インフィニット・ストラトス~オーバーリミット~   作:龍竜甲

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おはようございます、こんにちは、こんばんは。

眠いので寝ます。お休みなさい。


彼女に希望を

 

六月末、学年別タッグマッチトーナメントの初日だ。

今朝から開会式に向けて最終確認や、来賓客の対応と多忙な準備に走っていた生徒たちも、試合一時間前となったら流石にそれぞれ更衣室で試合の準備を始める。

 

俺は第三アリーナ地下射撃訓練場で、今日実施するAブロックの対戦組み合わせの発表を待っていた。

 

「やはり、クレハさんはラウラ・ボーデヴィッヒのことが気になりますか?」

 

そう声をかけてきたのは最後の最後でペアとなったミナトだ。

彼女は青い第二世代型IS「サイレン・チェイサー」を纏って愛銃の手入れを行っていた。

 

「・・・・まぁな」

 

素直に肯定するのはシャクだったが、嘘をついても意味がないことを自覚し、素直に吐露する。

その時、天井から吊るされたモニターに、今日の組み合わせが表示された。

Aブロックは一年のブロックで、その中には当然だがアイツらの名前も含まれる。

そして、ラウラの名前を見つけて、驚いた。

 

(篠ノ之 箒&ラウラ・ボーデヴィッヒVS織斑 一夏&シャルル・デュノア―――――!?)

 

しかもまさかの第一試合ときたもんだ。

 

「見に行きますかクレハさん?」

 

ISを解き、ISスーツ姿となったミナトが隣に来てそう言った。

 

「いや、暫くはここにいたい」

「・・・・そうですか」

 

そう言うとミナトは胡座かいてる俺のとなりに、姿勢正しく正座で座った。

なんでだよ、こんな広いところでせまっ苦しい位置取りしなくていいだろ。

――と思って、俺がズリ、と距離を開けると。

 

「・・・・・・・」  

 

ズゥゥゥゥン・・・と擬音が付くほど分かりやすく肩を落とした。

するとまた距離を詰めてくるので、また離れる。

また近づく。離れる。近づく。離れる。

そして、近づく。

 

「あーもう諦めた。俺の敗けだ。ていうか何なんだよさっきから」

「今日のクレハさんは、少し思い詰めた顔をされていたので、無理矢理にでも絡まなければ、と思いました」

「俺が、思い詰めてる・・・?」

 

意外な指摘を受けたので面食らう。

 

「はい。まずは勝手にラウラ・ボーデヴィッヒのことと推定しましたが、間違いなら謝罪しておきます。クレハさんと彼女の間にあるいさかいがどうすれば解決するのか私には分かりませんが、クレハさん。貴方はわかっているはずです。しかし、貴方はそれを実行するか未だに決めあぐねている・・・・・」

「・・・・・・」

 

その通りだ、ミナト。

俺とアイツのケンカを解決する方法は恐ろしく簡単だ。

 

ただただ、ラウラ・ボーデヴィッヒを認めてやればいい。

 

だがそれは千冬さんの方法であって俺の方法であって俺の方法じゃない。

俺は俺のやり方で、立場で、ラウラと言う存在を認めなければならない。

それはつまり・・・・。

 

「! クレハさん、出ました」

 

ミナトの声にモニタを見上げる。

そこには黒と白、二機のISが向かい合い対峙していた。

 

 

戦局は終盤。

一夏のIS白式が、単一仕様能力「零落白夜」を発動した。

 

「これで決めるっ!」

「触れればエネルギーを消し去る刃か・・・・ならば触れなければいい!」

 

モニターに激しい攻防を繰り広げる二人の姿が映し出される。

一夏はラウラを撹乱するように、直進してからの急ターン、停止、加速を繰り返しているが、あれはただ避けているだけじゃない。

ラウラのISシュヴァルツェア・レーゲンの第三世代型兵器、停止結界(AIC)は身体中ありとあらゆる場所から慣性力を停止させるだけの強制力を持ったエネルギー網を放出できる。

ラウラはその放出を手指、眼球から行うことが多く、一夏の動きはそのことを見切ったような動き方だった。

ラウラの表情に焦りが見え始め、間断なく放たれる攻撃にワイヤーブレードが加わる。

 

「くっ、ちょろちょろと目障りな・・・・ッ!」

 

一夏はデュノアの援護射撃を受けながら、段々とラウラとの距離を縮める。

 

