インフィニット・ストラトス~オーバーリミット~   作:龍竜甲

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前半と合わせてのプロローグです。
読みにくかったら教えていただけると、次回から書き方を変更します。


プロローグ後半

俺が生徒指導室から出ると、すぐにホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴った。

だから俺は、一限に間に合うように校内を歩いている。

一限目は一般教科だ。遅れるわけにはいかない。

すると、一年のフロアを横切ったとき、ある教室の前に女子がかなり集まっていることに気が付いた。

 

「やっぱり良いわよね~、年下!」

「あ、わかるわかる。なんだか、教えてあげたくなっちゃうよね」

「えー、私はどっちかって言うと、リードしてもらいたいタイプ」

「あれが、千冬様の遺伝子・・・・・・(じゅるっ)」

 

・・・・よく見れば二年や三年もいるぞ。

しかし近づくと、俺に気づいた二、三年の女子が、あからさまに嫌そうな顔をした。そこまで毛嫌いすることないじゃないですか・・・・・・。

 

「お? 珍しいな。雨がこんな人混みにいるなんて。どうしたんだ?」

「あ、クっちゃん。今来たの?」

 

人混みの中に雨を見つけたので、話しかけるついでに、自然に混ざる。

今来たの?じゃないだろ。一人でさっさと行きやがって・・・。

 

「ああ、さっきまで千冬さんの説教を受けてたんだよ。朝から二発だぜ?」

「それは災難だったね・・・・」

「それより、何なんだこの集団は。千冬さん?」

 

あの先生の人気は、目を見張るモノがある。

今年は学年主任も兼任するそうで、去年から女子たちが壇上に立つ千冬様を見る機会が増える!と騒いでいた。授業中の姿をどうやって見る気だよ。殴られるぞ。

そう予想したが、どうやら俺の予想は外れらしい。

 

「――の弟か」

「うん、正解。織斑一夏くんだって」

 

道理でいつもの騒ぎかたとは違うと思ったワケだ。

集まっている女子たちは、どこか牽制しあうような雰囲気を放っている。

俺も首を伸ばし、教室1ー1内を覗き見る。

・・・・・お、いたいた。

教室の最前列に、男子制服を着たヤツが一人座っている。

落ち着かないのか、暇潰しに教科書を読む動きは、どこかで忙しない。

というか、内容理解できてるのかな? 普通IS学園に入学するやつって、前々からISについての基礎知識を学び、学園でその知識の確認、及び実習を行うってのが一般的なんだが、あの織斑一夏は見たところ完全に素人だ。

入試の際に、偶然ISを起動させたらしいが、IS学園の入試からまだ一ヶ月とちょっとだ。

俺はたっぷり一年かけて理屈は頭にいれたが、一ヶ月やそこらで理解できるほどISは甘くない。

 

(俺の場合、実習がネックだったりするんだけどな・・・・)

 

「五月蝿いぞ小娘ども! 私の授業の邪魔をする気か? もうじき授業が始まる、さっさと教室に戻れ!」

 

遂に千冬さんが声をあげ、俺たちを追っ払う。

女子たちは、指導を受けたことに一礼し、素直にその場から立ち去る。

 

「・・・・俺たちも戻るか」

「そうだね・・・・」

 

これ以上騒がしくなることは無いだろうが、俺たちも、女子の波に紛れるように歩き始める。

ってか千冬さん、俺より後に指導室出たはずだよな? なんで普通にここにいるんだ・・・?

千冬先生のマジックに驚いていたら、クラスの女子が俺に気づき、話しかけてきた。

 

「およ? クレハ君じゃないッスか。どしたん? ホームルーム居なかったッスよね?」

 

彼女の名前はフォルテ・サファイア。

クラスメートで、俺の女装が発覚した後も、変わらず接してくれた数少ない人物の一人だ。

三年のダリル先輩とペアを組んでいて、その実力は折り紙付き。先輩と渡りを付けてくれたりと、俺がこの学園で過ごしやすいように苦心してくれた、なかなか優しい性格の持ち主である。

