「――よう、B・G。改めて、
「はい、胸を借りるつもりでお願いします」
「あの頃は勝てたことはありませんが、今回は勝たせて頂きます」
夜の横浜ランドマークタワーの屋上。雲の切れ端から月光が差し込む中、一対の双子が俺の目の前に立っている。
これから闘う俺に対して、橙色のボブカットの頭を下げたかと思うと……顔を上げて、空色の目を俺に向けてきた。
――瞬間、BとGの体が、ブレた。
「――ッ!」
すぐにバク転をして、その場から離れた……
――はずなのに、何故か
そのことに気付いた時には、もう遅い。
いつの間にか左にいたBが俺の後頭部を。右にいたGが両足を狙って蹴りを放つ。
どちらかは確実に当たるしかない状況で、頭だけは守ろうとしゃがみ……
直後――ガァゥンッ!
Gの細い足から、ダンプカーに衝突したくらいの衝撃が両足に伝わった。
「グッ……!」
痛みを無視して1度下がろうとするが、BとGがそれを許さない。
これが連撃だとばかりに頭、首元、鳩尾、足を狙ってくる。
頭・首元・鳩尾は勿論急所だし、足を潰せば相手は動けなくなる。必然的に、相手は抵抗できない。
(俺が『GOW』にいた時に教えたこと、そっくりそのままやってきやがって……!)
教えたことをしっかりと実践できていることに感動を覚える間もなく、急所へのガードを余儀なくされる。
カウンターで肘などを入れておきたいが、片方に返そうとすると、もう片方がすぐに攻撃を仕掛けてくる。
(仕方ねぇ、一発もらってもいいから一時離脱する!)
そう決めた俺は防御を止め、Bの攻撃の反動で下がる――
フッ。
はずだったのに、何故か
そして――
「「『
目の前に背中合わせの状態のBとGが現れ――
俺の鳩尾に、的確に掌底を二発同時に入れた。
アリアや俺の持つ
「ガフッ、ゴフッ!」
なんとか受け身を取りながら体勢を立て直し、息を整える。
対するB・Gは『白虎』を放った体勢を崩し、その場で直立するように立っている。
「チッ……お前ら、相変わらず厄介な能力だな」
「零さんにだけは言われたくないですね」
「知るか。それにG、お前また力強くなっただろ。単純な力比べならそこらの奴に負けないだろ」
「確かに強くはなりましたが、まだまだ零さんには勝てません。日々精進しています」
「……本当に、相変わらずだな」
口元を軽く拭いながら、今の状況を確認する。
俺が圧されている理由は、ただ一つ。
(『夢物語』か……本当に厄介な
間違いない。B・Gの
元々、B・Gは夢を操る超能力者。ネリーの『風』やサイアの『水』のようなモノとは違い、一見戦闘には関係ないように見える。
――とんでもない。寧ろ厄介さで言えば、コッチの方が上だ。
人間は性質上、五感から感じたモノが脳に伝達されて、脳がそれに対する信号を送る。脳が人間の全てだと言っても、過言ではないだろう。
そこでもし、夢――つまり、人間が浅い眠りに陥り、夢の中では体を動かしていても、実際の体は動いていない――を意図的に操れるとしたら?
答えは簡単、相手に不利な場合は
先程B・Gの体がブレ、いきなり目の前に現れたのも……夢の中に俺を閉じ込めた後、俺に近付いてきたから、消えたように見えたから。
バク転して離れたはずなのに景色がそのままだったのは……『俺がバク転する』という夢を見させられたためだ。
夢の中なのか、現実なのかが分からない。言ってしまえば、常に幻覚を見せられる能力――一体どうして、『使えない』と言えるだろうか。
(さらに厄介なのは……コイツラ、力強ぇんだよな……)
思わず愚痴りたくなる。
B・Gは華奢な体つきなのに、一発が重い。特にGなんか、『GOW』の中で二番目に力が強い。常に重戦車のような衝撃が与えられるのだ。
だが、いつまでもやられている訳にはいかない。
ユラリ。と両手を脱力させながら、左右に広げる。
『
『リミッターコード・0000Z。全ての超能力及び身体能力のリミッターを解除。リバースランカー・破壊神、再起動開始』
――ピリッ……
空気が張り詰めたような緊張感を
それに伴い、B・Gが再び構えだした。
「やっとですか。リミッターを掛けた零さんは相手にならないので」
「ようやく本気の零さんと闘えるようでなによりです」
「そうかい。じゃ、俺からも一つ言わせてもらうわ――成長したところ、見せてみろ」
「勿論です」
「よろしくお願いいたします」
ペコリ。
先程と同じように頭を下げるB・G。そして……
『さあ、その目に
――BとGの体が、ブレた。
(――先程からの能力使用回数、現れるまでの時間、アイツらとの距離を考えて……ここだ!)
