インフィニット・ストラトス~オーバーリミット~   作:龍竜甲

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いつもよりちょっと長めです。
いやー、執筆速度遅くて時間には敵いません。


大惨事、世界『対戦』勃発。

「まったく、だらしないわね。一体何に当たったって言うのよ?」

「いや・・・それが分かるなら俺にも教えて欲しいんだが・・・」

 

今回で二度目となる保健室での鈴との会話。

セシリアのサンドイッチを食べて気を失った俺を心配して見に来てくれたようだが、本人に確認しても「だっ、誰があんたの心配なんかするのよ! あれよあれ! 未知の病原菌とかだったりしたらイヤだから見に来たのよ!」・・・とのコトだったが、「病原菌とかって予想がついてるならホイホイ来んじゃねーよ。バカなのか?」と言うと、その健康的なおみ足で首4の字固めを喰らったので大人しく様子を見に来た、ってことにしておいた。

 

「・・・で、どう? セシリアとは上手くやれそうなの?」

「どうって聞かれてもだな・・・・。本当の目的を伝えてない以上どこかでボロが出るかもしれん。よっぽど上手く計画しないと誤魔化しきれないぞ」

 

今はセシリアに嘘の依頼を出して騙している状態だ。いずれ本当の目的がバレて計画自体が頓挫する可能性もある。

 

「それに関しては大丈夫よ。あたしの依頼ってことには顔をしかめてたけど、報酬の話をすると直ぐ様乗ってきたわ」

「報酬・・・? ああ、写真の件か・・・・・」

 

鈴のモデル写真だったか? セシリアも物好きだな。

 

「なぁ、どんな写真渡すんだよ? ちょっと見せろ」

 

そうお願いすると鈴はキョトンとした。

 

「何だよその反応。別にいいだろ。どんな写真かくらい知ってたって」

「え、ええそうね・・。確かに知ってた方が良いかも知れないわね・・・・」

 

そういうと鈴はなぜか吹き出る汗を拭いながら、震える手で端末を差し出してきた。

・・・・・変な奴だな。どいつもこいつも。

表示されていた写真を見ると何故か俺の写真(寝顔&着替え)が映し出されていたので、フリック操作で写真を切り替える。

なんか変な悪寒が背筋を襲ったが、サンドイッチに当たったせいだろう。気のせいだ。

数回画面を擦ると、様々な衣装を身に纏った鈴の姿が映し出された。

明るいパーカー姿に残念な水着姿、華やかなドレスに残念なチャイナ服。

・・・・・・・総評、残念です。どこがとは言わんけど。

 

「ん、まぁ良く撮れてるとぉ・・・・ってなんでそんな部屋の片隅に?」

 

画面から顔をあげるとそこに鈴の姿はなく、保健室の片隅に震えている鈴を見つけた。

俺の声に反応してか、そっと顔をあげて俺を見る鈴。その瞳には「ヤバい! 怒られる!」と、「ヤバい! 見られた!」という2つの怯えの色が見えた。何でだよ。

 

「ほら、これならセシリアも満足してくれるだろ。本人もやる気満々だったみたいだしな。こっちが詰めを誤らなきゃ問題ないかもだな」

 

ポンと端末を投げ渡す。

キャッチした鈴は俺の顔と端末を交互に見てから「あ、良いんだ!」と安心した面持ちになった。

報酬の件が解決したので俺は話を次に進めることにした。

 

「・・それで、これからの事だが、やっぱり盗るのはラウラの自室でだな。あいつ、何でか知らんが常に気を張ってやがる。普通に挑んでも返り討ちだ」

 

ここ二、三日で調査した結果から言わせてもらうと、ラウラは現在昼間の間は常に張り詰めた空気を纏っていて誰も寄せ付けないオーラを放っている。元、相棒として心配になるレベルだ。

 

「だったらどうやって忍び込むのよ。窓は強化ガラスだし、部屋のセキュリティは堅牢。真っ当な手段じゃ入れっこないわよ」

「いいや、入れる」

 

鈴は俺の提案を不可能だと切り捨てるが、その不可能を可能にするかも知れない真っ当じゃない手段が今の俺にはあるのだ。

 

「作戦決行は明日の放課後だ。俺が呼んだらセシリアを連れて集合しろ」

 