どこかの国の代表とか言う話は聞いたことないが、専用のISを持っていて、去年の専用機持ち限定タッグマッチ戦では、その実力を遺憾なく発揮させた。

 

専用機――。

この学園に通う者なら、一度は夢見るモノだ。

世界中のあらゆる国家、及びIS開発企業はそれぞれ、総数467機のISの内一定数のISを研究、開発と言う名目でIS委員会から受け取っている。

それらを量産型ではなく特別にチューンアップして、所属している人間にテスターとして貸し与え国の技術の向上を目指す。それが世界における専用機の仕組みだ。

ようするに、「もっともっと技術高めたいから、ちょっとこれ使ってIS学園で性能見てこい」ということだ。

もちろん、専用のISを持つにはそれ相応の実力が伴わなければならないが・・・。

因みに国家の代表と慣れるほどの実力者を、代表または代表候補生という。

 

「ちょっと遅れてな。生徒指導室にいってたんだよ」

「あー、何発?」

「二発」

 

そんな短い会話を終わらせると、フォルテがそう言えば、と話題を振ってきた。

 

「同じ立場の者として、彼には挨拶してきたッスか?」

「いや、してない。今日は止めとく。多分向こうは俺のこと知らないだろうし、急に出ていってもまた騒がしくするだけだろ」

「まぁ、そうッスよね~。女子はクレハくんの話したがらないッスから」

 

フォルテから、知りたくなかった女子の事情を聞かされ、ちょっと気分を落としていると、さっきから雨が会話に入って来ないことに気が付いた。

周りを見渡すと、雨は俺の後ろに豆みたいに小さくなって、フォルテを見ている。どうやら人見知りモード発動中らしい。

 

「篠乃歌さんもおはよッス」

「う、うん。オハヨ・・・・」

 

お、おお。雨が挨拶を返しただと・・・!?お兄ちゃん感動。

 

「さて、お二人さん、急ぐッスよ。もう授業まで三十秒も無いッス!」

 

そう言うと、フォルテは一人スタートダッシュをキメる。あっ、ズリィ!

俺たちも負けじと廊下を駆ける。間に合うか・・・・!?

 

「おい貴様ら! 廊下は走るな!!」

 

当然、怒られたのは言うまでもない。

 

 

その日の夕方、部屋に戻った俺は、鞄をベッドに放り投げ、自身も鞄の後を追うようにベッドに倒れこむ。

 

「あー、疲れだー」

 

喉から搾るように、ダミ声を室内に響かせる。

今日はIS実習があることをすっかり忘れていた。初日だからって油断したぜ。

だから、人体とISのリンクをサポートするためのスーツ、ISスーツを部屋に忘れていて、体育教官も勤める千冬さんに報告したところ、「下着でするか、女子になるか、好きな方を選べ」と言われた。

混乱して下着で実習を受けるところだったぞ。女子用スーツって、セパレートタイプがあるんだ・・・。

それだけでも疲れるには十分なのに、更に追い討ちをかけるように適合率が伸びない伸びない。

五パーを下回ったときは、ブレードでハラキリしようかと思ったぐらいだ。女子の嘲笑が痛かった。

 

(くそっ、どれもこれもみんなこれのせいだ)

 

制服の上から自身の左胸に手を当てる。

こいつのお陰でISが動かせるようになったが、同時にこいつのせいで他のISを動かせなくなった。

俺がISを動かせるようになったのは二年前、中学三年生のときだ。

胸に埋め込まれたこいつのせいで、俺は今ここにいる。

 

そのとき、特徴的な着信音が俺の端末から鳴った。

 

「・・・・・・・おいおい、マジかよ」

 

この音が鳴るのは、大抵面倒ごとが起きるときで、去年一年、俺も結構ひどい目を見てきた。

しかし、出ないわけにも行かない。

表示をみると、「轡木用務員」とある。

 

「・・・・・もしもし」

『二年一組、柊 暮刃君ですね。至急用務員詰め所に来てください』

 

