ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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激突

「浅葱、大丈夫!?」

 

明久は電話を耳に当てると同時に、捲し立てるように問い掛けた

すると、予想していたのとは違う声で

 

『先輩、私です』

 

と言ってきた

それは、明久の監視を任務としている少女の声だった

 

「あれ? 雪菜ちゃ……」

 

「雪菜! 大丈夫なの!? ケガしてない!?」

 

明久の口から雪菜の名前が出た直後、沙耶華が明久から携帯を奪っていた

明久が睨むが、彼女は無視して会話している

 

「え………うん、うん……わかったわ」

 

沙耶華はそう言うと、明久に向き直って

 

「はい。雪菜が変わってって」

 

と明久に携帯を返した

明久は携帯を受けとると、耳に当てて

 

「雪菜ちゃん。大丈夫?」

 

と問い掛けた

 

『はい、大丈夫です。それよりも先輩、黒死皇派の近くに居ますよね?』

 

「うん、そう」

 

雪菜からの問い掛けに対して、明久は素直に答えた

雪菜が明久に、監視用の式を付けたというのを思い出したからだ

 

『先輩。先輩なら頼まなくてもやると思いますが……ナラクヴェーラを足止めしてくれませんか? 今、藍羽先輩がナラクヴェーラのコマンドを解析中です』

 

「わかった。やってみる」

 

雪菜の頼みを聞いて、明久は軽く準備運動を始めた

どうやら、浅葱がナラクヴェーラのコマンドを解析し終わるまで押さえればいいらしい

そして、明久が準備運動をしていると

 

『それより先輩……黒死皇派の居る増設島に、よく入れましたね?』

 

と雪菜が問い掛けてきた

心なしか、声音が低い

明久はなんとかしようと考えたが、諦めて

 

「距離が近い場所で、幅跳びしました」

 

と、素直に白状した

 

『ほう……幅跳びですか……沙耶華さんを抱えて?』

 

「はい……お姫様抱っこして、跳びました」

 

電話越しだと言うのに、明久は恐怖から正座して頭を下げていた

それを見て、沙耶華は困惑した様子で首を傾げている

 

『………それで、沙耶華さんはなんと?』

 

「顔を真っ赤にして、今回はノーカンだからねと……」

 

はっきり言うと、今の明久の気分は死刑を待つ死刑囚の気分だった

1つでも失言があれば、死を告げる刃が振り下ろされるだろう

そういう確信が、明久にはあった

そして、数秒後(明久にとっては、凄く長かった)

 

『いいでしょう。今回は不問にします』

 

と言う雪菜の言葉に、明久は心の底から安堵した

そして、深々と息を吐いていると

 

『それで先輩……大事な話があります』

 

と言ってきたので、明久は再び正座して

 

「はい、なんでしょう」

 

と耳を傾けた

 

『沙耶華さんが男嫌いの理由なんですが…………』

 

その話を聞いて、明久は目を見開いた

そして、一回沙耶華に視線を向けると

 

「それ、本当……?」

 

と問い掛けた

明久の問い掛けに対して、雪菜の口から告げられたのは肯定の言葉だった

それを聞いて、明久はメキメキという異音がするほどに携帯を握りしめた

ふと気づけば、明久の目が赤くなっている

どうやら、怒りから吸血鬼の力が出ているようだ

それでも壊れないのは、魔族特区製故にだろう

怒りを抑えるために、明久が深呼吸すると

 

『先輩……そちらを頼みます。私もこっちで、出来ることをしますから』

 

「うん、わかった……後で、無事に会おうね」

 

『はい』

 

と会話を終えると、通話を切りポケットに仕舞った

そして立ち上がると、素手の西村と交戦しているナラクヴェーラに視線を向けた

すると、沙耶華が

 

「どうするつもり?」

 

と、明久に問い掛けた

それに対して、明久は右手を左脇に持っていきながら

 

「あれを押さえる。雪菜ちゃんに頼まれたし」

 

と言って、右手の親指でそれを押し込んだ

その直後、明久の左手に鞘に納められた一本の小太刀が袖の中から出てきた

 

「その刀は確か、アルデアル公の時の……」

 

そう、その小太刀はヴァトラーが放った眷獣を切り裂いた刀だった

その小太刀が気になるらしく、沙耶華は小太刀を指差しながら

 

「その小太刀、なんなの?」

 

と明久に問い掛けた

その問い掛けに対して、明久は

 

「数年前に、父さんがグレーなフィールドワークで手に入れた一本で……銘は鉋切長光」

 

と説明した

明久が告げた銘を聞いて、沙耶華は目を見開いた

鉋切長光の銘を、彼女も知っていたからだ

鉋切長光はその昔、人に化けて悪事を働いていた妖怪を、その妖怪が持っていた鉋ごと切り裂いたという刀を、折れた時に小太刀の長さに打ち直した一品だ

そういう偉業を成した一品故に、鉋切長光は魔殺しの概念を宿した小太刀で、破魔の刀として有名なのだ

しかし、この小太刀は途中で行方知れずとなり、獅子王機関でも探していたのだ

それがまさか、魔の象徴たる吸血鬼の明久が持っているのだから、なんという皮肉だろうか

そして明久は、西村が最後の警備隊員を連れて離れたのを確認してから

 

「それじゃあ、行きますか!」

 

と鉋切長光を抜刀して、ナラクヴェーラに向けて駆け出した

そして、世界最強の第四真祖と超古代の兵器がぶつかる

 


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