「……騙された……」
と呟いたのは、鉄板で焼そばを作っていた明久だ
そこに
「はい！ 焼そば二つとアイスティー二つですね！ １４００円になります！」
と声が聞こえた
接客しているのは、明久とお揃いのＴシャツを着た浅葱だった
今二人が居るのは、リゾート施設
ブルーエリジアム、プールエリアの出店だった
「明久！」
「はいよ！」
浅葱の呼び掛けに答えながら、明久は出来立ての焼そばを紙皿に盛って
「お待たせしました！ 特製焼そばです！」
とカウンター越しに、二人のお客に手渡した
その後に、浅葱が
「こちら、アイスティーです！ お待たせしました！」
と手渡した
なぜ、二人がブルーエリジアムでこんなことをしているのか
それは、このブルーエリジアムに到着し、基樹に案内されたロッジに荷物を置いた直後のことだった
そこに、ブルーエリジアムスタッフのＴシャツを着た一人の女性が来て
『お、その二人が例の助っ人だね？』
と言った
それを聞いた二人が、首を傾げていると
『はい、コキ使ってください』
と基樹が言った
それを聞いた二人が、基樹に迫ると基樹は
『いや、実はな……本来予定してたスタッフ二人が、怪我してこれなくなったんだ』
と語った
つまり、明久と浅葱はその二人の代わりに働くことになったのだ
本人達の同意無しに
しかも、あれよあれよと二人は水着に着替えさせられて、スタッフＴシャツを手渡されて、屋台で働くことになっていたのだ
なお、雪菜と凪沙は観光に回っている
基樹曰く、中学生を働かせる訳にはいかないとのこと
それには、明久とて同意である
しかし、やはり納得出来なかった
そして、一段落すると
「やられたわね……もう少し、疑うべきだったわ」
と言いながら、浅葱が近寄ってきた
それに同意するように頷き、明久は
「帰ったら、基樹をシバく……」
と呟いた
その発案に、浅葱は同意
そこに、明久と浅葱を連れてきた女性スタッフが来て
「いやぁ、モッ君の言った通り。中々やるわね。あんた達」
と快活に笑った
「モッ君？」
「そ。基樹だから、モッ君。あの子とは、昔馴染みなのよ」
明久の問い掛けに、その女性スタッフはそう答えた
それを聞いた明久と浅葱は、顔を見合わせて
（弄るネタ、ゲット！）
と親指を立てた
すると、その女性スタッフが
「あ、そうだ。これを、監視所の
と明久に、岡持ちを手渡した
然り気無く、配達先の客を罵倒していたが、明久はスルー
「わかりました。場所は……ああ、ここですか」
と言いながら、到着した時に渡された端末で確認した
「ん、じゃあ、お願いねー」
女性と浅葱に見送られて、明久は配達に向かった
だが、かなり遠かった
歩いて、３０分は掛かっている
「あの人……自分が行きたくなかっただけだ、絶対」
明久はそう確信しながら、監視所のドアをノックして
「すいません！ 注文された品をお持ちしました！」
と言った
すると、中から見事な筋肉と日焼けした男性が出てきて
「おお！ ありがとう！ ところで、君……中々の筋肉だね？ 一緒に、働かないか？」
と言いながら、ボディビルのようなポーズをした
それを聞いて、明久は
「いえ、遠慮します」
と拒否した
その時、受け付けで
「あ……すいません、知り合いの人が来たので、失礼します」
と声が聞こえた
そして明久は、視界の端で受け付けに立っている別のライフセーバーに、頭を下げている少女に気がついた
その少女を見て、明久は
（しっかりした子だなぁ……小学五年生位かな？）
と内心で首を傾げた
その後、お代を貰った明久は、屋台まで戻った
すると、浅葱が
「遅い！」
と怒声を張り上げた
それを聞いて、明久は
「遠かったんだから、仕方ないでしょ！？」
と反論した
その反論を聞き流した浅葱は、明久の背後を見て
「で、その子はどうしたのよ」
と言った
「はい？」
その問い掛けに、明久は後ろを見た
そこには、あの監視所に居た少女が居た
これが、この事件の幕開けだった