ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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今回は、説明回です


外法の技

LーCACを吹き飛ばした後、明久達はラ・フォリアの先導で彼女が乗ったという脱出ポットに着いた

 

「これが、脱出ポット……?」

 

「ええ、そうですが?」

 

明久が呆然とした様子で問い掛けると、ラ・フォリアは小首を傾げながらそう言った

隣の雪菜を見れば、雪菜も驚いていた

しかし、二人が驚くのも無理はない

ラ・フォリアが乗ってきたという脱出ポットは、金色に輝いているからだ

しかも中には、洗濯機やら台所、浄水器とトイレがあった

それを見た明久は

 

(通りで、数日間此処に居るって聞いたのに、綺麗だったわけだよ……)

 

と納得していた

するとラ・フォリア、雪菜に視線を向けて

 

「それで雪菜は、制服は大丈夫なのですね?」

 

と問い掛けた

問い掛けられた雪菜は、制服を着ている

あの戦闘の最中で大分乾いたらしい

 

「はい、大丈夫です」

 

雪菜がそう答えると、ラ・フォリアは洗濯機を指差し

 

「あの洗濯機には乾燥機能も付いているので、気になるなら使ってくださいね」

 

と言って、微笑んだ

 

「あ、ありがとうございます」

 

雪菜が礼を述べると、ラ・フォリアは脱出ポットの中に入った

すると、明久が

 

「……まさか、王女様に会うなんてなぁ」

 

と呟くように言った

それを聞いて、雪菜が

 

「そうですね……私もそうです」

 

と同意した

すると、中からラ・フォリアがその手にトレイを持って現れた

そのトレイには、ティーポットとティーカップが乗っている

なぜそれを持ってきたのか分からず、二人が見守っているとラ・フォリアは、それを脱出ポット外壁の一部がせり出して出来ている机にそのトレイを置いて

 

「それでは、お茶にしましょうか」

 

と言って、微笑んだ

 

「…………ほ?」

 

予想外の事態に明久は、思わず変な声を出した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

そこは敵地だと言うのに、ラ・フォリアは堂々としていた

所作にも、焦っている気配は微塵もない

正反対に焦っている気配があるのは、雪菜だ

雪霞狼を地面に突き刺し、それを基点に結界を展開

雪菜曰く

 

『探査魔術の阻害用です』

 

とのこと

だが肉眼で見られたら終わりらしく、今も気配察知に意識を向けている

そして明久は……流れに身を任せることにしたようだ

 

「あー……いい茶葉だねぇ」

 

「おや、分かりますか?」

 

明久の言葉を聞いて、ラ・フォリアがそう問い掛けた

すると明久は、ティーカップに視線を下ろして

 

「前に、母さんの研究室に置かれて有ったのを幾つか飲んだからねぇ……んー……これは、F&Mのファーストフラッシュ?」

 

「正解ですよ、明久」

 

明久の母親は、絃神島でも屈指の大企業の一つの一研究部門の主任を勤めている

故に、研究室には一流のお茶やコーヒー等が置いてあった

とはいえ、明久の母親は家事はてんでダメである

だから時折、明久か凪沙が掃除・洗濯

更に料理の作り置きの配達

時には、会社の上役が視察に来た時のお茶煎れをやっていた

何故か、母親の研究部門には、家事が出来る人材が極端に居ない

前に家事用ロボットがあったが、何故か一日で壊れて以来配備されない

そんなことをやっている内に、全てではないが銘柄を覚えたのである

 

「先輩、暢気過ぎです」

 

「もうね、急展開過ぎて思考が追い付きましぇん」

 

雪菜の言葉に、明久はそう返した

それは俗に、諦めたとも言う

そんな明久に、雪菜は深々と溜め息を吐いた

すると、ラ・フォリアがクスクスと笑い

 

「明久は、大物になりそうですね。流石は、複数の女性を侍らす孤高の真祖です」

 

と言った

次の瞬間、明久は吹いた

そして、ラ・フォリアに対して

 

「待って、そんなこと言ったのは誰さ!?」

 

と問い掛けていた

するとラ・フォリアは、人差し指を立てて

 

「アルデアル候です」

 

と言った

それを聞いた明久は、頭を抱えて

 

「あの戦闘狂(バトルジャンキー)めぇ……」

 

と漏らした

そんな明久を見て、ラ・フォリアは

 

「しかし、思ったより普通の人なんですね。明久は」

 

