日曜の夜。
あれから俺たちはゲームで遊び倒し、夜の時間を迎えていた。
時刻は6時。休日の夕食にはちょうどいい時間帯だろう。
「・・・・鈴、そろそろ飯に行こうぜ?」
「嫌よ。絶対今日中にテンペスタを撃ち落としてやるんだから」
けれども俺が部屋にとどまっている理由は一つ。
・・・鈴がドハマリしたのだ。ゲームに。
どうやら、俺のリヴァイヴを打ち落としているうちにゲームで勝つということに病み付きになったらしく、現在対テンペスタ戦を52回繰り返している。
鈴も鈴だが、ゲームもゲームだ。
50回挑戦しても勝てないようなプログラム組むんじゃねぇよ。
「あーもういいから行くぞっ。休日は食堂が閉まるのが早いんだから!」
「ちょっ、返しなさいよコントローラー! ご飯ならアタシが作って上げるわよ!」
「少し興味はあるが、残念ながら食材がない。それとも鈴、夜中に空腹で喘いでも知らねぇぞ?」
夜中に苦しむ自分を想像したのか、押し黙る鈴。
・・・・今の会話で思い出したが、酢豚食ってないな。作ってくれるんじゃ無かったのか。
鈴は渋々ゲームを片付け(電源は点けたまま)薄着のブラトップの上からタンクトップを重ね着した。
・・・・いや、あんまり変わってないからそれ。
廊下にでるとちょうど混む時間帯なので、食堂に足を運ぶ生徒が大勢いた。
俺と鈴はその流れに紛れるように歩き出す。
「・・・・ねね。あれ見てよ」
「あれって・・・変態柊?」
「と、中国の代表候補生じゃない。同じ部屋なの?」
「どうにもそうっぽいわね。結構仲良さげな雰囲気だし」
「そう言えば、先月のあの事件。アリーナから出てきたのあの二人が最後だったらしいよ」
「うそぉ~。ナニしてたのよ~?」
そんな会話が聞こえたが、極めて平静を保つ。変に動揺したら医務室でのことがフラッシュバックしかねん。
足早に歩みを進めて食堂に入り、手早く注文を済ます。
二人とも食べるものが決まってるからスムーズに進める。
「クレハ、あんたまた狐うどん? よく毎晩毎晩食べてて飽きないわね」
「今日一日三食豚骨ラーメンだったお前に言われたくない」
朝の日清麺職人に、昼の生麺タイプ。そして夜の食堂だ。
この間心配になって「おいリンリン。ラーメンばっか食ってないで笹食え笹」って言ったら五分間ボコられたし。そのあと一夏がやって来て説教してくるし、なんなの? 心遣いの表し方を間違えたっぽいな。
二人して席につくと入り口から見慣れた顔が姿を表した。
「―――あんまりくっつかないでくれよのほほんさん・・・・。かなりん探してるんだろ?」
「んふふ~。あとでこの感触をみんなに教えてあげるんだよ~」
うお、なんだアイツ。パジャマなのか・・・?
一夏と添うように入ってきた生徒は、ダボダボなパジャマ(?)を着て、ずり落ちるナイトキャップを、手先が隠れるほど長い袖でうっとおしげに直している。
全身装甲ならぬ、全身寝装って感じだな。
「感触なんか教えてどうするつもりなんだよ・・・。うおっ、なんか視線の圧力を感じる!」
一夏がそう言うと、のほほんさんと呼ばれた少女はカウンターに座る女子のもとへと逃げるようにすっ飛んでいった。
その際、複数の女子がそののほほんさんに殺人的な視線を向けた。・・・ような気がした。
「・・・あの噂、本当なんでしょうね?」
「うん、間違いないみたい。さっき一組の子が噂してるの聞いたもん」
「戦って」
「勝って」
「優勝して」
「株あげて・・・!」
「「「「キャーーーーーーーッ!」」」」
・・・・なんだあの一団。
「・・・なぁリンr・・鈴。一夏がまたなんかやらかしたのか?」
「さもアイツを問題児みたいに扱ったわね・・・。べつに、聞いてないわよ何も」
鈴はずるずると麺を啜りながら言う。
本当に知らないみたいなんだが・・・・。
「「「戦って勝って優勝してキャーーッ! 戦って勝って優勝してキャーッ!」」」
あの盛り上がりようを見て、何も知らないって言い張るのは、ちと無理があるんじゃないだろうか。
「本当に知らないわよ。アイツ鈍いから多分自分でも把握してないことが多いんじゃない? ほんと、なんであんなのがモテるんだか・・・・」
「おいおい、お前一夏の幼なじみだろ。あんなのって酷くないか?」
二人の関係を心配して俺が言うと、鈴は箸が変形するほどの力で拳を握りこんだ。
おい、バキッなら分かるが、グニャッてなんだよ? なんでキレイなU字を描いて割り箸が曲がってるんだよ?
