インフィニット・ストラトス~オーバーリミット~   作:龍竜甲

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もうじき、一巻が終わるよ!
ちくしょう! 長い! 


復讐

 

・・・・・・。

・・・・・。

・・・・・・・頭、いてぇ。

目が覚めるとすぐに自分の頭が痛みを訴えてきた。

いや、頭だけじゃない。地面に触れている背中も、かなりの火傷を負ってるみたいだぞ。

そこで俺の意識は完全に覚醒し、気絶する前に起こったことを全て思い出した。

たしか、敵の粒子砲を受けたんだったか?

額から流れ落ちる血のせいで赤く染まった視界をうっすら開くと、アリーナの壁が自分の真横にあった。

どうやら衝撃で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられたらしい。

 

(・・・そうだ、鈴は・・・・)

 

俺は吹き飛ばされる寸前に、アイツを抱き締めたはずだ。

首から下が満足に動かせない中、俺の胸を確認すると。

 

「・・よう、無事だったか」

「・・・・・・無事じゃないわよ・・・バカッ!」

 

おうっ、起き抜けに右ストレートはキツイ・・・・。

俺一応怪我人だぞ? テメ、この状態で『怪我? 何ともないさHAHAHAHA!』とかって笑えたらソイツはもうゾンビだろ。

 

「なんで、なんであたしを庇ってあんたが怪我する必要があんのよ・・・!」

 

鈴は俺の上でその小さな体とツインテールを震わせていた。

そして、ポカポカとハンマーパンチを力なく降り下ろす。

とても弱々しい、鈴とは思えぬ力だ。

 

「仕方ないだろ、手が出ちまったんだから」

 

ようやく動かせた右手で額の血を拭う。

気絶していたからか、瞬龍は待機形態へ戻ってしまったらしい。

 

「・・・あたしのことめんどくさいって言ってたのに?」

「バカ、めんどくさいと死なせちゃダメだっていうのは違うだろ。それに、謝りたかったしな」

 

鈴は俺が言わんとしていることに気が付いたのか、真ん丸の瞳を更に見開いた。

 

「―――お前の話、笑ってたとかいって悪かった。謝るよ」

 

俺は照れくささのためか、無意識に砂の入り込んだ頭をかいた。

チラリと鈴の様子を窺うと。

 

「ま、まぁ謝ってくるだろうとは思ってたわ! ていうかあの夜戦ってた本人が信じないとか、ソイツの頭を疑うレベルよ!」

 

・・・・急にいつもの調子を取り戻してきたな・・・。なんかイラッと来る。

落ち着け俺よ。せっかく謝ったんだ。また怒らせるのは意味のないことだ。

 

しかし、敵の攻撃が来ない。ISのない俺たちには興味がないって言うことか?

不思議に思い、視線を巡らせると、意外な光景が広がっていた。

 

「――それで? いつまであなたたちはイチャついている気なのかしら?」

「さ、サラァ!?」

 

そこにはなんと、敵の拳を打鉄の近接ブレードで受け止めるサラ・ウェルキンの姿があった。

 

「どうでもいいから早く起きてくれないかしら? 柊クレハ、もう動けるでしょう?」

 

サラは脂汗を浮かべながら言う。

確かに俺はもう動ける。ISもなんとか展開できるだろう。

だが、鈴は・・・。

 

「・・・ごめん、あたしは動けない。衝撃で下半身が痺れてるの」

 

目覚めても俺の上にいたことから推察できてはいたが、一時的な麻痺にかかっていた。

 

「よし、なら俺が連れて脱出させる。サラはその間なんとか持ってくれ」

「訓練機で実戦機を相手にできるとは思わないことねッ!」

 

そういいつつサラは敵を剣で弾き飛ばした。流石はイギリス代表候補生だ。

 

「よし、鈴。行くぞ」

 

俺は小柄な鈴を抱きかかえるとそのまま瞬龍を展開。一目散に一夏達を脱出させた中継室の穴へ飛翔する。

しかし、そこで。

 

「お、おい一夏、何してるんだよ・・?」

 

