ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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心の氷

「よし……なんとか、左腕が動くようになった……」

 

「良かったです、先輩」

 

左腕の調子を確かめた明久の言葉に、雪菜は安堵の言葉を漏らした

雪菜の血を吸ったことで、回復力が上げられた結果だった

 

「さて、結瞳ちゃんを見つけないと」

 

「はい、そうですね」

 

ヨダカの中に結瞳が居なかったのは、既に確認済み

ならば、レヴィアタンの中に居る

しかも、ヨダカ内部の残留魔力を考えると、まだ近くに居ることは明白だった

 

「さて……後は、何処に居るかだけど……」

 

「それは……つっ! 先輩!」

 

雪菜が声を上げたと同時に、明久は電撃を周囲に放っていた

その理由は、壁に開いた穴から射出された生態式の針だった

針は高速で迫ったものの、明久から放たれた電撃で全て迎撃された

そして二人は、ある気配の方に顔を向けた

その先に居たのは

 

「あーあ……ここまで来ちゃったんだ……」

 

夢魔としての結瞳

リリスだった

 

「こんな所まで来るなんて、とんだ変態だよね、明久さんって」

 

とリリスが妖艶に言うが、明久は深々と溜め息を吐いて

 

「下手な演技してないで、帰るよ。結瞳ちゃん」

 

と言った

その直後、結瞳の体がビクリと震えて

 

「……なんで、分かったんですか?」

 

と問い掛けてきた

すると、明久は

 

「リリスは、僕のことを第四真祖としか呼んでなかったし、何よりも……さっき、さん付けしてたし」

 

と指摘した

しかし結瞳は、首を振って

 

「ダメなんです……私は、戻れないんです……」

 

と言って、語り始めた

なぜ結瞳が、リリスの力を得たのか

世界最強の夢魔、リリス

それの正体は、精神体の魔族だったのだ

恐らく、最初は体が有ったのだろう

しかしリリスは、今は失われた魔術で精神体のみで転生する術を編み出した

それによりリリスは、転生した個体の肉体が死んだ場合、次の肉体に転生するようになった

勿論、無条件で転生出来るわけではない

転生するには、幾らかの条件がある筈である

その条件に、結瞳は適合した

適合してしまった

そうして結瞳がリリスの力を得たのは、まだ物心が付いたばかりの頃だった

それにより、結瞳は周囲から虐められるようになってしまい、最初は虐めてきた子供達が昏睡

次は、そんな結瞳を討伐しようとしてきた無免許降魔官を

そして滔々、両親すら昏睡させてしまった

そうして、膨大な人数を昏睡させてしまった結瞳は、親戚中をたらい回しにされた

なお、未だに両親を含めた殆どが目覚めておらず、その事実と罪悪感が、莉瑠という人格を作り出した

それ自体、彼女を非難することは出来ないだろう

幼い彼女には、重すぎたのだ

そんなある日、クスキエリゼと太史局だった

クスキエリゼは、当時は居るか定かではなかったレヴィアタンを支配するために

そして太史局、結瞳に死に場所を与えた

レヴィアタン内部で死ねば、リリスは二度と転生出来ないと

それを聞いた結瞳は、ある覚悟を決めた

それが

 

「私の代で、リリスを終わらせます! そうすれば、もう私のようなことを経験する人は居なくなります!」

 

自分を、人柱にすることだった

世界最強にして最古の生態兵器、レヴィアタン

その内部で結瞳が死ぬと、リリスはレヴィアタンの展開している様々な障壁により、外に出ることは出来ず、長い年月が掛かるが、魔力に分解されて、レヴィアタンに吸収される

それを知った結瞳は、太史局が何を考えているのかも聞かずに、太史局に協力することにした

 

「だから、私は……!」

 

と言った結瞳は、俯いていた顔を上げた

すると目の前には、明久が居て

 

「ちぇいさ」

 

と結瞳の額に、デコピンを放っていた

 

「あ痛っ」

 

「先輩!?」

 

まさかデコピンされるとは思わず、結瞳は額を押さえながら明久を見た

すると、明久は

 

「子供が、そんな決意しないの。それに、僕はどうなのさ? 僕なんて、世界最強にして不死の第四真祖だよ? 居ること事態が、災害扱いされてる」

 

と語り始めた

 

「確かに、結瞳ちゃんは今まで辛い経験をしてきたんだろうね。僕には、想像出来ないほどに……けど、だったらさ……これから幸せにならないと嘘でしょ。ようするに、今までが長い長いプロローグだったんだ……結瞳ちゃんにとって、長いプロローグだった……ならさ、ここから始めようよ。結瞳ちゃんの物語をさ」

 

明久はそう言って、結瞳に手を差し伸べて

 

「居場所が無いなら、絃神島においでよ。もしかしたら、その夢魔の力……なんとか出来るかもしれないよ?」

 

と言った

それを聞いた結瞳は、涙を流しながら

 

「私……居ていいんですか? 生きて……いいんですか?」

 

と明久に問い掛けた

すると、明久だけでなく雪菜も

 

「生きていいに決まってる」

 

「そうですよ、結瞳ちゃん」

 

と、結瞳に手を差し伸べた

それを聞いた結瞳は、二人に抱きついたのだった


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