そう思った時に、再び景色が揺れる。
そして目の前には、BとGが。
「
ドンピシャのタイミングで現れたB・Gに向かって、空気を圧縮し、砲弾のようにソレを放つ。
見極められていたことに気付いたB・Gは慌てて左右に緊急回避し、難を逃れる。
だが、そこが狙いだ。こうすれば、両方からの攻撃は来ない。
俺から見て左に避けたBに向かってロー、ミドル、ハイと右足で蹴りを入れる。
一人一人ではSランクの中間くらいのB・Gでは、リミッターを外した俺には遠く及ばない。反撃するチャンスもなく、ひたすら防御に徹するB。
攻撃の連打から抜け出せないBの救助に向かおうと、俺がローキックを入れようとしている時に、Gが逆方向からハイキックを仕掛けてくるが……無駄だ。
「『置換』」
「え……?」
「ガハッ!」
Gの驚いたような声に、Bの思わず出た苦痛の声。
俺を蹴ろうとしていたGのハイキックが、ローキックを防ごうとしていたBの顔面に直撃したのだ。
ズシリと響く突然の攻撃に、なすすべなく吹き飛ばされるB。
「ど、どうして……」
「俺とGの場所を『置き換えた』だけだが?」
「――クッ!」
「遅い。『グラビティ』」
「――ッ!」
ズシィッ……
こちらに振り向こうとしたGの体に、不自然なまでの重力が襲う。
何とか
これでGはしばらく動けない。BもGのハイキックをまともに受けたから、脳がまだ揺れているはずだ。
「――ぃ――ッ――」
チラリとアリアとキンジの方を見ると、キンジがアリアのサポートをしながら、ブラド相手に時間稼ぎをしていた。
よし、よくやってくれた。
「れ――ッ――」
とりあえずキンジ達と合流して、ブラドを倒す。
その前に……理子の所に行くか。もしかしたらブラドの4つ目の魔臓の位置を知っているかもしれないし、最後は自分の手で決めたいだろう。
そう思って、理子がいる所に行く……
「――零ッ!しっかりして、零ッ!」
……あれ?おかしいな、何故だ?
何故、
ユサユサと俺の体を揺すってくる理子。その後ろには、何故か雲に覆われた夜空が見える。
ということは……俺は今、仰向けになって倒れている?何故だ?
状況を確認しようと、体を動かそうとするが……動かない。
鈍い痛みが全身から感じるだけで、まったく動く気配がしない。さらに……
(リミッターが……解除されてないッ!?)
リミッターを外した時特有の少しの浮遊感が、まったくといっていいほど感じられない。
おかしい、確かに外したはずなのに。
――いや、待て。落ち着け。
今俺が考えたことが正しければ――
「
「――その通りです、零さん」
「私達では、リミッターを外した零さん相手だと、
声が聞こえた方向を見ると、ユラ……と景色が揺れ、虚空からBとGが現れた。
――やられた。『夢物語は、攻撃する時には人間の防衛本能が働き、一瞬だけ能力が効かなくなる』なんて昔のデメリットを信じすぎていた。
俺がいなくなってから三年以上経過したんだ。コイツラだって強くなり、デメリットを無くしてしまったんだ……!
マズい。マズいぞ、この状況。
アリアとキンジはブラド相手に時間稼ぎが精一杯。最後の魔臓の位置が分からない以上、トドメを刺すこともできない。
俺の方は、まずリミッターを解除させてもらえない。解除しようとすれば、コイツラが攻撃してくるか、『夢物語』の中に閉じ込められる。
「では、零さん」
「さようなら、です」
現在の状況に気付いた時、BとGが腕を振りかぶり――
「――零ッ!」
――カッ!