「こ・・の、小癪なァァァ!」

 

大振りの攻撃を一夏に回避されたラウラの表情が固まる。

しかし、一夏はその隙を見逃さなかった。

なんと一夏はそれまで斬る事だけしか行ってこなかったにも関わらず、試合中に「突き」を繰り出したのだ。

 

「無駄なことだッ!」

 

ラウラの瞳が輝き、一夏の動きが止まる。

剣を除いた腕全体にAICの網が絡み付いたのだ。

 

「フッ、腕にこだわる必要なんてない! ようはお前の動きを止められれば―――!」

 

ああ、バカ――

俺はそう心の中で呟いた。

何故なら・・・・。

 

「なんだ、忘れているのか? それとも知らないのか? 俺たちは、二人なんだぜ?」

「!? しまっ―――」

 

驚愕するラウラに、超至近距離にまで接近したデュノアの六連装ショットガンが火を吹く。

 

「くあぁぁああッ!?」

 

ラウラの叫び声と共に肩の大型レールカノンが爆散する。

俺はその様を見ながらニヤリと笑う一夏を見て悟る。

 

(マズイなラウラ・・・・・見破られたぞ(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)!)

 

どうやらラウラのIS技術はドイツ軍で共に戦ったときとあまり変化していないようだ。

ラウラはAICの停止結界を同時に複数扱うことは苦手としている。というより、出来ない。

目標が視界内から消えてしまう、または集中を解いてしまうと拘束が解けてしまうのだ。

今の叫びはその弱点を如実に表すものとなってしまっていた。

 

「・・・・・ラウラッ!」

「クレハさん!?」

 

知らず知らずのうちに俺は駆け出していた。

どこに向かうのかはわかっている。

俺の中の瞬龍がそうしろと暴れまわる。

ラウラを助けろと叫んでいる!

 

「ラウラッ!」

 

既に見慣れたアリーナの扉を蹴り開けて試合中のフィールドに飛び出す。

しかし、既に遅かった。

 

「ぐ、あああああああああアアアアアアアァァァァァァァァッ――――・・・・!」

 

目の前で、ラウラが絶叫を響かせていた。

あちこちの装甲が破壊されたシュヴァルツェア・レーゲンから青白い電撃が放たれ、周囲にいた俺やデュノアが壁に叩きつけられる。

 

なんだ!? 何が起こった!?

 

改めてラウラを見てみるが、彼女自身に変化はない。

ただただ、痛みに苦しんでいるだけだ。

暫く荒れ狂う強風に身体を吹き飛ばされないよう身を低くしていると、次第にその風と電撃が収まっていく。

それらが完全に止まると、残されているのはピクリともしないシュヴァルツェア・レーゲンと俺たちだけだ。

観客席の人たちは起こったことが理解できず呆然としている。

 

「――――!? クレハッ! 後ろ!」

 

観客席から身を乗り出した鈴が、俺に注意するので、直感まかせに真横に飛ぶ。

 

――――――黒い風が吹き通っていった。

 

そう錯覚させたのは黒いマニュピレーターが俺のいた地点を通り過ぎていったからだ。

 

「黒い腕って・・・・・冗談じゃないぞ」

 

受け身をとった俺はその場で攻撃の正体を確認した。

 

「おいおい、そんなに怒ってんのかよ・・・。ラウラ」

 

軽口を叩くと、それに怒ったかのようにラウラがワイヤーブレードを俺に向かって放つ。

おいっ、それ避けられないからッ!

 

「先輩ッ!」

 

ダメージを覚悟していた俺を、一夏が掬い上げるようにして離脱させてくれた。

 

「悪い、サンキューな」

「そんなのあとでいいですから! まずはアレ! どうにかしてくださいよ!」

「おいこら、テメェ、人の義理の妹アレ呼ばわりとはいい度胸だな・・・・」

「あれ!? 先輩意見変わってません!?」

 

一夏はラウラの攻撃範囲外に出ると、俺を下ろして警戒した。

俺も瞬龍を呼び出してひとまず防御の意識を強める。

 

「別に変わったわけじゃない。もともとそうだったんだよ。俺とラウラは兄妹じゃない。だけど、義理の兄妹だったんだよ。後から知った事実を肯定するのは変わったには入らないだろ?」

「凄い屁理屈捏ねますね・・・!」

 

一夏が呆れたようにため息をつく。

心外だな。

 

