インフィニット・ストラトス~オーバーリミット~   作:龍竜甲

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クラス対抗戦に未確認機が乱入してからです。


そして少年少女は動き出す。

 

アリーナを上空から見渡した俺は、戦闘中の一夏(白式)、鈴(甲龍)及び、敵ISを確認した。

敵のISはやはり、俺があの夜に沈めた物と同じタイプのようで、鈍重そうな腕に全身装甲、そして二つのアイカメラと不気味な出で立ちだった。

鈴と一夏は上手いこと連携をとり、教師部隊が到着する時間を稼いでいた。

 

(さて、どうしたもんかな)

 

一方の俺は、敵が侵入したと見られる遮断シールドの穴からフィールドをのぞきこみ、加勢するタイミングを図っていた。

Bシステムは、微妙に掛かってきている。戦闘前の緊張で瞬龍もエンジンかかかりかけているらしい。

よく観察すると敵の攻撃には波が有るようだ。

どういうタイミングかは知らんが、攻撃が止んだり激しくなったりしている。

俺は保険にと思い、先ほど別れた渚にあるお願いをする。

よし、準備は整ったぞ。

俺は二人が何かを画策し、実行しようとするタイミングで敵に銃撃をしながら降下する。

 

「なっ、柊先輩!?」

「クレハ・・・・せんぱいっ!?」

 

俺を見て二人が驚愕する。

特に鈴は、どことなく顔が紅い。

俺はアリーナ中央に着地するとそのままスラスターの推進力で滑走する。

あいつらの目の前に降りることで、敵の注意を俺に向かせ攻撃のチャンスを増やそうと思ったのだ。

しかし――――。

 

「一夏ぁ!!」

 

アリーナのスピーカーがノイズを漏らしたかと思うと、大音量で女子の叫び声を上げた。

ていうか、この声、一夏の幼馴染みの箒か。何やってんだよあいつ。

中継室をハイパーセンサーでみると、どうやら箒は中継システムを乗っ取って声をあげているらしい。

 

「男なら・・・・男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

大音量の叱咤が再び鼓膜を叩く。うわ、うるせぇ!

だが、そんなことより目の前の敵だ。

俺は滑走しながらライフルを構える。

衝撃砲はかなりのエネルギーを消費する。発動だけで段々とエネルギーを食い潰していくBシステムとの併用は避けなければならない。今の時点でエネルギー残量は550。なるべく早期決着が望まれる。

 

(よし、ここで――)

 

敵に照準を合わせたとき、俺は違和感に気がついた。

敵が、俺を見ていない。いや、鈴や一夏すらも見ていない。

見ているのは―――――ー箒だ。

まずい、中継室には観客席や来賓席と違って、遮断シールドがない!

 

「鈴!や―――」

 

一夏が言葉を紡ぎ終わるのを待たずに、敵は箒に向かって瞬時加速で迫る。

 

一夏は鈴の衝撃砲を背中に受けると、目を見張るほどのスピードで飛び出した。

あれは、エネルギー変換を行わない外部からのエネルギーによる瞬時加速(イグニッション・ブースト)だ。

瞬時加速とは自身のエネルギーを外部に放出して、それを吸収、圧縮して放出することで爆発的な慣性エネルギーを得る技術である。

外部のエネルギーを吸収するので、自身のエネルギーでなくても良いことは良いのだが、純粋なエネルギーでないものでは機体とそれを制御する操縦者に絶大な負担がかかるのであまり行われる事はない。

しかし、今回一夏はそれを行っている。

瞬時加速のスピードは受けたエネルギーの大きさに比例するので、鈴の衝撃砲を受けるのが手っ取り早く加速する方法なのだ。

 

「――――オオオッ!!」

 

箒を目の前にして、敵の荷電粒子砲の砲口が赤く輝き始める。

 

「箒ッ!!」

 

箒と敵ISの間に体を滑り込ませる一夏。

そんな一夏に、無慈悲にも粒子砲が照射される。

 

「ガアアアアアッ!!」

「一夏ァ――ッ!」

 

一夏の絶叫と箒の叫びが重なる。

敵は照射を終えると、一夏の身体を殴り飛ばした。

中継室にめり込んだ一夏に箒が駆け寄る。

ISは解けてないので気を失っているわけではなさそうだが、反応が著しく低下した一夏の名を箒が必死に呼んでいる。

敵はそんな箒にも攻撃を加えそうな雰囲気だ。

 

