緋弾のアリア~Sランクの頂き~   作:鹿田葉月

82 / 85
はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

はい、七夕祭り回を連続でやるっていって5ヶ月程空いていますね……連続とは(哲学)

魔暴闘風さんに評価・3
わけみたまさんに評価・4

エイト☆5さんに評価・9
暇らやほってぷさんに評価・9
シニカケキャスターさんに評価・9

を頂きました!ありがとうございます!

それでは、第70話、始まります。


70話~祭後の夜

「――アリア。すまなかった」

「い、いいいのよ別に……アタシよりも桜の方がやばそうだし」

 

あかりちゃん達と合流した後、カップルだらけの拝殿(はいでん)を避けて人けのない神社の本殿の裏に、俺とアリアは縁側(えんがわ)に座っていた。

色々とトラブル(桜さんネコミミ事件)があったため、一先ずお互いに整理しようという話になった。その時に流石にあの状況をそのまま一年生だけに任せるわけにもいかず、シェイと――女の後輩だらけになる為めちゃくちゃ嫌そうにしてた――キンジが(シェイに無理やり連れられて)対応してくれている。

 

「でも、本当にレイは動物の耳がついていると見境(みさかい)がなくなるわね……しかも前より悪化してるし」

「あ、ああ……」

 

じぃー。

赤紫色(カメリア)の瞳が普段の釣り目からジト目になって俺を見てくる。非難するような視線が気まずくなり、思わず空へと目線を逸らしてしまう。

前まではもうちょっと抑えられてたんだけどな・・・最近動物に会えてないからだな。今度実家帰ってモフろう、ヨシ。

どん、どどん。

下らない事を考えている最中、もう真っ暗になった夜空に――色とりどりの花火が上がっている。

日本の花火を見るのが初めてであるアリアは、俺を見るのを止め……花火を見上げる。

アリアは……夏が似合う女の子だな。泳げないけど、何となくそう感じる。

――花火が終わると、夜空にはかわりに満天の星がきらめき始めた。

本殿の裏には木立(こだち)(しげ)っており、そこからいろんな虫の音が聞こえてくる。

夏が、来たな。

……。

 

「――レイ、少しいいかしら」

「ん?どうした、アリア」

 

りーりー、という虫の声をしばらく聞き流していると、もじもじしながらアリアが話しかけてきた。

 

「アタシ……もっと、もっと強くなる。今まで認めなくなかったけど……アタシは、弱いわ。Sランク武偵として、色んな場所で、色んな犯罪者を逮捕してきた。その自負はあるわ」

 

少し遠くを見ながら、言葉を(こぼ)すアリア。少し大きい着物に隠れている拳は、自分の葛藤(かっとう)を表す様に強く握りしめられている。

本人が言うように、アリアには一人で様々な実績を残し、強襲成功率99%の鬼武偵――双剣双銃(カドラ)のアリアとして世界の犯罪者達を震え上がらせてきた。

 

「だけどレイを始めとして、ここではアタシより強いヤツらばっかりだった。今まではレイが相手してきたからまだ自覚がなかった。そこに来たのが、カナよ」

「アリア……」

「強かったわ。アタシの攻撃が全部見切られてた。近づいても離れても、あの()()()()()()でやられたわ。曾おじい様の様な完璧な推理が出来ないアタシには、唯一の取柄(とりえ)である戦闘で負けたのが悔しかった……でも、今はいい勉強になったと思ってる」

 

たんっ。

縁側から軽く跳ぶ様に降り立ったアリアは、くるりと振り返り……

 

「――だから、レイ。これから少しずつ……少しずつ、レイのいるところまで行くから。これからも……よろしくね?」

 

先程まで見ていた花火より鮮やかで可愛らしい、満面の笑みを浮かべた。

その顔にはもう悔しさや葛藤(かっとう)の色はなく、純粋無垢な少女の表情だけがあり……

 

「俺くらいになるまでって、アリアも人外と呼ばれる様になりたかったんだな。今度S・D・A(人間辞めました)ランクつけている人にアポ取っておくよ」

 