「で、その義妹さんはどうなったんですか?」

「分からん」

 

即答する。

分からないのは事実だ。

シュヴァルツェア・レーゲンに搭載されたVTシステムのトリガーが何なのかは分かっていないし、なにより、今のラウラは名声高いヴァルキリーと同じアルゴリズムで動いているとは思えない。

先の二撃もただ力任せに拳を振っただけに見える。

だが、異常が起きているのもまた事実。

そしてそれに対応出来るのは・・・。

 

「行くわよクレハ。私たちペアの初戦闘ね」

「初めてを鈴と迎えられて俺も嬉しいぜ」

 

―――――周囲に登録済みのISコアを確認。Bシステム、起動(スタンド・アップ)

 

双龍の手がかりを追う俺たちの仕事って事だな!

 

 

「クレハ! 右援護(ライト・サポート)!」

了解(ヤー)!」

 

鈴の掛け声と共に左右にわかれ、ラウラを挟撃する。

ラウラの意識は俺の方に向き、俺はそのラウラに特殊拳銃型射撃武器「流桜」を拡張領域から呼び出し、撃つ。

だが、

 

ガンッ! ガンガンガンッ!!

 

放った弾丸全てが、シールドバリアーに弾かれる。

 

「そんな・・・。戦う分のエネルギーなんてないはずなのに!」

 

遠距離からライフルで援護するのか射撃姿勢を取っているデュノアが、開放回線でそう呟いた。

と、すると今のラウラはエネルギーが回復している状態だと見るべきだな。

だったら―――!

 

「時穿―――!」

 

黒い刀身を持つ特殊近接ブレードがラウラのシールドバリアーとぶつかり、解けたエネルギーが火花のように弾け回る。

そこで、俺は時穿の特殊能力を発動させる。

 

「斬れ!」

 

そう叫ぶと共に、エネルギーではない何かに時穿の黒い刀身がズブズブと沈む。

それを見たラウラが虚ろな瞳を見開くが、もう遅い!

 

パンッ! という音が響いて刀身がバリアーを通過し、シュヴァルツェア・レーゲンのボディにダメージを叩き込む。

 

「こぉんのぉーッ!」

 

その開いた空間向けて、鈴が衝撃砲二門をフル稼働させて放つ。

ドウッ!ドウッ!と着弾音が轟く。

防御に使った右腕が粉々に砕け、血だらけの右腕が顔を出す。

 

「グ・・・、ナゼ・・・オイテイクノデスカ・・・・ナゼ・・・ワタシカラ居場所ヲウバッテイク・・?」

 

ラウラが苦悶の声を上げる。

聞き取れた声はラウラの本心。

置いていかれた者、独りの人間の苦しみだ。

 

「織斑一夏ァァァァ―――ッ!」

 

破壊された右腕が再生し、瞬時にプラズマブレードが展開されると、俺に向かって振り下ろされる。

Bシステムと俺の反射神経が下した回避方向は前方。詰め寄れ、だ。

瞬時加速で回転するように接近した俺はラウラをISから引きずり出すべく、両足を切り飛ばそうと剣を構える。

だが、まるで切っ先が鎖で繋がれたかのように動かない。

それどころか全身が固定されている。

これは――――――!

 

「邪魔よ! クレハッ!」

「うおっ!?」

 

スケートのように地面を滑って身体を滑り込ませてきた鈴が俺の身体を蹴ると同時に、俺を縛っていたAICの放出源、左腕を双天牙月で破壊する。

縛りから開放されると同時に、俺も身を捻って二撃、右腕に叩き込む。

 

「ふぅ、ナイスフォローだ鈴。助かった」

「あ、あんたがぼさっとしてるからでしょ! しっかりしてよ!」

 

鈴から罵倒を浴びながらエネルギーを確認すると、残りの活動時間は二分チョイってとこだな。

二分以内にあのじゃじゃ馬からラウラを引きずり出し、事態の収束を図る。

たった今、そういうメールが個人回線を通じて轡木事務員から送られてきた。

まぁ、安心しろよじいさん、俺の目的もラウラの奪還だからよ!

