ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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決戦の舞台

「あ、あれは……」

 

黒死皇派との戦闘に一段落付き、雪菜はオシアナスグレイブの甲板上から絃神島の方を見た

その時見えたのは、高く舞い上がる一体の赤い眷獸だった

緋色の体を持つ、二角獸(バイコーン)

かなり離れているというのに、桁外れの魔力と分かる

そんな眷獸を放てるのは、絃神島だと1人だけだ

 

「どうやら、あのバカが新たな眷獸を把握したようだな」

 

と言ったのは、空間魔術で転移してきた南宮那月だった

雪菜が視線を向けると、那月はどこか面白そうな表情で

 

「私は藍羽と吉井の妹を連れて離脱するが、お前はどうする? 転校生?」

 

と雪菜に問い掛けた

すると雪菜は、毅然とした態度で

 

「先輩の所に行きます。私は、先輩の監視役ですから!」

 

と告げた

場所は変わり、絃神島の増設島(サブフロート)

緋色の二角獸が現れて広げた穴から、這い出てきた人物達

ぶっちゃけてしまえば、明久と沙矢華の二人である

 

「よっしゃ、生還!」

 

「よっしゃ、生還……じゃないわよ!」

 

沙矢華はそう言うと、明久の襟首を掴んで

 

「あんたね!? 手加減くらいしなさいよ! 私が煌華燐で瓦礫を防がなかったら生き埋めだったわよ!? おまけに穴を倍以上に広げて!!」

 

と叫びながら、明久を高速で振り続けた

そして明久は、振られながらも

 

「仕方ないじゃん!? 慣れない眷獸だったんだからさ!? 破壊って意味じゃあ、獅子の黄金より質悪いんだよ、あいつ!?」

 

と反論した

すると沙矢華は、飽きたのか襟首から手を離して

 

「やっぱり、あんたと雪菜を一緒に居させたら危ないわね」

 

と言いながら、苦笑した

離された明久は、吐き気を堪えながら姿勢を直した

その時だった

増設島の中から、所々色ちがいになっているナラクヴェーラが飛翔してきた

 

「げっ!? あいつ、まだ動けたの!?」

 

「超古代の遺産よ!? 簡単には壊れないわよ!」

 

明久の言葉を聞いて、沙矢華はそう返した

その間、ナラクヴェーラは周囲を索敵するように頭を左右に動かしていた

明らかに、最初の時とは挙動が違った

それを好機と判断したのか、沙矢華は

 

「せっ!!」

 

と短く気合いを発しながら、煌華燐を振るった

しかし全てを切り裂く筈の刃は、ナラクヴェーラの装甲に当たり火花を散らすだけだった

 

「えっ!? つっ!」

 

沙矢華は驚いたが、再び煌華燐を振るった

だが、結果は同じだった

 

「まさか、斥力場を装甲表面に展開して、空間切断術式を防いでる!?」

 

煌華燐で斬れない理由に気付き、沙矢華は驚愕した

その横を、明久が高速で駆け抜け

 

「しっ!」

 

と雷を宿した左拳を叩き込んだ

が、それもまた大したダメージにはなっていなかった

 

「効いてない……まさか、学習してる!?」

 

距離を取った明久は、痛いのか左手を振りながら効かない理由に気づいて驚愕していた

その時ナラクヴェーラの腹部が開いて、中から大量の炎弾が発射された

 

「間に合って!!」

 

沙矢華はそう叫びながら、煌華燐を振った

どうやら、放たれた攻撃には斥力場は無かったらしい

空間断層により、炎弾は弾かれて明後日の方向に飛んでいった

しかし、その炎弾が当たった各所でビルが崩れ、火災が発生していた

 

「なんて、ことを……」

 

威力を目の当たりにして、沙矢華は呆然としていた

しかしナラクヴェーラは、絶好のチャンスだというのに攻撃しなかった

正確には動いているのだが、調子を確かめている感じだった

 

「まさか、浅葱が解読したの? 頑張りすぎでしょ……」

 

それがコマンドを確認していると明久は気付き、明久は呟いた

すると、近くに純白のスーツを着た優男

ヴァトラーが現れて

 