さっきとは別の意味で顔を背けながら、軽口を叩いた。

真剣な話だったのに冗談で返されたアリアはもぅ、と少し膨れた後、クスクスと笑う。

 

「ランク付けている人にアポ取れるって、やっぱりレイは凄いわね。この前武藤(むとう)が『零に運転とカードゲーム以外勝てる気しねぇ』って言ってたわよ?」

「マジか、ちょっとカーレース挑んでぼっこぼこにしてくるわ」

 

俺が車輪科(ロジ)でもSランクっての忘れてるのかな、剛気(ごうき)は……カードゲームでの勝負?アイツに勝てるヤツいるのかな……

――ゾクッ。

 

呪術(じゅじゅつ)系の気配ッ――!)

 

それも不運や不幸を呼ぶ程度ではない、本格的に()()()()()()()()()ッ!

気づいたと同時に俺の手は、アリアの身体を押し出していた。

きゃっと声を出して倒れるアリアを横目に、背中から二振りの小刀(コウヒノホダシ)を抜刀する。そして反射的に、先ほど感じた気配の方向へと振り下ろした。

(あか)色に染まった刀身が捉えたモノは……気配からは想像できない程に、軽く。

特に反撃や回避などもされず、あっさりと斬れた。

 

「レ、レイ?いったい何を」

「アリア、こいつを見ろ」

 

いきなり倒されたアリアが驚愕の表情のまま聞いてくるので、俺は元凶である()()に指を差す。

言われるがままに視線を動かしたアリアは、真っ二つに切断された()()を目で捉えた後、パチパチとマバタキをして。

 

「……ムシ?」

 

不思議そうに首を傾けて、きょとんとしていた。

大方、ムシが来ただけで何故自分が突き飛ばされたのかが理解できなかったのだろう。まあ普通なら気づかないモノだ、仕方ないだろう。

だが、その手の事……超能力(ステルス)に携わっている俺には、分かる。

 

「アリア。これは普通の虫なんかじゃない。タマオシコガネというスカラベ――呪いを込められた、使い魔の(たぐい)だ」

「なっ――!」

 

突然告げられた内容に、大きく目を開けて絶句するアリア。使い魔と聞いてからの受け入れが早いのは、どこかで使い魔を操る超能力者(ステルス)と対峙した事があるのだろう。

使い魔とは、ゲームや漫画とかで知ってる人も多いが……実際に存在していると知っている人は、あまり多くない。

世間ではやっと超能力者(ステルス)の存在があるかもしれないという認識なのだ。武偵でも使い魔の存在を知っているのは、 超能力捜査研究科(SSR)か一部の高ランク武偵といったところか。

 

「コレが、使い魔?」

「ああ。直接狙うよりは力は弱くなっているが、それでも十分な呪術を感じる。それに……」

「それに?」

「……いや、なんでもない。追撃があるような気配がないし、とりあえずは大丈夫だろう。他にやる事もないし、俺らも帰るか」

「う、うん」

 

既に夏祭りの雰囲気は無くなり、長居する必要もないので、俺とアリアは共に帰宅する。

その帰路では最近の面白かった話や、昔懐かしい事を口にして、お互いに笑ったり、怒ったりしていた。最初は周囲の警戒をしていた様子のアリアだったが、徐々に警戒を解いていたのを見るに……。

俺は、上手く誤魔化せていたのだろう。

――あの距離になるまで呪術を気付けなかった違和感に対して、ずっと考えていた事を。

 

 

 

 

 

「「――ただいま」」

「あ、お帰り二人とも。先にお風呂入ってたよ」

 

寮の玄関を開けてリビングに入ると、ソファーの上でくつろいでいるシェイが出迎えてくれた。

今日一日浴衣姿で疲れたからか、ゆったりとした青い寝巻きに着替えているシェイは、読んでいた本を机に置き、大きく伸びをする。

んー、という声に連動する様に寝巻のシャツが、シェイの決して小さくない胸によって押し上げられている。

いや、小さくはないというより、普通に巨――

と、良からぬ事を考えていた事が、持ち前の直感で感じ取ったのだろう。

――パァンッ!

