ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

39 / 182
天使の叫び

「あのLーCACは……」

 

「またメイガスクラフトか……よし、吹っ飛ばす」

 

明久はそう言うと、腕捲りした

すると、そんな明久の肩にラ・フォリアが手を置いて

 

「待ってください、あれを」

 

とLーCACを指差した

よく見れば、白旗が振られていた

 

「……白旗だあ?」

 

それを見た明久は、思わず顔をしかめた

それから十数分後、三人はLーCACが接岸した砂浜に居た

そしてそこには、ベアトリスとロウ

そして、一人の男性が居た

その男性を見て、ラ・フォリアは

 

「久しぶりですね、叶瀬賢生」

 

とその男性の名前を呼んだ

すると、白髪に眼鏡を掛けた男性

叶瀬賢生は右手を胸元に当てて

 

「久方振りにございます、姫殿下。ご機嫌麗しゅう」

 

と言った

確かに、元宮廷魔導技師なだけはある礼儀作法だった

すると、そんな賢生にラ・フォリアは

 

「世辞は無用です。賢生……夏音を人造天使にしましたね?」

 

とストレートに聞いた

すると賢生は

 

「流石は姫殿下……知っておいででしたか」

 

と言って、懐からリモコンを取り出した

それを操作すると、LーCACの中から二体のロボット兵士が機械式の箱を運んできた

丁度、人一人が入る大きさの箱だ

賢生が再び操作すると、蓋が開いて中から白い煙が出てきた

その白い煙が晴れると、見えたのはピッチリとしたスーツを着た夏音だった

 

「一つ聞くよ、賢生さん」

 

と言ったのは、一歩前に出た明久だ

 

「なんだ、第四真祖」

 

「貴方は、夏音ちゃんがアルディギア王族の血筋だから引き取ったのか?」

 

明久がそう問い掛けると、賢生は

 

「いや、そうではない……夏音は、私の姉の娘だから引き取ったんだ」

 

と言った

その言葉を聞いて、三人は驚愕で目を見開いた

 

「姉の娘……だって?」

 

「ああ……姉に子供が居たのを知ったのは、ほんの偶然だがね……」

 

賢生はそう言うと、夏音を見た

 

「私は夏音を引き取ると、夏音のために人造天使計画を始めた……計画は順調に進み、もはや最終フェイズだ。後は、昇天させるのみ」

 

「昇天……?」

 

賢生の言った昇天という言葉の意味が分からず、明久は首を傾げた

すると、ラ・フォリアが

 

「最終フェイズに至った人造天使は、最終的にこの世から姿を無くします」

 

と言った

すると、賢生は頷き

 

「そうだ……そうすれば、夏音はもう悲しまなくて済む」

 

と言った

それを聞いて、雪菜が

 

「悲しまなくて済むって……ちゃんと、叶瀬さんに聞いたんですか!?」

 

と問い掛けた

すると、賢生は

 

「夏音が産まれてからの記録は、全て見た……だから私は、これ以上夏音が悲しまなくなるようにと、この計画を始めた」

 

と答えた

夏音の人生は、事実を述べると悲劇に満ちていた

夏音は、当時メイドの一人として雇われた日本人と当時の王の間に出来た子供だ

妊娠したことに気付いた夏音の母親は、何も言わずに辞職し、絃神島に帰国

そして産んだ後は、母親は病気に侵されていたこともあり、アデラード教会に預けられた

そして今から数年前に、その教会で放火殺人事件が発生

生き残ったのは、夏音だけだった

それを知った賢生は、それが理由で夏音が泣かないのだと思い、人造天使計画を立案

実行に移したのである

ああ、それもまた一つの愛情かもしれない

だが、それは余りにも

 

「ちゃんと話し合ったのかよ……少しは考えないのかよ……夏音ちゃんは、自分の人生に悲観なんてしてなかった筈だ! あんたの考えを、夏音ちゃんに押し付けるな!!」

 

それは余りにも、一方的な考えだった

明久は、たった二日程しか夏音と接していない

だが、夏音の精神は理解しているつもりだった

夏音の精神は、正しくシスターだった

現代の聖女と呼べるほどに、高潔だった

子猫を捨てた身勝手な人達に憤ることもなく、その子猫達を拾い、世話し、一緒に里親を探した

それは、今を精一杯に生きてたからだ

自分に出来ることを、精一杯頑張って生きてきたのだ

だから夏音は、賢生の計画も受け入れたのだ

自分に出来ることだから

明久の言葉を聞いても賢生は答えず、背を向けて

 

「起動せよ、XDAー7」

 

と言いながら、リモコンを操作した

すると、今まで目を閉じていた夏音が目を開いた

そして、背中から三対六枚の翼を出して飛んだ

 

「夏音ちゃん!」

 

「先輩!」

 

明久が刀を構えると、雪菜は明久のフォローに回ろうとした

だがその雪菜の前に、ライダースーツを着て赤い槍を持ったベアトリスが現れた

 

「アンタの相手はアタシだよ、メスガキ!」

 

「吸血鬼ですか!」

 

ベアトリスの牙を見て、雪菜はベアトリスの正体に気付いた

その雪菜を援護しようと、ラ・フォリアは、懐から一丁のマシンガンを取り出した

すると、ラ・フォリアの前に獣人になったロウが着地した

 

「オレの相手をしてもらうぜ」

 

「つっ……」

 

その時、眩い光りが辺り一帯を照らした

それは、夏音からだった

夏音の背にある翼が、光を放っていたのだ

 

「獅子の黄金! 双角の深緋!」

 

空を飛んでいる夏音には刀が届かないので、明久は二体の眷獣を召喚

夏音に向けて放った

 

(ごめん、夏音ちゃん! 今は寝てて!)

 

その一撃は、明久は精一杯手加減していた

本気で放ったら、殺してしまうかもしれないと思ったからだ

だが次の瞬間、その攻撃は夏音をすり抜けた

 

「なっ!?」

 

と明久が驚くと、賢生が

 

「無駄だ。今の夏音は、高次の存在になっている。通常の攻撃は意味を成さない」

 

と言った

つまり、見えてはいるが違う次元に居るということだ

違う次元に居るのであれば、誰が攻撃しようが意味を成さない

 

「夏音ちゃぁぁぁぁん!!」

 

と明久が叫んだ直後、夏音から一際強い光りが放たれた

その光を浴びた直後、明久の身体中から血が吹き出した

 

「先輩!!」

 

それを見た雪菜は、叫びながら明久に駆け寄った

その直後だった

夏音の両目から、血の涙を流しながら頭を抱えて

 

「アアアァァァァァァァ!?」

 

と叫び始めた

すると、夏音を中心にして猛吹雪が起き始めた

どうやら、それは予想外らしい

ベアトリス、ロウ、賢生の三人はLーCACに後退

沖の船に向かった

雪菜は泣きながら明久の名を呼び、ラ・フォリアは泣き叫ぶ夏音を見上げて

 

「夏音……貴女は、泣いているのね」

 

と呟いた


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。