どうして初投稿の頃は一日に3話とか投稿できていたのか、今は不思議で仕方ありません。今は……はい。頑張ります。
まさに外道さんから評価9。
八雲ルイスさんから評価10!
を頂きました!ありがとうございます!
では、第04話、始まります。
(※今回は軽くグロ・ホラー注意です。苦手な方は後半は流し読みかスルーでお願いいたします)
『――あ、あー。テストテスト。おめぇら聴こえてるかー』
『う、うん……』
「こちらも、問題ない」
『うっし。じゃあドブネズミの駆除作業、やりますかー』
耳につけているインカムから、気楽な声と控えめな声が聞こえてくる。どちらも
機械の状態をしっかりと確認した零は、実はすぐ後ろにいたネリーとサイアの方に向き直る。超近距離でのチェックは一見すると無駄に見えるが、この距離で肉声が聞こえないくらいの音を拾えるか確かめるには一概に悪いとは言えない。
「い、意外と聞こえるモノだね……」
「そりゃそうだろ。不良品だったら須郷の野郎をぶっ潰すだけだ」
「須郷さんはここにはいないけど」
「帰ってからに決まってるだろ。いちいちうるせーな、お前」
呑気に話している三人のいる場所は、先程までいたイギリスではなく――アメリカ。今回の任務の目的である、『研究施設の破壊』のため、零の
広い高原の中にポツンと小さく建っている工場に見えるが、地下に巨大な施設を作っているという情報がある。
なお、零の移動速度はマッハ単位であったため、到着してから10分の間、ネリーが放心状態であった。
身体に負担が来ないように零が調整したので問題ないのは確かだが、それはそれ。怖いものは怖いのである。
「じゃまあ、作戦の確認な。基本俺が突っ込んでかき回すから、お前ら二人で資料等のデータの回収及び破棄な。何かあったらインカムで報告。いいな?」
「う、うん……」
「僕は分かったけど……一人で大丈夫?」
「当たり前だろ?それに
「う……」
バッサリと吐き捨てたサイアの言葉に、ネリーの視線が下に向かう。確かにこのメンタルだと、今回の任務に支障が出るだろう。
『裏の研究施設の破壊』と言われたが、実際は『関わっている全ての存在の抹消』、つまり
それを考慮すると、主に資料の破棄を担当する方にネリーを配置するのは妥当であり、なおかつ単独で敵とコンタクトした場合に対処できなくなることを避けるために、零と行動させるというのは悪くない判断である。
初任務の指揮を担当する(勿論自分から名乗り出た)サイアだが、脳筋のようにただ正面突破という考え方にならなかったのは、零にとっては意外だった。
「ということで、潜入するぞ」
「うん。だけど、どう潜入するつもり?排気口でも探すの?」
「あん?そんなめんどくせーことしねーよ」
「じゃあ……」
どうするの、と続けようとした零を尻目に、サイアは正面の扉に近づき……。
――直後、強烈な破壊音を鳴らしながら扉を蹴破った。
ビーッ、ビーッ。とやかましくサイレンが侵入者確認を鳴り響かせる中、サイアはスタスタと中に入り……。
「ほら、さっさと行くぞ」
と、どや顔をかましながら零とネリーに催促する。潜入の『せ』の字もないような行動に、零は数十秒前の思いを改めた。
――やはりコイツ、
「B1F5に侵入者確認っ!直ちに射殺せよっ、爪も残すな!」
「侵入者は一人だけとは限らんっ、各部屋探し回れっ!」
「はあ?侵入者はガキだと!?バカ言ってねぇでさっさと始末しろっ!」
怒号が響き渡り、ドタドタと足音が右往左往する。通信機片手に指示を出し、状況を確認する。
やがて足音が遠くへ行き……完全に聞こえなくなった所で、スッ――。
何も無い所から徐々に姿が見えるようになった、零とネリー。言うまでもなく、零の
「行くよ」
「う、うん」
短いやりとりをかわし、先へと進んでいく二人。というよりは、先に進む零とそれに必死についていくネリーと表現した方が正しいだろうか。
――潜入(という体の正面突破)をした直後、尋常ではないくらいの足音が聞こえてきた。
ここで作戦通りにサイアがかき回す役を担い、零とネリーはなるべく見つからないようにそれぞれ地下へと続く階段を下った。
そのまま最深部まで下ることができれば良かったのだが、階段は侵入者対策なのか、そのフロア毎に違う場所に設置されているようだ。それも各階がとても広く、探すのにも一苦労がいる。
現在零とネリーがいるのは地下3階。サイアは地下一階で奮闘しているらしいので、今の所敵に遭うことはあまり無いだろう。もし遭うことがあるとすれば、階段付近か、もしくは……。
「――いた。恐らくあの部屋に、資料がある」
『D2』と書いてある壁を背に、曲がり角から先の様子を伺う。そこには武装を施した二人の研究者らしき人物が、部屋の横隅で待機していた。
(H&K XM8……明らかに
アサルトライフルの中でも連射・命中制度・耐久性能に優れているモノを、「護身用です」と言い張ることはできない。まず間違いなく、関係者以外を射殺するためのものであろう。
潜伏している以上、サイア以外にも侵入者がいることを悟られてはいけない。故に発砲音や通信機での報告などは許してはいけない。
音を立てず、相手に何もさせない内に行動不能にさせるしかない事態に、他の侵入者は苦戦するだろう。
だが、今の侵入者は、零だ。100メートルを1秒経たずに走り、300kgまで計測できる握力計測器を一瞬で破壊できる零なのだ。複数の
バキッ――ドスッ!
