ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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交戦と死

明久が戻ると、雪菜は近寄り

 

「どうでした?」

 

と問い掛けた

 

「島内にロタリンギアの会社は無いね。有ったとしても、既に撤退してた」

 

明久が浅葱から得た情報を説明すると、雪菜は顎に手を当てて

 

「だったら、獅子王機関に問い合わせて、ロタリンギア系の教会などを教えてもらいましょう」

 

と言った

 

だが、明久は首を振って

 

「その企業跡に行ってみよ」

 

と言った

 

「どうしてですか?」

 

雪菜が問いかけると、明久は人差し指を立てて

 

「テレビや漫画だと、表向きは機能停止してるけど実際は稼働してて使える。ってパターンが有ってね。まあ、もしかしたら居るかもよ? って位だね」

 

と言った

 

明久の言葉を聞いて、雪菜は驚いた様子で

 

「驚きました……先輩がそこまで機転が回るなんて」

 

「そこはかとなく馬鹿にしてないかな?」

 

雪菜の言葉を聞いて、明久は思わずそう言った

 

しかし、雪菜は明久の言葉を聞き流して

 

「それで、場所はどこなんですか?」

 

と明久に問い掛けた

 

明久はため息を吐くと、後頭部を掻いてから

 

「アイランド・イーストの旧製薬会社跡」

 

と告げた

 

数十分後、明久と雪菜は件の製薬会社跡に来ていた

 

しかし、見た感じでは如何にも使われてません

 

といった感じで、窓ガラスも所々割れており、何よりもドアを鎖と南京錠で閉められていた

 

その光景を見て、明久は腕組みして

 

「うーん……ここじゃなかったか」

 

と半ば諦めた様子に、明久は呟いた

 

だが、雪菜は槍を取り出すとドアに近づいて

 

「いえ、先輩。当たりです」

 

と言うと、槍の切っ先でドアを軽く刺した

 

その直後、キィンというガラスを引っ掻いたような音が響き渡って、景色が変わった

 

先ほどまで閉まっていたドアが、開いていた

 

「これは……」

 

明久が驚きで固まっていると、雪菜は呆れた様子で

 

「初歩的な幻術ですよ、先輩。魔力を感じなかったんですか?」

 

と明久に視線を向けた

 

「あのね、前にも言ったと思うけどさ。僕は春先までは、一般人だったん……って、聞いてないね」

 

明久が抗議するが、雪菜は無視して中に入っていき、明久も後を追って中に入った

 

やはり廃墟だったのだろう

 

そこかしこに薬剤の瓶やら、何らかの器具などが転がっている

 

さらに進むと、割れたガラス容器

 

培養槽が見えた

 

「培養槽……? 何に使ってたんでしょうか……」

 

人造人間(ホムンクルス)だよ。確か、治験に使う為に一部の企業が使ってるらしいよ」

 

雪菜の疑問に対して、明久はウロ覚えながら答えた

 

聖域条約が結ばれてから、人造人間技術とクローニング技術が発達した

 

だが、倫理的問題とコスト的問題から人造人間技術が生き残った

 

だが、それでも色々な問題が有って広くは普及しなかった

 

だが、それでも製薬系の企業にとっては大助かりだった

 

新しい薬の治験などに、一般人を使う必要が無かったからである

 

そして、先日襲撃してきたルードルフが連れていたのは、人造人間の少女だと雪菜は明久に教えていた

 

そして奥へと進んでいると、稼働している設備があり、その設備の中に不思議の生物が浮いているのを見つけた

 

一つは腕が四本ある猿で、また一つは上半身が女性で下半身が魚のような見た目の生物だった

 

それらは全て、自然界には存在しない筈の生物だった

 

「これは……」

 

雪菜は呆然とした様子で培養槽に触れるが、明久はギリッと歯を鳴らした

 

ルードルフが何をしたのか、わかってしまったからである

 

その時だった

 

「警告します……」

 

という声が聞こえて、明久と雪菜は振り向いた

 

そこに居たのは、手術衣のような服を着た少女

 

