ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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お待たせしやした


交戦と暴走

明久と別れて数分後、雪菜は爆発が起きた場所に到着した

 

その現場は激しく炎上しており、爆発が直接起きたであろう建物はもはや原形を留めていなかった

 

周囲の建物の雰囲気から見て、恐らくは何らかの工場だったのだろう

 

油断無く周囲を見回していると、雪菜は膨大な魔力の奔流を感じて視線を向けた

 

視線を向けた先に居たのは、魔力によって構成された全長数メートルに匹敵する巨大な猛禽類の姿だった

 

眷獣の近くを見回すと、一人のスーツ姿の男性を発見した

 

間違い無く、召喚した吸血鬼だろう

 

その吸血鬼に対して、雪菜が突撃しようとした時

 

再び魔力の奔流を感じた

 

その直後、巨大な猛禽類の眷獣を更に巨大な虹色の腕が殴り飛ばした

 

「もう一体!?」

 

驚きで雪菜が足を止めていると、驚愕の事態が起きた

 

虹色の腕が猛禽類を掴むと、猛禽類が徐々に弱まっていったのだ

 

「まさか……魔力を奪ってる!?」

 

雪菜が驚愕している間にも、腕の眷獣は確実に猛禽類の眷獣から魔力を奪いとった

 

そして、猛禽類の姿が掻き消えると

 

「ぐあっ……!」

 

という叫びが聞こえた

 

声のした方に視線を向けると、先ほどの吸血鬼が出血を伴って倒れていた

 

その吸血鬼の近くには、マントを羽織り小さな片眼鏡を掛けた大柄な男が居た

 

そして、その男の手には血に濡れた斧が握らていた

 

しかもその男は、吸血鬼に対して斧を振り上げた

 

それを見た雪菜は、槍を構えて男と吸血鬼の間に立ちはだかった

 

「……なんのつもりだ?」

 

「無抵抗の魔族に対する攻撃は、国家攻魔法及び聖域条約に違反しています」

 

男の疑問の言葉に対して、雪菜はそう返した

 

すると、男は鼻で笑い

 

「魔族を守る条約など、このロタリンギアの纖教師……ルードルフ・オイスタッハに守る義務無し!」

 

と言った

 

「ロタリンギア!? 欧州の攻魔官がなぜ日本に!?」

 

「答える義務無し!」

 

雪菜の疑問にルードルフは答えず、斧を構えて突撃した

 

「そこの魔族を助けたいならば、命を懸けて助けてみよ!」

 

ルードルフはそう言うと、斧を雪菜目掛けて振り下ろした

 

だが雪菜は斧を軽く避けると、雪霞狼による刺突を放った

 

「む!?」

 

ルードルフはそれをなんとか斧で防ぐが、そこから雪菜の連撃が始まった

 

突き、斬撃、薙払い

 

それらの攻撃が常人には視認することすら不可能な速度で、次々と繰り出された

 

「ぬ……オオオォォ!」

 

ルードルフは耐えきると、雪菜に対して斧を振るった

 

だが、雪菜はそれを大きく後ろに飛んで避けた

 

そう、まるで《先を読んだように》

 

「その槍に霊視……まさか、獅子王機関の剣巫(けんなぎ)か!?」

 

ルードルフは雪菜の正体を察して、雪菜を睨んだ

 

「警告します。今すぐに投降してください」

 

雪菜が投降勧告するが、ルードルフは意に介さず立ち上がり

 

「ここで会えるとは、なんたる僥倖……アスタルテ!」

 

命令受諾(アクセプト)

 

ルードルフの呼び声に応じて、一人の少女が現れた

 

その少女は淡々と返答すると、背中から先ほど見た虹色の腕を出して雪菜目掛けて繰り出した

 

「っ!」

 

雪菜は腕を迎撃するために雪霞狼を繰り出すが、雪霞狼の穂先は腕の表面で止まり、共鳴現象を起こした

 

「共鳴現象!? まさか、その眷獣は!?」

 

雪菜が驚愕していると、ルードルフは口端を吊り上げて

 

「いかにも! 獅子王機関が開発した神格振動波駆動術式です。とはいえ、オリジナルには劣るコピーですがね!」

 

と語って、少女、アスタルテに視線を向けて

 

「アスタルテ、彼女に慈悲を!」

 

と命令した

 

命令受諾(アクセプト)

 

アスタルテは頷くと、苦痛を堪えるような表情を浮かべた

 

その直後、もう一本同じ腕が現れて雪菜目掛けて繰り出された

 

(しまった! 避けられない!)

