自分が斬ったディセンバーが倒れると明久は、刀を地面に突き立てて
「ディセンバー……」
とディセンバーを抱き起こした。幾ら第四真祖の一人とはいえ、長年血を吸わず、存在が消えかける程に魔力を放出していて、そこに更に致命傷の斬撃を受けたのだ。
助かる訳がない。
雪菜もそれが分かっているからか、悲痛そうな表情で明久の隣に居る。
するとディセンバーは、うっすらと目を開けて
「ありがとうね……私を、止めてくれて……」
と感謝の言葉を告げた。
「本当はね、分かってたんだ……私がやってる事は、テロ行為だって……他の無関係な人も危険に晒してるって……けど、止まれなかった……怒りが……憎しみが……収まらなかった……」
「そうだろうね……君、優しそうだから……」
恐らくディセンバーは、自分だけじゃなく、何人もの魔族が違法な実験の実験台にされて、死ぬのを長年見てきただろう。
それが、彼女に魔族特区の破壊というテロ行為に繋がった。テロ行為自体は、非難されるべき事は確かだ。
しかし、相手は魔族特区の権利者も取り込んでいて、普通の方法では助けられない。だから、テロ行為をするしかなかった。
「ねえ、吉井明久くん……」
「何かな……」
「私は、もう消える……これは、もう避けられない……だから、お願いがある……」
「うん……」
明久が頷くと、ディセンバーは
「私達みたいに、違法な実験台にされてる魔族を……助けてあげて……その為に、私の眷獣も使って……」
「僕に出来る事は、全部やるよ……」
それは、気休めなのかもしれない。
明久は確かに第四真祖だが、領土も持たないただの学生なのだ。しかし、ディセンバーは嬉しそうに笑みを浮かべて
「ありがとう……私の眷獣の名前は、
「うん……ディセンバーの眷獣は、僕が引き継ぐよ……本当にありがとう……ゆっくり休んで……」
「うん……あぁ……久しぶりに……ゆっくり眠れそう……」
それが、ディセンバーの最後の言葉だった。
明久はディセンバーの首筋にゆっくりと噛み付き、ディセンバーの血を僅かに吸った。
それにより、ディセンバーの姿は完全に消滅し、明久は自分の中に新しい眷獣が増えて、掌握出来たのを理解した。
明久は泣きそうな表情を浮かべ、雪菜もそんな明久に何も言えなかった。
もしかしたら、雪菜がディセンバーのような立ち位置に居たのかもしれない。そう考えていたのかもしれない。
だが、言える事はただひとつ。
もう、自分達の力の及ぶ範囲では、ディセンバー達のような被害者を出したくはなかった。
こうして、絃神島を廻るテロ事件は幕を下ろした。
だがこの時、裏では人工島管理公社で、代表が変わった。
それまでは基樹の父親だったが、今回の最中で不信任案が出されて可決。それにともない、なんと基樹が代表に選出された。
これは、その父親が以前から怪しい動きをしていたのを把握していたらしく、今回。一時とはいえ姿を消した事が決定打になった。
だが基樹はこの後に、動くのが遅かった事を知る。