楽しく読ませてもらってます。
プロローグ前半
ISという兵器がある。
正式名称を『インフィニットストラトス』と言って、元々は宇宙空間での活動を目的として、日本最高の頭脳を持つ科学者、篠ノ乃束博士が十年ほど前に発表した技術だ。
始めこそ次世代の宇宙服ということで研究、開発が進められたが、ある事件を境に「IS」の兵器としての有用性が危険視されはじめ、国際連合はアラスカ条約を日本に対して締結させ、連合内部にIS委員会なるものを設置。国家のIS保有数並びに運用状況を監視することにした。
そしてアラスカ条約により、日本は都内にIS学園を開校。世界中からIS操縦者を集め、育成していく方針をとった。
これにより、ISの安全な運用が実現され、ISはスポーツの一種として世間に認知されることとなる。
だが、待って欲しい。
結局のところISとはなんだ?
スポーツ用具の一つ? はたまた原初の通り宇宙服?
そんな訳はない。
結局のところ、ISとは・・・・・。
兵器なのだ。
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四月、俺にとって二年目の高校生活が幕を開けた。
事前に聞かされた話だと、今年、公的にはIS学園始まって以来の男子生徒が入学するらしい。
なぜ、ISの運用が始まって十年もたつというのに初めて、なのかというと男性にはISが使えないからだ。
理由は不明。制作者である篠ノ乃束博士は二年ほど前から行方不明。ISを構築するISコアが完全にブラックボックスなため、理由の解明も問いただすこともできない。
まあ、あの人ははじめっから答える気は無いらしいけど。
そう言えばさっきから目覚まし時計が五月蝿い。
俺はてを伸ばし、ベッドの側にある目覚まし時計のベルを押さえつけた。
押さえつけたまま上体を起こし、ベッドに腰かけたまま、ようやく時計のスイッチを切る。
まずい、そろそろ雨が訪ねてくる時間だ。
急いでクローゼットからシャツとスラックスを取りだし、身支度を整える。なんとか間に合ったな。
(アイツは何かと世話を焼きたがるしな)
雨が来る前に準備できたので、俺は持ち込んだテレビを点け、ニュースにチャンネルを合わせた。
最近はどこもかしこも物騒なニュースが飛び交い、今映っている番組でも無惨に破壊された建物が報道されていた。
(IS学園生徒を狙った犯行・・・・・か)
去年はここまで酷くは無かった。
確かにIS学園生徒を狙う犯罪シンジケートは存在するが、ここまで大っぴらに事を運ぶ奴等は珍しい。
これまでにも何人かの生徒が巻き込まれたらしいが、実際にISで襲ってくる連中は居なかったらしく、日頃軍人並みの訓練を積んだうちの生徒には勝てるわけもない。今回も犯人を撃退したらしく、被害者は三年の生徒だと報道されていた。
―――やっぱり兵器じゃないか
・・・ま、俺には関係ないか。
あ、でも雨には注意しとかないとだな。
あいつ、たまに抜けてるところあるし。
ピンポーン
そうこうしているうちに、部屋のチャイムがなった。
どうやら雨が来たみたいだ。
ロックを解除し、ドアを開けるとそこには見慣れた幼馴染みの顔。
「お、オハヨ。クっちゃん!」
「ああ、おはよう雨。今日も食堂か?」
「ううん、今日は作ってきたんだ」
そう言って、結構ボリュームのある弁当箱を差し出す前髪お化け。ゴメン、前言撤回。顔見えねぇ。
この前髪娘が俺の幼馴染みの篠乃歌 雨(シノノカ アメ)である。
見た通り、結構な人見知りの恥ずかしがりやで、人前に出ることを得意としない。
だが、人は何かしかの特技は有るようで、料理の腕は光るものがある。特に和食。
「・・・・・おお、凄いな相変わらず。ドンだけ時間かけてるんだよ」
ベッドを収納スペースに押しやり、壁際から小さいテーブルを引き出して二人で向かい合わせになるように座る。
ふたを開けてみると、卵焼きに焼き鮭、煮豆と、全て輝いているように見えた。実際に白米は輝いている。
「あ、あんまりは掛かってないよ。新学期初日だから、ちょっと頑張っただけ。前日の夜にね、下ごしらえするの」
「いや、普通はそんなことしないっての」
箸を雨から受け取りながら雨の工夫を賞賛する。
さて、まず何から食べようか・・・・・。
「そう言えばクっちゃん、今朝の速報見た? また襲われたらしいよ」
「ん、ああ。そのはなしか。無事だったんだってな三年生」
うわっ、卵焼きスゲェ! ふっくらしてるのに、含まれてる出汁がみずみずしい!