俺の後ろにいたアリアが、俺の腰に蹴りを入れてきた。イテェッ!

 

「レ~イ~?なーに見てるのかしら~?」

「ナンデモゴザイマセンデアリマス……」

 

後ろに修羅がいると錯覚する程の威圧を発しながら詰め寄ってくるアリアに、後ずさりしながらカタコトで返してしまう。というか痛みが引く感じないんですけど。一体どんだけ強く蹴ってきたんだよ。

……あ。(*´∀`)ノヤァ、零だ(今更)。何か凄く久しぶりに言った気がする。腰を手を当てながら言うことでもないけど。

 

「二人とも何やってるの。漫才の練習?」

「色ボケしてたから突っ込んだという点では間違ってないわ。それよりあの後、あかり達は大丈夫だったの?」

「まあ何とか、って感じかな……あっ。そういえば二人(あて)に荷物が届いてたよ」

「荷物って、机の横に置いてあるその段ボール箱の事か?」

 

そうだよーと肯定を返してきたので、改めて箱を確認する。

そこそこ大きい箱の上部に貼られている送り主を見てみると、『TCA』と書かれている。今度キンジの単位不足を解消する為の任務(クエスト)依頼主(クライアント)だ。

不審なモノではないと分かったので開けてみると、中には服や小物などが色々と入っている。

 

「なにそれ」

 

アリアとシェイも気になったのか箱の中身を覗いてきたため、添付されていた手紙を読み上げる。

 

「カジノ警備の小道具。『来場客の気分を害さない為に、客・店員に変装の上で警備して頂きますようお願いします』だってさ」

「なるほどね。分からないでもないわ。歓楽施設(かんらくしせつ)の警備ではよくあることよ」

「そうだね。せっかく遊びに来ているのに、武偵がうろついていると楽しめないだろうし。マナーみたいなモノだよね」

 

二人の言っている事は当たり前のことだが、とはいえ送られてきた服のサイズが合っていなければ別。その所為(せい)で動きが(にぶ)っても困るので、警備用の被服をもらった時は事前に試着しておくのが武偵の鉄則だ。

というわけで、特にこれからすることも無かった俺とアリアはそれぞれ自分の服を着てみる事にした。お互いの個室で着てくる事にして、面白そうと思ったのか、シェイはアリアについていった。

説明の紙を見ると、それぞれに役割が書いてあり……キンジは『青年IT社長』、俺は『ディーラー』となっている。いや色々突っ込みたいんだが。キンジが社長役とか素人にディーラー(ゲームの進行)やらせる辺りとか。

入っていたこれまたディーラーらしい服――ただし武偵という事を考慮してか、防弾仕様となっている――に着替えてリビングに戻ると。

 

「何よこれ……こんなので人前に出られるわけないじゃない……」

「大丈夫だってアリアちゃん。凄く可愛いよっ!自信持って!」

 

アリアとシェイの声が、個室から聞こえてきた。一方は(うめ)き声の様で、もう一方はかなりテンションが高い。

 

「どうした、アリア。何か問題でもあったか」

 

良くわからない状態であるのは間違いないので、個室の方に声をかける。

 

「ほらっ、アリアちゃん。零君が呼んでるから行って行って!()()は預かっておくからっ!」

「あっ、ちょちょちょっと!ドア開けないでっ――」

 

アリアのテンパる声が聞こえたと同時に、ばんっと勢いよく個室のドアが開く。

そこから押されるように飛び出してきたアリアは俺と目が合うと、ぶわあぁっ……。

相変わらずの高速赤面術で顔を真っ赤にして、自分が今来ている()()()()()()()()服を隠すように腕を縮ませながらしゃがむ。

 

「み、みみ見ないでー!」

 

ぷるぷるるるー!

