ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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引っ越しと二人の教師

「雪菜ちゃんってさ、意外ともの知らずだよね」

 

明久がそう言うと、雪菜は恥ずかしそうに

 

「言わないでください……」

 

と呟いた

 

なぜこんな会話をしているのか

 

それは、帰りの時にあるスポーツ用品店の前を通りがかった時だった

 

雪菜は、ショウウィンドウに飾ってあるゴルフクラブを見て

 

『先輩、これはなんですか? 戦鎚(メイス)の一種ですか?』

 

と言ったからである

 

雪菜のトンチンカンな言葉に、明久は数瞬固まるも説明した

 

そこから皮切りに、雪菜の天然染みた言葉が多数炸裂

 

明久は笑いを堪えながらも、全て教えたのだ

 

そして、二人が到着したのはアイランドサウスに建っている明久の自宅のあるアパートである

 

明久は内心で、何処まで付いて来るんだろ? と首を傾げながらも、自宅の前に到着した

 

その時、背後から

 

「あ、明久君。おかえりー」

 

という少女の声が聞こえた

 

振り返るとそこに居たのは、長い髪を後頭部で纏めている幼い印象の少女だった

 

彼女の名前は吉井凪沙(よしいなぎさ)

 

明久の妹だ

 

彼女は不在がちな両親の代わりに、家計全般と家事のほとんどを切り盛りしている賢妹である

 

ただ、そんな凪沙にもたった一つだけ欠点がある

 

それは……

 

「ねえねえ明久君。今日ねスーパーで特売してたから、お肉を大量に買ったから鍋にしよ、鍋! あ、雪菜ちゃん! 雪菜ちゃんってさ、豚骨ベースと醤油ベースのどっちがいいかな? 私、それで迷ってるんだー」

 

それがこの、おしゃべりである

 

凪沙のマシンガントークに、流石の雪菜も後退りした

 

それを見かねて、明久は軽くチョップを当ててから

 

「はい、そこまで。雪菜ちゃんが驚いてるでしょ?」

 

と凪沙を注意した

 

すると凪沙は、あいたっ。と言ってから唇を尖らせながら明久を睨んだ

 

明久はそんな凪沙の頭を撫でながら、雪菜に対して

 

「雪菜ちゃん。どうせだから、食べてってよ」

 

と言った

 

「え? いいんですか?」

 

キョトンとした様子の雪菜が聞くと、明久は凪沙が持っているビニール袋の中を見ながら

 

「どうせ、僕達二人だけじゃ食べきれないしね」

 

と言った

 

すると、雪菜は少し考えてから

 

「わかりました。いただきます」

 

と微笑んだ

 

「じゃあ、入って入って」

 

明久は鍵を開けてから、雪菜に入るように促した

 

その後、明久と凪沙作の料理が振る舞われ、雪菜は明久の料理の腕に驚愕して固まったのは余談である

 

翌日、明久は眠気を堪えながら自宅を出た

 

凪沙は部活の朝練があるらしく、既に居なかった

 

エレベーターを降りて、玄関から出た所に雪菜が立っていた

 

「あ、先輩。おはようございます」

 

「うん、おはよう……なにしてるの?」

 

嫌な予感がして、明久は恐々と問い掛けた

 

すると、雪菜はキョトンとしながら

 

「なにって……先輩の監視ですが?」

 

「まさか、一晩中ここに居たの!?」

 

雪菜の言葉を聞いて明久は驚愕した

 

すると、雪菜はムンと両手を握りしめて

 

「監視役ですから!」

 

と言った

 

雪菜の言葉を聞いて、明久は額に手を当てた

 

実に、嫌な予感がしたからだ

 

「一つ聞くけどさ……どこで寝たの?」

 

「え? ……近くの公園ですけど?」

 

「ジーザス!」

 

雪菜の解答を聞いて、明久は思わず頭を抱えて叫んだ

 