「うん、でもなんか妙な事を聞かれたらしいよ。龍が何とかって」
「何とかって何だよ。アレか、そいつらは珍獣ハンターなのか」
煮豆全然パサパサしない。程よい甘さが心地いいデス。
さっきの卵焼きもあんまり甘くなく、俺好みの味だったし、ホント料理うまいな。好み言った覚えは無いけど。
「クっちゃん・・・・」
「あー、雨。お前が何を言おうとしてるか想像付くが、俺は関係ないからな」
「でもクっちゃんだって一応はIS操縦者なんだし、気を付けた方がいいと思うけど・・・」
「操縦者なくて、候補者。な」
踏み込まれたくない所まで話が進んだから、自然と不機嫌な面になっていたんだろう。雨はしゅんとしてしまった。
その様子を見せられては、いつもお世話になりっぱなしのこいつに申し訳ないと思ったので、流石に雰囲気を変える。
「えっと、ありがとな。弁当」
「えっ? う、ううん。そんな良いよお礼なんて・・・・」
両手をパタパタ振って遠慮の姿勢を見せるが、本来遠慮の姿勢を見せるべきなのは雨じゃなくて俺だ。
「俺もそろそろ自活しなくちゃな。後輩にみっともない姿は見せられないだろ」
俺は寮の中で唯一の一人部屋で、後輩が入ってくるなら、ここに来る可能性もあるはずだ。IS学園生徒は基本寮生活だしな。
そう決意すると、何故か雨は絶望的な表情になった。
さっきまで可愛らしく揺れていた両手はわなわなと震え、震える唇でやっと声を出す。
「そ、そんな・・・。あのぐうたらなクっちゃんが・・・・自活!? ダメダメ・・・私の存在意義が・・・・!!」
「お、おい? 雨?」
あまりにも鬼気迫る顔だったので心配になる。存在意義がどうのって・・・・・なにクライシス起こしてるんだよ?
すると雨はガバッと顔をあげ、珍しく前髪を払って俺の顔を見た。
「く、クっちゃんは! 今のままでいいと思うよ・・」
「・・・・・・お、おう。そうか・・・・」
び、ビックリした。余りにも近くに雨の顔が来たのでこっちがどもっちまったぞ。
でも、今のままか・・・・・。
事情を知らないとは言え、ちょっとショックだぜ。雨。
俺は、このままじゃいられない。
弁当を食べ終わった俺は、自主的に弁当箱を洗い、布巾で水分を拭き取る。
「あっ、懐かしいねこれ」
その最中、雨は俺の部屋の整理をするつもりらしく、さっきからクローゼットをごそごそしていたんだが、何かを見つけたらしい。
「何を見つけって・・・・イィっ!?」
ぴろーんと雨が広げていたのは、俺の制服。IS学園の白い制服だ。
だが、ちょっと待ってほしい。その制服は俺のだが、形が違う。
IS学園の制服は、各国の風潮に合わせるため、改造は自由とされているが俺は基準服をそのまま着ている。
だが、雨の持っている制服は俺のだが、俺が着ているものじゃない。
その制服は、胸元にはネクタイではなくリボンがあしらわれていて、本来腰の辺りで切れているはずの裾が、膝上まで伸びている。
女物だ。まごうことなき女物だ。
「懐かしいよね~。クっちゃんが女装して入学してた頃!」
言ったぁあああああ!!
雨が遂に俺の黒歴史を口にしたぞ!
「いや、違う! あれは親父が女子で届け出出してて・・・・てかなんで捨ててないんだよ俺!」
「そのわりには結構本気で女子に混ざってたでしょ」
雨の指摘にぐぅの音もでない。
ああそうさ! 確かに俺は去年の春、女子に変装してここに入学したさ!
でも仕方ないだろ! 通ったんだから!
誰に向けてかわからない弁明をしていると、雨が目を見開く。
「・・・・く、クっちゃん・・・・・あれ」
雨が震える指で指すのは時計。その長針が指すのは始業五分前。
たしか、今年の生活指導って・・・・・千冬さんだっけ・・・。
「・・・・終わったな、雨・・・って居ねえし!」
気付けば雨は居なくなっていた。
くそ、幼馴染みより罰則の心配かよ・・・・・。
バタバタと準備し、最後に洗った弁当箱を雨に返すため掴む。
――――今のままで良いと思うよ
――――変わり続けよっか、くーちゃん
あの人からの言葉と相反する幼馴染みの言葉。
俺、柊 暮刃(ヒイラギ クレハ)には、どちらが正しい道か分からなくなっていた。
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「まったく、よくもまぁ初日から遅刻できるものだな。なぁ、女装男子?」
「はい・・・・スミマセン。て言うか千冬さんは俺が女装して入学してくるの知ってたじゃっ!?」
見事に遅刻した俺は、ホームルームに行けずそのまま生活指導室に連行された。『ブリュンヒルデ』の手によって。うわ、凄い光栄。
千冬さんは俺の頭をしばいた出席簿をテーブルにおき、腕を組んだ。よっしゃ、叩いて被ってゲームだな・・・・!!!