俺の体に拳が落とされる前に、辺り一面を光が覆った。
それと同時に、ガシッ。
体を誰かに引っ張られながら走られて、しばらくしてフワッと浮遊感が襲う。
そして何かが擦れる音がした後……バサッと、何かが開く音が聞こえた。
目が光にやられてから、少しずつ見えるようになり、状況を確認する。
俺を引っ張っていたのは……武偵服を改造してパライグライダーにしている、ハニーゴールドの下着姿になっている――理子だ。
俺を落とさないように、俺の両肩に太ももを置いて、脇の下にふくらはぎを巻くようにして曲げている。
「サンキュ、理子。おかげでたすか――」
「逃げよう、レイレイ。このままなら逃げ切れるよ」
俺の言葉を
……なんだって?逃げる?
「アリアとキンジはどうするつもりだ?まだあそこにいるが」
「アリアとキーくんなら、きっと何とかするよ。やっぱりブラドに勝てるはずなんかなかったんだよ……
……アリアとキンジを置いて、逃げる?俺が?
そんなこと――できるわけねぇだろ。
「理子。
「――――」
「それとも自分に自信が無いか?なら俺が言ってやるよ、理子。お前は理子だ。クラスの人気者で、バカみたいに騒いで、可愛いものに目がなくて、でも仕事はキチンとこなす――その実、裏では問題抱えながらも、それに
最後に言葉遊びを加えながらそう伝えると……理子は、かぁ……と、頬を赤らめた。
それは、
そして理子はしばらく黙って……。
――クンッ!
と、パライグライダーを上昇気流へと捉えて――
ほとんど真上ともいえるような角度で、飛び上がった。
「ありがとう、理子」
「ううん……理子も、レイレイに感謝しているんだから。それよりも、どうするの?ブラドだけじゃなくて、B・Gもいるんだし。レイレイがリミッター解除するには、座標固定――つまり、その場から動いたらダメなんでしょ?ネーちゃんが言ってたよ」
「……この前思ってたこと、撤回するわ。やっぱりお喋りだわ、
俺の頭の中で、わざとらしく手の甲を頬に寄せながら笑っているネリーが容易に浮かんだ。
その後ろでサイアが「なんだ、ネリー。
俺は胸元からスッ――と、銀色のフィルムで包まれた、長方形の物を取り出した。
その銀色のフィルムを丁寧に取り外すと……
「……ガム?」
と、理子が怪訝に思ったであろう表情で呟いたとおり、これはガムである。
「何で今、ガムを……」
「――これが、重要なんだよ。今の状況なら」
銀色のフィルムを胸元に戻し、ガムを
突然――ビュウッ!
より一層強い風が吹いてしまい――ガムを手放してしまった。
ヤバいと思って手を伸ばしてとる――前に。
ぱくっ。
両手両足でパラグライダーと俺を掴んでいる理子が――
……あー、えっと。もう一個取り出すか。
そう思った俺が再度、胸元から取り出そうとすると……突然、フワッ。
体が浮く感覚に続いて、重力に引き寄せられる感覚。
そこで理子に足を離されたと思い、辺りを見渡そうとした時。
何故か、理子が目の前にいて――その顔は赤く染まりながら――
「――くふっ♪」
――ちゅ!
と、顔をナナメに傾けたかと思うと、俺に――
――キス。
してきたのだ。
鼻の奥まで忍び込んできた、バニラみたいな息の香り。
シュガーミルクみたいな、キャンディーみたいな、
しかしその幼さとは不釣り合いに、肉感的な女っぽさを
更に――ヌルッ。と、小さな舌を押し込まれ。
コロリ。と、少し
――カチリ。と、俺の中の何かが、外れるような感覚がした――
はいどうも、皆様お久し振りです。
ようやく色々と一段落ついたので、久し振りの投稿です。なんとか緋弾のアリアの新刊が出る前にこの章を終わらせたいですね。
熨斗目花さんに評価1。
コーラスさんに評価1。
とんぬらMk-2さんに評価1。
七伏さんに評価1。
さはらあたまさんに評価2。
yutさんに評価9。
キョポさんに評価9。
黒羽 ファントムさんに評価10!
まどくんさんに評価10!
AinScarletさんに評価10!
を頂きました!ありがとうございます!
一ヶ月の間に評価数が10件であることに驚いたり、やはりこの作品は読者を選んでしまうことを再確認したりすることはありますが、評価を頂けることは本当に嬉しいです。ありがとうございます!
では、ごきげんよう、(´・ω・`)/~~バイバイ。