くくく、奴隷のように扱われる恐怖をアイツ(· · ·)にも味わってもらおうかな。

 

 

翌日の放課後。寮内を歩く俺の回りには三人の女子がいた。

いや、うち一人は男子のふりをしている女子、と言った方がいいだろうな。

 

「ええとどうしていらっしゃるのですかデュノアさん?」

 

予想外の登場人物に頬をひきつらせるセシリア。鈴もよく飲み込めて居ないようだったので二人は顔を見合わせるだけだ。

 

「いやぁ、同じ男の子の操縦者でもありますし、同じクラスのみんなとは仲良くなりたいですからね」

 

いや、嘘だろ。同じ男子ってことも嘘だが、もうひとつ嘘が潜んでいる。そんな印象を俺はデュノアの笑顔から受け取った。

そう、この場にデュノアを呼んだのは何を隠そうこの俺だ。

 

 

((ちょっと! どうするのよこれ!? ていうか一夏と一緒なんじゃなかったの!? 説明しなさいよクレハ!))

((分かりませんわ! これからクレハさんが女体に興味を抱かれる大切な儀式だというのに、他の殿方がいては邪魔になりますわ! 説明を求めますクレハさん!))

((ちょっt、おいセシリア・・・・・まぁいいや。二人とも俺に任せろ))

((任せろって・・・どうするつもりなのよ? どうしてデュノアなんかをつれて・・・・・!))

 

ボソボソと前を歩く三人で打ち合わせをすると、俺は立ち止まりデュノアと向かい合う。

デュノアがビクッと驚いたように立ち止まると、あとの二人はその隙にさっさと歩き出した。

 

「えーっと、いったいどうしたんですか? 柊先輩・・・?」

 

今回デュノアを引き抜いてくるに当たって、こちらの事情は一切説明していない。一夏にもだ。

だから初対面である俺の言葉に従ってここまで来るなんて、警戒心足らないんじゃないの?

 

(でもまぁ、仕方ないか)

 

困惑するデュノアをよそに俺は目の前のデュノアの両肩をガシッと掴んだ。

「ヒャッ」と女っぽい声をデュノアはあげたが、触れても落ち着いているところを見るに、俺はまだコイツを女として意識していないようだ。行けるぞこの調子なら。

 

「え、ええと・・・柊先輩?」

 

俺は一ヶ月前にセシリアにやったよう、そのまま平静を保ってデュノアの耳元に顔を寄せる。

人気がなくて良かったぜ。見られたら俺の悪名がさらに悪化してた。

 

俺の意外な行動にデュノアは顔を赤くして体を硬直させた。かすかにだが掴んだ肩も震えている。

そんなデュノアにたいして俺はこう呟いた。

 

「――――あんまり女子っぽい声出すなよ。バレるぜ」

「!?」

 

その瞬間デュノアは俺の両手からするりと逃れ、2ステップで俺との距離を空けた。

 

「・・・・なんだよ。折角忠告してやったのに。先輩からの言葉は素直に受け取っておくもんだぜ」

「・・・・一体いつから気付いていらしたのですか?」

 

デュノアの手がカギヅメのような形になる。

隙あらば消す。

そんな殺気がデュノアから飛んできた。

 

「別に。いつでもいいだろそんなことは。ヘタな変装をするそっちの落ち度だ」

 

俺がそこを言及するとデュノアは言葉に困ったのか下唇を噛み締める。

 

「・・・・それで本題だ。誘ったのは此方なんだが........何が目的で大人しく付いてきたんだ?」

 

問題はソコだ。変装してここに潜り込んでくるのはいい。企業の広告塔だとかただの目たちたがりやか、はたまた誰かに強制されたのか。幾らでも理由は思い付く。

だが、今日なぜ俺たちに大人しく着いてきたのかそこが分からない。

誘いを快諾してくれたときから裏があるとは思ってたが、いよいよ核に迫ってきたな。

デュノアは言い訳を巡らそうとして、考えるそぶりを見せたが俺が簡単には納得しそうにないと思ったのか、諦めたようだ。

仲良くなるため? 理由にしちゃあまりにもお粗末すぎるぜ。男装女子さんよ。

 

「それを言えばこの場は見逃して下さるのですか?」

「・・・・前にも性別を偽って入ってきたやつがいてな、ソイツは変装がバレてから数日間奴隷のように扱われたらしいぜ」

「・・・・すいません、話が見えないのですが・・・」

 

ああ、あの日々は本当にツラかったぜサラ・・・・・!