「うん?――ガッ!」
部屋の前で武装していた二人が異音を確認した瞬間、胸部に強い衝撃。思わず後ろに倒れこみ、扉に背中をぶつける。
背中の痛みを気にしつつ何事かと思い、衝撃を食らった胸部を見てみる。するとそこには、包丁のモノであろう、黒いグリップ部分があった。
繰り返すが、
その先にあるべきはずの『刃渡り』部分は、自分達の身体で覆われている。つまる所――刺されているのだ。
「え……なん、で……っ!」
先程までは衝撃があったという感覚でしか無いが、脳が視覚を通して、『刺された』ことを正確に認識する。本来なら強烈な痛みが体を襲うはずなのだが、急な状況の変化に混乱しているため、滲んで流れ出す『血の熱さ』しか感じられない。
熱い。アツい。あつい。
刺されている包丁周りを握ることしかできないパニック状態の者達だが、その耳に何故か、繊細に小さな音が入ってくる。
その音につられて顔を上げると、目の前に侵入者と言うにはあまりにも小さく、しかし無表情で見下ろしてくる存在――零がいたのだ。
その目は、俗に言う『石ころを見るような目』。これが普通の子供なら蹴ったり水切りに使ったりして、多少好奇の視線を向けるだろう。
だが、目の前の幼児は、『普通じゃない』。邪魔だから
その目に恐怖を覚え、通信機で侵入者の確認と救助の要望をしようとした研究者が、ここでようやく気づく。
腰に付けていた通信機が、破壊されているのだ。さらに、XM8のトリガー部分も壊されている。先程聞こえた異音は、この二つの破壊された音だったのだ。
連絡手段を絶たれ、攻撃する為の武器も失った。彼らができることは、目の前の幼児の皮を被った化け物の前に絶望し、今頃やってきた痛みに絶叫するだけ。
だが
一気に喉元に入った所で、腕を止めた。もう叫ぶこともできない。そのまま研究者二人は、帰らぬ人となった。
研究者二人の殺害。命ある者の生を初めて絶った零は、表情を変えることなく、扉の邪魔にならないように死体をどかした。
「ネリー、来ていいよ」
「う、うん……ヒッ!」
曲がり角の所で待機していたネリーが姿を現し、そこにある死体と、返り血を浴びている零を見て恐怖を覚えた。
作戦内容では確かに殺人アリだと聞いていたが、いざ死体を見ると身体が震える。そして、そんな状況でも無表情の零が、信じられなかった。
「どうした?行くよ」
「な、何でそんなにへ、平気なの?」
「……『視えない相手』だから、かな。まぁ、『視える相手』でも殺せるとは思うけど」
「視え、る……視え、ない?」
ネリーの疑問によく分からない受け答えをしながら、扉を開けて部屋に入る。中はファイリングされた資料がズラリと棚に並んでいる。素早くそれらを引き抜いて開き、情報収集を開始する。
「ネリー。『全盲目』って知ってる?」
「『全盲目』……?」
「簡単に言うと、僕は景色が白黒にしか見えないんだ。だからどれがどんな色かなんて、まったく分からない」
「え……?」
ファイルを次々と読み漁っていく零の口から、さらりと深刻な言葉が流れ出てきた。それを聞いたネリーは、思わず持っていたファイルを落とす。
(白黒にしか見えないって……それって、紙に鉛筆だけで書かれたような世界ってこと?)