アスタルテだった

 

「先輩、見ちゃダメです!」

 

「はへ?」

 

雪菜の言葉の意図が分からす、明久はマヌケな声を漏らした

 

だが、雪菜の言葉の意味を察した

 

よく見たら、アスタルテは濡れており、着ている手術衣は透けていたのだ

 

「先輩……」

 

「今回は偶然でしょ!?」

 

雪菜がジト目で睨みつけると、明久は叫んでからアスタルテに視線を向けた

 

「警告します……今すぐ、この島より退避して下さい」

 

アスタルテのその言葉に、明久は眉をひそめた

 

「どういうこと?」

 

明久が問いかけると、アスタルテは無機質な声で

 

「この島は、龍脈の交差する南海に浮かぶ儚き仮初めの大地。要を失えば、滅びるのみ……」

 

「え?」

 

アスタルテの詩的な言葉に、雪菜は驚きの声を漏らして、明久は訳が分からすに首を傾げた

 

その時、アスタルテの背後に大柄な男

 

ルードルフが現れた

 

「……然様。我らの望みは、要とした祀られし不朽の至宝。そして今や、その宿願を叶える力を得ました。獅子王機関の剣巫よ、貴方のおかげです」

 

身構えていた雪菜に対して、ルードルフは斧を向けながらそう言った

 

ルードルフの言葉に雪菜は困惑していたが、明久は拳を握りしめながら

 

「力を得た……だって……? それはもしかして、その子の体内に埋め込んだヤツのこと?」

 

「先輩?」

 

初めて聞いた怒りが滲んだ声に、雪菜は動揺して明久を見た

 

明久は雪菜の前に出て、怒りが籠もった目でルードルフを睨んだ

 

だが、ルードルフはそんな明久を無関心に見ながら

 

「気付きましたか。さすがは第四真祖と言っておきましょう。しかし、もはや貴方といえども、私たちの敵ではありません。我らの前に障害はなし」

 

「ふっざけるなぁぁぁぁぁ!!」

 

ルードルフの言葉を聞いて、明久は怒りの雄叫びを上げた

 

それと同時に、明久の怒りに呼応して、明久の全身から電流が溢れ出した

 

「先輩!?」

 

明久から溢れ出した魔力と電流に、雪菜は驚愕した

 

だが、明久はそんな雪菜に気づかず、ルードルフを睨んで

 

「アンタ、その子に眷獣を植え付けたな!?」

 

と怒鳴った

 

「え!?」

 

明久の言葉を聞いて、雪菜は視線をアスタルテに向けた

 

そして、周囲の培養槽の中で浮かんでいる異形の生物達を

 

それらは全て、人造人間に眷獣を寄生させた成れの果てだったのだ

 

「如何にもその通り! 自らの血の中に、眷属たる獣を従えるのは吸血鬼のみ。ですが私は、捕獲した孵化前の眷獣を寄生させることによって、眷獣を宿した人造人間を生み出すことに成功したのです……成功例は、そこに居るアスタルテだけですが」

 

「黙れぇぇ!」

 

傲然とした態度のルードルフに、明久は怒鳴った

 

「どうして吸血鬼以外に眷獣を使役出来る魔族が居ないのか、アンタだって知らないわけないでしょ!? 分かっててそんなことをやったのか!?」

 

明久が怒りを露わにするが、ルードルフは受け流して

 

「もちろんですとも。眷獣は実体化する際に、凄まじい勢いで宿主の生命を喰らう。それを飼い慣らせるのは、無限の負の生命力を持つ吸血鬼だけだと言いたいのでしょう?」

 

「だったら、その子は……」

 

ルードルフの説明を聞いて、雪菜は信じらんないといった表情でアスタルテを見た

 

「ロドダクテュロスを宿している限り、残りの寿命はそう長くないでしょう。保ってせいぜい二週間といったところでしょうか。これでも倒した魔族を喰らって、ずいぶんと引き延ばしたのですがね……しかし、私たちの目的を果たすためには十分です」

