いよいよ新学期、新生活が始まりますが皆さんどうですか?
私は・・・・まぁ、最近更新してなかったことから察してください。
緊急時には水を注水し、人工島のバランスをとるために存在する学園地下の貯水槽。
俺たちは現在、そこを猛スピードで駆けていた。
俺たち、そう言ったのにはもちろん理由があり、スラスターを操って進む俺の肩にはアンカーで身体を支えたこの学園の教師、織斑千冬が掴まっているのだ。
天井を支えるために乱立されたコンクリート製の太い柱を右に左に避けていると言うのに、千冬さんはその慣性力をものともせずに前だけを見ている。なるほど、ブリュンヒルデの名は伊達じゃない。
IS学園地下のIS格納庫で山田先生から、鈴、セシリア、ラウラによる交戦
通信で入った山田先生の報告によれば既に戦闘開始から20分以上の時間が経っている。
戦況は不明。だが、ラウラが一人であの代表候補生二人を相手にしているのなら、すでに決着が着いていてもおかしくはない。
(ダメだ・・! ラウラのISはどんな性能が秘められているか未知数だ。迂闊に交戦するのは命取りだぞ鈴・・・!)
ラウラのISには、現在俺と鈴が追っている謎の秘密結社、『双龍』が関与したシステムが組み込まれている可能性がある。
俺のISにも『Berserker system』・・通称Bシステムが組み込まれてはいるが、ラウラのそれが安全なモノとは限らない。
(それくらいの警戒心はあるもんだろが! なんで普通に戦ってんだよ!?)
俺は心のなかで鈴のことを罵る。
鈴のこともそうだが、セシリアがいるのも心配だ。
ほとんど関係のないセシリアがなんで鈴と共闘してるんですかね!?
「―――柊、見えたぞ!」
その時、呆けていた俺の耳に千冬さんの声が届いた。
前方の天井を見れば、確かに50メートルほど先に地上へ上るための梯子が設置されていた。
大きさは、小型のISであるこの『瞬龍』がギリギリ通れるレベルだ。
千冬さんに行きます、と声をかけた後、その狭い通路に突入した。
く、この狭さ、少しでも操作を誤れば千冬さんが壁に
足の裏と、ふくらはぎ、そして背中に取り付けられたスラスターとPICを操り、何とかアリーナの大通路へと上り詰めた。
こんな緊張感のある上昇操作、ドイツ軍でもやってねぇぞ・・・!?
「何をへばっている柊! 先に往くぞッ!」
通路脇にある、学園外からの観戦者用に備え付けられたIS用近接ブレードを手に取った千冬さんがそんな事を言った。
「先に行くって・・・、ISも無いのにアリーナに飛び出るつもりですか・・・!?」と、言おうと顔をあげた瞬間、
パァンッ!
千冬さんのハイヒールがそんな音をたてて床を叩き、アリーナへと通じる扉を一太刀で切り裂いた千冬さんがISに匹敵するスピードで飛び出していく様を俺は見た。
その姿に俺は戦慄を覚える。
確かに千冬さんは言った。
生身でISと戦うことはできる、と。
千冬さんのスピードはその言葉の現実味をさらに付け加えられるレベルのもので、事実その意外すぎるスピードに俺の反応が一瞬遅れたほどだ。
その一瞬の後、俺も外に出るために体勢を立ち上げ、急速発進する。
アリーナの壁を抜けるとそこは土ぼこりが舞う戦場で、アリーナ中央では今にもラウラと、一夏が剣を交えそうになっている。
ふと、アリーナの観客席をみると、一部だけバリア機能が消滅している部分がある。なるほど、零落白夜か。
更にアリーナの端ではボロボロになった鈴とセシリアがデュノアによる応急手当を受けている最中だった。
「柊、一夏を頼む。ボーデヴィッヒは私が押さえ込むッ!」
千冬さんはその言葉を最後に更に地面を蹴って加速し、抜刀する。
その姿はまさに戦乙女ワルキューレの一人、ブリュンヒルデそのものに、俺は見えた。
@
ラウラと一夏が、それぞれが持つ刃を互いを討たんが為に振り下ろす。
だが、ラウラの前に立ちふさがった千冬さんがそれを許しはしない。
「・・・・やれやれ、これだから餓鬼の相手は疲れる」
「教官ッ!?」
「千冬姉ッ・・!?」
千冬さんはおよそ170センチはあろうかと言う近接ブレードを巧みに操り、ラウラの動きを制止させると、ラウラを厳しい目で睨んだ。それだけでラウラは何もできなくなってしまう。
突然の千冬さんの登場に驚いたのは一夏も同じだったが、その手に持った雪片の動きは止まらない。このままではシールドバリアーを持たない千冬さんごとラウラを攻撃してしまう。
だから・・・・!