 

「要するにだな、黙っておいてやるからちょっと無理なお願いくらい聞いてくれってことだよ」

 

これが俺の考え付いた真っ当じゃない手段だ。

聞くところによると、デュノアの得意分野は銃撃を用いた近接戦に、防御を務める後衛(バックヤード)だ。

だが、それだけじゃない。

フォルテたち新聞部の情報網と調査能力をもってして暴いた更なるデュノアの特技。それはというと・・・。

 

「・・・・・デュノア、得意なんだってな。電子解析――――電子戦(・ ・ ・)

「!? ど、どこでそれを!?」

 

デュノアが取り乱す。よし、動揺を誘えればこっちが有利に話を進められる。

 

「それもこの際どうでもいい話だろ。動揺したところを見るに嘘じゃないみたいだな。どのくらい出来るんだ?」

「・・・・っ、ISのプロテクトを外す位です・・・・・。でもこんなこと一体・・」

 

・・・・おいおい。ISのプロテクトを外すって・・・。

それって操縦者の意向無しに無理やりエネルギーパスを開けるって事だぞ。

そんな技量をこんなことって・・・・各国の技術者が泣くぞ。

 

「合格だ。黙ってやるからちょっと手伝ってくれ」

「・・・・は?」

 

振りかえって歩き出した俺の背中に間の抜けた声が掛けられる。

 

「別になんでここにいるかなんて言わなくていいよ。代わりにちょっと突破してほしいシステムがあるんだ」

「ハッキング・・・・?」

 

いまだ呆然とするデュノアに懐から取り出したホログラフキーボードの投影気を投げ渡す。

 

「盗みの片棒を担げってことだ」

 

 

「・・・・・・流石はIS学園って所だね。暗号化の複雑さが半端じゃないよ」

 

件のラウラの自室前。

俺と鈴はデュノアの操る数字の奔流に目をくらくらさせていた。

なお、セシリアはその高精度なレーダーを部分展開させて、周囲の警戒に当たらせている。

いきなり本人(ラウラ)登場とか笑えんからな。

 

「・・・・ん、解析終了。開ける? クレハ?」

「あ? ああ。そうだな・・・。確認しとくか」

 

それと、なぜかデュノアが俺にたいして敬語を使わなくなった。

どうやらさっき脅迫まがいのことをしたせいで完全に敬う対象から外されたらしい。

 

デュノアが再度キーを叩くとそれぞれのカードキーに設定されているのであろう32ケタの数字が弾き出され部屋のロックが解除された。

 

「・・・・・・入るの?」

 

デュノアが聞いてくる。

 

「いや、今は入らん。ラウラが居ないと意味がない。デュノアは解析した暗証番号をメモっておいてくれ」

「了解したよ。・・・・・・そういえばなんでクレハってボーデヴィッヒさんのことラウラってファーストネームで呼んでるの? もしかして親しかったりするの?」

 

デュノアの問いかけに、後ろの女子二人がピクッと反応する。

 

「そういえばそうねぇ・・・・・。なんで気のおけない相手みたいな感じで喋ってるのかと思ってたけど、知り合いだったのか~。そっか~」

「うふっふ。クレハさん? ちょっと説明していただいても構いませんこと?」

「おい、ちょっと待て二人とも。こんなところで喧嘩してる場合じゃ・・・・・・」

 

「何をしているのですか、柊お兄ちゃん?」

 

ビックゥッ!!×4

 

お、恐れていたご本人の登場だ・・・・!

 

「よ、よおラウラ。偶然だな! 俺はちょっとたまたま通りかかっただけでけして怪しいことは何もブフッ!」

 

鈴に殴られ強制的に止められる。

 

「・・・・・貴様。私の上官に手をあげるとは・・・見逃すことは出来んぞ」

 

俺を殴った鈴をラウラが刃物のような目で睨む。

鈴は気圧されるように後ずさった。

 

老国(イギリス)と、蛙顔の国(フランス)・・・。ん? よく見れば中国人。貴様は柊お兄ちゃんと相部屋だったな。ちょうどいい。柊お兄ちゃんは今日から私と相部屋だ。話は後日教官にも通すが、まぁ構わんだろう。柊お兄ちゃんは荷物を纏めておいてください。私が運びますので」

