ラウラのしゃべり方を観察する必要がありますね・・・・。うへへ。
女子の会話を盗み聞きすると、転校生は二人でやはり女子の方の名はラウラ・ボーデヴィッヒというようだった。
一年の教室から帰ってくる女子たちは口々にもう一人のシャルル・デュノアという男子生徒のことを語った。
曰く、
「王子さまみたーい」
「金髪サイコー」
「年下なのがまたいい」
「きっとロールキャベツ男子」
・・・・だそうだ。
なるほど。そのデュノアとやらは金髪の優男ってことか。
・・・・・どうでもいいな。
「あれ? クレハくん? 机に突っ伏して何してるっすか?」
うわ、五月蝿いのが来た。
「見りゃ分かるだろ。気分最悪なんだよ・・・」
俺は昼休みにも関わらず、一人でため息をついていた。
雨は茶道部の人たちと弁当食いにいったし、たまに校内でばったり会うサラは行方不明だし、ぶっちゃけイベントの一つも起こらない。
いや、サラは帰ってきてほしくないけど。
「あー、あれっすねぇ~。男子が増えたことで注目度が下がっちゃう~的な?」
「ばか、違う。もう一人の方だよ。ラウラ・ボーデヴィッヒ。新聞部から調査指令とか出てるんだろ」
「もちろんっすよ。ドイツはIS技術に関してわりと閉鎖的っすからね。転校生なんて珍しいっすからみんな躍起になってかぎまわってるっすよ? ・・・・もしかして、なんか知ってるっすか?」
一瞬でメモ帳とペンを構えるフォルテ。流石は黛に並ぶジャーナリスト魂の持ち主。欠点は興味のないものはとことんどうでもいいところか。
「知らん知らん。なーんも知らん。そういうわけであっち行け」
そういったところで俺は自分の失態に気づいた。
なんで俺はフォルテを煽るような言い方をしてしまったんだ・・・!
「・・・ふーん。その顔はなんか訳ありっすねぇ・・・。クレハくんのファンに売れそうな情報っすか?」
「売れるか。てかファンってなんだよ。どこに出来たんだそんなもん」
その時、教室の隅でひそひそ話をしていた女子たちがフォルテを呼び、なにやら相談事を始めた。
・・・チラチラとこっち見てるな・・・って、手にもってんの長めのウィッグじゃねぇか。
そしてフォルテは女子の集団から離れ、ウィッグ片手にこちらに戻ってきた。
・・・・そう、ウィッグ片手に、だ。
(あ、嫌な予感してきた)
迫る予感から逃げようと席を立つも、教室の入り口には女子がたむろしていて出るに出られない。なんだこの統率の取れた包囲網は・・・!?
「お、おい。なんだよお前ら・・・って、いつのまにそんな化粧品準備してやがった!? まて、カツラは止めろ! 最近寝不足で肌が荒れてんだよ!」
まずい、混乱で心配すべき所がずれている。
俺を追い込んだ女子たちは、フォルテを筆頭に俺にプレッシャーを掛けてきた。
そして・・。
「クレハくん、ちょっとゲームしてみないっすか?」
俺の頭にカツラが被せられた。
@
女子たちが提案したゲームは題して「勝てば天国、負ければ地獄。ドキドキ女装を隠せ!デュノアくんに大接近ゲーム」というらしかった。四半世紀は前のセンスだな。
ルール説明によれば、ゲームの開始は今日の放課後。俺は放課後になると女子たちが全力を尽くして施したメイクを武器に、転校生のシャルル・デュノアに接近し、女装だと悟られずに食堂でお茶をしなければならないようだ。
隠し通すことができれば俺は一週間女装で過ごしても良い権利を得て、負ければ転校生の男子に酷い先入観を持たせることが出来る権利を得る、というのが女子の提案した罰ゲームだった。
「・・・・って、どっちも俺得しないんだけど!?」
「だーまらっしゃいっすよ、クレハくん。既に状況は動き始めてるっす。放課後になって今さらなに言ってるっすか」
「くっ・・・・!」
俺は校舎の角に隠れて、窓で自分の容姿を見る。
・・・・完璧だ。悲しいくらい完璧だ。
なんだよこのつけまつげ。凄い長いのに全く違和感がない。肌も白いし鼻筋もピンと通ってる。文句ない美少女だった。
・・・・いや文句はたんまりとあるが。
「ほらほら。最後に練習っすよ。・・・って、一年ほどを女装で過ごしたクレハくんには今さらっすよね・・・」
「おい、軽く引いてんじゃねぇよフォルテ。お前らがしたんだろうがこの顔に」
「いやいや、ぶっちゃけますけど、なんでそんな可愛く仕上がったのか私たちにもわからないんですよ」
「んな無責任な・・・・。なぁ、この胸、もうちょっと小さく出来ないか?」
俺は下を見下ろすが、自分の偽乳に遮られて足元を見ることが出来ない状態だ。なんでこんなでっかくしたんだよ・・・。
試しに触ってみる・・・うわ、やわらけぇ。なにこれ。パッド?
