ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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正体

「つっ……まさか、海上にまで追い掛けてくるなんて……!」

 

と言ったのは、操舵室の惨劇を目の当たりにした雪菜だった

操舵室内には、無惨にも惨殺された操舵手や航海士達の遺体が転がっていた

しかも、自働航法装置は破壊されている

確かに気付けば、船の進みが遅くなっている

 

「……仕方ありません」

 

雪菜は一人呟くと、荷物が置いてある大広間に向かった

そこでは、他の学生達がトランプをしたり寝ていたりしている

雪菜その荷物の中から、あるものを取り出した

すると、トイレから戻ってきたらしい凪沙が

 

「雪菜ちゃん。何かあったの? 先生達も、なんかピリピリしてるし……」

 

と問い掛けてきた

すると雪菜は、取り出した物を制服の裾に隠して

 

「大丈夫だよ、凪沙ちゃん」

 

と言うと、その大広間から離れた

そして少しすると、一気に駆け出した

目指すは、適度な広さの空間

車収容所だった

そこには本土に輸送するためか、数台の絃神島製の車が駐車されていた

雪菜はその影に隠れながら、周囲を見回した

そこに

 

「やっぱり居たね、獅子王機関の剣巫」

 

と頭上の通気孔から、まるでスライムのように汞が現れた

 

「天塚汞!!」

 

雪菜はバックステップで距離を取ると、裾の中から持ってきた物

一対のナイフを構えた

 

「タダのナイフで、戦えるのかい!?」

 

汞はそう言うと、腕をまるで鞭のように伸ばした

その腕を雪菜は

 

「はあっ!」

 

両手に持っていたナイフで、切り捨てた

すると、汞は

 

「そのナイフ……魔術を付加(エンチャント)された隕鉄のナイフか!!」

 

と雪菜の持っているナイフの正体に気づいた

それは、希少な隕石の金属を使ったナイフだったのだ

しかも、魔術による強化が施されているので、簡単には吸収出来ないのだ

 

「貴方の狙いは、夏音ちゃんですね? 何故ですか?」

 

雪菜が油断なく構えながら問い掛けると、汞は近くの鎖の束を使って腕を再構築

そして、雪菜を見ながら

 

「なぁに。10年前の続きをしようとしているのさ。だって、彼女だけが生き残ったんだよ? 余りにも不公平じゃないか」

 

と答えた

それを聞いた雪菜は

 

「やはり、10年前の事件は、貴方が……」

 

と睨んだ

そこに

 

「あ……」

 

と声がした

ふと気付けば、車を挟んだ雪菜の右側に夏音が居た

 

「ははっ! 自分から来てくれるとはね!?」

 

汞はそう言うと、夏音目掛けて腕を伸ばした

だが、雪菜が直ぐ様車を側転の要領で乗り越えて、夏音の前に着地

汞の腕を、再び斬った

すると汞は、舌打ちしてから

 

「本当に邪魔だな、剣巫!!」

 

と雪菜を睨んだ

すると雪菜は、肩越しに夏音を見て

 

「夏音ちゃん、なんでここに!?」

 

と問い質した

すると夏音は、汞を見て

 

「彼に、言いたいことがありました」

 

と言った

それを聞いて、汞の視線が夏音に向けられた

すると夏音は

 

「貴方は、可愛そうな人でした……偽りの記憶を与えられて、あの人の言いなりにさせられてました」

 

と語りだした

それを聞いた汞は、困惑した様子で

 

「何を……言っている……?」

 

と夏音に問い掛けた

すると夏音は

 

「貴方は、全てが偽り……記憶も、正体も、目的も……全てが、偽物でした」

 

と言った

それを聞いた汞は、頭を押さえて

 

「黙れ!!」

 

と三度、腕を伸ばした

だがその攻撃もまた、雪菜に斬られた

すると汞は、今度は車に切断面をくっ付けて

 

「アアァァァァァアァ!!」

 

と思い切り、振り回した

それは防げないと察した雪菜は、夏音を抱き締めて床に伏せた

その直後、二人の頭上を凄まじい勢いで車が振り回された

それが終わったのを確認すると、雪菜は顔を上げた

するといつの間にか、汞は居なくなっていた

しかし、上の通気孔が切られている

どうやら、そこから逃げたようだ

すると雪菜は、夏音に

 

「夏音ちゃん……さっきのは、どういうことですか?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、夏音は

 

「彼は、全てが偽りの存在でした……人の体を取り戻すと言ってましたが、そもそも何故そうなったのかを、覚えてませんでした……」

 

と語った

それは恐らく、10年前当時に修道院に居たニーナが問い掛けたのだろう

その問い掛けに、汞は今と同じように暴れて、あの事件

夏音一人を残し惨殺し、修道院を燃やしたのだろう

 

「……なるほど……」

 

雪菜は頷くと、立ち上がり

 

「夏音ちゃんは、笹崎先生か西村先生の近くに居てください!」

 

と言って、駆け出した

そんな雪菜に、夏音は

 

「あ、あの……頑張ってくださいでした!」

 

と見送った

その後雪菜は、汞を探して前甲板に出た

その直後

 

「僕が、偽物だって? そんな訳が……」

 

と汞が現れた

その姿は、何処か弱々しい雰囲気を醸している

 

「天塚汞……貴方は……」

 

雪菜が憐れみを含んだ目を向けながら、何かを問い掛けようとした

しかし、それより早くに汞が

 

「僕には、それしかないんだ!!」

 

と、両腕を伸ばした

その直後、二人の耳に独特の金属質な重低音が聞こえてきた

それを聞いた二人は、同時に音が聞こえてきた方向を見た

それは、細長いシルエットの兵器

 

「なっ!?」

 

「じゅ、巡航ミサイルだと!?」

 

そのミサイルは、まっすぐに船に向かってくる

あと数秒もしない内に、船に直撃する

だがその時、ミサイルが霧化

船を素通りした

 

「今の気配は……まさか!?」

 

その霧の気配に、雪菜はある人物が脳裏に浮かんだ

その直後

 

「あ痛たたた……やっぱり騙されたでしょ、あれ!?」

 

とその人物の声が、僅かに残っていた霧の中から聞こえた

しかも、無防備になっていた汞を雷撃が攻撃した

そして

 

「よ、天塚汞……決着を着けに来たよ」

 

霧が晴れた場所に、明久が居た


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