウナを脱出し、少々音がなるのも構わずに出口に向かってダッシュする。

ダッシュ・ガーデンとはその名の通り、(女子)の居るところをどれだけ静かに走れるか、と言うことである。

花は踏み荒らせば荒らすほどみすぼらしくなり、女子は乱暴になればなるほど品格が落ちていく。だから怒らせるようなことは出来るだけ避けていく。それが俺の信条。

 

(しっかし、鈴やセシリアは暴力の権化だよな・・・・)

 

あいつらこの間俺の部屋でイギリスの紅茶と中国の飲茶、どっちが息抜きとして優秀かなんて些細なことで喧嘩するし、審判長の俺がどっちかに票を入れるともう一方がぶちギレするし・・・。

こないだ「女性の品格」を呼んでフムフム唸ってたどこぞの独身女教師、大倭先生を見習って欲しいね。あ、名前出してしまった。

 

親指に力を込め、出口に向かって最後のターンを決める。よし、コースはバッチリ決まった。後は駆け込むだけだ。

取っ手を握り、一瞬で開くように思いっきりスライドさせた。――――のがまずかった。

 

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

女子、じょし、josi、girls・・・・。

半裸の女子数名の目が一瞬で俺に集まる。

なんで・・・お前ら・・・看板出しといたハズだろっ!?

 

そう憤ったが、答えは目の前にあった。

看板が、目の前に、あったのだ。

 

(・・・・・ああ、一夏か。きっと業者の人に気を効かせただけなんだろうな・・・)

 

だけど殴ってやる。

俺がこれから殴られる分だけな!

 

「ちょおおおっと良い? 柊くーん?」

「オネーサン達とお話しましょうねー?」

「あれ、テメー・・クレ坊か。ここは女子風呂だぞ?」

 

これはこれは三年生の方々でしたか。ダリルセンパイチーッス。褐色の肌が艶かしくてドキッとさせられる。

悲鳴を上げるでも怒号を上げるでもない先輩方は、俺に向かって大ききめのバスタオルを投げつけるとその上から首、両肩、両腕を拘束、逃亡を不可能にさせる。

ていうかその結束バンド、どこから出したんだアンタら。

まずい、これが恐怖か。久々に味わったぜ。

戦闘中はアドレナリンが麻痺させてくれたが、この場では半裸の女性達と一緒ということでBシステムが好みそうなシチュエーションの真っ只中だ。

だから視界をバスタオルで奪ってくれたことには感謝するがぁぁぁぁぁって、ちょっと待て!誰だ! 今IS展開したの! 専用機持ちか!? ってことは・・・ダリル先輩!?

 

「悪いなクレ坊。フォルテのダチのテメーを殴りたくは無いが、ことがことだけにお咎めなしってのもな。我慢してくれよ?」

 

目の前の光が遮られ、ダリル先輩が目の前に居ることが分かる。

まぁ、そうなりますよね。でも、先輩の専用機「ヘル・ハウンド ver2.5」の拳って凄いゴツゴツしてるんだよな。

ISの絶対防御に頼るっていうのは・・・まぁ無理か。

 

かくして、俺の学年別タッグマッチトーナメントは幕を下ろすこととなる。

ISは戦闘のお陰で大破、修理中。

得たものは義妹と罰掃除とつまらないラブコメ要素。

まぁ、それでも去年一年よりかは良い一年になりそうな予感だった。

季節ももうじき梅雨が終わり夏。

やって来るぞ、あの悪魔の期末テストが。

 

ああ、ダリル先輩の異常に大きい胸が腕を振り上げた拍子に重そうに揺れるのが影でわかる。

だが、俺の心臓はピクリともせず、自分でも止まってるんじゃねーの?と思うほどだ。

これは、きっと、諦め。

 

それじゃー行ってみよー。さん、にー、いち―――――――ぐふっ・・・。

 

 

 

「・・・・やはりな」

「なにか見つけたんですか織斑先生?」

「・・・・・いや、見間違いのようだ。失礼」

「?? そうですか・・・?」

 

暗い地下格納庫の中、山田先生自ら修理しているのは白銀に輝く装甲、コアと切り離して具現化させた瞬龍の装甲だ。

千冬は監視の意味でその作業を見守っていた。

 

その最中に瞬龍の戦闘データに残っていた今日の戦闘データを見ていると、エネルギー推移の欄におかしな記録を発見したのだ。

 

(エネルギー残値がマイナスに振りきれている・・・。となるとやはりあのISはオリジナルの―――――)

 

 

――――――現界超越(オーバーリミット)か。

 

千冬は眉を寄せると迷わずその記録を削除。記録は誰にも見られることなく、闇に葬られたのだった。

 

 

 

 




呼んで頂きありがとございました。

次回、ちぃっと登場人物纏めます。前書きで。

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