ボロボロの白式を纏った一夏がそこには居た。

 

「先輩と、鈴が戦ってるんです・・・逃げるわけには・・・いかないッ!」

「お前、自分がどういう状況なのか分かってるのか!? ただでさえエネルギー消費の多い単一仕様能力を使ったばかりなんだ、エネルギーはもうないんだろ!? お前も限界だ!」

 

俺が帰るよう指示するが、一夏はそれを頑として受けようとはしないで、一歩一歩アリーナへ足を進める。

 

「だったら、あたしも戦う」

「鈴、お前まで何いってんだ!?」

 

鈴はそう言うと俺の腕からおりて、なんとか自分の足で立って見せた。

 

「大丈夫よ、足で直接操作できなくても、インターフェースからの思考入力でなんとかなるはずよ。それより、あいつ倒しただけじゃ終わらないんでしょ?」

 

鈴は外でサラと戦っている敵ISを顎で示した。

・・・確かに、アイツを倒すだけではこの事件は終わらない。

事件の規模にもよるが、こういった襲撃に関して言えることがある。

それは、

 

「この事件を引き起こした黒幕、少なくともアリーナのレーダーシステムを潰して、アイツをここまで誘導したやつがいるはずだ。そいつがいる限り、この事件は連続するぞ」

 

元々不思議に思っていた。

なぜアリーナのレーダーシステムはアイツを関知しなかったのか、そもそも電算処理機能が明らかに欠如しているアイツに、アリーナのシステムをハッキングなんて芸当が本当に可能なのか。

導き出される答えは一つだ。共犯者がいる。

いや、アイツに操縦者は居ないから、主犯か。

まぁなんにせよ、その主犯をあぶり出して捕まえる必要がある。

しかも俺は、その犯人が誰なのか予想が付いている。

 

「よし、それじゃあここで解散だ。比較的動ける俺が主犯を探して倒す強襲(アサルト)。鈴と一夏は敵の相手をしてくれ。倒さなくてもいい。時間を稼いでくれ」

 

俺の指示に二人は確りと頷いた。

アリーナに戻った俺はサラに交代(スイッチ)の指示を出す。

サラの交代は敵を弾いた瞬間に行うことが多い。

次に入る人間が攻撃しやすくなるようにという配慮の結果だ。

サラが拳を弾き、その瞬間に待機していた一夏が入れ替わる。

 

「よし、なんとか上手く行ったな」

「ええ、そうね。なんとか死なせずに済んだわ」

 

・・・・・・やっぱりか。

俺は普通に(・ ・ ・)アリーナの扉を開き、普通に(・ ・ ・)アリーナ内部へと避難した。

 

「・・・・この扉が使えるってことを知っているってことは、気づいたの?」

「・・・・ああ、今回の襲撃事件、裏で糸を引いていたのはお前だな、サラ」

 

IS学園のシステムに侵入し、アリーナを占拠出来るのは俺の知る限りこいつと生徒会長くらいなもんだ。

チリチリと身を焦がすような殺気が、サラから放たれ始める。・・・やる気だぞ、こいつ。こんな狭い通路で。

 

「何時から疑ってたの? 彼女が編入してきてから?」

「いや、実際はついさっきまで確信は持ってなかった。サラがアリーナで俺たちを守る瞬間まではな」

 

自然に非常口から避難したのはただのハッタリだ。

非常口は四ヶ所あるが、サラが入ってきたのがここからで良かったぜ。でなきゃ俺は後ろから撃たれてた。

 

「するとここで疑問が生まれる。

―――――一体なんで俺たちを生かそうとする?