現在、衣類や雑誌、家具や車。TVなどに鮮やかな色が使われ、それに対して人は好みの色の者を選び、使用する。
十人十色と言われるように、他の色ではなく黒色が好きな人がいれば、白色が好きな人もいる。
だが、それはあくまで他の色が存在している場合である。全てが白色か黒色の物になってしまったら、どうなるのか。
人間は主に視覚から情報を得る、つまり視角から得る娯楽が多い。そしてそれらは小説など一部を除き、色がついている。
結論を言うと、零は大半の情報を手に入れられず、娯楽を楽しめていないということになるのだ。
そう言えば、とネリーは初めて零がきた時に行った、『能力検査』のことを思い出す。
凄まじい成績を叩き出していった零だったが、テニスボールを色によって打ち返すという競技には散々な結果だった。
あの時の須郷は動体視力が悪いのではと判断していたが、実際は色が分からないから、取りあえず打ち返していたということだ。
「そんな……可哀想……」
「そうでもない。そもそも産まれた時から色が分からないから、これが普通だと思ってる」
「……あれ?でも、『視える相手』と『視えない相手』って、何?色が分からなくても、人とかはキチンと見えるはずじゃないの?」
「ああ、それね……」
そこで零はファイルをめくる作業を止め、どこからかペンと真っ白な紙を取り出した。そしてそのまま部屋を出ていったので追いかけると、先程殺害した研究者の死体の前に立ってなにやら書き始めた。
そこでまた怖くなったのか、死体を見ないように後ろを向くネリー。泣かないように必死に堪える。
そこにちょんちょん、と肩を叩かれて、目の前に紙が表れる。零が書き終わったのを背中の方から出してきたようだ。
後ろを振り向くと死体が目に映るのでそのまま受け取り、紙を見る。するとそこには、外枠を線で引いたら人の形になるように、『0』の数字が刻まれていた。
何かの暗号か、それとも情報なのか。確認しようと零の方を向き直るネリーが、気付く。
――零が、見たことのない嘲笑を浮かべていることに。
「面白いでしょ、それ。僕にはあの死体が、
何が可笑しいのか、クスクスと手を口に当てて笑う零。固まるネリーを余所に、零は続ける。
「結構医学的な本を読み漁っていたんだけど、こんな症状なんて前例が無かったよ。『人が0と1の数字に視える』なんてね。でも、普通の人間として視える人もいるんだ。それは白黒の世界だけど、重要な人物や関係が深い人ほど線が太く視えるんだ。それ以外の人は全て数字にしか視えない。それにさっき気付いたけど、死んだ人は――『0』の数字しか視えない」
そこにはいつも無表情の零はいない。子供らしく笑い――されど、子供らしからぬ狂気を纏った者。
「笑っちゃうよね?死んだ人が残すモノは、僕の名前である、『
死体に対しての恐怖が比較にならないくらいに、狂い笑う零は――
『こちらサイア、状況を報告しろー』
『こちら零、有力な情報を手に入れた。これから最深部へ向かう。オーバー』
『まだ行ってなかったのかよ。こっちはひたすらモグラ叩きしてて暇だ。何か面白いことないか?オーバー』
『シューティングゲームにでも切り換えれば?アウト』
――背後から聞こえる悲鳴をBGMに、暢気に通信してくるサイアによって元通りになった。
サイアの返答を待たずに強引に通信を切った零は、再び部屋の中に戻る。そして、恐らく
先程までに情報収集は終了していたため、後は破棄するだけだ。
「ネリー、最深部に向かうよ」
「えっ……あ、うん」
いつも通り無表情の零。先程までの零はどこにいったのか。もしかして、あれが本当の零なのだろうか。
疑問が頭の中を駆け巡るのを感じつつ、それでもネリーは零に置いていかれないよう小走りで追いかけていった――。
はい、どうでしたでしょうか。
取りあえず伏線とも言えぬ伏線が回収できました。これからも地道に頑張っていきたいと思います。
そして、評価者数100件突破!本当にありがとうございます!
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。