 

ルードルフの言葉に、明久は怒りで言葉を無くした

 

だが、明久の代わりに雪菜が自身の想像に怯えるように

 

「魔族を……喰ったって……まさか、この島で魔族を襲っていたのは……」

 

と途切れ途切れに、言葉を紡いだ

 

「そう。一つは、彼らの魔力を眷獣の生き餌にするためでした。そしてもう一つの理由は、アスタルテに刻印した術式を完成させるために……獅子王機関の剣巫よ、その槍を持つ貴方との戦いは、素晴らしく貴重なサンプルになりました」

 

ルードルフのその言葉に、雪菜は肩を震わせて

 

「そんなことの……そんなことの為だけに、その子を育てていたんですか、あなたは!? まるで彼女を道具みたいに!」

 

雪菜の怒りの言葉に、ルードルフは愉快そうに笑みを浮かべて

 

「なぜ憤るのですか、剣巫よ? 貴方もまた獅子王機関によって育てられた道具ではありませんか?」

 

「……それはっ……!」

 

ルードルフの言葉に、雪菜は息を呑んだ

 

「不要な赤子を金で買い取って、ただひたすらに魔族に対抗するための技術を仕込む。そして戦場に送り出す。まるで、使い捨ての道具のように……それが獅子王機関のやり口なのでしょう? 剣巫よ、その歳で、それほどの攻魔の術を手に入れるために、貴方はなにを犠牲に捧げたのです?」

 

ルードルフのその言葉は、雪菜の心を深く抉った

 

雪菜は無言で唇を噛み締めて、槍を握り締めた

 

雪菜が顔面蒼白で俯いていると、明久がルードルフを睨み付けて

 

「黙れよ、アンタ……」

 

と呟くように言うが、ルードルフは表情を変えずに

 

「道具として作り出したものを道具として使う私と、神の祝福を受けて生まれた人を道具のように貶める貴方達。いずれが、罪深き存在でしょうか?」

 

「黙れって言ってるだろうが、腐れ神父(ボウズ)がぁぁぁ!!」

 

怒りで明久が咆哮した直後、明久を包んでいた雷光が青白い光に変わった

 

特に、握り締めた左手を濃密な雷光を放っていた

 

ありふれた高校生だった筈の明久の姿が、撒き散らされた濃密な魔力によって何倍にも膨れ上がっている程に錯覚した

 

それは、明久が初めてみせた吸血鬼としての権能だった

 

自らの身体を媒介にして、眷獣の一部を実体化させたのだ

 

「先輩!?」

 

先ほどよりも濃密な魔力に雪菜は驚愕し、ルードルフは斧を構えた

 

「ほう……眷獣の魔力が、宿主の怒りに呼応しているのですか……これが第四真祖の力……いいでしょう……アスタルテ! 彼らに慈悲を!」

 

「……命令受諾(アクセプト)

 

創造主たる殲教師の命令に従い、人造人間の少女は明久の前に立ちはだかった

 

アスタルテの小さい身体から、巨大な眷獣がまるで陽炎のように姿を現した

 

虹色に輝く半透明の巨体

 

今はもはや腕だけでなく、ほぼ全身が出現していた

 

体長は約五メートル

 

全身を分厚い肉の鎧で覆った、顔のないゴーレムだった

 

宿主である少女を身体の中に取り込み、人型の眷獣が咆哮した

 

「君も大人しく、従ってるんじゃなーい!」

 

明久は雷撃を纏った拳で、そのゴーレムに殴りかかった

 

ほんの僅かに漏れた程度とはいえ、その雷撃は第四真祖の眷獣の力だ

 

まともに喰らったら、普通は消し炭になるだろう

 

「ダメです、先輩!」

 

明久が飛びかかった直後、雪菜は思わず叫んでいた

 

だが、次の瞬間に吹き飛んでいたのは、明久だった

 

「がっ……あ!」

 

吹き飛んだ明久の肉体は、まるでボールのように二度三度と床を跳ねた

 