「鈴!」

「わかってるわよ!」

 

俺たちは同じタイミングで飛び出す。

まず俺が敵を惹き付け、鈴が二人を救助(セーブ)する作戦だ。さすが場数を踏んでる中国代表候補だぜ。何も言わなくても意識が通じる。

先に敵を捕捉した俺が近接特化ブレード『時穿(ときうがち)』を展開。その刀身で敵を水平に薙ぐ。

しかし、手応えはガツンという重く、固いものを殴った感触だ。

 

「はあああッ!」

 

それでも俺は剣を振った。

空中に駐留していた敵を地面に叩き落とす。

 

「鈴はそのまま二人をつれて逃げろ! 俺が殿(しんがり)を引き受けてやるよ!」

「バカ言わないでよ! よわっちいあんた一人に何ができんのよ! あんたが救助役よ!」

「はぁ!? ふざけんなよ! そんなボロボロなやつに時間なんて稼げるわけないだろ!カッコつけんな!」

 

俺の指示に、鈴が反抗する。ダメだ。さっきは意識が通じるとか言ったが、全然あわない。

そんな俺たちに苛立ちを覚えたのか、敵が粒子砲を放ってきた。

俺は時穿でシールドを展開し、難を逃れる。

 

「ほら、悩んでる暇はない。早く行け!」

 

俺がそう言うと鈴は諦めたのか、機体を反転させ中継室で呻く一夏と箒をその両腕に抱き抱えた。

 

「あんたも・・・、やられるんじゃないわよ!」

 

そう言うと鈴は中継室背後の壁を衝撃砲で破壊。その奥に姿を消した。

 

「さあて、俺たち二人だけだぜ」

 

土煙から姿を表した敵を睨む。

この敵は恐らくだが、龍―――鈴を狙っている。

鈴を守るといった手前、これ以上先にいかせるわけにはいかない。

まあ、俺の素性が敵にばれてりゃ俺もターゲットに入るんですがね。

 

俺は空いているもう一方の腕に五十口径ライフル「レッドバレット」を展開する。

時穿()』と『レッドバレット()』。この二つの武器を操って戦うのが俺の基本スタイルだ。

銃で牽制し、剣で切り込む。これを幾度となく繰り返せば、余程の遠距離型でない限り勝ちは固い。

しかも今の俺は瞬龍の能力を十全に引き出せるBシステムが甘く掛かっている。

なるべく本調子になるときに現れる変な性格を出したくないので、一気に片付けるか。

 

俺は後位スラスター翼を全開にし、弾丸のように飛び出した。

ライフルのトリガーを引き、銃弾の雨を降らせる。

そして、敵が怯む瞬間を逃さずに時穿を降り下ろした。

 

ギンッ!という金属音が鳴り、その大きな腕に刃が止められたのだと分かった。

そしてその防御力はそのまま攻撃力に成りうる。

敵は左腕で剣を止め、右腕の拳で俺の胴体を殴り付けた。

余程の威力なのか、絶対防御が発動したにも関わらず、その防御を突破。俺は吹き飛ばされた。

両手をつき何とか受け身はとったが、中々キくボディーじゃないか。

逆流してきた胃液を拭い、無理やり笑みを作る。

 

まだだ。さっきの絶対防御のせいで大幅にエネルギーが削られたが、まだ300弱ある。

最低でも一本。腕くらいは落としてやらねえとな。

 

敵が放ってきたビームを一太刀で切り裂くと俺は飛翔し、空中に身を踊らせる。

そのまま両手に搭載された衝撃砲『轟砲』を繰り出す。

何度も、何度も連続して放つ。

敵は見えない砲撃を、腕をクロスし交差防御(クロスアームブロック)で乗りきると、間髪入れずに粒子砲を放つ。

その攻撃は、当たらない。

なぜかというと、狙った先に俺が居ないからだ。

俺は衝撃砲を打ち切ると、反撃を受ける前に地面に急降下した。

そして、敵が居ない俺に向かって粒子砲を放つのを見ると、敵ISに接近。右腕の関節部分に時穿の刃を押しあて、真上に切り飛ばす。

この敵は、俺の簡単な策に騙されるとこからして無人機だろう。そして今それを証明した。

切り離された腕の断面に中身はなく、ただの空洞が存在していただけだったのだ。

 