「この島は暖かいですから、ダンボールがあれば十分に眠れますよ」

 

「聞きたくなかったよ、そんなこと! シュール過ぎるからね!?」

 

と明久が驚愕していると、雪菜はクスクスと笑って

 

「冗談ですよ。近くのホテルに泊まりました」

 

と言った

 

「冗談で良かったよ……雪菜ちゃんみたいな可愛い娘が公園で寝てたら、不用心過ぎる……」

 

と明久が言うと、雪菜が頬を赤らめて

 

「可愛い……私が……?」

 

と呟いた

 

そんな雪菜を見て、明久が首を傾げていると一台のトラックがアパートの前に止まった

 

「ん? 引っ越し業者?」

 

「あ、ここです」

 

明久が不思議そうに首を傾げると、雪菜がトラックから降りてきた業者にそう言った

 

「え? ……部屋番号は?」

 

明久が問い掛けると、雪菜は業者に頭を下げてから

 

「705号室です」

 

「隣じゃん!? まさか、先週に山田さんがいきなり引っ越ししたのって、獅子王機関がこのために?」

 

雪菜の言葉に明久が疑問に思っていると、雪菜は業者が置いていった荷物を確認しながら

 

「脅したわけではないですからね? 平和的に説得して出ていってもらいました」

 

「説得ねぇ……」

 

雪菜の言葉を聞いて、明久はジト目で雪菜を見た

 

「ただ、この部屋には悪い気が籠もってます。至急引っ越しを進めますと説明したんです」

 

「思いっきり脅迫だよね!? それは世間一般では霊感悪徳商法って言うんだよ!?」

 

「冗談ですよ」

 

明久が全力で突っ込んでいると、雪菜は淡々とそう言った

 

全力の突っ込みで朝から明久が疲れていると、雪菜はクスクスと笑ってから

 

「先輩、一つお願いが有るんですが……」

 

と言ってきた

 

「なに……」

 

うなだれている明久が視線を向けると、雪菜は足下のダンボールを示しながら

 

「荷物、運んでもらっていいですか?」

 

と言った

 

「あれ? 業者は?」

 

雪菜の言葉を聞いて、明久は業者が帰ったことに気づいた

 

「あの業者は獅子王機関の偽装です。他にやることが有るので、帰ったんです」

 

雪菜の説明を聞いて、明久は深々とため息を吐いて

 

「まあ、いいけどさ……荷物少ないね?」

 

と雪菜に問い掛けた

 

「私、元々私物が少ないんです」

 

「ふーん……ねぇ、布団は?」

 

不安に思い、明久は問い掛けた

 

「ダンボールがあれば十分眠れます」

 

「よし、分かった。後で布団を買いに行こうか。ついでに、細々とね」

 

雪菜の言葉を聞いて、明久はそう言った

 

そして、ダンボールを雪菜の部屋に運ぶと明久と雪菜は学園に登校した

 

明久と雪菜、凪沙が登校している彩海学園は中高一貫の学園で、かなり大規模の学園である

 

とはいえ、今は夏休み期間中なので登校してきている生徒はまばらである

 

明久が登校してきている理由は、簡単に言うと補習だ

 

今の吸血鬼の体になってからは、遅刻と欠席、更には授業中の居眠りが多発

 

結果、単位がとても大変なことになってしまったのだ

 

明久としては意図的ではないが、二人の教師に言われたら断れない

 

もし逃げようものなら、考えるのも恐ろしいことになるだろう

 

雪菜が登校してきた理由に関しては、転校の手続きの残りと担任教師との顔合わせ。それと明久の監視らしい

 

「はぁ……今日は数学と世界史と現国とマラソンか……死ねる」

 

「先輩は吸血鬼なんですから、簡単には死なないでしょう?」

 

明久の呟きを聞いて、雪菜がそう言うが明久はジト目で見ながら

 

「吸血鬼にとっては、この太陽光は厳しいの……」

 

