緋弾のアリア~Sランクの頂き~   作:鹿田葉月

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65話~『あたしは理子だ!』

――マズい。マズいぞ。

ツゥ……と、背中に冷や汗が流れる感覚を覚える。

 

「どぉしたホームズに遠山ァ、もう降参するのか?最初の威勢はどこに行っちまったんだァ?」

 

――ゲゥゥウアバババハハハハハハ!

色々な声が混ざったような声で笑うブラド。その目は完全に、俺達のことを見下している。

しないわよ!と、ブラドに返すアリアだが……その肩は上下に揺れていて、頬を汗が(つた)っている。

見てわかる通り、状況は最悪。

ブラドは不死であるため、いくら弾丸がブラドの体に埋まっても――数秒後には、ポトポトと排出される。

更に気になるのは――

 

(何やっているんだよ――零ッ!)

 

ランドマークタワーの屋上から、理子に引っ張られていった零の状況が気になる。

理子の制服にはパラシュートにできる機能があるから、死んではいないだろうが……その後がまったく分からない。

BとGは常に周囲を見渡しながら、腰を落とした状態で動かない。完全に、零が戻ってきた所を叩こうとしている――

 

「――戦闘中に余所見とは、随分余裕があるじゃねぇかァ、遠山ァッ!」

「ッ!しまっ――」

 

俺が視線を動かしていた所に、ブラドが前に詰めていた。

その手に握られている数トンはありそうな、5メートル程の携帯基地局アンテナが振るわれようとしている。

バンッ、バァンッ!

アリアが、ブラドの体に45.ACP弾を撃ち込むが……無限の回復力を持つブラドには、足止めにすらならない。

転ぶようにしてブラドが振るうアンテナを避けようとした俺は、それでも金棒に肩を(かす)められた。

 

「――うッ!」

 

ガシュッ――!

それだけで、俺の身体(からだ)は交通事故みたいに吹っ飛んだ。

視界がぐるん、と回転し、自分が宙を舞っていることに気づく。

文字通り、飛ばされた。10メートル、いや、20メートル以上。

何の身動きも取れなかった。なされるがままだった。

ワンバウンドした俺の身体は、屋上の(ふち)を掠めて。

あっ――

と思うヒマもなく。ワイヤーを引っかけるヒマもなく。

296メートルの屋上から、地上めがけて。

落ちる――

 

 

「――おう、どうしたキンジ。こんなところで何してんだ?」

 

ガシッ。

重力以外の抵抗を感じなかった身体が、何かによって後ろに引っ張られている。

その何かとは――

 

「もしかして、(ひも)無しバンジーでもしてたのか?そいつは楽しそうだが、今は止めてくれよ。危うくぶつかるところだったし」

 

バサッと、白く綺麗な羽を広げながら理子を抱えている、紅髪紅目の少年である――

――零だった。

 

「――零ッ!無事だったか!」

「ああ、なんとかな。いやぁマジで、B・G(アイツら)の成長ぶりには驚かされたわ」

 

ヘラヘラと笑いながら旋回し、アリアの近くへと着地する零。

 

「零、大丈夫?」

「おう。時間稼ぎサンキュ、アリア」

「それはいいけど……でもどうするの、この後。牽制のために弾を結構使ったから、残り少ないけど」

「俺の弾倉渡すよ。同じ45.ACP弾だし、同じガバメントだからな。それと――」

 

ぽん、とアリアに弾倉を渡し。

くるりと、いきなりその場で回転した零は……

――フッと、()()()()()()()B()G()に、ゴスッ!

強烈な右のミドルキックを叩きこんで、B・Gを吹き飛ばした。

 

「ッ!『夢物語』が――」

「効いて、ないッ!?」

「どうだ?B・G。『幻映(げんえい)』――『「夢物語」を発動したという「夢物語」』の味は」

「――ッ!?まさか、零さんッ……」

「リミッターが、外れてるッ!?何故ッ!?」

 

吹き飛ばされた場所で、先程から無表情でいたBとGの顔が、驚愕に満ちている。

何故かは分からないが、零のリミッターが外れていることに驚いているようだ。

 

「まったく。何でネリーもお前らも、『座標固定が必要』ってのに気付けたのかどうかは知らんが……その通りだよ。リミッター外す時は、基本動けない」

「だったら、何故……」

「それは……これだよ」

 

そう言って、べぇ。

突然零が出した舌には……緑色の固形物があった。

それ自体は俺達もよく知っている物。

――つまり、ガムだ。

 

