申し訳ありません、更新遅れました。最近リアルが忙しくて、もしかしたら次回も遅くなるかもしれません。ご了承下さい。
そして感想数100突破!有難うございます!
では、第30話、始まります。
「――グラビティ」
俺がそう告げた瞬間、ドン、といきなりネリーの体が沈んだ。
そこを狙って近づこうとするも――
「カマイタチ!」
ネリーが手を俺に向けたのでバックステップする。
ザシュッ!という音と共にさっきまで俺がいた所に爪痕のようなものが出来た。
そしてネリーが目の前にいるが、俺は
ガキンッ!
と刃と刃がぶつかり合い、俺と
「――剣技!
「――剣技。一式・一章『銀風』」
俺の刀が炎に染まり、ネリーの『風月』の周りに風が纏う。
両者一斉に近づいた瞬間、周りに炎の嵐が巻き起こった。
その衝撃でまたしても両者が離れ、一定の距離が空いた。
その際に今まで受けたダメージがぶり返してきて、少し目が霞んできた。
「……相変わらず、本気出すとテレポートしたかのような速さだな」
「本当に使えるあなたには言われたくないわよ」
「そうかい……ところで、俺も限界が近いから、そろそろ決めさせてもらうぞ」
その瞬間、
――バチバチッ!
俺の周りに赤い、火花のようなものが流れた。それを見たネリーの顔が引きつる。
「……まさか、『破壊神』の象徴たる所以の『赤い雷』を放とうとするんじゃないでしょうね?」
「ああ、そのつもりだが?」
「……洒落にならないわよ。万物を破壊する超能力を、この狭い飛行機の中で使うなんて。飛行機が破壊されて上客全員吹き飛ぶわよ!」
最後の方はかなり焦った声になっている。
「安心しろ、手加減はするさ……ちゃんと受け止めろよ?」
俺は刀を鞘に入れて戻し、腰を落として右手を前に出した。
するとバチバチッと俺の手の中で赤い電流が溜まっていき、球体のような形になる。
「くっ……風よ!『風月』に力を!」
ネリーが叫ぶように言った後、また『風月』の周りに風が纏い、それに呼応するかのように『風月』が鈍く光る。
確か、『風月』は風が吹き荒れる程、その強さを増すって言ってたっけ?まぁでも……
「無駄だ」
そう告げた俺は手のひらをネリーに向ける。
「ああそれと、少し訂正させてもらうぜ」
「……?」
「『赤い雷』じゃない。最近良い二つ名をもらったからな――穿て、『紅電』」
ガゥンッ!
――空間を『紅電』が切り裂き、ネリーの持つ『風月』に激突。
そのまま『風月』はネリーごと『紅電』に呑み込まれ、『紅電』が消えた時には、木っ端微塵になっていた。
さらに持っていたネリーにもダメージがあり、体がマヒして動けないようだ。
かくいう俺も、とうとう限界がきたのかその場で座り込む。こりゃ立てそうにないな。
「……さい、あくね……」
「悪かったな、『風月』を破壊して。大事にして――」
「髪の毛跳ねちゃったじゃない……」
「たもんな……て、髪の方を心配してんのかよ!」
確かに電流を流したのだから髪の毛は跳ねてるが。
「当たり前じゃない!髪は女の命なのよ!」
「今心配することじゃねーだろ!つーか、『風月』のことは良いのかよ!」
「もう一対造ったから問題ないのよ!」
「……さいですか。まぁ、今回俺が勝てたのは狭い空間でコースが読みやすかったからかな?ネリーのスタイルは他方向からの攻撃だから」
「そんなこと言って、広い範囲だったら全方位攻撃使ってくるでしょ?それも手加減なしで」
二人とも何もする気が起こらず、そのまま喋っていると、グラッ、と機体が揺れた。
そのからしばらくして、タッタッタと理子が廊下から走ってきて、こちらを見て驚いた。
見ると、理子の髪がツーサイドアップにしていた部分が無くなっており、ただのロングヘアーになっている。
「ああ、理子ちゃんお帰り」
「ああ、ただいま……じゃないよ!ネーちゃんボロボロじゃん!大丈夫!?」
「大丈夫よ、マヒして動けないけど」
「それ全然大丈夫じゃないよ!」
俺がいるにも関わらず、コントみたいなことをしだす二人。仲が良い様子だな。後今更だがネリー、ネーちゃんってアダ名付けられたのか。
理子は動けないネリーに肩を貸して、そのまま歩き出す。