「全くだ、仲裁に入る人の苦労ぐらい考えて欲しいですね」
そう言いながら瞬龍の拡張領域から近接特殊ブレード『時穿』を展開し、雪片と切り結ばせる。視界の端に映る鈴にジロリと視線を向けるとうっ、と息を詰まらせる顔をした。
「柊お兄ちゃん・・・・・しかしこの男は・・・・!」
「ボーデヴィッヒ」
「・・・っ・・・・」
尚も戦闘を続ける意思を示したラウラだったが、千冬さんを前にはいつもの威勢も影を潜めるらしい。
俺は一夏に止めろ、というアイコンタクトを送ると、それに気づいたらしく大人しく剣を引いた。元々自分から突っ掛かるタイプじゃ無いのだから、あの二人がメッタメタにやられたのを見て、飛び出したってとこか。
・・・・ラウラには説教が必要そうだな。うん。
「模擬戦をするのは構わん。互いの力を高めあうにはやはり実践が一番いいのは事実だ。だが、アリーナのバリアーを破る事態になられては教師として黙認しかねる。そこまで争いたければ決着は学年別トーナメントで着けるんだな」
千冬さんが事態を収拾するために、一息でそこまで言うと不満げだったラウラも自身のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』の展開を解いた。
「教官が、そうおっしゃるなら」
そう素直(?)に応じるラウラ。しかしやはり獲物を前に止められたのが不満なようだ。
「織斑、お前もそれでいいな」
一夏にも確認をとると、極めて真摯な姿勢で「はい、それで構いません」と答えた。
その言葉に千冬さんは口許だけで小さく落胆したような顔をすると、声を張り上げてアリーナ全体へと言った。
「では、学年別トーナメントまでの一切の私闘を禁ずる! 解散!!」
パン、と手をうった千冬さんの姿がまるで何かを自分に納得させるようなものに、俺には見えた。
「・・・・千冬さん」
皆がアリーナを去ったあと、俺は背を向けたまま全員が解散するのを見守っていた千冬さんに声をかけた。
「千冬さんがどう思うかは分かりませんが、千冬さんがどうしようと俺たちはこの道を進み続けます。アイツはきっと過去の自分の弱さを責めるために、俺は自分のしたことの理由を知るために。これから深いところに足を踏み入れるかもしれませんが、まぁ俺は二年なんで独立ってことで気にしないで、一夏のことを見てやってください。俺たちは、進まずには居られませんから」
俺はそう言うとアリーナの外に向けて歩みを進める。
背後で千冬さんが、「馬鹿者が」と呟くのが聞こえたような気がしたが、気のせいってことにした。
@
「・・・・・・で、なんであんなことになってたんだよ?」
それから約一時間後、学園の保健室で鈴とセシリアは包帯ぐるぐる巻きのまま、俺と一夏の詰問を受けていた。
ていうか、二対一で負けるとか、ダサいにも程があるぞ。
そう言うとセシリアが激高した。
「ううううう、うるさいですわねっ、少し油断しただけですわ!」
「そうよ! 一夏が来なくてもあのままだったら逆転してたわよッ!」
男子二人に挟まれた二人はそれぞれ涙目で虚勢を張る。いや無理だろ・・・・。
「お、お前らなぁ・・・・」
「まぁでも怪我が軽くすんだのは流石――――」
二人の態度に肩を落とした一夏を尻目に、俺は二人の肩をパンッと叩いてやる。
「「いたたたたたたたたっ!!」」
すると二人が二人して魚のようにのたうち回った。
「――――じゃないな」
「ですね」
むしろその傷で虚勢張るとか、バカ・・・なんだろうか。
「ふ、二人してバカとはなによッ! 第一、一夏だってアイツには手も足も出てなかったじゃない!」