倒れた明久の身体から、白い蒸気と肉の焼ける臭いが雪菜の下まで来た

 

その姿はまるで、雷に打たれたような

 

自身の魔力に焼かれたような姿だった

 

「先輩っ!」

 

倒れた明久を庇うために、雪菜はアスタルテへと突撃した

 

解放された雪菜の呪力に反応して、槍の穂先が青白い光に包まれた

 

真祖の眷獣すら滅ぼす降魔の光

 

いかなる魔族の権能をもってしても、この槍の一撃は防げない

 

その筈だった

 

「雪霞狼が……止められた!?」

 

雪菜の一撃が、完全に体表で止まっていた

 

前の一撃は、僅かとはいえ突き刺さったのに

 

しかも、前に起こっていた共鳴が更に強くなっていた

 

「まさか!?」

 

「そうです、剣巫よ。魔力を無効化し、あらゆる結界を切り裂く神格振動波駆動術式……世界で唯一、獅子王機関が実用化に成功していた、対魔族戦闘の切り札を完成させました。貴方との戦闘データを参考に、ようやく完成させました」

 

ルードルフの満足そうな笑い声に、雪菜は激しく動揺した

 

ルードルフが求めていたのは、神格振動波駆動術式だったのだ

 

そして、ルードルフ達は雪菜と戦ったことで、世界で唯一神格振動波駆動術式を実用化した雪霞狼と戦ったことで、詳細なデータを得てしまったのだ

 

「そんな……わたしのせいで……」

 

ルードルフに機密事項たる神格振動波駆動術式のデータを渡してしまったことを、自分のミスと思い、雪菜は戦意を喪失

 

その結果、雪菜はダラリと槍を下ろした

 

そんな雪菜を見て、ルードルフは斧を高々と掲げて

 

「さらばだ、娘。獅子王機関の憐れな傀儡よ……せめて、魔族ではなく、人である我が手にかかって死になさい」

 

「……っ! しまっ!」

 

戦意を喪失し、意識を乱していた雪菜は、ルードルフの攻撃に対処するのが遅れた

 

ルードルフも降魔官の一人である

 

その攻撃速度は、人の域を超えていた

 

もはや迎撃も間に合わず、回避すら間に合わない

 

ルードルフの振り下ろした刃が雪菜に迫った直後、雪菜の身体を鈍い衝撃が襲った

 

そして、雪菜の顔に生温い液体が掛かった

 

それは、赤い液体

 

つまりは、血だった

 

だが、それは雪菜の血ではない

 

その血は、雪菜の目前にてルードルフの刃が胸部まで食い込んだ明久のものだった

 

「……ガハッ!」

 

「……先……輩?」

 

明久が口から血を吐き出すと、雪菜は呆然とした

 

目の前の光景を信じたくなくて、雪菜は首を左右に振った

 

ルードルフはその光景を見ても、無表情なままだった

 

「……ふんっ」

 

そして、明久に食い込んでいた斧に更に力を加えた

 

「ガアァァァ!?」

 

「先輩!」

 

ルードルフが力を込めた斧は明久の身体を切り裂き、明久は血を大量に吐き出しながら前に倒れ、雪菜は明久を受け止めた

 

だが、ブチブチという音がして、雪菜の腕の中に残ったのは、明久の頭だけだった

 

明久の身体は雪菜の眼前で、二つに切り裂かれていて、腕の中の明久の頭の瞳は光を無くしていた

 

「先輩……? そんな……嫌……嫌あぁぁぁぁ!!」

 

雪菜は明久が死んだのを信じたくなくて、明久の頭を抱き締めながら泣き叫んだ

 

ルードルフはそんな雪菜を見て、再び斧を振り上げるが数秒すると下ろして

 

「行きますよ、アスタルテ……いよいよ、我らの至宝を取り戻すのです!」

 

と雪菜に背を向けた

 

「……命令受諾(アクセプト)……」

 

アスタルテは機械質的に返答すると、雪菜に顔を向けた

 

その顔はまるで、雪菜に早く逃げてと言っているようだった


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