「おい、バカなことは考えるなよ。短い人生だ。そうそうに散らせたいことはないだろう?」
あ、これ普通に怒られる流れだったんだ。まぁそうか。
千冬さんは読心術に長ける。俺みたいなヤツの考えていることなんてお見通しだろう。
だから、多分伝わったはずだ。
「それ以上障るな」というメッセージは。
「・・・・さてと、お前は今日から二年生だ。私も今年は一年生を受け持つことになったからな。まったく、去年のような目に遭うのは御免だぞ」
去年のような目、と言うのは一部の熱狂的な千冬さんファンによる、追っかけだろう。
「でも、千冬さん去年は一睨みで静かにしてましたよね。あんな感じで行けば良いんじゃないですか?」
「あの後、妙な手紙が靴箱に投書され始めたんだ・・・・・」
千冬さんは陰鬱な表情を浮かべながら、携帯端末に件の手紙を表示させた。
もっと! もっと!もっと罵って!!
ありがとうございます!! ありがとうございます!!
もうちょっと上から見下ろす感じで下さい。具体的にはこ↑こ↓ら辺からです。活動に必要なんです。
エトセトラエトセトラ・・・・・・。
「・・・・酷いですね・・・・これは」
「お前でもそう思うか」
「待ってください千冬さん。お前でも、ってどういうことですか。まるでこの手紙の差出人と俺が同レベルみたいじゃないですか」
「大差ないだろう」
酷い。手紙もそうだが、千冬さんも相当ヒドイ。
て言うか文字で角度指定しても分からないだろ。数字入れろよ。
「確か、副担任、山田先生でしたよね。頼ったら良いじゃないですか」
「山田先生には迷惑を掛けられん。今年はあのバカが居るからな。既に大変な目に遇われているんだ」
「ああ、弟さんでしたっけ」
たしか・・・・・織斑一夏って言ったな。
世界で確認された二人目の男性IS操縦者だ。
一人目こと俺はISを展開しているかどうかの判断が難しく、世間からは存在が隠されているが。
「ああ、私の愚弟だ。あの馬鹿者が。受験場所を間違えるだと? 小学生か」
散々な罵倒だが、その表情は、弟を心配する姉そのものだ。
腐っても姉なんですね・・・・・
「あでっ」
「また失礼なことを考えただろう?」
また殴られた。チクショウ、出席簿取っとくんだった。
「まぁ、そう言うわけだ。学内と一部に限られるが、お前の存在を知る人間が増える。努々、注意を怠るなよ柊。」
「はい、分かりました」
「・・・・もう乗る気は無いのか?」
先程とは違う緊張感を漂わせ、千冬さんが問う。
乗る、と言うのはやはりISの話だろう。
確かにここにいる身ゆえISの起動、展開は出来るが、特定の機体を除いて適合率がかなり低い。誰でも一定以上の適合率を出せる日本製のIS『打鉄』や、フランスの量産機体、『ラファール・リヴァイヴ』を使ってもだ。
世間一般から見れば、「なんでお前学園にいんの?」ってぐらいに。
だが、重要なのは特定の機体を除いて、と言うところだ。
どうやらここで、俺を正式に操縦者として認めるかどうかIS委員会の中で意見が割れているらしい。
「はい。ありません」
「・・・・・そうか。以上で要件は終わりだ。これからも変わらぬ学園生活を送るといい」
千冬さんの言葉にまたどきりとさせられる。
どうやらこれで解放してくれるらしく、顎で行け、とドアを示される。
良かった、二発ですんで。 居眠りなどをしようものなら、音速のチョークが飛んでくると言う噂の織斑千冬を目の前にして遅刻したのに、たった二発だぜ? しかも結構常識的な威力だ。あとで雨に自慢してやろう。
「それと、最後に」
「はい?なんですか?」
「一応、他人の前では先生を付けろよ? この女装男子!」
いや、三発食らった。通常通りだ。
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読んでいただきありがとうございました!
訂正しました。ヴァルキュリア→ブリュンヒルデ