ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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ようやく、終結だよ


決着

現れた雪菜は、沙矢華を見てから明久に視線を向けて

 

「新しい眷獣を、掌握したんですね。先輩……」

 

と低い声音で、言葉を発した

それを聞いて、明久は冷や汗を滝のように流しながら

 

「う、うん。まあ、やむにやまれぬ事情があってね?」

 

と言った

それに続くように

 

「そ、そうよ、雪菜。だから、決してやましい事はなかったわよ?」

 

と沙矢華が、ドモリながら言った

それを聞いて、雪菜は深々と溜め息を吐きながら

 

「沙矢華さん……ボタン、掛け違えてます」

 

と沙矢華の胸元を指差した

 

「つっ!?」

 

指摘された沙矢華は、慌てた様子でボタンを直し始めた

この時、雪菜は沙矢華が着ていたジャージに気付いた

それは、明久がテニスの練習に着ていたジャージだった

《男が着ていたジャージを、嫌がる素振りも無く着ている》

そこから分かるのは、明久が無理矢理にでも沙矢華の血を吸った訳ではない

という事だった

 

(そもそも、そんな人ではないですが……)

 

雪菜はそう思いながらも、雪霞狼を明久に突き付けた

 

「ゆ、雪菜ちゃーん?」

 

雪霞狼を突き付けられて、明久は両手を上げながら雪菜の名前を呼んだ

すると雪菜は、ダンダンと地面を踏み鳴らしながら

 

「別に、怒ってなんかいませんよ? ええ……先輩が私の居なかった時に、勝手に血を吸ったことを怒ってませんとも……っ!」

 

と早口で言った

それを聞いて、明久は

 

(絶対に怒ってるじゃないのよーー!?)

 

と心中で叫んだ

その直後

 

『そろそろ始めるぞ、第四真祖!』

 

とガルドシュの声が響き渡った

どうやら、ナラクヴェーラの把握は終わったらしい

ガルドシュが乗っている大型機

女王(マーレ)を中心に、動き始めた

それを見て、明久が

 

「流石に、全部を一気に相手にするのは厳しいし……」

 

と呟いた

そして、右手を突き出して

 

「行け! 獅子の黄金!」

 

と眷獣を召喚した

狙いとしては、全体攻撃だ

雷撃を食らったのは、最初の一体だ

その一体には効果は期待出来ないが、他の奴には効果が有る筈だと明久は思った

だが

 

「効いてない!?」

 

獅子の黄金の莫大な雷撃が直撃したというのに、ナラクヴェーラ群は無傷だった

どうやら中のパイロットも無事らしく、普通に動いている

すると、雪菜が

 

「どうやら、学習したデータを共有する機能が有るようです。恐らくは、それかと」

 

と言った

すると、沙矢華が

 

「じゃあ、私の煌華燐も……」

 

と言いながら、剣を下ろした

雪菜の言った通りならば、煌華燐の空間切断も効かない

 

「どうすれば、あれを破壊出来るんだ……」

 

「方法なら、あります」

 

明久が悔しそうに言うと、雪菜がそう言った

 

「本当なの、雪菜ちゃん?」

 

「はい……ですよね? モグワイさん?」

 

明久が問い掛けると、雪菜がポケットの中からスマホを取り出した

明久には、見覚えがあった

見た目は普通のスマホだが、その中身は普通のとは比較にならない程の改造が施されている

浅葱のスマホである

 

「それって、浅葱の?」

 

『よう、初めましてだな。俺の名前はモグワイだ、よろしく。剣巫の嬢ちゃんの言う通り、方法はあるぜ』

 

浅葱のスマホの画面に映っていた、不細工なコアラのアバター

モグワイはそう言った

 

『浅葱の嬢ちゃんが、奴らにバレないように新しい制御コマンドを作ったのさ。名付けて、《滅びの言葉》だな。タダでは使われないのが、浅葱の嬢ちゃんだぜ』

 

それの効果を発揮させるには、動きを止めて取り付く必要があるだろう

 

「だったら、早速使うしかないか……」

 

明久はそう言って、左手を掲げた

そして

 

焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)の名を継ぎし者……吉井明久が、汝が枷を解き放つ……疾く在れ(こい)! 九番目の眷獣……緋色の双角(アルナスル・ミニウム)!」

 