「良いのか理子、俺にトドメを刺さなくて。俺は今動ける状態じゃないぞ?」
「そんなことしてたら、後ろから来るキーくんに捕まっちゃうからね~……キンジの奴、あの体制から銃弾を切るとは思わなかったぞ……」
最後の方はボソッ、と呟いていたが、しっかり聞こえた。どうやらキンジが銃弾を切ったらしい。
流石ヒステリアモード、マジチート……今何か、お前が言うなって聞こえたぞ。
そのまま理子はバーの片隅に爆弾を貼り付けた。
「狭い飛行機の中――どこへ行こうっていうんだい、仔リスちゃん」
理子が爆弾を貼り付け終えた途端に、キンジが廊下から歩いてきた。キザな発言をしつつ。
「くふっ。キンジ。それ以上は近づかない方がいいよー?」
にい、と理子が白い歯を見せる。
キンジは爆弾に気づいたのだろう、そこで歩みを止める。
「ご存じの通り、『
キンジが歩みを止めたのを見て、理子はスカートをちょこんとつまんで少しだけ持ち上げ、
「ねぇキンジ。この世の天国――イ・ウーに来ない?一人ぐらいならタンデムできるし、連れていってあげられるから。あのね、イ・ウーには――」
理子はその目つきを鋭くしながら、
「
と言った途端、キンジが目を見開き、俺は軽く舌打ちする。
――遠山
それが、キンジの兄さんの名前。勿論武偵
いつも力弱き人々のためにほとんど無償で戦い、どんな悪人にも負けなかった金一さんは、キンジにとっての憧れであり、人生の目標となるヒーローだった。
キンジは最初から武偵を辞めたいと思っていた訳ではない。寧ろ自分から進んで武偵高に進学した。
中学の時のキンジは知らないが、ヒステリアモードのことで酷い目に遭わされたらしいが、それでも前向きに物事を考えていたらしい。
……だが去年の冬、そんなキンジの人生を一変させる出来事が起きた。
日本船籍のクルージング船・アンベリール号が沈没し、乗客一名が行方不明となり、死体も上がらないまま捜索が打ち切られた、不幸な事故だ。
死亡したのは――金一さんだった。
警官の話によれば、乗員・乗客を船から避難させ、そのせいで自分が逃げ遅れたそうだ。
だが、乗客たちからの訴訟を恐れたクルージング・イベント会社、そしてそれに焚き付けられた一部の乗客たちは、事故の後、金一さんを激しく非難した。
ネットで、週刊誌で、そして遺族のキンジに向かって吐かれた罵詈雑言の数々。それによって、金一さんという目標を失ったキンジの心が、完全に折れてしまった。
『武偵なんて、正義の味方なんて、戦って、戦って、傷ついた挙げ句、死体にまで石を投げられる、ろくでもない、損な役回りじゃないか……だから、俺は、武偵を辞めて、普通の人間になるんだ……』
久し振りに会ったキンジの顔が、とても
……そして、俺が
調べていておかしいと思ったのだ。金一さんが逃げ遅れるようなマヌケなことをするはずがない。金一さんは今のキンジがヒステリアモードの時でさえ、勝つことはできないくらいだから。
そして、今の理子の言い方だとどうやら本当らしいな。そして
だが、キンジは兄の名前が出てきたからか、ヒステリアモードなのに怒りを理子にぶつけている。
「……理子、怒らせないでくれ。いいか、次兄さんのことを言ったら、俺は衝動的に
武偵法9条。
武偵は如何なる状況に於いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない。
「あ。それはマズイなー。キンジには武偵のままでいてもらわなきゃ」
理子はウィンクしたかと思うと、両腕で自分を抱きしめるような姿勢を取った。
「零」
「なんだ、ネリー?」
理子の肩を貸りながら、ネリーが俺を見る。
「一応教えといてあげるわ。イ・ウーに雇われたのは私だけじゃない。『リバースランカー』の溜まり場――『GOW』が雇われているわよ」
「……そうか」
嫌なことを聞いたもんだ。ということは、またすぐにでも事件が起きるってことか。
「だから、その時は全力で戦いなさいよ?リミッターかけてるあなたなんか、すぐに負けるわよ?」
「……肝に命じておくよ」
「あとそれと……」
まぁその時はその時、だな……てかまだあるのかよ。どうせ
「――
――ッ!