「ちょちょちょちょ、ちょっと待ちなさいよ! 相部屋? 変更? 認めないわよ!」

 

数瞬遅れて事態を把握した鈴が咄嗟に流れを打ち切る。

しかしラウラは流れを切られたことに更に苛立ったらしく、靴先をぺしぺしならし始めた。

 

「別に貴様の意見は聞いてはいない。先程の柊お兄ちゃんに対する暴力行為だけで部屋割りを変更するには十分すぎる材料だろう。それとも何か? 貴様がここで柊お兄ちゃんの靴でも舐めて謝れば考えんでもないがな」

 

う、うわぁ・・・・・相当イラついてるぞラウラのやつ・・・・。

デュノアが「きっとさっきの一夏の態度がキテるんだね・・・・・」とか呟いてるけど、なに? 一夏がラウラをイラつかせたのか? 面倒な。

鈴はというと、さっきから俺を見たりラウラを見たり、現実から逃れるようにラウラのISを探そうとしている。

 

「だ、誰がこいつの靴なんか・・・・・! 靴なん・・・・か・・・ッ!」

 

・・・とか言いながら視線が足元に向いているのはなんでなんですかね鈴さん!?

悔しそうに目に涙を溜めて、俺にかしずくように膝をつく鈴。なんなんだよ、なんなんだよ一体!

悔しさに歪む鈴の顔はどこか切なく、どこか男の征服欲をそそる色香を漂わせる。

そんな鈴を面白そうに眺めていたラウラは、鈴が段々と従順になっていくにつれ焦ったような顔をし始める。

鈴が最後の確認をするように俺の顔を下から見上げてくる。

いつの間にか四つん這いになった鈴を上から眺めさせられるような形になっていた俺は――――。

 

「――――鈴、止めろ」

「!」

 

危うく正気を失いかけていた鈴の顎をとり、上にあげることで正気を取り戻させる。

視界の端には久しぶりに見た『Bシステム発動』の文字。

そしてデュノアにやったように耳元で小さく囁く。聞かれるのはまずい内容だからだ。

 

「鈴、お前の目的を良く思い出せ。今回の目的は俺じゃないだろ?」

「んなっ! だ、誰があんたなんかを!」

「そうだ、それでいい。目的は俺じゃなくてあくまでもラウラだ。鈴が負けない限り俺は鈴のパートナーであり続ける」

「・・・・・・!」

「目の前にあるのは双龍へと繋がる道を塞ぐ(ラウラ)だ。どんな形であれ乗り越えないと次へは行けないぞ鈴」

「そう・・・りゅう・・・・・」

 

そうだ、いいぞ鈴。段々と光が戻ってきた!

 

「戦って、勝って、手がかりを掴む! ボーデヴィッヒ! あたしと勝負よ!」

 

立ち上がった鈴はラウラに向かって堂々と宣言する。

 

「ほぉ・・・・数だけが取り柄の国がこの私に挑むか・・・。良いだろう。そこの二人はどうする?」

「いや、ボクは遠慮しておくよ。あんまり関係なさそうだしね」

 

と、デュノア。

 

「でしたら、わたくしは参戦させて頂きますわ。我が祖国英国をバカにした罪。その代償を支払っていただきませんと」

 

といって、鈴と並び立つセシリア。その顔はラウラに負けず劣らず怒っている。

 

「勝負の時間は明日のこの時間。第三アリーナで行う。そっちは二ヵ国同時に掛かってこい。強国(ドイツ)が相手をしてやる」

「言ってくれるじゃない・・・・。負けたときの言い訳にしても惨めなだけよ?」

「そっちこそ、たった一人に負けて生き恥を晒さないように気を付けろ」

 

三人の間にバチバチと火花が散る。

えーっと、つまりなんだ。

 

侵入して盗む作戦は失敗したっぽい。

 

 

 

 




ようやく話が進み始めた感じがあります。

来週は忙しくなりそうなので更新遅れるかもしれません。
予約投稿できるかどうか・・・。

感想評価、誤字脱字。よろしくお願いします。
気に入っていただけたならお気に入りの末席へ加えていただけると、栄養ドリンク買うお金が浮きます。※活力になります。の意

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