むにゅむにゅむにゅむにゅむにゅむにゅ
「・・・・・・・・・・・あの、クレハくん?」
「・・・・・・・はっ、別に気持ち良いとか思ってないぞ!?」
「いや、思ってたら友達の縁を切ってたっす・・・・」
その時だ。
耳につけたインカムに女子から通信が入った。
「二人とも、用意は良いわね? もうすぐターゲットがそこを通過するわ。柊くんは待機。フォルテは背後から監視に入って。柊くん、折角なんだから楽しませてよね~。くしし」
うわ、コイツらすげぇ面白がってやがる。
ていうか女子的には良いのか? 数少ない男子に言い寄る女がいても。
試しに聞いてみると・・・。
「は? 柊くん男子じゃない」
だ、そうだ。遊びって割りきってるらしい。本物の恋はマジで戦争ですから、ともいった。
「接敵まで五秒前。・・・三、二、一・・・・行って!」
くそっ!
俺は夕焼けに染まる教室前に飛び出していく。あたかも曲がり角で偶然ぶつかった風を装うように。
フォルテは後に、その背中は勇ましい様に思えたが、よく考えるとこの上なくマヌケだった、と語ったらしい。
@
五分後。
「へぇ~。偶然ISを? ボクのクラスにもそういう経緯でここに来たって言う人が居たよ」
「そうなんですか? ちょっと安心しましたっ♪(女声)」
「それで、キミのクラスは?」
「・・・・・・・」
俺たちは食堂のテラスで紅茶を飲み交わしていた。
話をしてみるとデュノアはとても良い人柄をしていることが分かった。
それよりも今は周りのいぶかしむような、気味悪がるような視線が気になる。
多分いまこっちを見てるのは二、三年の連中だな。
あいつらは去年クレハ(女ver)を見てるから直ぐに気がついたのだろう。
一人の上級生が端末を手に取り、どこかに連絡を入れるしぐさをするが、クラスの工作班が事情を説明し、俺が女装して男子とお茶をエンジョイしているという書き込みを未然に防いだ。
水際だった素晴らしい対策だ。
お前ら実習ももうちょっと本気で臨めよ・・・。
「えーっと、お悩みは以上で終わりかな?」
デュノアが悪意のひと欠片もない笑顔を向けてくる。
うう、心が痛むぜ。インカム越しにもうう、と胸を詰まらせる声が聞こえた。
俺は話を切り上げるべく、以上ですとだけいった。
しかし・・・。
「そう、じゃあもう暗くなってきたし、部屋まで送ろう。たしかここの寮って全学年同じ建物なんだよね」
はい、わたり通路で簡単に行き来できます。
って、待て。待て、待て!
「それじゃあ行こうか。タイの色からキミは僕と同じ一年生だよね。だったら大丈夫だよ」
一体何が大丈夫なのか。
デュノア、お前は男子なんだぞ!? その男子が女子を部屋まで送ると言うことの重大性をもうちょっと自覚しろ!
ほら、インカムから悲鳴の声が聞こえた!
しかしいまの俺はか弱い女子(という設定)。
無邪気なあのスマイルの前ではなすすべもなく従わせられる。
・・・・確かにあの顔は王子さま的な女子の夢を擽るワケだ。
一つ一つの所作が全く違和感ないし、鼻にも掛かってない。
本当に、普通にでる当たり前の反応なんだ・・。
食堂を出た俺たちは寮の通路を歩く。
まずい。部屋の場所を聞かれたらどう答えようか・・・・・。
そんなことに頭を捻らせてた時だ。
「・・・ッ!?」
突然階段の前でデュノアが俺の腕を引き、物陰に俺を押し込むようにしてくる。
これは・・・いわゆる壁ドンってやつだな。俺の方がでかいからちょっとおかしいが。
「静かに。尾行者が何人か居るね。どうにもキミを監視してるみたいだけど、どうする? キミが望むならボクは全力で彼らを追い払うよ」
あ、
・・・・しかし、なんだろうなこの違和感・・・・。
俺の足は今デュノアの脚の間に挟まれてるんだが、なんだか腿に当たる感触が乏しいのだ。
「や、止めて下さい・・・。乱暴は苦手で・・・・」
しかし、俺がやんわりと逃げる方向へ話を進めようとしたときだ。
「うおおおっ!? シャルルあぶねぇッ!」
「え・・? ぎゅむっ!」
上から大量の段ボール箱と共に大柄な男子、一夏が降ってきて、目の前のデュノアを押し潰したのだ。
いきなりの出来事に目をパチクリさせる俺。
取り敢えずピクリともしない二人を見てみると、見事に二人ともデカイたんこぶをこしらえてやがる。当分目はさまさないだろう。
・・・・あれ、これって逃げるチャンスか?