「そうですわ! そちらの陣営にも無謀なおバカさんが居るのですから撤回を求めます!」
「だってさ、一夏」
「先輩!?」
それにしてもなんで俺たちの思考を読めたのだろうか。女ってみすてりー・・・・。
「はぁ。それにしてもなんで二人して戦うことになったんだよ? 敵の戦力分析くらいしてやれよな」
俺がそう問うと、鈴たちは口々に「奇襲だったのよ」とか、「売られたケンガが大きすぎて焦っていただけですの」とか、「第一、あんたがあんたが賭けの対象なんだから引くわけには行かないでしょ」とか、「負けられない戦いってありますわよね・・・?」などと供述しており・・・・・って、その負けられない戦いに実質負けてどうすんだよ。
「二人ともポッと出の新参ものにクレハを取られたくなかったんだよねぇ?」
その時、保健室の扉開けて、缶ジュースを持ったデュノアが入ってきた。
「取られるって大袈裟な・・・ただ部屋割りが――「ななな、何いってるか全然分かんないわねぇ! これだからヨーロッパ人は困るのよ!」――って鈴その言い方失礼だろ隣には
もういいや、この二人。
「はい、飲み物買ってきたよ」
デュノアは笑顔のままそれぞれの前に飲み物を差し出す。
鈴とセシリアにはそれぞれ烏龍茶と、紅茶を。俺と一夏には緑茶だ。
「ふ、ふん。まぁ折角買ってくれたものを飲まないわけにはいかないしねっ!」
「不本意ながら頂きますわっ」
そういってぷしゅっと缶を開けて、大倭先生の飲酒を彷彿とさせる勢いで喉に流し込む二人。
一夏が二人を心配そうな目で見ている。こいつ、割りと心配性なとこあるよな。
すると、だ。どこからともなくまるで猛獣が大地を駆けるような地響きが鳴り始めたのだ。
ドドドドドドドドド、とフォルテが愛読するJOJO(現在第12部)の効果音のような音が段々と近づいてくる。
「な、なんなんだ・・これ!?」
「一体なんの音なんだ?」
一夏が音の発生源を探るように廊下の方を向く。
俺もならって廊下の様子を見に行こうとしたときだ。
「「織斑君! デュノア君!」」
俺は勢いよく入ってきた何かの集団によって無惨にも薙ぎ倒された!
な、なんだぁ!?
止まることを知らないその何かの集団は、足元の俺には気づかずに、ある者は踏み、またある者は蹴りながら室内へと侵入していく。その勢いはさながらサバンナのバッファローと言ったところか。
結果俺はなんとかベッドのしたに潜り込むことでバッファローの攻撃を避けて、安全地帯を手に入れた。
落ち着いて辺りを見回すとそこにあったのは何本もの足、脚、あし・・・・。白や黒の靴下に包まれた細いがしっかりと柔らかそうな印象を受ける脚や、アンクルソックスのせいで部活動や訓練に励んでいることが如実に分かる綺麗な脚線美を描いた脚、少し顔をあげればソコには女子特有の細すぎず太すぎない健康的な太ももがあるという、目のやりどころに困る光景が広がっていた。ここでようやく俺は女子の大群に薙ぎ倒されたのだと気がついた。
・・・・にしてもこの数、二で割っても30人はいるぞ。
そうやって落ち着きを取り戻した俺だったが、先ほど蹴られたり踏まれたりして命の危険をガチで味わったせいか、女子の脚を見ているうちに、いきなりあのアブナイ感覚が襲ってきたのだ。
太鼓でも叩いているかのような心臓の脈動に、段々と視野が狭まって感覚が研ぎ澄まされていくあの感覚。更には視界の隅に映るBシステムの英語表記だ。
まて、まて、まて。これまでの経験からこの瞬龍がBシステムを発動させるのは大体鈴かセシリアと一緒にいたときで、トリガーとして登録するにしてもこの状況ではISどころか顔も確認できてない状況だぞ!?
