ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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少女との邂逅

男にスカートを捲られた少女 姫柊雪菜は数舜ほどは何が起きたのか分からず、呆然としていた

 

だが、自身のスカートが捲られたと理解すると顔を真っ赤にして

 

(ゆらぎ)よ!」

 

と言いながら、自分のスカートを捲った男に掌底を叩き込んだ

 

掌底を喰らった男は、まるで砲弾のように吹き飛び、背後のワンボックスカーにめり込むようにぶつかった

 

その光景を見て、もう一人の男は雪菜を睨みつけながら

 

「てめぇ! 攻魔官だったのか!」

 

と言いながら、正体を表した

 

鋭く伸びた八重歯に全身から迸る、膨大な魔力の奔流

 

「D種っ!」

 

D種

 

正式名称は吸血鬼(バンパイア)

 

第一真祖の忘却の戦王(ロスト・ウォーロード)の血を引く種族である

 

そして、吸血鬼は世界最強の魔族と言われている種族である

 

吸血鬼の身体能力は獣人には遠く及ばない

 

しかし、吸血鬼には他の種族にはない特殊能力がある

 

それは……

 

「来いよ、灼蹄!」

 

吸血鬼の男がそう言うと、男の隣に炎によって構成された馬が現れた

 

自身の魔力を糧に、自身に連なる獣

 

眷獣を召喚したのだ

 

この眷獣の召喚及び使役こそが、吸血鬼が最強と呼ばれる理由である

 

「やっちまいな、灼蹄!」

 

その吸血鬼は召喚に慣れてないのか、自身が放出している魔力に酔っている

 

そして、その異常な魔力の放出を男が腕に着けてある魔族登録証が検知し、それに連動して近くのスピーカーから

 

『緊急事態発生! 緊急事態発生! 異常な魔力放出を確認! 付近の方々は避難してください! 繰り返します!』

 

という放送が、甲高い警報音と共に流れた

 

その放送を聞いて、近くに居た人々は一目散に駆け出した

 

魔族特区に住んでいる人々は、こういう事態に慣れているので僅か一、二分後には付近から人影は無くなった

 

正直に言えば、明久もこのドサクサに紛れて逃げれば良かったのだ

 

だが、なぜか近くの物陰に隠れるだけだった

 

男が召喚した眷獣を見て、雪菜は険しい表情を浮かべて

 

「眷獣を街中で呼び出すなんて!」

 

と言うと、右手を素早く背中に背負っているギターケースへと伸ばした

 

そして、中から取り出したのは洗練された戦闘機を彷彿させるデザインの銀色の槍だった

 

雪霞狼(せつかろう)!」

 

雪菜は槍の銘を呼びながら、槍を展開させて構えた

 

その槍を見て、男は嘲りながら

 

「その槍がなんだってんだよ! 灼蹄、槍ごと溶かしちまいな!」

 

男が命じると、炎の馬は地面のコンクリートを溶かしながら雪菜目掛けて突進した

 

雪菜は槍を腰溜めに構えると、短い呼気と共に突き出した

 

その光景に明久は思わず、雪菜の正気を疑った

 

雪菜があのように使っているということは、対魔族用の武装だというのはわかった

 

恐らくは、対魔力等の魔術も付与(エンチャント)されているとも予想出来た

 

だが、ただの槍で若い世代とはいえ吸血鬼の眷獣を攻撃するなど愚の骨頂だと思った

 

なぜならば、若い世代の吸血鬼の眷獣でも人間の軍隊の一個中隊以上の戦闘力を有しているのだ

 

旧い世代ともなれば、下手したら旅団規模に匹敵し、真祖となれば、それは災害に匹敵するのだ

 

だが、次の瞬間

 

信じられない光景を、明久は見た

 

「なっ!? 俺の灼蹄が!?」

 

槍の穂先が当たった瞬間、まるで溶けるように炎の馬が崩れたのだ

 

そして、僅かに残っていた魔力の残滓を雪菜は槍を振るって掻き消した

 

一連の光景を見て、吸血鬼の男は信じられないといった様子で固まっていた

 

すると、雪菜は吸血鬼の男を睨みつけて槍を再び構えると風のように駆け出した

 

「う、うわあぁぁぁ!」

 

吸血鬼は再び眷獣を召喚して雪菜目掛けて突進させたが、雪菜は槍を突き出して眷獣を消し去るとその勢いのまま男に槍を突き立てようとした

 

だが

 

「はい、そこまで!」

 

それを明久が槍を横から殴ることで、阻止した

 

明久の行動に驚いたのか、雪菜は驚愕で目を見開きながら

 

「吉井明久!? 雪霞狼を素手で殴るなんて!?」

 

と言うと、大きく後ろに飛んで一台の車の上に乗った

 

それを見た明久は、肩越しに背後を見ながら

 