そのまま背を向けた際に恥ずかしさに震えている毛玉みたいなシッポでも分かるが……アリアは……

()()()()()()、の服を着ていたのである。

……そういえばさっき書いてあったな、役割分担の紙に。というかカジノだから当然バニーガールはいるか。ミミが無いのは恐らくまた俺が暴走する可能性があるからっていうシェイの配慮か。

しかし……アリアのバニーガール姿か。普通にかわいいな。

バニーガールは通常大人のスタイルが良い女性が着るものなので、色々と(身長や胸が)足りていないアリアは色気等は無いモノの、少女らしい可愛さがある。

 

「あっ、背中っ、せ、背中はダメっ!ホントに見ちゃダメッ!」

 

そう言われると自然と見てしまうモノで、アリアのバニーガール服――その背中は大胆にV字に開いていて、白い素肌がほとんど丸出しになっている。

わたっ、わたたっ、とアリアが手で隠そうとしているその背、左側には……

古い、弾痕(だんこん)があるな。

……昔俺とアリアが組んでいた時には、見たことが無かった傷だ。任務途中にでも負傷したのだろうか。

 

「零君っ、あまり見てあげないように。武偵とはいえ、女の子は傷を見られたくないんだよ?」

「あ、ああ。そうだよな。ありがとうシェイ――」

 

扉の奥からシェイに諭されて我に返ったので、感謝して顔を上げた所で、絶句する。

そこにいたのは寝巻姿ではなく――アリアと同じく、バニーガールの姿をしたシェイだった。

 

「いや、何でだよっ!シェイはカジノ警備の任務に参加してないだろっ!何でバニーガールの衣装があるんだよ!」

「えっ……ホントだわっ!?というかさっきまで寝巻のままだったじゃないっ!いつの間に着替えたのよアンタッ!」

「私には『Link』があるからね。前に理子ちゃんから気紛れで衣装貰っていたから、『Link』の中に入れておいたんだ。それと早着替えはアイドルとしての基本だよ」

 

何を渡しているんだよ、あのバカ(理子)は。それを実際に貰って今来ているシェイも大概(たいがい)だが。さっきまで縮こまっていたアリアが即時復帰する位には驚いているぞ。

 

「まあまあ。それは横に置いておいて。どうかな、零君。自分で言うのも何だけど、結構似合っていると思わない?」

 

ぐいっ、と身長差故に下からのぞき込む様に懐に入ってきたシェイに、思わずたじろいでしまう。

武偵アイドルとしての人気に拍車をかけている完璧なスタイルを持っている彼女が、白い雪肌を丸出しにして、更にその大きな胸は下半分しか隠れていない。

その状態で下からのぞき込まれたら、()()()()と見えてしまいそうで……。

 

「――レ・イ・?」

 

ヒエッ。

シェイの後ろにいる為、死角となっているアリアから底冷えする程の威圧を感じ。

ギギギッと何とか首を動かすと。

アリアの手に金色と銀色のガバメントが握られている事が、見たくない光景なのに視認してしまい……。

ジャコッ。

セ、セーフティを外していらっしゃるっ!?ココ寮だけどっ!

 

「風穴ッ!デストロイッ!」

 

バリバリバリバリバリッッッ!

何がトリガーなのか分からないが、アリア自身抑えが聞いてないらしく、問答無用で撃ってきやがった!

超至近距離であることと、何よりアリアの威圧感の所為でロクに武器も構えられず、一目散に窓へと走る。幸い気温が温かい為に窓を開けておいた為に逃げられる……

ヒュンッ――

 

(うおぉぉぉっ!?今掠った!掠ったぞ頬に!)

 

死因が相棒からの誤射(故意)とかシャレになんねぇぞオイ!