「ふむ……どうやら、奴らは解読に成功したみたいだネ」

 

と言った

明久が視線を向けると、ヴァトラーはある方向を見ながら好戦的な笑みを浮かべていた

明久は嫌な予感がして、ヴァトラーの見ていた先に視線を向けたそこに見えたのは、増設島に横付けされたヴァトラーの巨大クルーザー

オシアナス・グレイブだった

しかもその船腹が開いて、中から十機近くのナラクヴェーラと一回り大きなナラクヴェーラが出てきていた

 

「まだあんなに有ったの!? しかも、あの大きいのはリーダー機!?」

 

まさか他に存在していたとは思わず、明久は驚愕していた

しかし、ヴァトラーは笑いながら

 

「推察するに、あれ一機ずつが貴族級かなァ? いいね、最高だ!」

 

と獰猛な表情を浮かべて、ナラクヴェーラに近づこうとした

だがそれを、明久が腕を上げて制止して

 

「ヴァトラー……あんたは下がってろ」

 

と言った

すると、獲物を取られたと思ったらしくヴァトラーは明久を睨んで

 

「どういうつもりだい、明久? 僕の楽しみを奪わないでくれるかナ?」

 

と言った

しかし明久は、そんなヴァトラーを睨み返して

 

「ヴァトラー……確か前に、絃神島(ここ)は、僕の領土だって言ってたよね?」

 

と問い掛けた

そう問われて、ヴァトラーは思い出すように腕組みしながら

 

「ふム……確かに、言ったね」

 

と肯定した

それを聞いて、明久は船内から出てきたナラクヴェーラを睨みながら

 

「だったら、僕が力尽きるまでは僕が対処する! それがスジってもんでしょ! 引っ込んでろ!」

 

と啖呵を切った

それを聞いて、ヴァトラーは笑みを浮かべて

 

「ふむ、なるほどネ……確かに正論だ……ならば敬意を表して、舞台を整えてあげよう!」

 

と言って、タン! と軽く地面を踏んで

 

「ウハツラ! バツナンダ!」

 

と二体の眷獸を召喚した

それは、巨大な蛇だった

明久の眷獸には及ばないが、その存在自体が災害と同じ眷獸

ヴァトラーはその二体を見ると、更に体から魔力を放出し始めた

すると、頭上に居た二体の蛇の眷獸が合わさり始めた

そして、現れたのは全く別の眷獸だった

 

「眷獸を、融合させた!?」

 

「うん、こんなものだろう…、」

 

驚く明久を尻目に、ヴァトラーは腕を掲げると振り下ろした

するとその眷獸は、増設島と本島の連結部分を次々と破壊した

それにより、増設島は本島から離れて漂い始めた

 

「眷獸で、連結を全部破壊したのか……」

 

「これで、心置き無く戦えるだろう? 明久?」

 

ヴァトラーはそう言うと、数歩下がった

癪ではあるが、確かにその通りだった

明久の眷獸は、天災と同義だ

離れれば、心置き無く眷獸を使える

その時だった

リーダー機らしい大型機体が、一歩前に出て

 

『戦争は楽しいなあ! 第四真祖!』

 

と男の声が聞こえた

それを聞いて、明久は相手を睨んで

 

「欧州のテロリストだかなんだか知らないけどね、僕だっていい加減頭に来てるんだ……別に自国でどうするかなんて、僕には知ったことじゃない……だけどね、他人の国たる日本で暴れるな! あんたらのせいで、こっちはいい迷惑なんだ!」

 

と怒鳴るように、話し始めた

すると、明久の怒気に反応しているのだろう

一瞬だが放電し、空気が震えた

 

「黒死皇派だろうがなんだろうが、もう知ったことか! ここから先は、第四真祖(ボク)戦争(ケンカ)だ!!」

 

明久がそう叫ぶと、右側に沙矢華が寄り添うように立った

その直後、反対側の左に小柄な美少女

雪菜が着地して

 

「いいえ、先輩……私達の戦争(ケンカ)です!」

 

と宣言しながら、雪霞狼を構えた


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