「じゃあ、バイバイ」
俺が驚いている間にネリーが手を振る。そして……
ドゥッッッッ!!!
いきなり、背後に仕掛けていた爆弾を爆発させた。
壁に丸く穴が開き、理子とネリーはその穴から機外に飛び出ていった。パラシュートも無しで。
「りっ……」
理子! とキンジが叫ぼうとしたが、できない。
室内の空気が一気に引きずり出されるようにして、窓に向かって吹き荒れる。
機内に警報が鳴り響き、天井から酸素マスクや消火剤やシリコンのシートがばらまかれた。
トリモチのようなそのシートは空中でベタベタとお互い引っ付き合い、穴に蜘蛛の巣を張るようにして詰まっていく。
窓に近いところで座っていたから外が見れたが、理子が背中のリボンを解くと、あのゴスロリ制服が不恰好なパラシュートになっていく。
最後に見えたのは、下着姿になった理子とそれに引っ付いているネリーがこっちに手を振りながら雲間に消えていく姿だった。
「おい!零!」
「なんだ、キン――ッ!」
その、理子とネリーと入れ違いに――
この飛行機めがけて、雲間から冗談のような速度で飛来する2つの光があった。
――マジかよ……ミサイルだと!?
ドドオオオオオオンッッッ!
轟音と共に、今までで一番激しい振動が機内を襲った。
「――チッ……やられた……マズいな」
俺はすぐさまANA600便の翼を確認し、舌打ちした。
翼は2基ずつある左右のジェットエンジンのうち、内側を一基ずつ破壊されていた。外側にある残りの2基は無事だが……
「零、一体何がマズいんだ?見たところエンジンは2基無事のようだが……」
「破壊された所が問題なんだよ。B737ー350の機体側のエンジンは燃料系の門も兼ねている。分かりやすく言うと、燃料漏れで止める方法がない。フライト時間から考えて、後20分で墜落する」
「なっ……」
「急いで操縦室に向かわないと……」
そう言って俺は立とうとするが、まったく力が入らない。それどころか、さっきよりも意識が朦朧とし、目が霞んでいる。
「グッ……」
「零、大丈夫か!?」
俺に肩を貸そうとしてくるキンジだが、俺はそれを手で制する。
「キンジ……3分だ」
「は?」
「3分で、着陸の仕方を教える。俺はもう、何も出来ない。アリアもセスナくらいしか飛ばしたことないから、旅客機の着陸方法なんて知らない。だからしっかりとその頭に叩き込んで、近くの空港に着陸しろ。ついでに剛気と連絡しておけ」
「零……でも」
「時間がない!狼狽えるな!」
「……分かった」
「というところだ……どうだ?」
「……ああ。しっかり覚えた」
「良し。なら行ってこい。俺はここで、少し早めに休んでいるよ」
「ああ。ゆっくり休んでくれ」
そう言った後、キンジが去っていった。
「……
俺はもう一度、ペンダントを取り出して開ける。
――中には、美しい景色を背景に、今より背が低い俺と、その俺の腕に抱きついている少女がいた。
「……今、どこにいるんだ……」
そして目の前が暗くなり、俺は意識を失った――
どうでしたでしょうか?
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それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