なんでBシステムが反応してんだよ!
と、そこで思い当たる条件が一つ閃いた。
まさか、この光景が気に入ったとかありませんよね瞬龍さん!?
なんとか無駄な発動を抑えようとした努力も空しくBシステムが無意味に発動。
少しでしゃばりな性格が表に出る。
「二人とも、これ!!」
ベッドの下から状況を探ると、丁度一人の女子が何やらプリントを差し出したようだ。カサッと微かな摩擦音が聞こえた。
「なになに・・・・?」
「ええとぉ? 今月行う学年別トーナメントではより実戦的な模擬戦闘を行うため、二人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は学園側が抽選によりペアを決定するものとする。締め切りは――――」
「ああ、そこまででいいから!」
一夏が読み上げている最中に先を急いだらしい女子がプリントを引ったくった。
そして、一斉に一夏とデュノアに向かっててを伸ばす気配がする。
「私と組んで織斑くん!」
「一緒にガンバろデュノアくん!」
どうやらコイツらは数少ない男子(女子含む)と組むためにここに来たらしい。
行きなりタッグマッチに仕様変更か・・・・。心配性なのは
学園側が一教師の一言で決定を変えたのは意外だったが、変わってしまったのは仕方がない。俺も雨かフォルテ辺りと組んで申請するかな・・・。
大量の女子生徒から誘いを受けた一夏は答えに窮しているようだった。
きっとデュノアのことを心配しているのだろう。同じ部屋だし、気づかないはずがない。
そして、ワザワザ男子として転校しているのだからなにかバレてはいけない理由があるのは明白だ。
とすると、一夏が取れる行動は一つに絞られる。
「悪い、俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」
空気が、凍った。
恐らくは誰もが男女のペアが二組は生まれると確信していたのだろう。それ故に、予想外の一夏の選択に普段マッハの早さで処理している脳が一時的に処理を中断したのだ。要するに、考えたくない事態が起こった、ってとこか。
しかし、それらの女子のなかにもなかなかタフなやつがいたらしい。
集団の最後尾にいたらしい一人の女子が、
「・・・・シャル×いち・・・・・いや、いち×シャル・・・・アリね」
と呟いたのだ。
俺でも真意が見抜けてしまうその一言は、殆どの女子に意味が理解されないまま浸透していった。
「男子同士で組むのも確かにアリね・・・美少年同士だし」
「いや、織斑くんは美少年って言うか美青年って感じだけど」
「まぁ他の娘と組まれるよりかは良いかぁ・・・・」
と、彼女らなりに納得して部屋を出ていく。
バタバタと再び騒がしくなっていく廊下と反比例して静けさが広まっていく保健室。
そんななかで一夏の吐いたため息だけがいやに大きく聞こえた。
「・・・・・で、あんたは誰と組むのよクレハ?」
対面のベッドから鈴が声を掛けてきた。
デュノアが、「さっきからいないと思ったけどそんなところにいたんだ・・・・」と呟いたがBシステム発動状態で女子の前に出たらなに口走るか分からないんでね。
「あ? 普通に雨か、フォルテ辺り。もしくは更識あたりにでも、って思ってるんだけどどうもなぁ・・・・」
フォルテはダリル先輩以外のペアじゃ戦績悪いって聞くし、更識はキャラがなぁ・・・・。最近見てないけどもしトリガーとして機能する人物として瞬龍に見初められると、とてもめんどくさい。
よし、無難に雨だな。
そう言うと鈴は少ししょんぼりしたようだ。おいおいツンデレがそんなんでいいのか。
ペアを組むといった手前、最初の機会に別のペアと組むのはいささかつっかえがないとは言えんが、校則なら仕方ない。だって学年別だもんなぁ・・・。