何とか維持で弾を避けきり、窓から外へと決死のダイブ。

最後に横目で確認すると、『Link』の中へと逃げているシェイと、弾切れを起こしたのか肩で息をするアリア。そして隣の部屋から何事かと顔を出していた制服姿のキンジに、その奥に何故かいる巫女服姿の白雪が見えて。

ガシャンッ!と東京湾の海面スレスレにある落下防止柵(ぼうしさく)に飛び降り、金網(かなあみ)人型(ひとがた)の凹みを作るのであった。

……いや、ホントに良く生きてるよ。俺。

 

 

 

 

 

ダイブする際にある異変に気付いた俺は、アリアの阿修羅状態が解除されるのを待つついでに……第二()()()へと足を運んでいた。

というのも窓際へと向かう際に、第二女子寮の暗い窓からキラッと反射光――スコープと、それで覗いていた本人が見えた。それも、()()だ。

()()の性格上、さっきのアリアの発砲を教務科(マスターズ)にチクられる事はないと思うが、何故見ていたのかは聞いておきたい。

夜に女子寮になんて、出来れば来たくはなかったのだが。

スコープが見えた位置から最上階の部屋と分かっているので、階段を昇り、問題の部屋の前に立つ。

そしてチャイムを押すが……出ない。中で動いている感じもないので、居留守を使っている訳でも無さそうだ。普通に留守だな。

どうするかなーと思っていると、いきなり膝裏に衝撃をくらい、尻餅をつく。

そして――ペロペロッ。

 

「お、おお?」

 

敵意が無かったのでなされるがままにされていると、白くて大きな動物――

()()()()が、俺の頬を舐めていた。

この銀狼(ぎんろう)、先月に武偵高に侵入してきていたのを追いかけまわしてモフ……捕まえた奴だ。

俺と――狙撃科(スナイプ)麒麟児(きりんじ)()()が。

 

「ハイマキ、やめなさい」

 

そのレキの声が聞こえたので、俺は顔を上げる。

そこでは、武偵高の夏用制服を着たレキがいつもの無表情顔で狼に話しかけていた。

抑揚のないレキ喋りでたしなめられたハイマキは――

わふ、と満足した様に舐めるのを止め。

スリスリと俺の手に頭を摺り寄せてきた。何だこの可愛い大動物。

 

「……」

 

一方レキは日頃からつけたままのヘッドホンを外しすらせず、そのCGみたいに整った顔でボーッとしていた。

手には、買い物に行ってきたのかコンビニ袋を提げたままだ。

 

「……」

 

ええっと、何か喋ってほしいんだが。手持無沙汰(てもちぶさた)でハイマキずっとわしゃわしゃしているんだが……目がキラキラしているって?ナンノコトヤラ。

 

「ええっと、レキ。ちょっと話したい事があって来たんだが」

 

沈黙に耐えかねた俺がそう切り出すと、レキは……すっ、とカードキーでドアを開けた。

そして、俺の目の前にあった部屋に、狙撃銃――()()()()のついたドラグノフSVDを担いだまま、ハイマキを連れて、無言で中に入る。

 

「あ、いや。立ち話でいいんだが……」

 

この時間に女子の部屋に入るのを躊躇ってしまうが、レキは薄暗い奥へと行ってしまう。

本当に……何を考えているか読めないな。でもドアを閉ざされたら、話すことすらできなくなるかもしれない。

そう思った俺は仕方なく、レキの部屋に入っていく。

天井からぶら下がった裸電球に照らし出された室内は――

ビックリするほど、何もない空間だった。

ベッドも、箪笥(たんす)も、テレビもパソコンもない。カーペットや畳すらないから、床も壁もコンクリートがむき出しだ。

狼にハイマキを食べされるトレーが、部屋の隅にあるだけ……

 

(なんだよ……この部屋……)

 

夏なのに、ちょっと寒気を覚えるな。これは。

レキは冷蔵庫も戸棚もないキッチンで、コンビニ袋からカロリーメイトを出していた。

壁際には、同じカロリーメイトの空き箱が幾つか並べてある。

レキはあれしか食わないのか。よく生きているな。

 

「……?」

 