 

「先輩! 俺たちは!?」

「一夏とデュノアは待機迎撃。観客席のロックが厚くていまだに避難が終わってないブロックがあるらしい。ラウラの武装は大体実弾兵器だから被害がでないように叩き落としてくれ」

「それは命令ですか?セーンパイっ?」

 

デュノア・・・人がシリアスに指示出してんのにちゃちゃ入れるなよ・・・。

 

「命令じゃない。ていうか上級生下級生なのに、命令とかあり得んだろ。普通に行動しろ」

「了解です!」

 

一夏とデュノアはそうして後方に付き、流れ弾の処理を行う位置についた。

 

「そういえばクレハ、あんたさっきどうやってバリアー突破したのよ?」

「え、ああ。時穿の基本性能・開放(ベーシックポテンシャル・オープン)? まぁ、その説明は追々していくから、前見た方がいいぞ」

「え?」

 

鈴が呆けた声を出しているので、代わって俺が迫っていたワイヤーブレードの対処を行う。

 

(斬れ!)

 

次は声に出さずに頭の中で解号を唱え、時穿の能力を発揮させる。

ワイヤーの先端と時穿が接触した瞬間、俺の目がとらえたのは、黒い刀身が何もない虚空に切れ込みを入れ、押し広げ、ワイヤーがそこに吸い込めれていく様だった。

今の現象を分かりやすく言うなら、空間断裂。

空間に極大化したエネルギーを掛けて、そこに強制的に時空の穴を作る特殊兵器らしいのだ。この時穿という剣は。

だから、さっきのはラウラのバリアーを切ったのではなく、バリアーを張った空間のみを切り裂いたということだ。

零落白夜とは発想が違うが、これも十分バリアーキラーウェポンだよ・・・。

 

「あ・・・、ありがと・・・」

「ん?どういたしまして、な」

 

面と向かって礼を言われるのが何となく恥ずかしかったので、返事をすると同時にラウラに意識を集中させる。

空間を切る技、仮定的に「斬空(ざんくう)」と名付けるが、今のワイヤーぶったぎりアクションで、瞬龍が覚えたのか、次からは念じるだけで瞬間的に技が出せるそうだ。

よかったー。今のタイミング合うか、一か八かだったんだよな。オートで出せるならそれに越したことはないぜ。

 

「おい、ラウラ。聞こえてるか?」

「ぐ・・・・・・く・・・・柊・・・・お兄ちゃん・・・?」

「そうだよ。クレハだ。取り敢えず、それ脱いでから話をしようぜ? 怒らせたことならちゃんと謝る」

「む・・・りです・・・。ISが・・・・・身体に食い付いて、外れま・・・アアッ!? ・・・・っ!」

 

見ればボロボロの両腕に、再び破壊されたはずの装甲が展開される。

通常破壊された装甲は、交換という形で新しいものへと新調される。

しかし、今は壊しても壊しても新たに出現する無限回復状態だ。

恐らく、残っているシールドエネルギーを喰って装甲に変換しているんだろうが、恐ろしいエネルギー回復力だな。

ガス欠を起こしやすい調整(チューニング)の瞬龍に分けてほしいくらいだぜ。

だけど、今はその機能も破壊するべき対象だ。

いくぞ、柊クレハ。

義兄と義妹の義兄妹ケンカだ。

 

「待ってろラウラ。そんなもの、俺が剥がしてやる!」

 

瞬間加速を用いて一瞬で懐に潜り込むと、回転を掛けながらの一閃で、シールドエネルギーと絶対防御分のエネルギーを一気に削ぐ。

ラウラは――――というかレーゲンは真下の俺に向かって再生中の大型レールカノンの照準を合わせると、間髪入れずに放った。

喰らえば一撃。かわすにしても距離が無さすぎる。接触は免れない――――!

 

「!? クレハッ!」

 

鈴の叫ぶ声だけが俺の耳に届く、心配するなよ鈴。言っただろ。俺はお前のパートナーであり続けるってな。

 

(だから!)

 

俺は迫り来る大型砲弾に向かってオーバーヘッドキックのように片足を振り上げる。

瞬龍は小型の装甲だから、ほとんどの生身と同じ感覚で操縦出来るのが少ない利点だ。

 

(だからこうやって――――!)

 

振り上げた脚が砲弾に接触すると、瞬間加速で蹴り足に巨大な運動エネルギーを発生させて、砲弾が俺に向かって進む運動エネルギーより大きい運動エネルギーで打ち消す。

そのまま脚の勢いに引っ張られるように身体もクルリと一回転して、そのまま!