 

鈴の身を危険にさらす敵が再び現れたせいで、俺の声が険のあるものへと変わっていく。

俺たちの命、二体の龍、Bシステムが目的なら俺たちを生かす理由がない。俺に至っては殺すより他に手がない。

 

「なんでって・・・やっぱり覚えてすらないのね・・・・」

 

サラは俺の質問に答えるでもなく、ただただ失望した呟きを漏らした。

サラが床を強く踏みつける。鉄の接触音が通路じゅうにこだました。

 

「ふざけないでよ・・・・あなたたちのせいで、いや、あなたのせいでどれだけの人が死んだと思ってるの・・・?」

 

サラは、そう言った。

その言葉に俺は背筋が凍るの感じた。

 

「あなたがいたせいで、私の兄は・・・ウェルク兄さんは・・・・っ!」

 

ウェルク。その名前は、俺も覚えている。身体の調整期間中に辛く苦しい生活の俺を励ましてくれた研究チームの一人だ。

 

「まさか、妹・・・なのか・・?」

 

予想外の事態に軽く混乱する。

 

「そうよ、あなたたちが秘密裏に行っていた実験に参加していた研究者の中には、私の兄、ウェルク・ウェルキンはいた。そして殺されたのよ。あなたの手によってっ!」

 

サラが俺に刃を向ける。いつもの光景だ。しかし、その刃に乗った思いは熱く、激しい感情でいまにも吹き出してしまいそうな危うい感じがした。

 

「ここへあのISを招き入れたのは貴方を孤立させやすくするため、アイツに殺させなかったのは、私の手で復讐を果たすため。だって、そうじゃないと私の気が晴れないんだもの」

 

サラの声は激情を通り越してもはや冷静だ。静かに、剣を構えている。

 

「まて、サラ。俺は戦うつもりはない。せめて他の生徒だけでも―――」

「殺しあいの最中に命乞いとは情けないものねっ!」

 

説得を試みようとしたが、サラが攻撃を仕掛けてきたのでやむ無く迎撃として時穿を抜く。

ただの訓練機のブレードのはずなのに、その刃はことさら重く感じた。

 

「貴方には情けなんてかけてあげない。私が刈り取るの。この、双龍に与えられたこのISでッ!」

 

瞬間、サラの身体を黄色の光が渦巻いた。

彼女のブロンドがその粒子の流れに乗って、キラキラ輝く。

打鉄のくすんだ鉄色の装甲が溶け、黄色の装甲が展開される。

二重同時展開(ダブル・キャスト)』・・・・。長年ISと共に過ごし、それこそ身体の一部のようになるまで馴染ませないと到達できない上級の技術だ。

 

「まさか、サラ。お前も持ってるのか、ここに」

 

俺は自身の胸を示す。

 

「ええ、そう。でも私の『明日を奪う者(サニー・ラバー)』はちょっとイヤらしい子だったみたいで、本体はここ(・ ・)にあるのよ」

 

そういってサラは、その装甲に包まれた豊かな胸部、その先端を指差した。

・・・・・舐めやがって、このレズ女が。

 

「悪いが、俺はウェルクさんを忘れた覚えもないし、忘れることもない。それよりもするべきことがある。悪いが、今日死ぬのは俺じゃなく、お前って可能性も有るぞサラ」

 

緊張感のせいか、だんだんと意識が鋭敏化されていく。

 

「それこそ、望むところよ。拒む兄さんを無理やり参加させてまで作ったIS、私が砕くわ! 貴方に明日はない!」

 

サラが駆け出す。狭い通路での戦闘なので、自然と直線的な動きだ。

しかし、標準的な大きさのISとは二回りほど小さし瞬龍はその狭さをものともせず、自由に動くことができる。

そこがこの戦闘で勝利する重要なポイントとなるだろう。

身体の調子は悪い。瞬龍だって限界が近い。だが、

 

―――――特定のISの反応を感知。Bシステム、起動します。

 

「クレハーッ! 言われた通り、片付けたわよ!」

 

(お前)が来てくれたお陰で、何とかなりそうだ。

 

 

出力が増した瞬龍で、俺はサラを迎え撃つ――――。

 




アブソリュート・デュオみて、「あれ? 束さん? なんで?」とかって思ったみたのは俺だけじゃないはず・・・・ですよね?

長いので一旦区切ります。
感想や評価は次のを(いつになるか分かりませんが)見てからにでも・・・・。

ありがとうございました!

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