「知らないわよあんなやつ! 昔ッから鈍くて鈍くて、酢豚の下りなんかもう笑えたわよ! 嘘! 笑えない! 殴りたい!」
な、なんか知らんが勝手にヒートアップし始めたぞ鈴が!
「なんで伝わらなかったのかなぁこの感情! イライラしてモヤモヤして、ギスギスしてたあの頃がバカみたいよ! おー、もう抑えられない。ちょっと殴ってくる!」
鈴は完全にキメた顔でそう言うと、席を立った。
周りでは女子たちが一夏に分からないように騒いで、背後では俺の名を呼ぶつもりだったのだろう一夏の声が悲鳴に変わっている。
いつにもましてカオスだ。
俺は鈴の丼からチャーシューをくすねながらこう思った。
――――別に忠告しなくて良いや、と。
@
「えーっと、ISスーツの注文。今日までだから早く決めて注文書を提出するようにね。みんな二回目だから迷うことないでしょ?」
「いやいや先生~。今年は織斑君が居るんですよ? ちゃんとしたやつ選ばなきゃ女としてまずいですよ~」
「そうですよ~。お洒落を忘れたら失格! 先生がいつも言ってることじゃないですか」
「それになんか最近、変態柊を気にするようになってきた物好きな派閥も・・・・・」
その女子はそこまで言った後、速やかにその他の女子によって排除されていた。
何かを誤魔化すように俺に向かって笑みを浮かべる女子たちが怖い。
月曜日の朝。大倭先生が先日だしていたISスーツを新調するための注文書を集めるように言ってきた。
女子はなかなか手間取っているようで今このときもカタログを眺めているやつもいる。
「やっぱりハヅキのが・・・・いや、私にはちょっと大胆すぎる・・・!」
そのうちの一人が俺の幼馴染みだ。
「なんだよ雨、まだ決めてないのか?」
「う、うん。数が多いからどれがより効果的か悩んじゃって・・・・」
なるほどな。ISスーツとはISと操縦者の適応率を高め、肌表面を流れる微弱な電位さをダイレクトにISに送り、より直感的にISを動かすための、いわば補助装置だ。
本気で上を目指すやつらはスーツにも拘っているそうだ。
「クッちゃんは・・・どれがいいの・・?」
カタログを見せるためにか、机をくっ付ける雨。小学校みたいだな。
しかし、その雨の顔はいっぱいいっぱいって感じにはりつめてる。
最近そんな顔ばっかしてないか?
「いや、俺は去年の暮れに買ったやつだからまだ良いや。今回はスルーだ」
そう答えると雨は「」そ、そうじゃなくて・・・・・」と言いかけたがそこで大倭先生に見つかってしまい机をもとに戻す。
「ったく、幼馴染みだからっていつでもどこでもイチャ付いてるんじゃないわよ。て言うか柊くん。一年の凰さんがキミ宛にペア申請出してきたんだけど、どうなってるの?」
先生の言葉に教室が沸いた。
「本当ですか先生!」
「ちゃんと確認してください先生!」
「ちゃんと結婚してください先生!」
「待って待って。なんでそんなに慌ててるの君たちは!? あと三人目!あとで屋上ね」
クラスの全員が俺に視線で回答を求める。
「あー、まぁ。そのまま通しておいてください。アイツのことだし記入ミスなんてないとおもうんで」
「え? じゃあ間違いないの?」
「え、まぁ・・・・。成り行き上・・」
・・・・・・・・・。
「「「「「うそおおおおおお!!」」」」」
今度は教室が揺れた。
――――――――ー。
・・・・・・・。
・・・・・・。
「――――ってことで、ちょっと君たち騒ぎすぎよ。意外なのは分かったから藁人形作ってる女子はその手を止めなさい。誰の写真使う気よ。篠乃歌、キミまでそっちにいっちゃったら誰がこのクラス纏めるのよ?」
先生の鶴の一声で場は収まった。
さっきまでの教室のありようといったら筆舌に尽くしがたい。
「さて、ちょっと意外な確認は終わったけど、まだサプライズは終わらないわよ」
先生の遠回りな言い方に?を浮かべるクラス一同。
俺もまたその一人だ。
(ラウラ・・・か? いや、他国からの転校生にサプライズも何もないだろ。ここは元々多国籍学園だ)
それじゃあ一体サプライズとはなんなのか。
にわかに騒ぎだした教室に先生の声が響く。
「なんと、一年生にまた転校生よ! しかも男女二人! 金髪美男子と銀髪美少女!」
・・・・だ。
「・・・・・だ」
「「「「美
なるほど。サプライズなんて言うわけだ。
さて、どうやってシャルルを絡ませようか。
俺自身、シャルロッ党じゃなくてセカン党なのでさじ加減が難しいです。
一夏のえっちは忘れられませんけどね!
感想評価待ってます。
一話一話の長さとか要望あったりすれば、どうぞ遠慮なく。