て言うかそもそもお前の傷じゃ・・・。
「ダメですよ」
と、いきなり現れたある人物が俺の心の声を代弁してくれた。
「お二人のIS、ダメージレベルがCを越えています。当面は修復に当てないと戦闘は教師として許可できません。ISを休ませる意味でもトーナメント参加は諦めてください」
いつになく教師っぽく生徒を諭す山田先生。
すると、いつになく教師っぽい山田先生は不思議な圧力を持っているらしく、あの代表候補生がしぶしぶと言った様子で参加は諦めてくれた。
「あぐ・・・・・くっ、わか・・・りました・・・!」
「不本意ですが、ほんっとうに不本意ですが今回は参加を見送らせていただきますわ・・・!」
ドンだけラウラとやりたかったんだお前ら。
二人の様子に満足したのか、山田先生は凄く嬉しそうに言った。
「分かってくれて先生嬉しいです。ISに無理をさせるといつかはそのツケを払うときが来ますからね。お二人の未来のチャンスを先生は失ってほしくありません」
ニコニコ顔でそういって出ていった先生だが、その後ろで一夏が首を捻っている。Bシステムの恩恵で鋭くなった聴覚がボソッと「ツケを払うときが・・・・?」と呟くのを拾った。
どうやら一夏は未だにISの基礎理論第三項を記憶していないらしい。
ISとは、使用者と共に経験を積んで自分自身を強化していく自己進化プログラムが常時走っていて、そのプログラムは損傷状態での稼働経験さえも経験値として蓄積するらしい。だから、損傷が激しい状態で稼働させればそのぶん質の悪い経験値しか入ってこずに、その後築かれる特殊エネルギーバイパスに重大な欠陥を生んでしまうらしい。結果、平常時の稼働に悪影響を与えてしまう、というわけだ。
一夏の疑問に気づいたデュノアが一夏に耳打ちすると一夏は納得したようにポンと手を打った。
どうせ、「骨折したときに無理すると筋肉痛める」くらいの理解なんだろうなぁ・・・・。要約するとそれで間違ってないんだが。
「しっかし、なんで二人ともラウラとバトルことになったんだ? 先輩が関係あるんですか?」
一つ疑問を解くとまた一つ疑問に思ったことがあったらしい一夏が未だに渋面を浮かべる二人に問いかけた。
「そりゃぁまぁ、パートナーの貞操の危機だったし・・・・・(チラ)」
「く、クレハさんをせっ、性犯罪者にしないためには必要な戦いだったのですわっ!・・・・(チラ)」
なんでこっち見る。
「・・先輩、何しようとしてたんですか・・・?」
一人事情を知らない一夏が俺に侮蔑の眼を向けてきた!
「おいちょっと待てお前ら、なんで俺が危ないことするみたいな感じで説明したんだよ!?」
俺の焦りを尻目に、説明役として役立ちそうなデュノアは面白がって手助けしてくれないし、ほんと、泣くよ?もう。
二人の態度に腹をたてた俺は、再び「魚ビクンビクンの刑」に処してやろうと二人をシバくためにベッドのしたから這い出たときだ。
「では、私が今回の経緯について説明しましょうか、柊お兄ちゃん」
「うおっ!?」
いきなり現れたラウラに俺は変な声を上げてしまったが、他の全員は即座に戦闘態勢に入った。
す、スゲェ・・・。一瞬で殺気が充満したぞ・・。
「私とそこの二人で賭けをしたのだ。私が勝てば柊お兄ちゃんは私の部屋に移動し、生活を共にする。ドイツ軍にいた時のように朝起きてから夜寝るまで常にな。そこの二人が勝てば今まで通り生活するという勝っても負けても私には損のない勝負だったんだが、そこの二人は面白いように乗ってきてな、それで今回はその勝負の結果を確認しにきた、という次第だ」
とても精神を逆撫でする説明をありがとうラウラ。さぁ、後ろのドアからそのまま退出するんだ、いやしてくださいっ!