それだけを言うと、通信は一方的に切られる。

轡木 十蔵。ここ、IS学園で働いている、唯一の男性職員だ。

普段は、柔和な人柄と親しみやすい性格から「学園の良心」とアダ名されているが、その実態は違う。

現IS学園理事長の夫にして、多忙な日々を送っている妻の代わりに、学園の実務を殆どこなしている、まさに裏理事長とでも呼ぶべき人物だ。

俺は学園に、去年一年で作った多大な借りがあるため、それを返すために、時たまこういう風に呼び出しを受けるのだ。

さて、行きましょうかね。

俺は再び制服を手に取ると、それに袖を通した。

 

 

「柊 暮刃くん、キミに任務を言い渡します」

 

そら、来たぞ。

用務員室に入ったとたんに言い渡された呼び出しの理由。

予想は着いていたが、俺が任される仕事なのであまり重要なものは無い、というのが今までの任務だった。

例えば、IS学園のイメージアップを図るためにISをキャラクター化した着ぐるみで都内を歩かされたり、訓練用のISの整備、格納。その他、細々した雑用が主だ。

だからなんでこんな重大任務のようにイチイチ呼び出すのか分からない。片付けくらいなら普通に頼めよ。

しかし、今回の仕事はそんな簡単なモノでは無いようで、轡木用務員は他言無用を指示してきた。

素直に頷くと、用務員は任務内容を話し始める。

 

「内容は、教師部隊と共にIS学園周辺都市の警護、及び敵勢力の撃退です。予定期間はおそよ一週間。早速今晩からはじめてもらいます。何か質問は?」

 

・・・・・・この有無を言わせない饒舌なしゃべり方、正しく裏に相応しい人物だな・・・。

俺は轡木用務員と真正面で向き合い答える。

 

「ではひとつ。警戒対象は恐らく最近活発化している犯罪シンジケートの攻撃ですね? ならば内容にある通り戦闘になるかもしれません。なぜISをマトモに扱えない俺をこの任務に組み込んだんですか?」

 

今までの任務と、今回の任務の違いすぎる。

しかも、俺はISの起動展開は出来るが、操縦が効かない。

もし本当に戦闘が起こったのなら、ただの足手まといになるだけだ。連れていくメリットがない。

轡木用務員は少し考える素振りをみせ、ニパッと笑って答えた。

 

「今回の任務に君の存在は都合がいい、では理由に足りませんか?」

「納得するわけが無いですよ。俺がこの任務に都合のいい存在なら他にも優秀なのが大勢います。何処かの代表候補生にでも正式に任務を発行し、募集した方がいいんじゃないんですか?」

「そう、ソコですよ」

 

轡木用務員は、俺をビシと指差した。

 

「本来、この任務に生徒を駆り出す予定はありませんでしたが、教師側だけでは人員の確保が難しく、どうしても一枠足りない状況だったのですよ。そこで君のいった通り候補生を採用しようと思いましたが、ある理由により、却下せざるを得ませんでした」

「ある理由・・・・?」

「他国の候補生を、日本の治安維持に駆り出して、問題がないと思いますか?」

 

そう言うことか。

本来、ISの規定範囲外での展開は、アラスカ条約に違反する行為になる場合がある。

いくら、犯罪への対処でも自国の候補生、ISが条約違反を起こしたとなったら国も黙ってはいないだろう。

だから、俺を使う。

俺は世間どころか、未だに校内でも知らないやつが居るような男性操縦者だ。

知っているのは学園の関係者と、中国、イギリスのほんの一部のIS関係者。そして、数名のIS委員メンバーだけだ。

もし違反をしてしまったとしても、学園は幾らかは言い逃れができるし、所属する国がないので、何処にも迷惑が掛からない。

 

「・・・・・つまり俺はすて駒扱い、ということですか」

「気を悪くしないでください。これでも我々は君の能力を高く買っています。調子に並みは有りますが、適合率の低い機体でよく今まで此処で学んで来られたものです。それ相応の報酬は出せると思いますし、今回はバックヤードでも構いません。受けてくれますよね?」

 

そこまで言われたからには断れるはずもなく、俺は頷くしかない。

 

「よかったです。最悪、縄かけてでも行かせるつもりでしたから」

「おい。・・・・いや、なんでもないです。」

 