 

今現在、雪菜は最初の腕と膠着状態にあって身動きが出来ない状態だった

 

雪菜に腕が近づき、当たると思った時

 

「ちょいさ!」

 

という声と共に、腕が別の方向に弾かれた

 

「よし、間に合った!」

 

そう言ったのは、肩に竹刀袋を担いだ明久だった

 

「先輩!?」

 

雪菜が驚いていると、明久は雪菜に軽く手刀を当てて

 

「まったく、雪菜ちゃんが戦ってどうするのさ」

 

と言った

 

明久の言葉に雪菜が口ごもっていると、ルードルフは目を細めながら明久を見た

 

「貴様……ただの人間ではないな。何者だ?」

 

「人に訪ねるより先に、自分が名乗ったら?」

 

ルードルフにそう返すが、ルードルフは答えなかった

 

すると、雪菜が

 

「先輩、彼はロタリンギアの纖教師。ルードルフ・オイスタッハだそうです」

 

と教えた

 

「ロタリンギア? 欧州の人がなんで日本に?」

 

雪菜の説明を聞いて、明久は首を傾げながら竹刀袋の紐を解いて中から刀を取り出した

 

「この魔力値……貴族を超えている……旧き世代……いや、そういえば日本に第四真祖が現れたという情報があったな……」

 

ルードルフは呟くように言うと、明久を見て

 

「まさか……第四真祖か!」

 

と叫んだ

 

明久は刀を鞘から抜くと、八相の構えを取った

 

「せ、先輩? ……その刀は?」

 

と雪菜は、明久が持っている刀を指差した

 

「ん、これ? 父さんがグレーなフィールドワークで手に入れて家に置いていった刀の一本……確か……雷切」

 

雪菜の問い掛けに対して、明久はそう答えた

 

雷切

 

この刀は昔、戦国時代に立花道雪が使ったとされる刀で、逸話としては、雷を切ったとされる刀である

 

その証拠と言うべきか、その刀は放電を始めた

 

「雷切って……国宝の筈……」

 

雪菜が呟いていると、明久の一撃で行動を止めていたアスタルテが明久に視線を向けて

 

「再起動完了……命令再履攻……執行(エクスキュート)薔薇の指先(ロドダグ・キュロス)

 

と呟いて、二本の腕を明久めが繰り出した

 

「待ちなさい、アスタルテ!」

 

ルードルフが止めるが間に合わず、明久目掛けて腕が肉薄した

 

「っ!」

 

明久は最初に迫った右腕を刀で弾くが、もう一本の迎撃が間に合わず、後ろに飛んで避けようとした

 

だが、アスタルテが咄嗟に左手を開いたので、爪が明久の胸部を切り裂いた

 

その直後、明久が顔を青ざめた

 

「待って……出てくるな……っ!」

 

明久はまるで、家の中の子供に言い聞かせるように呟いた

 

「や……やめ……っ! ぐっ……アアアアァァァ!」

 

明久が叫んだ直後、明久の全身から雷光が溢れ出た

 

「先輩!?」

 

雪菜は驚きで固まり、ルードルフは右腕を顔の前に掲げると

 

「これは拙い……アスタルテ!」

 

命令受諾(アクセプト)

 

とアスタルテと共に逃げ出した

 

雪菜は二人が逃げるのに気付いたが、今は明久のほうが心配だったようで、その場に留まった

 

「先輩! 先輩!!」

 

雪菜が繰り返し呼んでいると、徐々に明久から溢れていた雷が収まり始めた

 

そして、完全に収まると明久は力無く倒れた

 

「先輩!」

 

雪菜は駆け寄ると、明久を抱き起こした

 

どうやら明久は意識を失ったらしく、規則正しく呼吸を繰り返していた

 

その事に雪菜は安堵すると、焼け野原と化した周囲を見回して

 

「どうしろって言うんですか……」

 

と弱々しく呟いた

 

こうして、おバカな第四真祖の物語は始まったのだった


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