「な、なんですってぇ・・・!?」
「言わせておけばドイツ風情がこのっ!」
「そのドイツ風情に負けたのはどこのどいつだ?」
ん?とさらに挑発ぎみに返したラウラに、二人が押し黙る。
一方の二人は息の合ったユニゾンで「「柊お兄ちゃんってキャラ間違えてるよね・・・・」」と呟いていた。あいつらっ。
「結果は知っての通りで相違ないな。では行きましょう柊お兄ちゃん」
そう言いながら俺の手を引いて歩き出すラウラ。
その無理矢理さにいい加減怒りがわいてきたぜ。
手を引くラウラの手を、俺は振り払った。
Bシステムの感覚が、ラウラが不快に感じた兆候と、背後で面食らってるみんなの気配を掴む。
「・・・・どうしたのですか? 柊お兄ちゃん?」
そう言うラウラの眼帯に隠れていない瞳は、俺が付いてくることを当然のように思っている。
その当たり前だという態度が、俺は気にくわなかった。
「ふざけんなよ、ラウラ」
「ふざけてなどいません、至って真面目です」
「そう言うことを真面目に言うところをふざけんなって言ってるんだよ!」
怒声をあげた俺に、流石のラウラも面食らったようだ。
思ってみれば、ラウラと過ごした二ヶ月の中で初めて怒ったのはこれが初めてだったな。
「なんで俺が賭けの対象になってるんだよ? なんで俺の行動がお前に制限されなきゃならないんだよ? ふざけんなよ、ここはドイツ軍じゃない、IS学園だ! お前の常識に俺を巻き込むな!」
確かに向こうでは場数を踏んだラウラの判断を優先した行動が多かったかもしれない。
確かに向こうではラウラの判断を頼りに行動を制限したかもしれない。
だけど、それはドイツ軍でのことだ。
「いいか、分かっていないなら何度でも言うぞ。ここはIS学園だ。お前のホームグラウンドのドイツ軍じゃない。ついでにいっとくぞ、俺はお前の兄じゃない。呼ぶなら先輩かさん付けだ」
感情まかせに思いの丈をぶちまける。後ろの二人にも言いたいことはあるがそれを言う余裕はない。
何故ならば・・・。
「・・・・なぜ、私を否定するようなことを言うのですか・・?」
ラウラが、その鉄皮面を涙で歪ませたからだ。
「なぜ、私を否定するようなことを言うのですか・・・? 教官も、お兄ちゃんも私の前から姿を消して、異国の地へと旅立って、私を肯定してくれる存在は、あの地には誰もいなくなってしまった!」
ラウラの絶叫が響く。
その場にいた全員が眼を丸くした。
「教官の弟を倒せば認められると思っていた、貴方に付いていけば私が何者かわかると思っていた。たった二人だった私の拠り所を失った私の気持ちを考えたことがありますか!?」
そう言うとラウラは湿った眼帯を取り外し、袖で涙をぬぐうと失礼しました、と一礼して走り去っていった。
去り際に見たラウラの瞳は今も昔も変わらず赤と金色のオッドアイだった。
「ね、ねぇクレハ・・・?」
流石にまずったことを察知したのか、鈴がおずおず俺の名を呼んだ。
わかってる。俺だって失敗したと今思ってるとこだよ畜生。
俺、てっきり一夏を倒すためだけに来たのかと思い込んでいたけど、それだけじゃなかったのか。
なんで気づいてやれなかった。そう言う感情を察するのは俺がウェルクさんから学んだ一つの特技だろうが。
あいつと俺は一緒だってことを気づいてやれることが出来なかった。
ラウラの叫びを聞くまではラウラが逆ギレしたと思っていたが、逆だった。
俺が、ラウラに逆ギレしたんだ。
「悪いな、変なとこ見せて。でも心配すんな。何とかする」
一応そう言うが明確な手段が思い付かない。唯一頭をよぎる案も人頼みだ。
いや、なりふり構っていられる場合じゃない。
学年別タッグマッチトーナメントまで残り時間も少ない。
迷惑に感じていたのは本当だし、放っておけばいいのかも知れないが、どうやら出来そうにない。
俺は端末を片手に、保健室を後にした。
飛んでいただきありがとうございます。
人生経験が乏しく、稚拙な人情物語ですがどうかお付き合い頂けると嬉しいです。
感想、評価、ご指南、ご鞭撻、お願いします。