「俺のリミッター解除の条件その2……『ガム』だよ。ガム一個あれば、いつでもリミッター外せるぞ?」

「そ……そんな……」

 

零の発した言葉に、驚きを隠せないBとG。

……なんて言っているが、俺も驚いている。

ただでさえ俺のヒステリアモードみたいにデメリットがあるわけでもない、零のリミッターを外した時の状態。

それが今までなら、リミッターを外す時に隙ができていた……ということだったらしい。

だが、そんなことを嘲笑(あざわら)うかのように告げられた、『ガムを噛むだけ』という解除法。

クチッ……。

零が舌を戻し、ガムを一噛み。

 

「さて……リミッターを外し、『夢物語』も完璧に返される。お前らは武器を持たない派の奴らだから、必然的に肉弾戦になるが……それは、俺の得意分野だ。一応聞いとくぞ、B・G――俺に勝てると思うか?」

「「…………」」

 

零に言われた二人は、しばらく黙ったまま(うつむ)き……

 

「「参り、ました……」」

 

スッ――

二人して片膝を地につき、拳を立てた膝と地面につけ、項垂(うなだ)れる。

絶対服従の構え。B・Gは、自らの敗北を認めた。

……おいおい、マジかよ。さっきまで優勢の位置にいたんだぜ、コイツら(BとGは)

それを、零の奴……

 

(さっきの一瞬で、勝負をつけやがった……ッ!)

 

相手のやる気すら、一瞬で削ぎ落とす。

それが、リミッターを外した時の零の姿。

前のサイアとの時は、攻防が速すぎて観れなかったが……今回も、違う意味で観れなかったな。

と、思っていると……ユラリ。

B・Gの方を向いている零の後ろに、巨大な影が揺れる。

そこにいたのは、既にアンテナを振りかぶっている、ブラドだった。

――マズい!あの威力がとんでもないのは、さっき吹っ飛ばされた時に充分に分かっている。

アリアがガバメントをリロードし、理子が零に注意を促そうとするが――それより早く。

 

「ゲゥゥウアバババハハハハハハ!死ねぇ、錐椰ァッ!」

 

下品(げひ)た笑みを浮かべながら、ブラドがアンテナを振りかざす。

――ゴウッ!

その衝撃に、周りにいた俺達にまで影響を及ぼす程の風が吹き荒れた。

 

「――零ッ!」

 

飛ばされないように必死に腰を落としながら、アンテナが振りかざされた所を見る。

そこには――

 

「……ん?どうしたキンジ、何かあったか?」

 

――と、平然とした顔の零が、()()()()()()()()()()()()()()()()()――

 

sideーキンジout

 

 

 

 

 

sideー零

 

ミシッ……。

頭の上にあるアンテナを支えながら、先程俺を呼んだキンジの顔を見る。

なんだよその、『有り得ない者を見た』って言いたげな表情は。こちとら『チート』やら『人外』やら『歩くムリゲー』やら言われてんだぞ。いや最後のは(つづり)先生にしか言われてないが。

見ると、アリアや理子も同じ表情をしている。B・Gは寧ろ当たり前みたいな表情をしていた。そうそう、この感じだよ、この感じ。

 

「な、何故だ……何故貴様は潰れてないんだァ!」

 

っと、なんか上の奴がギャーギャー騒いでいる。相手にするのも説明するのもバカらしいが、まぁ言わなきゃならないだろう。

アンテナを支えている右腕を軸に、くるり。

ブラドに対面して、ため息を一つ。

 

「あのさぁ、リミッター付けている状態でさえ、自分の何倍もの体格のある奴を吹き飛ばしたり、超能力(ステルス)のオンパレードしといて、スタミナ切れすら起こらなかったりする奴なんだぜ?ソイツはさっきBとGになんて言った?『肉弾戦は俺の得意分野』って言ったんだぞ――テメェ(ごと)きじゃ話にならねぇよ」

 

俺がそう言うと、ブラドは頭にきたのだろう、赤く染まっている目をこちらに向けて睨んでいる。

そして、アンテナを引いてもう一度叩こうとするが……俺の手から、アンテナが離れない。

 

「――ふざけるなぁッ!俺様が人間如きに、遅れをとるわけねぇだろうがぁッ!」

 

吠えるように叫んだブラドは、拉致があかないと思ったのだろう。

ぱっ、とアンテナから手を離し、その巨体から繰り出される強力なパンチを放つ。

――あ、バカだコイツ。

残念な思考回路しか持ってないブラドに呆れ果てながら……。

――ブンッ!

