ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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会談 後編

「ガルドシュは、その黒死皇派の生き残りだ。正確に言えば、黒死皇派の残党達が、新たな指導者としてガルドシュを雇ったんだ。テロリストとして圧倒的な実績を持つ彼をね」

 

「ちょっと待って。あんたがこの島に来た理由に、そのガルドシュって男が関係してるの?」

 

ヴァトラーの言葉を聞いて、明久は嫌な予感を覚えて問い掛けた

 

すると、ヴァトラーは感心した様子で頷いて

 

「察しがよくて助かるよ、明久。その通りだ。ガルドシュが、黒死皇派の部下達を連れて、この島に潜入したという情報があった」

 

と答えた

 

「……なんで、ヨーロッパの過激派が、わざわざこんな島に来るの?」

 

「さあね……まったく、なにを考えてるんだか」

 

明久の問い掛けに対して、ヴァトラーは興味ないとばかりにとぼけた態度で肩をすくめた

 

そんな態度に明久がイライラとしていると、明久の近くまで来た紗矢華が事務的な口調で

 

「黒死皇派は、差別的な獣人優位主義者達の集団よ。彼らの目的は、聖域条約の完全破棄と、戦王領域の支配権を第一真祖から奪うこと……」

 

と教えた

 

しかも、紗矢華は蔑むような視線を向けてきたので、明久は睨むような表情で

 

「だったら、ますますこの島は関係無いんじゃないの?」

 

「いえ、先輩。違います」

 

明久の反論の言葉を、雪菜が即座に否定した

 

「この島は魔族特区……聖域条約によって成立してる街だ。彼らが、この街で事件を起こすことには意義があるのサ。黒死皇派の健在を印象づけるという程度の自己満足だけどねェ」

 

「なっ……そんな勝手な理屈で……」

 

明久はそう言いながら、拳を握りしめた

 

「とはいえ、魔族特区があるのは日本だけじゃない。彼らがこの島に来たことには、他にもなにか理由があると考えるのが妥当だろうねェ」

 

「なにかって……なにさ?」

 

「そんなことは知らないよ」

 

明久の問い掛けに対して、ヴァトラーはぞんざいに首を振った

 

そして、奇妙に浮き立ったような声で

 

「考えられるとすれば、そうだな……真祖を倒す手段を手に入れるため、というのはどうかなァ。なにしろ彼らの最終目的は第一真祖を殺すことだからねェ」

 

ヴァトラーの話しを聞いて、明久は呆れた表情で

 

「あんたはそれでいいの……?」

 

と問い掛けた

 

真祖とは、最も古く、そして最も強大な力を持っている吸血鬼だ

 

その真祖を倒せる手段を手に入れる、ということは、他の全てのの吸血鬼にとっても黒死皇派の存在が驚異になる

 

ということを意味している

 

危険なのは、ヴァトラーも同じ筈なのだが……

 

「別に構わないよ……と、あの真祖(じいさん)なら言いそうだけどねェ。ボクにもいろいろと立場ってものがあってサ、そうも言ってられないわけだ」

 

まるで他人事のように両腕を広げ、ヴァトラーは意味あり気な含み笑いを浮かべた

 

そんなヴァトラーを、雪菜は生真面目な表情で睨みつけ

 

「クリストフ・ガルドシュを、暗殺なさるつもりなのですか?」

 

と問い掛けた

 

すると、ヴァトラーは肩をすくめて

 

「まさか。そんな面倒なことはしないよ。そもそもボクの眷獣たちは、そういう細かい作業に向いてないんだ。街ごと焼き払うとか、そういうのは得意なんだけどねェ」

 

雪菜の問い掛けに対して、ヴァトラーはのらりくらりと答えをはぐらかした

 

そして、ヴァトラーの言葉を聞いて

 

「自慢することじゃないでしょ……」

 

と明久は呟いてから、胸をなで下ろした

 

だが

 

「でもサ、もし仮にガルドシュのほうからボクを殺そうと仕掛けてきたら、応戦しないわけにはいかないよねェ。自衛権の行使ってやつだよ。そうだろ?」

 

油断した明久を嘲笑うように、ヴァトラーはそう言いながら同意を求めてきた

 

この段階になり、明久はようやくヴァトラーの目的を察した

 

ヴァトラーは、黒死皇派と呼ばれている過激派グループの指導者を殺している

 

つまりは、黒死皇派にとっては指導者の仇である

 

黒死皇派の残党達は、ヴァトラーに復讐する機会を待ちわびているだろう

 

もしも、ガルドシュが本当に真祖を殺す方法を入手したのなら、黒死皇派は真っ先にヴァトラーを狙うはずだ

 

それこそが、ヴァトラーの狙いなのだ

 

「あんたがこの島に来たのは、テロリストを挑発して誘き出すのが、本当の目的か……こんな目立つ船で来たのも……」

 

明久が睨み付けて問いかけると、ヴァトラーは肩をすくめて

 