 

「―――ーぶっ壊れろ」

 

打ち出された砲弾の軌道が俺の脚によって90度曲げられて、レーゲンの右足を破壊する。

 

「クレハ・・・・あんたって! 上出来よ後は私に任せて!」

 

鈴が双天牙月を構えて弾丸のように飛び出すと、体勢が崩れているレーゲンの両足を完全に破壊し、ラウラの両足を開放。

 

「最後は俺たちが!」

「僕たちが!」

 

続いて一夏とデュノアが左右から腕のマニュピレーターにそれぞれ斬撃と六連式の火薬炸裂パイルドライバー、通称シールドピアスを叩き込み、破壊する。

 

「クレハッ! 引っ張り出して!」

 

四肢が開放されたラウラを繋ぎ止めるのは、残った背部ユニットのみだ。

俺はISの展開を脹ら脛下のPIC力場発生部と、スラスターのみの部分展開に切り替えると、ラウラに飛び付き、ユニットの分離を試みる。

 

「・・・・柊・・お兄ちゃん・・に、げてください・・。時期に・・・・暴走状態が臨界点を超え、機体が形を保てなくなります・・・・・。そうなると・・・・・・。逃げてください・・・ッ!」

「ざけんなッ! お前はまだ俺と仲直りしてないだろうが! こんなところで一人で逝っちまったらそれこそ永遠に一人になるぞ!」

「でも・・・このままでは教官まで・・・・」

「他のことはどうでもいい。ラウラ自身が自分の事を考えなくてどうするんだよ! 居場所を見つける前に、自分の存在を見つけろ!」

 

瞬龍のBシステムがシュヴァルツェア・レーゲンの様子を簡単に改めたところ、機体の状態はマジで弾ける5秒前状態だ。

しかし背部から伸びたユニットは、そのままラウラの胸を包み込むように固定されていて、外すためにはここを解除するのが一番てっとり早くてええと・・・・畜生!

 

「・・・・・一人は、イヤです・・」

 

ラウラの口から漏れたのはそんな小さな否定の言葉。

だが、その言葉に込められたラウラの経験は俺の想像を遥かに超えたものだった。

 

先日、ラウラと喧嘩別れしたあの日、俺はラウラの所属するというIS特殊部隊「シュヴァルツェア・ハーゼ(黒ウサギ隊)」の副隊長クラリッサ・ハルフォーフ大尉に連絡をとった。

副隊長を勤めていたのは初耳だったが、むしろ都合がよかったので、俺と千冬さんがドイツを去ってからのアイツの様子を聞いてみたんだが、あまり聞いていて気分の良いものじゃなかったな。

俺たちがドイツを去ったあと、ラウラは一人、軍の中では特出していたIS技術を買われて他の部隊へと転属となり、地位も権威もへったくれもない少佐の位を与えられたらしい。

そこで待っていたのはよそ者への差別と、その努力によって習得した技術への妬みだった。

ISを扱えるのが女性だけなため、女性士官養成所からの嫌がらせもキツいものだったらしい。

クラリッサは定期的にラウラと連絡を取っていたため、その状況を知ってはいたが、他の部隊のことということもあり、下手には手を出せなかったらしい。

そして、数ヶ月そんな状況を耐え抜いたラウラは、完成されたナノマシンによる強化人間だけで構成された特殊部隊である「シュヴァルツェア・ハーゼ」への転属を機会に、ここ日本への留学を申請したらしい。

 

ラウラが虐められていたことも驚きだが、まさか本当に兄妹みたいなものだったことにも驚いた。

俺は出産後に薬によって身体を変えられた瞬龍搭乗者被検体1号。

ラウラはその出産にすら人によって手を加えられたIS戦闘用の強化人間。

瞳の金色は、注入された特殊ナノマシンによる影響で、常にハイパーセンサーが起動している状態らしい。

なるほど、全てを見渡す瞳、ね。

 

他とは違う生まれ方をして、更にはでき損ないの烙印をおされたラウラ。

ウェルクさんという居場所を見つける前の俺そのまんまじゃないか。

だから、俺は決心した。

俺がラウラの居場所になる。

俺がラウラを肯定してやる。

俺がラウラの―――――

 

「だったら、俺がラウラの兄貴になるよ。だから、勝手に妹が死ぬのは見過ごせないな」

 

そして、俺たちは爆発に巻き込まれたのだった。

 

 

 




読んでくださってありがとうございました。

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