ブラドが離したことによって、完全にフリーになったアンテナで、ブラドのパンチを弾く。

そして体勢が崩れたブラドに、先程振るったアンテナを引き戻し――ゴッ、と鈍い音と共に、ブラドの頭に当たる。

頭をやられたブラドは脳震盪(のうしんとう)でも起こしたのか、ドサッと後ろ向きに倒れる。

そこでタンッ、と地面を蹴って跳び上がり――

 

「アデュー♪」

 

ドスッ!

ブラドの腹に、思いっきりアンテナを突き刺し、そしてそのまま屋上のコンクリへと突き刺す。

……これがホントの、『串刺しブラド公』ってか?

 

「ガッ……ォノクソがァッ!」

 

五月蝿いくらいに叫ぶブラドはアンテナを引き抜こうと、両手に力をこめる。

が、抜けない。いくら無限再生があったところで、自分の腹に突き刺さっているアンテナを引き抜くことは出来ないようだ。

さて。本来なら、このまま俺が終わらすところなんだが――

チラリと理子の顔を見てみると、あまりの出来事に放心状態になっている。

 

「理子」

 

近付いて名前を呼ぶと、ハッとした感じで俺の顔を見てくる。

 

「理子。お前が決めろ」

「……え?」

「お前が、ブラドを倒せ。どうせ最後の魔臓の位置知っているんだろ?」

「いや……だって、ここまで追い詰めたのは、レイレイだよ?理子は何も――」

「初代アルセーヌ・リュパンも、双子のジャンヌ・ダルクと戦ったんだろ?なら別に良いだろ。なぁ、アリアとキンジもそう思うだろ?」

 

キョドっている理子を尻目に、後ろにいる二人に声をかける。

すると二人は前に出てきて、それぞれの拳銃――ベレッタM92Fと銀と金のガバメント二丁――を取り出した。

 

「な、なんで……」

「武偵憲章2条と8条。『依頼人との契約は絶対守れ』と『任務は、その裏の裏まで完遂すべし』よ。別にアンタのことなんかちっとも考えてないし」

「俺はそれに、『仲間を信じ、仲間を助けよ(武偵憲章1条)』も加わるけどね。可愛い女性を助けないことなんて、出来るわけないからね」

 

俺から貰った弾倉を入れてコッキングしながら、明後日の方向を向いて言うアリアと、ヒステリアモードが続いているキンジがキザな言葉を述べつつ、グリップの部分で頭をかいている。

そして、チャッ――。

アリアが右肩と右脇腹(みぎわきばら)、キンジが左肩に、それぞれ標準を合わせる。

その様子に、理子は驚いた表情の後、しばらく俯き――

スッと、胸の谷間から超小型銃(デリンジャー)を取り出した。

理子が普段使っている、ワルサーP99を使わないということは――何か理子にとって、思い入れのある物なんだろう。

ブラドに標準を合わせようとしているその顔は怯えていて、腕も震えている。

スッ――

そんな理子の背後に立ち、理子の手を取って一緒に標準を合わせる。

 

「レ、レイレイ……」

「大丈夫だ、理子。なんかあったら、俺が仕留めてやる。だから――頑張れ」

 

なんてことのない、ありきたりな励ましの言葉。

だが、それで理子の震えが――止まった。

 

「四……世ェ……テメェ、こんなことしてただですむと――」

「ぶわぁーか。そんなこと、知ったことじゃねぇよ。それとな、最後に一つ教えてやる――」

 

ブラドの言葉を(さえぎ)り、アカンベーをする理子。その顔にはもう、迷いはない。

 

「撃て」

 

俺の合図によって、アリアとキンジが発砲する。

ビスビスビスッ!

三つの弾丸は、右肩・左肩・右脇腹の目玉模様を撃ち抜き――

 

「――あたしは理子だ!」

 

理子のデリンジャーから放たれた弾丸が、最後まで減らず口を叩いていたブラドの口の中――

その長く分厚いベロの中心にある目玉模様を、綺麗に撃ち抜いたのだった――




はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

終わらせ方を考えている内に、気づけば20日間……待ってくださっている方たちには大変お待たせしてしまいました。申し訳ありません。

うる.さんに評価8。
壁ワロタ(笑)さんに評価8(コメ付)。
ポンポンさんに評価9(コメ付)。

を頂きました、ありがとうございます!
次回はエピローグなので、前書きアリになります。

では、ごきげんよう、(´・ω・`)/~~バイバイ。



Twitter: @rokutadesu1

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