「いやいや……それはどちらかと言えば、愛しい君に会うのが目的なんだが」

 

と答えて、明久に近づいてきたが、明久はジリジリと後退して

 

「ふざけてる場所じゃないでしょ。戦争がしたいなら、自分の領土(くに)でやってよ。他国の街に迷惑をかけない!」

 

明久がそう言うと、ヴァトラーは再び肩をすくめて

 

「もちろんボクはそう願ってるよ。この都市の攻魔官たちがガルドシュを捕まえてくれれば、文句はない。手間が省けていいよねェ。彼らがガルドシュを捕らえられるなら、の話だけどサ」

 

ヴァトラーはそう言うと、ゾッとするような冷たい笑みを浮かべて

 

「だが、ボクが従えている九体の眷獣……こいつらは宿主であるボクの身に危険が迫ったら、何をしでかすかわからない。この島を沈めるくらいのことは平気でやるヨ。だから、君には最初に謝っておこうと思ったのサ」

 

「なっ……」

 

ヴァトラーの話を聞いて、明久は絶句した

 

ヴァトラーは、彼の命を狙うたった数十人のテロリストを殺すためだけに、島を沈める気なのだ

 

それを、明久の前で平然と宣言した

 

それはつまり、明久が止めようとしても無駄だという、ヴァトラーの意思表示だ

 

もしも邪魔をするのならば、明久すら倒すと

 

それが、軽薄そうな青年貴族たるヴァトラーの言葉に隠されている、ヴァトラーの本心だった

 

腹が立たない訳ではない

 

だが、事実上、明久にはヴァトラーを止める術がないのだ

 

実力で止めようとしたら、この島に甚大な被害が出るからだ

 

ヴァトラーが正当防衛を主張する限り、雪菜達獅子王機関も手出し出来ない

 

正式な外交使節であるヴァトラーを、テロリストに狙われているという理由だけで、島から追い出すのも不可能なのだ

 

事実上の八方塞がりの状況に、明久の思考が空回りを始めた

 

その時、雪菜が一歩前に出て

 

「せっかくですが、そのようなお気遣いは無用でしょう、アルデアル公」

 

と冷たく澄んだ声で、そう告げた

 

「ゆ、雪菜ちゃーん?」

 

明久が不安そうに呼びかけるが、雪菜は明久には目もくれなかった

 

そして雪菜の言葉を聞いて、ヴァトラーは訝しむような表情を浮かべて

 

「……どういうことかな? まさか明久が、ボクの代わりにガルドシュを始末してくれるとでも? だけど、第四真祖のやつよりは、まだボクの眷獣たちのほうが大人しいと思うけどね」

 

と言った

 

すると、雪菜は静かな決意がこもった表情で頷き

 

「そうですね……ですから、わたしが第四真祖の代わりに、黒死皇派の残党を確保します」

 

「雪菜!?」

 

雪菜の言葉を聞いて、紗矢華は悲鳴を上げた

 

有能ぶっている彼女ですら、雪菜のこととなるとそんな余裕は無くなるらしい

 

しかし、それは明久にとっても同じだった

 

「なんでそうなるのさ!? 代わりにもなにも、僕はガルドシュって奴の相手をする気なんて……!」

 

「先輩たちは黙っていてください。監視役として当然の判断です。第四真祖をテロリストと接触させるわけにはいきますんから。相手が真祖を殺そうとしているのなら、なおさらです」

 

明久が止めようとするが、雪菜は即座に抑揚のない声で断った

 

傍目には冷静のように見えるものの、これは半ば意地になっている時の雪菜の特徴だ

 

生真面目な性格のために、一度思い込んだら頑固だ

 

「ふゥん……なるほど。面白い……さすがにボクの恋敵になろうというだけのことはあるな」

 

「え? いえ、べつにそういうわけでは……」

 

ヴァトラーの話を聞いて、雪菜は強張っていた表情を緩めて戸惑い始めた

 

そんな雪菜を見て、明久は

 

(え、戸惑うとこって、そこ?)

 

と疑問に思った

 

だがそんな雪菜を見て、ヴァトラーは愉快そうに、しかし、どこか酷薄そうな微笑みを浮かべて

 

「ならば、まずは獅子王機関の剣巫の実力、見せてもらおうか。明久の伴侶にふさわしいか、見極めさせてもらうよ」

 

と宣言した

 

それを聞いて明久が、勝手に決めないでくれるかな!?

 

と突っ込んだが、キッパリと無視された

そして気付いたら、紗矢華は軽い放心状態で絶句したまま固まっていた

 

どうやら、雪菜に黙ってろ。と言われたのが相当にショックだったらしい

 

そして、雪菜とヴァトラーの二人はそんな明久と紗矢華を無視

 

雪菜は挑発的な笑みを浮かべていたヴァトラーに対して、無言で頷いた

 

こうして、深夜にまで及んだ会談は幕を下ろしたのだった


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