と言いながら、校舎に入った

 

そして、約四時間後

 

「終わりました……」

 

と明久は力無く、書き終わったテスト用紙を教卓の位置に置いてある豪華な椅子に座っているゴスロリ服を着た幼女

 

担任である南宮那月(みなみやなつき)に渡した

 

「少し待て……」

 

那月はテスト用紙を受け取ると、素早く採点を始めた

 

那月の見た目は大体十五歳前後にしか見えず、その美貌と合わせて、まるで人形のような印象を受ける

 

だが、その見た目に反して、この彩海学園の教師であり、更には名の知れた魔術師である

 

「那月ちゃん……やっぱりその服装は暑苦しいから、やめてくれない?」

 

と抗議した直後、明久の額に扇子が直撃した

 

「教師をちゃん付けで呼ぶな……それと、この服装は私のこだわりだ。文句を付けるな」

 

那月は唸っている明久を無視して、そう言いながら採点している

 

「だったらせめて……黒以外にしてくれないかな? 暑苦しいから」

 

痛みを堪えて明久がそう言うと、那月は点数を記入してから

 

「この程度の熱気、夏の有明に比べたらどうってこともない」

 

と言ってから、明久が終わらせたテスト用紙数枚を見て

 

「ふむ……これなら、十分か」

 

と言った

 

「終わった……」

 

那月の言葉を聞いて、明久は机に突っ伏した

 

そして、那月がテスト用紙を回収していると

 

「あ、そういえば、那月ちゃん……獅子王機関って知ってる?」

 

と問い掛けた

 

明久がちゃん付けしたので、扇子を投げようとしていた那月は、明久が言った名前を聞いて、目を細めた

 

「お前……その名前をどこで聞いた?」

 

「え……う、噂ですけど?」

 

那月のプレッシャーに明久は驚いて、明久はごまかした

 

すると、那月はフンと鼻を鳴らしてから

 

「どんな噂を聞いたかは知らんがな、奴らには関わるなよ? 奴らはお前の天敵だからな」

 

と言った

 

「天敵……?」

 

「ああ……奴らはその為だけに作られたのだからな……それに、奴らは私達の商売敵だ」

 

明久が首を傾げていると、那月がそう説明した

 

その言葉を聞いて、明久が内心で冷や汗を流しているとドアが開いて

 

「吉井、テスト補習が終わったのなら、次はマラソンだ。昼食後、体操着に着替えてグラウンドに来いよ」

 

と言ったのは、筋肉隆々の男性

 

熱血教師の西村宗一(にしむらそういち)である

 

彼は特定の科目を担当しておらず、何と全ての科目を教えることが可能なのである

 

そして普段は、それを活かして補習を担当している

 

なお、そんな彼の愛称は鉄人である

 

なぜそんな愛称なのかと言うと、理由は彼の趣味にある

 

趣味はレスリングと筋トレ、更にはトライアスロンである

 

これでは、鉄人と呼ばれるのも仕方ないだろう

 

しかしながら、彼の凄い所は別にある

 

今は教師が本職だが、彼は那月と同じように国家攻魔官の一人なのである

 

那月が空間系の魔術を得意としているが、西村は魔術は補助的な物しか使えない

 

だが、彼にとってはそれで十分だった

 

彼の戦闘技法は、その鍛え上げられた肉体による近接格闘戦である

 

その戦闘力の高さは、驚いたことに完全に獣化した獣人を超越しているらしい

 

閑話休題

 

西村の言葉を聞いて、明久は窓から外を眺めた

 

太陽は相変わらず、サンサンと地面を照らしており、熱気で空気が歪んで見えるほどだった

 

その光景を見て、明久は深々とため息を吐いて

 

「不幸だ……」

 

と呟いた

 

この時、どこからか

 

「上条さんのアイデンティティが!?」

 

という叫び声が、明久の耳に聞こえた


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