呆気(あっけ)にとられながらも、横にもう一部屋あることに気付く。

ちょっと電気を勝手ながらつけさせてもらうと中には机があり、黒い金床みたいな工具が設置されていた。

これは……銃をメンテナンスする道具だな。それも本格的な物が一式揃っている。

多かれ少なかれ、武偵は自分の銃を自らメンテするものだが――大体は、簡易な整備にとどめる。完全分解整備(オーバーホール)改造(カスタマイズ)といった作業には、プロの手を借りるのが普通だ。武偵高では装備科(アムド)がこれを請け負って、単位か金を貰っている。

だがレキの場合はこの工房を見るに、自分の狙撃銃は何から何まで自分で手入れするらしい。火薬を(はか)天秤(てんびん)まであるところを見るに、銃弾まで自分の手で部品から作っているな。

一流の武偵達の中でも、ここまで徹底する者は、果たしてどのくらいいるのだろうか。

あまりのプロフェッショナルぶりに、なんだかこの部屋はレキの世界――という感じがして、自分が場違いな存在という気さえしてくる。

……とりあえず、用件をすましておくか。

 

「レキ、一つ聞いてもいいか?」

「はい」

「さっき俺の部屋を見ていたよな。ドラグノフのスコープで」

「はい。正確には、零さんとキンジさんの二部屋です」

 

キンジの部屋も見ていたのか。ますます疑問が増えるな。

 

「何で覗いていたのかってのは、教えてくれないのか」

「はい」

 

特に謝罪する素振りも見せずにそう応えたレキは、壁に背に向けて、すとん。

ドラグノフ狙撃銃を杖の様に抱いて……体育座りした。

 

「――話は、それだけですか」

 

短いスカートはいているのにお構いなしで膝を立てるので、俺は目を()らす。

用心深いんだが無防備なんだか分からないな。レキは。

 

「あ……ああ。もう帰るよ。ごめんな、こんな時間に」

「構いません。それとそちらの部屋の電気は、零さんが消していってください。ハイマキ、おいで」

 

ぱちん。レキは座ったまま狙撃銃の先端でスイッチを押し、リビングの電気を消す。

その(かたわ)らにやってきた銀狼(ぎんろう)……ハイマキは伏せて、目を閉じた。

 

「もう電気を消すのか」

「はい、もう就寝の時間です」

「寝るって、その姿勢のままで?」

 

と驚いて聞くと、こくり。

レキは機械仕掛けのように目を閉じつつ、ヘッドホンを外してうなずいた。

 

「もしかして……いつも座って寝てるのか?」

 

こくり。

……マジか。

狙撃手(スナイパー)はストイックだ。どんな悪環境にも耐えて、ターゲットが射程圏内に入ってくるのを待つ――ってのが普通だが、普段からここまでストイックなのは類を見ない。

まるで行住坐臥(ぎょうじゅうざが)、敵に備えているサムライみたいだ。

 

「零さん。私も一つ、いいですか。カジノ警備の仕事をされるそうですか」

「……そうだけど」

「私も、やります」

 

何?なんでレキが?キンジと同じ単位不足――って訳ではないだろう。というかSランク武偵が単位不足な訳がない。

 

「俺よりもキンジに言ってくれ。アイツの依頼(クエスト)だし」

「キンジさんには既に許可を頂いています。白雪さんも一緒にいて、白雪さんも参加するといた言っていました」

 

初耳なんだが。でもそうか、さっきキンジと白雪が一緒にいたのはそういうことか。

 

「じゃあ何で参加するんだ」

 

と尋ねると――

 

「――風を感じるのです。熱く、乾いた、(たと)えようもなく……邪悪な風を……」

 

物のない部屋に、レキならではの透明感のある声が少しだけ響いた――




はい、どうでしたでしょうか。

『(*´∀`)ノヤァ、零だ』。久しぶりに書いたなーと思って最後に書いた日を確認したら。

2016/09/17 10:53

約3年と8ヶ月でした……うっそだろ(驚愕)
後、今回昔みたいにちょいボケ多めに入れたのですが、どっちの方が良いか考えてます。

それでは、ごきげんよう。(*・ω・)ノバイバイ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。