初めから断らせるって言う選択肢は無かったのか。

 

「それでは以上で話は終了です。すぐに千冬先生号令のもと、任務が始まります。正門に向かってください」

 

俺は一礼して、彼に背を向け出口に向かって歩き出す。

 

「そうそう。噂なのですが、敵は龍を狙っている。という話があります。何か心当たりは?」

「・・・・・・・いえ、特には」

「・・・・・・そうですか。立ち止まらせてしまってすいません」

 

謝る轡木の声をききながら、俺は不安な気持ちで扉を閉めた。

 

 

春の夜は未だ寒く、結構堪える。

 

「すいません、柊 暮刃。 たった今到着しました」

「柊くん! 遅刻は厳禁ですよぉ~!」

 

そう言って怒るのは、既にIS「ラファール・リヴァイヴ」を展開している1ー1副担任の山田真耶先生だ。

初日から、締まらないことでもやらかしたのか、普段以上に先生モードだ。

 

「やっときたか柊。お前も学習しろ」

「すいません千冬さん。轡木用務員との話が長引いてしまいました」

「ふん、ならいい。ほら、これがお前のぶんだ」

 

千冬さんから渡されたのは、緑色に輝くペンダントだった。

隣で山田先生が「織斑先生が名前を呼ばれても怒ってない・・・!?」と驚愕している。いや、ちゃんと怒られますよ。

渡されたペンダントはIS「ラファール・リヴァイヴ」の待機形態で、スペックを確認するとちゃんと訓練用ではなく、実戦用になっていた。

 

「ちゃんとお前の癖にあわせて、格闘戦装備だ。幾らか拡張領域が余っていたので銃器の類いもあるが、まぁ好きなように使え」

「はい、分かりました」

 

千冬先生は、俺がバックで監視を行うことを知っているようで、俺だけ、他の先生とペアで動くよう指示された。

 

「ヨロシクねー。柊くん」

 

此方に向かって手をふっているのが、ペアで行動する先生、大倭先生だ。

かなり若い先生で、ノリが完全に女子高生のそれと同じであることで有名な先生だ。因みに今年の担任がこの先生である。

 

俺はラファールに起動の指示を与える。

一瞬で粒子が身体を包み込み、その粒子が俺にあわせて装甲を形成する。

・・・・・・ふぅ。各部異常ナシ。適合率、12%うわ。

 

「初めて見たけど、本当に操縦できる男子って居るんだねぇ」

「まぁ、満足に動かせたことは無いんですけどね」

 

大倭先生が目を丸くするので、ちょっとハードルを落としておく。期待されたらたまらん。

 

「よし、全員準備が整ったな。それではこれより、特殊任務『ネズミ取り(ロール・キャッツ)』を開始する!総員浮上!」

 

千冬さんの掛け声で、俺を含めた全ての教師たちがPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)をオンにし、フワリと宙に浮く。

 

『それでは各ユニット、指定の配置につき警護を開始。次の連絡は一時間後だ』

 

先生たちはそれを聞くと、それぞれ割り振られた持ち場につく。俺と大倭先生の持ち場は港区にある工業地帯だ。

 

まず先生が先頭を飛び、俺が後から追従する形で空から様子を見る。

先生、ISで飛ぶとき、足閉めて飛んでくれませんかね?

いい感じの肉付きの太ももがチラチラと・・・・・。

俺は先生より少し上の高度を保ち、ハイパーセンサーの感度を引き上げる。

下には大量のコンテナが積み上げられており、工業地帯というかただのコンテナ集積場所、といった感じだ。

どれもこれも、結構古いのが置いてある。

しかし、俺は少し気がついたことがあったので、プライベートチャンネルで大倭先生に通信を入れる。

 

「偶然じゃない。私も連絡しようと思ってたところよ」

「そうですか。だったら話は早い。見たところおかしなコンテナが四基ほど置いてありますね」

「やっぱりそう思う? 巧妙に隠してるつもりでしょうけど、全然だめね。コンテナを引き摺った痕がまだ新しいわ」

 