「そこのアンタ! 今のうちに相棒を連れてどこかに行って! それと、今回のことに懲りたら、女の子をナンパしないように!! それと、不用意に眷獣を召喚するのもね!」

 

と言うと、吸血鬼の男は何回も頷きながら

 

「あ、ああ……すまねぇ!」

 

と言って、ようやく起き上がってきた相方に肩を貸して立たせるとどこかへと歩いていった

 

雪菜はそんな二人を睨みつけているが、微動だにしなかった

 

「キミもね……まあ、スカートを捲られたのは確かに嫌だったかもしれないけどね……やり過ぎだよ」

 

明久の呆れを含んだ言葉を聞いて、雪菜は明久を睨んで

 

「どうして邪魔をするんですか?」

 

と非難がましい口調で問い掛けた

 

雪菜からの問い掛けに、明久は頭を掻きながら

 

「邪魔っていうか……普通、ケンカしてる人達が居たら止めるでしょう? というか、なんで僕の名前を知ってるのさ?」

 

と言った

 

「……公共の場での魔族化、しかも市街地で眷獣を使うなんて明白な聖域条約違反です。彼は殺されても文句を言えなかったはずですが?」

 

という雪菜の言葉に、明久は、そうだけどね。と同意してから

 

「それを言うなら、先に手を出したのはキミでしょ?」

 

「そんなことは……」

 

明久の言葉に反論しようとしたが、雪菜はすぐに口を閉ざした

 

どうやら、先ほどの男と争い始めた時を思い出したらしい

 

明久はヤレヤレと首を振って

 

「キミが誰なのかは知らないけどさ、スカート捲られて下着を見られたからって、そんな物騒な物を使って殺そうとするのはあんまりでしょ? いくら相手が魔族だからってさ」

 

明久がそこまで言ったタイミングで、雪菜は槍を構えた

 

それを見て、明久は自身の失言に気づいた

 

「もしかして、見てたんですか?」

 

「えーっと……」

 

雪菜からの問い掛けに、明久は頬を掻いた

 

雪菜の立場からしたら、明久はナンパで困っていた雪菜を見捨てながらも、殺されそうになった吸血鬼の男を助けた身勝手な男である

 

その点に関しては、明久に否定する素材がない

 

どう言おうか明久が迷っていたら、そのタイミングで離島特有の強風が吹いた

 

その風によって、雪菜のスカートが捲り上げられてピンクと白のチェック柄の可愛らしい下着が見えた

 

「っ! どこを見てるんですか!?」

 

雪菜は顔を真っ赤にしながらスカートを押さえて、明久に対して怒鳴った

 

「あ、いや、あの……」

 

予想外の事態と光景にドモっていると、明久の鼻から赤い液体

 

つまりは、鼻血が流れてきた

 

明久は鼻血が流れたことに気づき、すぐさま手で隠した

 

だが、雪菜は鼻血に気づいており侮蔑の視線を明久に向けて

 

「……いやらしい……」

 

と言い捨てると、持っていた槍を手早くギターケースに収納して立ち去った

 

明久はそれを見送ると、近くの壁に背中を預けてズルズルと座り込んで

 

「本当に……勘弁してよ……」

 

と呟いた

 

鼻血が流れたのには、ワケがある

 

吸血鬼に備わっている吸血衝動

 

これの原因が、性欲なのである

 

そして、吸血衝動が起きたら何かしら血を吸わないといけないのだ

 

例えそれが、自身の鼻血だとしても構わないのである

 

自分の鼻血を吸ったことで、吸血衝動は収まった

 

後は鼻血が収まるのを待ち、すぐにこの場を離れようと明久は考えていた

 

先ほどの警報でもうすぐに、特区警備隊(アイランド・ガード)が駆け付けてくるだろう

 

島の治安を守るための、武装している攻魔官の部隊だ

 

騒動の原因ではないとはいえ、このまま長居したらかなり面倒である

 

具体的には、二人の教師に死ぬかもしれないほどの補習と追試を与えられかねない

 

そして、鼻血が止まったのを確認した明久は立ち上がって去ろうとした

 

「ん? なにか落ちてる……」

 

その時に明久が見つけたのは、白を基調とした財布だった

 

「さっきの女の子のかな……」

 

明久は確かめるために、心中で謝りながら財布の中を確認することにした

 

小銭入れの部分には小銭が数枚入っていて、お札入れには一万円札と千円札が数枚入っていた

 

今の明久としては羨ましい金額だが、明久は無視してカード入れを見た

 

入っていたのは、銀行のキャッシュカードと一枚の学生証だった

 

「えーっと……姫柊雪菜?」

 

そこには、ぎこちなく笑っている雪菜と雪菜の名前が印刷されていた

 

書いてある学校の名前は、明久と同じ学園の私立彩海学園の中等部だった

 

「……どうしよう……」

 

知らず知らずの内に、明久の口からそんな言葉が零れた


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