左手から鮮血を噴き出して、新しい眷獣を召喚した

それは、音叉を彷彿させる二本の角を持つ獣

双角獣(バイコーン)だった

その身体を構成しているのは、破壊の波動

高周波だった

その高周波は二本の角で増幅され、莫大な音を撒き散らしていた

呼び出された眷獣は、ナラクヴェーラ群を敵と認識したらしい

一気にナラクヴェーラ群目掛けて、空を駆けた

ナラクヴェーラ群は迎撃するが、それらは音と膨大な魔力で弾かれた

そして、ナラクヴェーラ群の間を通り過ぎた

たったそれだけで、ナラクヴェーラ群は大ダメージを受けた

だがそれでも、完全に破壊するけとは出来なかった

恐らくは、明久が手加減したからだろう

緋色の双角は破壊という点に於いては、獅子の黄金の比ではない

だから、未だに近い距離の本島と雪菜達に影響が出ないように手加減したのだ

 

「ヤバイ……手加減し過ぎた!」

 

と明久は焦った

だが、それを

 

「任せなさい」

 

と沙矢華が前に出る

沙矢華が剣の柄を捻ると、刀身が開き、両端に糸が繋がった

それは、弓だった

 

「変型した!?」

 

「これが、六式降魔機装(デア・フライシュッツ)の本当の姿よ」

 

明久が驚くと、沙矢華はそう告げた

そして、太ももから細い銀色のダーツを取って振った

すると、それは一気に伸びて矢になった

沙矢華は、その矢をつがえると

 

「獅子の舞女たる、舞威姫が讃え奉る……極光の焔紅、煌華の麒麟……祖は天楽と轟雷を統べ噴焔を纏いて、妖霊冥鬼を射貫く者なり!」

 

と祝詞を唱えて、真上に放った

すると、空中に魔法陣が描かれた

放った矢の正体は、鳴り鏑矢である

現代では唱えられない術式を、鏑矢の表面に施された凹凸によって唱えて、広範囲に展開することが可能なのだ

そして、今回放ったのは広範囲に於ける呪詛

それにより、ナラクヴェーラの動きを制限させたのである

それを見て、明久と雪菜は同時に動き出した

特に、明久は

 

「久しぶりに……行くか」

 

と言って、一瞬にして姿を消した

 

「これが、先輩の縮地っ!」

 

雪菜はそのことを、凪沙から聞いていた

明久は過去に、剣術大会の個人戦にて優勝した経緯を持つ

その決め手となったのは、二つ

その一つ目が、縮地

あらゆる距離を、一瞬にして詰める高速移動だ

 

「一歩……音を置き去り……二歩……距離を無くし……三歩……必到!」

 

明久は一気に女王に取り付くと、左手を大きく引いた

そして、もう一つが明久の異名となった技

 

「連牙!」

 

高速多段突きである

明久は五連続突きを、女王のコクピットに叩き込んだ

そして、一気に高く跳ぶと

 

「獅子の黄金! 緋色の双角!」

 

と二体を呼んだ

この時、明久の脳裏にあったのはヴァトラーがやった二体の融合だった

明久にはまだ出来ない技術だが、真似することは出来た

二体の攻撃を、同時に放ったのである

これにより、女王だけでなく周囲のナラクヴェーラまでも機能を停止した

だが、まだ諦めていないらしく、女王の中からガルドシュが現れて

 

「戦争は楽しいなあ、第四真祖!」

 

と言って、拳銃を未だに跳んでいる明久に向けた

だが、ガルドシュは忘れてしまっていた

今戦っているのは、明久だけではない

 

「貴方がやっているのは、戦争ではありません! テロ行為です!」

 

雪菜はそう言いながら、ガルドシュの腕を雪霞狼で切り裂いた

拳銃を持っていた腕が宙を舞い、ガルドシュは素早く反対の手でナイフを抜いた

だが、それを振らせずに

 

「守るべき国も、人々も居ない貴方に、戦争という言葉を使う権利はありません! 響よ!」

 

と雪菜は言って、掌を叩き込んだ

 

「ガッ!?」

 

その一撃を食らって、ガルドシュは大きくバランスを失った

その時

 

「これで、終わりだあ!」

 

と明久が、ガルドシュの頭を思い切り蹴った

その一撃で、ガルドシュは女王のコクピットから転落した

すると、それまで動きを止めていた女王が動き出した

どうやら、自動操縦らしい

しかし、本格的に暴れる前に雪菜が

 

「ぶち壊れてください! ナラクヴェーラ!」

 

と浅葱のスマホを、コクピットの中に投げ入れた

それを見ると、明久は雪菜を抱きしめて跳んだ

そして、沙矢華の近くに着地した

その時、ナラクヴェーラはまるで岩のようになって崩れていった

その光景を見て、雪菜が

 

「なんでも、ナラクヴェーラの自動修復機能を逆利用して破壊するそうです」

 

と説明した

それを聞いて、明久が

 

「流石は浅葱だね……それを利用して壊すなんてさ……」

 

と言った

そして、大きく伸びをして

 

「ようやく、終わった……」

 

と呟いた

 


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