動物病院から出た明久達は、一度キーストーンゲートの方を見てから移動を始めた。
向かう先は、アイランド・サウス。
そちらから、尋常じゃない魔力を感じたのだ。十中八九、タルタロス・ラプスの魔族特区の作戦が進んだのだろう。
その証拠に、上空には少しずつだが魔法陣が形成されていっている。
「何をする気なんだ……!」
「考えられるのは、大規模術式による直接破壊になりますが……あんな魔法陣、見たことありません!」
上空の魔法陣を見ながら、明久と雪菜は考えていた。
しかし、相手は二人からしたら良く分からない風水術を使う千賀が居る。単純な術式ではないだろう。
「雪菜ちゃん、こっちに」
「どうしました?」
明久に手招きされた雪菜は、明久の隣に並走した。
その直後、明久は雪菜を抱き抱え
「せ、先輩!?」
「しっかり掴まっててよ!!」
そう言って明久は、自身の唇を軽く噛み切って一気に跳んだ。最初の一歩でほぼ真上に跳び、近くのビルの屋上に着地。二歩目で、約10m先のビルの屋上に着地した。
すると、雪菜が
「先輩! 姿が見られてしまいますよ!?」
と明久に警告した。
今までは夜だったり、地下や結界内という人目に付きづらい場所だった為に見られる心配は無かった。
しかし、今は真昼の繁華街。
もし誰か、それも知り合いに見られたら面倒な事になるのは間違いないだろう。
だが
「今殆どの人は、避難に精一杯だし……それに、やらないで後悔するよりもやって後悔した方が断然マシ!」
明久はそう断言し、跳躍し続けた。
その思い切りの良さに、雪菜は驚きながらも頷いた。
「このまま、アイランド・サウスに向かうよ!」
「はい、お願いします!」
そして二人は、そのままアイランド・サウスに向かっていった。
時は少しばかり遡り、絃神島近海の海上。
そこでは、駆け付けた海上自衛隊と海上保安庁により船員や飛行機の乗員達の救助作業が行われていた。
それを沙矢華達も式紙で補佐していたが、術式を自動化すると休憩の為に船室に戻っていた。
「なんとか、救助には目処が立ったけど……」
「問題は、絃神島に行く事だな……」
これは自衛隊が絃神島の現状を把握する為に、UAVを飛ばした事で分かったのだが、かなりの速さが出ないと風水術の方向感覚をデタラメにするという術に抗えないのが分かったのだ。
その速さは、最低でもマッハが必要だと考えられている。
しかし、だからと言って海上自衛隊に戦闘機を徴収する訳にもいかず、沙矢華と詩緒は手詰まり感を覚えていた。
すると、艦橋に行っていた唯里が戻ってきて
「速さ……あ、行ける方法ある」
と呟き、それを聞いた二人の視線が唯里に集まった。
「え、あるの!?」
「唯里! その方法は!?」
「え……二人共、この子の事。忘れてない?」
唯里はそう言って、ソファーに寝転がっていた鋼色の髪の少女。グレンダを指差した。
「……だー?」
少々寝ぼけた様子だが、いきなり視線が集まったのを感じたグレンダは、不思議そうに首を傾げていた。