俺はコンテナが妙に新しいことに違和感を持ったのだが、先生はその裏付けまで取っていたらしい。凄いな。

 

「調べますか?」

 

減速して、空中で停止しながら提案する。

 

「そうね、だけど一応織斑先生に連絡を入れておいて。私が降下し、調査します」

 

先生は音もなく降下を開始し、緩やかに着地した。

対IS用アサルトライフルを構え、慎重にコンテナとの距離をつめる。

俺はその間に、千冬さんにコンテナを調査する旨の連絡を入れ、再びハイパースコープの感度を上げる。

熱、動体、赤外線、未だにどのセンサーにも反応がない。

と思っていたら、

 

「避けて! 柊くん!」

 

―――警告!―――

未確認ISの起動を確認! 射撃体勢への移行を確認! ロックされています!

 

大倭先生の叫びと、ISの警告が、同時に俺に届いた瞬間・・・・俺は光の中にいた。

コンテナから出たのは大出力の荷電粒子砲で、俺はその砲撃をもろに食らった。

常時展開しているシールドバリアーは、適合率が低いせいか脆弱で、シールドとしての役割を果たさずに割れた。

ISが操縦者を守るために絶対防御を発動させる。

そのせいで、リヴァイヴのシールドエネルギーはどんどん削れていく。

急激な減少を知らせる警告音が鳴り響く。

 

「つァッ!!」

 

俺は二刀の近接格闘ブレードを召喚し、それで全面にシールドバリアーを展開。ビーム攻撃を受け流す。

ハイパーセンサーが敵ISのすがたをとらえ、表示される。

(なんだ・・・・あのIS!?)

何とかビームの照射から抜け出し、確認すると、異様としか言えないISがコンテナから出てきた。

真っ黒な装甲に、両腕には大型荷電粒子砲をそれぞれ一門ずつ備えた巨大なマニピュレーター。

おまけにごく初期型のISに見られる全身装甲タイプだった。

見た目は初期の第一世代型ISや、第二世代型ISに見えるが、攻撃力はかなりある。さっきの攻撃で既にシールドエネルギーを六割ほど削られた。

 

「はァああああッ!!」

 

大倭先生が敵に斬りかかる。

しかし敵もやり手のようで、重そうな見た目とは裏腹に、先生の剣撃を次々とかわしていく。

俺も先生と敵の距離が開いた瞬間を見計らって、銃による支援射撃を行うが、装甲が硬いらしくただの銃弾では体勢をくずすこともできなかった。

 

「柊くん!撤退して! 私が時間を稼ぐ!」

 

先生が降り下ろされたマニピュレーターを受け止めつつ、逃げるように指示する。

敵のISのせいだろうか、さっきから救援信号を出しているのに、ジャミングにかかったかのように返答がない。

ここはどちらかが離脱し、直接救援を呼んだ方がいい。

俺は反転し、IS学園に向かって飛行する。

だが、敵のISはそれを許す気がないようで、大倭先生を隙をついてもう一方のマニピュレーターで弾き飛ばすと、右腕の粒子砲を断続的に発射し、俺の行動を制限する。

 

(まずい、今ので先生は完全に沈黙した。逃げることも難しいぞ・・・・!!)

 

俺は一心不乱に、飛んでくる砲撃を避け続ける。

暫くすると、敵のISが砲撃をやめ、背中のブースターから燃費の悪そうな黒い煙をあげながらこちらに向かって飛び上がってきた。接近してくるつもりだ!

突き出された右手のマニピュレーターを俺から見て左に払うと、次は上段から左のマニピュレーターを頭めがけて降り下ろしてきた。

俺はとっさにその場で下降し、攻撃をかわす。

再び、追撃で拳が迫ってくるが、それもギリギリかわす。

 

(クソ・・っ。やっぱり反応が・・・・!)

 

ISと人体のリンクをサポートするISスーツを着ているにも関わらず、体感的にリヴァイヴの反応が遅い。原因は明らかに適合率の低さだろう。

始めこそ、敵の猛攻をなんとかかわしていたが、だんだん敵も慣れてきたのか、こちらの動きに合わせ正確に拳を振るい、砲撃を放つようになってきた。

そして俺が攻撃をギリギリでかわすため、そのたびにISが絶対防御を発動しエネルギーが削られていた。

一際大きい衝撃が全身を襲い、地面に接触するまで自分が殴られたことに気がつけなかった。

 

(今のでもう限界だ・・・・・・!)