俺を監視する女子はデュノアの機転により完全に撒いたみたいだし、目の前の二人はこうだ。
完全に逃げろという神様の思し召し。感謝するぜ神様!
俺は逃亡を図る前に場の片付けはしておくことにした。
ばら蒔かれた書類は元の箱に戻し、ちゃんと箱も重ねておく。
気絶してる二人に関しては、なんかムカつくからこの学園にも数割の割合で存在している腐ってる連中の餌になってもらうため、階段脇の暗がりに重ねておいておこう。
そう思って、一夏を運んだあと、デュノアの胴体を掴んだときだ。
むにゅ
・・・・・ん?
なんだよ今の効果音。いや擬音。
明らかに
不思議な音のなる胸ですね。と数回手を動かしてみる。
「・・・・・・ぁ・・・はぅ・・・」
「!?」
ズザザっと飛び退く。
デュノアが明らかに普通じゃない息を漏らしたところで全てを察した。
あの腿にあたる感触に感じた違和感の正体にも!
コイツ、シャルル・デュノアは・・・・・・・・女だ。
そう悟った瞬間、床に寝そべるデュノアの赤らんだ顔がとてつもなく色っぽく感じられてきて、さっきの桃色の吐息と相まって、俺の鼓動は急速に激しさを増していく。
ヤバい、ヤバい、ヤバい! 女と意識した瞬間からこれかよ!
段々と視野が狭まってきて、胸が痛いほどに脈打つ。
これは・・・あれだ。
Bシステムが恐らくデュノアの持つISコアに反応してトリガーに登録しようとしてるんだ・・・・!
うずくまり懸命に落ち着こうとするが、必死になって落ち着くなんてできるはずもなく、Bシステムが発ど――――。
「・・・・・そこにいるのは『お兄ちゃん』ではありませんか?」
「!?」
突如俺を『兄』と呼ぶ存在が現れたことで俺の心臓は文字通り凍りついた。
ギギギとはだしのゲンのような効果音を上げて俺の首が回る。
「そのお顔・・・・やはりもう一人の男子とは『お兄ちゃん』のことだったのですかっ」
・・・・俺の女装したときの顔を見分けられる人種は二つある。
一つはこの学園の生徒、及び教員。
そしてもう一つは・・・・。
「お久しぶりです柊『お兄ちゃん』。ラウラ・ボーデヴィッヒ、今日付けでIS学園に転入となりました。つきましては、現在柊『お兄ちゃん』は軍を退役した身でありますので、『お兄ちゃん』などという無礼な敬称でお呼びすることを、お許しください」
ビシィっと直立不動の敬礼を決める銀髪の欧州美少女、特にドイツ軍なんかに籍を置いてる奴なんかは結構見分けるかもな・・・・。
一夏とデュノアを階段の脇に放り込んだあと、ラウラと改めて向き合った。
「・・・・・久しぶりだな。ラウラ少佐・・・・。いや、今はラウラ隊長と呼んだ方が良いか?」
ついに見つかったか・・・・。
俺は心の中で頭を抱えた。
「いえ、先ほど教官に「ここは学校だ」とご指導を賜ったので、柊『お兄ちゃん』は私のことを呼び捨てでお願いします」
おう、そうか。
俺が二人めの転校生と聞いて異様に落ち込んだ理由。
それは・・・・・。
「これでまた二人で行動できます、柊『お兄ちゃん』」
こいつ・・・ラウラは口調こそ軍人のそれだが、俺にだけちょっとおかしな敬礼をつける変なヤツだから、だ。
・・・・・・因みに、俺には妹なんて居ないんで、ちょっとそういうのは困ります。
読んでいただき、ありがとうございました!
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