ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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脱獄者達3

「な、なんだ!?」

 

浅葱を抱き止めた明久は、慌てた声を上げた

その時だった

 

「緊急事態キュン!」

 

と寝ていた筈の、おさなが起き上がった

しかも、意味不明な語尾を言いながら

 

「おさなちゃん?」

 

「……ふぁ?」

 

浅葱は呆然としながら

明久は奇声を漏らしながら、おさなを見た

しかしおさなは、気にした様子もなく

 

「ただちに、脱出することを薦めるキュン!」

 

と言った

しかし明久は

 

「もしかして、那月ちゃんが復活した?」

 

と首を傾げた

だが、それを聞いたおさなは

 

「残念! それはまだだキュン!」

 

と否定した

確かに

今の言動は、那月とは架け離れている

そして、おさなが

 

「言うなれば、今の私はバックアップキュン!

魔力も余り生成出来ないし、空間魔術も体が未熟だから使いにくいキュン!」

 

と言った

 

「っだよ、マジかよ……」

 

それを聞いた明久は、両手両膝を突いた

すると、おさなが

 

「後10年位待てば、体が成長して使えるようになるキュン」

 

と言った

それを聞いた明久は、思わず

 

「待てないからね!?」

 

と突っ込みを入れた

その直後、明久は外で膨大な魔力の高ぶりを感じた

だから

 

「危ない!」

 

と、浅葱とおさなの二人を抱えて、ベッドの陰に隠れた

その直後、窓を突き破って人影が入ってきた

それは、この船の主

ヴァトラーだった

 

「ヴァトラー!?」

 

そのヴァトラーは、全身血塗れだった

まさか、ヴァトラーが血塗れで吹き飛んでくるとは思わず、明久は外に居るだろう相手を見た

居たのは、武骨な鎧と大剣を持った男だった

そいつの左手手首には、厳つい手錠がある

脱獄囚なのは、疑うまでもない

 

「あいつ、誰だ!?」

 

「ヴルート・ダンブルグラフキュン! 龍殺しの力を持つ降魔師で、過去に無実の魔族を殺した罪で収監された凶悪犯だキュン!」

 

明久が声を上げると、おさながそう説明した

すると、その男

ヴルートは明久を見て

 

「あの第四真祖か……始末する」

 

と言って、大剣を構えて跳んだ

それを見た明久は

 

(浅葱に見られることになるけど、仕方ないっ!)

 

と眷獣を呼び出そうとした

だが、それより早く

 

「困るな、明久……僕の大事な強敵を……奪わないでくれるかな」

 

と声が聞こえて、明久は嫌な予感から伏せた

その直後

 

「ウハツラ! バツナンダ!!」

 

と二匹の蛇が、ヴルートに迫った

しかしヴルートは、その二匹を大剣で切り捨てた

 

「眷獣を斬った!?」

 

その大剣には、何ら魔術によるエンチャントは施されていない

つまりそれは、ヴルートの能力に他ならない

 

「流石は、かの龍殺し……ジークフリートの末裔と言われるだけのことはアるねェ……いいね、久しぶりの血沸き肉踊る強敵ダ!!」

 

ヴァトラーは、血で全身を濡らしながらも、ランランと輝く目でヴルートを睨んだ

完全に、闘争本能が刺激されたらしい

それを見た明久は、どうすべきか迷った

その時、背後から

 

「皆様、こちらに」

 

と高い声が聞こえた

振り向いてみれば、部屋の入り口にキラ・レーベデフが立っていた

どうやら、戦闘の余波で歪んだドアをこじ開けたらしい

 

「今の内に、船から降りてください」

 

近寄ってきた明久達に、キラはそう言ってきた

それを聞いた明久は

 

「あれ、止めなくていいの?」

 

とヴァトラーを指差した

すると、キラが

 

「既に、同僚達が動いています。船も、港への被害を防ぐために離岸します。お急ぎください」

 

と近くのタラップの方を指差した

その対応の早さから、慣れていることが伺える

 

「君達も、苦労してるね」

 

「何時ものことですから」

 

二人はそう会話すると、明久はタラップ目掛けて走った

そして背後では、飛んでくる衝撃波をキラが防いでいた

やはり、手慣れている

それを見ながら明久は、近くのタラップから外に出た

だがその直後、タンカーや船に荷物を積載するための巨大なクレーン

メガガントリー・クレーンの基部で、爆発が発生

明久達に倒れてきた

それを見た明久は、浅葱とおさなを安全な方に突き飛ばした

だがその直後、そのメガガントリー・クレーンに数回爆発が起きて、遠くに吹き飛んだ

 

「な、なんだ?」

 

何が起きたか分からず、明久は固まった

その直後

 

『ハーハッハッハ! 大丈夫でござるか! 女帝殿達!』

 

と子供の声が聞こえた

声が聞こえてきた方を見たら、その先には一両の赤い塗装の施された多脚戦車が止まっていた

どうやら、先ほどのは戦車の砲撃らしい

 

「せ、戦車?」

 

明久が呆然としていたら、浅葱が

 

「今のしゃべり方……まさかアンタ……《戦車乗り》!?」

 

とその相手の異名を呼んだ

すると、上部のハッチが開いて

 

「その通りにござる! 初めましてにござるな、女帝殿。拙者は、リディアーヌ・ディディエと申す者。モグワイ殿に頼まれて、女帝殿を迎えに来たでござる」

 

と中から現れた赤い髪の少女

リディアーヌ・ディディエが、そう言った

そのしゃべり方を聞いた明久は、内心で

 

(間違った日本知識を覚えた外国人観光客みたい……)

 

と思った

なお戦車乗りというのは、浅葱と同じように人工島管理公社に雇われたプログラマーで、腕の立つ迎撃屋だ

しかしその姿は、浅葱も初めて見た

 

「今、絃神島に起きている現象……10年前とまったく同じでござる」

 

「それってもしかして……闇誓書事件?」

 

リディアーヌの話を聞いて、明久はそう問い掛けた

するとリディアーヌは

 

「その通りにござる! よくご存知にござるな、女帝の彼氏(予定)殿」

 

と肯定した

すると、浅葱は

 

「だから、誰が彼氏(予定)よ!!」

 

と顔を真っ赤にした

その時明久は、近くの物資置き場で更なる魔力の高ぶりを感じた

それは、慣れた雪菜のものだった

だから明久は

 

「浅葱、そっちを頼む。僕は、行かないと」

 

とその物資置き場の方を見た

それを聞いた浅葱は

 

「分かったわ。私は、私に出来ることをするわ」

 

と言った

それを聞いた明久は、その物資置き場の方に走ろうとした

しかし、そんな明久の背中におさなが飛び捕まり

 

「私も連れていくキュン!」

 

と言った

気付けば、浅葱を連れて戦車は走り去っている

連れていくしかないようだ

 

「振り落とされないでよっ!」

 

明久はそう言って、唇を噛みきった

そして、吸血鬼としての身体能力で物資置き場に向かったのだった

 


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