 

致命的な角度で攻撃を受けたのか、絶対防御が発動したせいで俺のシールドエネルギーの残りの殆どが消え去った。

こちらに向かって、ISが粒子砲を向けている。

今食らえば、絶対防御はおろか、通常装甲すら消え去り、赤い光の奔流が俺の体を焼くだろう。

最後に通信回線を開いてみたが、結果は変わらない。ジャミングが効いているようで、誰とも連絡が取れない。

俺はコンテナにもたれ掛かり、死を覚悟した。

その時。

 

「ひっさしぶりに日本に戻ってきてみれば、いきなり市街地戦? けっこうハードなことするようになったのね日本って!」

 

そんな声が聞こえると同時に、敵ISが被弾し吹っ飛ぶ。

 

(い、今のは・・・まさか『龍咆』・・!?)

 

声は、若い。どこか幼さを感じる女性の、女子の声だ。

しかも、俺はこの声を知っている。

 

「ちょっと、そこの操縦者。あんたもう少し模擬戦の相手くらい選んだらどうなの? 見てらんなかったわよ」

 

その少し上から目線で発せられる口ぶりも、その肩に部分展開したISも、その小柄な体躯も。

つい二年前だと言うのに、すでに懐かしさを感じるほどに、思い出の中にいた少女。

いや、もしかしたら思い出にしたかったのかもしれない。

 

「・・・・・・ねぇ? 大丈夫? さっきから反応が無いけど」

 

気が付けば俺は、その助けてくれた少女に、不思議そうに覗き込まれていた。

どうやら彼女はISで浮上しているらしく、ハイパーセンサーを使ってこちらの様子を窺っているようだった。

 

「あ、ああ。大丈夫だ」

 

俺はマニピュレーターをふり、意識があることをアピールしたが、はたと気付く。

・・・・・・さっき俺は彼女に顔を見られていたはずだ。

事実、俺はさっき確認し、あれが彼女であると納得したからだ。

だったら、なぜ彼女は俺を前に平然としていられる・・・?

 

そんな俺の疑問を余所に、彼女は自身のISを、部分展開ではなく、完全に展開した。

ああ、わかる。

分かってしまう。

あの機体がどのようなものか。

明るい紫が基調となったカラーリングで、特徴的な武装はやはりあの両肩の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)だろう。勾玉のように外側に突きだしたデザインが攻撃的な印象を受ける。

そして、俺の偽物の心臓が、異常な速度で血液を全身に送り始める。

身体が熱い。まるで何かに歓喜しているようだ。

 

「それで、アレ。倒しちゃっていいの?」

「え? あ? そうだな・・・。問題ないと思う・・・・」

 

その熱のせいで、彼女の問いにもしどろもどろに答えることしか出来なかった。

俺が問題ないと言うと、彼女はその勝ち気な瞳に眩いほどの光をともらせ、臨戦態勢に入った。

 

「そう、じゃあアイツは私が片付けてあげるから、ちょっとあんた。あたしをIS学園まで案内してくれない? 見たところ教員部隊の一人でしょ?」

 

彼女は盛大な勘違いをしたまま(まず、俺を男だと認知していない)再起動を果たした敵と向き合った。

日本人と似たアジア系の、鋭い顔を自信満々に敵に向け、チャームポイントのツインテールを潮風に靡かせながら、その中国人女子は名乗りをあげたのだった。

 

 

「私の名は凰 鈴音(ファン リンイン)! そして専用IS『甲龍』!私たちを舐めると、痛い目見るわよ!!」

 

 

そう高らかに宣言する彼女の姿は、俺には二年前の冬の彼女に重なって見えた―――ー。




ありがとうございました!
ヒロインは酢豚(鈴)です!

訂正しました。ダンテ→ダリル

ダンテって・・・・誰だっけ?

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