ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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流転

学校から出た明久達が向かったのは、ある廃教会だった

その教会は今から数年前に、虐殺事件が発生

しかも犯人は、放火まで行った

それにより、生存者はたった一名のみ

その後、その一人も引き取られて、その教会は再建されることなく放棄された

なお、その犯人は未だに捕まっていないらしい

夏音の話では、そこにまだ多くの子猫が居るらしい

 

「ここか……」

 

「はい……私も、前までお世話になってました」

 

夏音のその言葉で、明久は気づいた

夏音が、その唯一の生存者だと

 

(本当だったら、怖いからここに来たくないだろうに……強くて、優しい子なんだな)

 

明久がそう思っていると、夏音が大きなドアをゆっくりと開けた

最初は暗くて見えなかったが、段々と見えてきた

中は当時のままなのだろう

炭化した椅子や机が散乱している

すると、その物陰から子猫が続々と姿を現した

その数は、明久の予想以上だった

すると、雪奈が

 

「先輩! 子猫がこんなに居ます! 可愛い!」

 

と声を上げると、目を輝かせながら子猫を抱き上げた

それを見た明久は

 

(ああ、そういえば雪奈ちゃんって、猫が好きだったっけ)

 

と思い出した

雪奈が子猫と戯れているのを見てから、明久は教会の中を見回した

そして、それを見つけた

金属製の大きなレリーフだった

恐らくは、過去に何らかの偉業を成し遂げたのだろう

女性の姿が刻まれていた

すると夏音が、子猫達に猫缶を与えながら

 

「それは、ニーナ・アデラード様でした」

 

と言った

 

「ニーナ・アデラード?」

 

明久が首を傾げながら問い掛けると、夏音は立ち上がって

 

「はい……この教会の名前にもなった御方で、偉業を成し遂げたと聞きました」

 

と言って、手を組んで目を閉じた

その姿はまるで、シスターのようだった

 

(これは確かに、聖女だ……)

 

その姿を見て、明久はそう納得した

夏音は悲劇の地だった教会で、誰に言われた訳でもなく、自ら率先して子猫の世話をしている

それも、子猫を捨てた身勝手な飼い主に怒ることもなく粛々と

その姿を、聖女と言わずに何と言うのか

その後、明久達は手分けして子猫を引き取ってくれる里親を探した

その努力が実り、三日ほどで子猫達の里親は見つかった

 

「ありがとうね、内山くん」

 

「いいですよ、吉井先輩。家の家族、皆動物好きですから」

 

と言ったのは、バスケ部の中学生

内山雄貴(うちやまゆうき)だった

彼は、明久が現役だった頃にバスケ部との折衝役をしてくれた後輩だった

明久の所属していた剣術剣道部は、学校では弱小だった

故に、体育館の使用争いにていつも後塵を拝していた

そこで、同じく弱小だったバスケ部と一緒に体育館の使用争いに参加

使用権を手に入れた後は、気の強かったバスケ部からは彼が

剣術剣道部からは、明久が使用に関する詳しい調整をしていたのだ

明久が引退した後も、彼が調整役らしい

その関係から電話番号を交換しており、明久は連絡を取ったのだ

そして、彼に渡した段ボールに居たのが、教会に居た最後の子猫だった

 

「よし……これで、全部見つけられたね」

 

と明久が言うと、夏音が

 

「はい、後はこの子猫達だけでした」

 

と言った

振り向いた明久が見たのは、いつの間にか新しい二匹の子猫を抱いている夏音だった

 

「いつの間に!?」

 

「先ほど見つけました」

 

明久が驚いていると、夏音はそう言った

それを見た明久は、頭を掻くと

 

「乗り掛かった船だし、最後まで付き合うよ」

 

と言った

しかし、夏音は首を振って

 

「後は、私だけで大丈夫でした。お兄さん、ありがとうございました」

 

と言って、去っていった

ことは、その日の夜に起きた

突如として、電話が掛かってきて

 

『七時までに、サウス商業地区のテレビ局ビルの屋上に来い。祭をやるぞ』

 

と那月が言ったのだ

明久としては拒否出来る訳がなく、なんとか時間までに向かった

そこに居たのは、那月だけではなかった

他に、浴衣を着たアスタルテも居た

 

「アスタルテちゃんも居たんだね……楽しんでる?」

 

受諾(アクセプト)

 

明久の問い掛けに、アスタルテは頷いた

その表情は何時も通りだったが、心なしか楽しそうだった

 

(まあ、楽しそうならいいか)

 

明久はそう思うと、ある方向を見た

その先には、半ば倒壊したビルがあった

 

「で、呼んだ理由はあのビルなの?」

 

と明久が問い掛けると、那月は

 

「貴様にしては、察しがいいな。吉井兄」

 

と言った

どうやら、当たりらしい

そして明久は、そのビルをじっと見詰めながら

 

「あれ、どうやってやったの? 爆弾?」

 

と那月に問い掛けた

すると那月は、鼻を鳴らして

 

「管理公社が連中の話では、魔術らしい」

 

と言った

すると、明久の隣に居た雪奈が

 

「あれを、魔術でですか……」

 

といぶかしんでいた

そんな雪奈の姿は、浴衣姿である

 

「なぜ転校生が居るのか、問いたいが……まあいい……今から二日程前の夜、空を高速で飛行しながら交戦していた存在が二体確認された」

 

と那月が言うと、雪奈は目を細めた

 

「おかしいですね……あれほどの破壊をする戦闘が起きたのなら、私が気づかない訳がないんですが……」

 

「ふむ……転校生でも気付かなかったとなると、やはり普通の魔族でも無さそうだな……」

 

雪奈の高速を聞いて、那月は何処か納得した様子でそう言った

 

「で、なんで今日呼んだのさ?」

 

と明久が問い掛けると、那月が

 

「管理公社の連中が、今日出る確率が高いと言ったんだよ……それで、貴様にも手伝ってもらおうと思ってな」

 

と言った

 

「手伝うって……どうすればいいのさ」

 

「なに、貴様の眷獣で撃ち落とせばいい」

 

明久の愚痴に那月はそう言うと、ニヤリと笑みを浮かべて

 

「無駄足にならずに済んだな……アスタルテ、公社に連絡しろ。花火の時間だ、とな」

 

受諾(アクセプト)

 

那月の指示に従い、アスタルテは袖の中から通信機を取り出した

 

「花火?」

 

「なんだ、今の奴等は花火を知らんのか?」

 

明久の言葉を聞いて、那月はバカにしたような表情で明久を見た

すると明久は、手を振って

 

「そうじゃなくって、なんで花火を上げるのさ?」

 

と那月に問い掛けた

すると那月は、花火が上がったのとは逆方向の空を指差して

 

「あれを気付かせないためだよ」

 

と言った

その方向を見ると、空を飛びながら激しく戦闘している存在が居た

 

「こんな近いのに、気付かなかった!?」

 

「そんな!?」

 

明久と雪奈が驚いていると、那月が

 

「なるほど……この近さで、まったく魔力を感じないとなると、普通の魔族ではないな」

 

と言った

そして、明久を見て

 

「いいか、殺すなよ」

 

と言った

そして明久は、真実を垣間見る


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