と言った

すると明久は、頭を掻いて

 

「まあ、つい最近まで普通に高校生してたからね……」

 

と答えた

そして、ラ・フォリアに視線を向けて

 

「そういえば、ラ・フォリアはなんで絃神島に?」

 

と問い掛けた

なお、ラ・フォリアを呼び捨てにしているが、それはラ・フォリアに頼まれたからだ

様や王女として接されるのは、飽きた。と

途中でアダ名を提案されたが、それは辞退した

明久の問い掛けを聞いたラ・フォリアは、ティーカップを置いて

 

「絃神島に居る、我が親族を迎えに来たのです」

 

と言った

 

「親族?」

 

明久はそう言いながら、心中で

 

(はて、絃神島にアルディギアの大使なんて居たっけ?)

 

と首を傾げた

それは、那月と西村の教育の賜物だった

アルディギア王国は世界でも有数の対魔武器工業産国だ

特に、ヴェルンドシステムを使った擬似聖剣が筆頭に上げられる

これを使うには、かなりの大きさの聖霊炉を使う必要がある

そしてそれを動かすには、かなりの技量の魔術師が居る必要があるらしい

だが、何事にも例外は存在する

それが、王族だ

王族の血筋は、血から髪に至るあらゆる部位が霊媒として使えるのだ

故に、王族は自身を一時聖霊炉代わりにして、ヴェルンドシステムを使える

と、明久は二人から頭に叩き込まれた

そして、王族は大使として着任することもあるらしい

もし大使が着任したら、教えてやる

と、那月が言っていたのを明久は覚えていた

すると、ラ・フォリアが

 

「はい。名前は、叶瀬夏音です」

 

と言った

それを聞いて、明久と雪菜は目を見開いた

まさか、夏音が王族だとは予想外だったからだ

だが、明久は直ぐに納得した

まず、その精神が高潔なこと

更に、夏音とラ・フォリアの見た目が瓜二つだったのだ

 

「彼女は、前王がメイドとして働きに来ていた日本人女性との間に産まれた子なんです……まあ、私の叔母に当たる方ですね」

 

その説明を聞いて、明久は驚いた

 

「それってつまり……浮気で出来た子供ってこと?」

 

明久がそう問い掛けると、ラ・フォリアは頷いて

 

「そうですね。おかげで、今王宮内はてんてこ舞いです。具体的には、前王を殺そうとする前女王とか」

 

「……oh」

 

ラ・フォリアの言葉に、明久はそう言うことしか出来なかった

はっきり言ってしまえば、自業自得だからだ

 

「彼女が王族だと判明したのは、最近で、居場所を特定したのが数日前なんです」

 

ラ・フォリアはそこまで言うと、紅茶を一口飲んだ

そして

 

「そこで、丁度手が空いていた私が迎えに来たのです」

 

と言った

それを聞いて明久と雪菜は、渋面を浮かべた

そして、顔を見合わせてから

 

「確かに、夏音ちゃんは絃神島に居ます」

 

「ですが、彼女は……」

 

と言葉を濁した

すると、ラ・フォリアは頷いてから

 

「ええ……私も一目見ました……人造天使(エンジェルフォウ)にされたようですね」

 

と言った

 

「人造天使?」

 

「はい。アルディギア王族の血はその体自体が霊媒です。体に特殊な魔術細工を施した個体を何人か用意し、最後の一人になるまで戦わせながら、霊的機関を取り込ませることで至る高位存在です」

 

明久の問い掛けに、ラ・フォリアがそう答えた

その直後、雪菜が立ち上がり

 

「それは、壷毒ではないですか! 禁呪を人間で行ったと言うんですか!?」

 

と憤った

壷毒

または、蟲毒

これは平安時代、毒を持った虫を大量に集めて、一つの壺の中に入れて殺し合わせた後に、最後に生き残った虫に、死んだ虫が合わさり、強力な毒を持った蟲を作りだし、その蟲を使って毒殺する

という呪法である

しかし、その余りの無惨な方法故に現代では禁呪に指定されている

怒りを露わゆしている雪菜を、明久が落ち着かせていると、ラ・フォリアが

 

「ええ……はっきり言って、外法の技です……そして、人造天使のことを知っているのは、極僅かです……その一人が、元宮廷魔導技師の叶瀬賢生です」

 

と言った

その時、明久達の耳にある音が聞こえた

それは、LーCACのモーター音だった


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