それを確認した俺は、伏せていたカードを切る。

 

「渚、やっぱり無人機だった。頼めるか」

『――はい。それでは狙撃を開始します』

 

渚がそういった直後、敵のISに衝撃が走った。

渚が放った弾丸が、装甲に当たり爆発したのだ。

これが、俺の掛けていた保険の正体。敵が遠慮なんて要らない無人機だった場合には遠慮なく弾丸を浴びせてやれと渚には言っておいた。

それでも渚、徹甲榴弾はやりすぎだろ。俺を巻き込む気か。

 

二発、三発とぶちこまれ、敵は完全に沈黙した。

なにやら騒がしい声が聞こえてきたので、耳を澄ますと二人の狙撃主が言い争っているようだった。

 

―――――今のは私の出番でしたのに!

―――――クレハさんは私にお願いをしてきました。よってこれは私の受けた任務です。

―――――あーんもう!折角織斑先生に許可を頂いて来たのに!

 

・・・・だとさ。呑気なもんだな。

おっ、鈴が戻ってきたな。敵を倒した俺を見て口をパクパクしてるぞ。

 

「あ、あんた・・・じゃなかった。先輩がそれを倒したんですか?」

「あー、なんだその敬語。気持ち悪いから止めろよ」

「はぁっ!? 気持ち悪いって何よ! あんたのほうが百倍気持ち悪いわよこのスケベっ!」

「誰がスケベだ誰が!? 部屋の内装から住んでる人物の予想くらい立てるのが常識だろ!」

「あっ、あたしのはだか見たくせによくもまあそんな被害者ヅラが出来るわね! あーもうイラついてきた! 大体あんたはだらしなさ過ぎるのよ! いつになったら予備のベッド出すつもりなのよ! 申し訳なさで胃に穴が開くと思ったわ!」

「いや、一体いつお前がそんな心遣いなんてしたよ!? お前こそ――――」

 

突然キレた鈴と口喧嘩をしていると、状況が急変した。

ビシュンッと俺と鈴の間を粒子砲が通過していったのだ。

 

――――敵IS再起動を確認! ロックされています!

 

マズイッ! そう思い、真横に鈴と共に跳ぼうとするが、意識に身体が付いていってない。

不審に思い、身体を隅々までチェックすると絶望的な気分に置かれる。

敵は残った左腕が変形し、あの夜見せた最大出力形態(バーストモード)への変貌を遂げている。

それに引き換え俺はというと、Bシステムが、解かれていた。

 

失敗した。安心していた。完全に終わったと決めつけていた。

最後の緊張感を手放した瞬間に、俺の切り札は消え失せていたのだ。

しかもこの角度は鈴に直撃コースだぞ。それだけは絶対に避けなければならない!

 

渚たちも異常に気がついたのか、それぞれの対応をとりはじめるが、もう遅い。

放たれた最大出力荷電粒子砲は、俺たちというより鈴に向かって直進する。鈴は呆然とその光景を見ているだけだ。もしかしたら諦めているのかも知れない。

でも、俺は諦めないぞ。お前には目的があるんだろ。折角少しだけ付き合う覚悟が着いたんだ。こんな所で死なれちゃ困るぜ。

俺は素早く鈴を抱きしめ、粒子砲に背中を向けた。そして残ったシールドエネルギーの全てをシールドバリアーに費やす。

 

そして、俺の意識はその光の奔流によって刈り取られた―――――

 

 

 

 

 

 

 




クレハのIS『瞬龍』に搭載されている機能、B(バーサーカー)システムですが、発動条件は大まかに、『動機を乱す』or『特定のISの存在を感知した場合』と言うことです。戦闘のストレスや、ビックリ箱でドキドキしたりすることもあれば! イベントシーン・・・的なことでドキドキして発動することもあります! 完全にBシステムが起動したり、新たにISを登録したりする時に出てくる彼方のクレハ君に関しては、また物語の中で説明できればと思ってます。いまはそういうものという認識で十分です。

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では次回で。

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