「被害者……それは、彼女達が何らかの実験の被験体だったってこと?」
「ほう……分かるのか?」
千賀の問い掛けに、明久は周囲に居たタルタロス・ラプスのメンバーを見て
「……例えば、僕達を連れてきたホムンクルスの少年……さっき、異様な熱を感じた……多分、炎熱系の能力を付与されてるんだろうけど……違法な実験で与えられた能力……」
「さっきの一瞬でか……」
明久の言葉に、ロギが驚いた表情で明久を睨んだ。
ロギが熱を出したのは僅か短時間だが、それで明久は気付いたようだ。
「そっちの子は……魔族みたいだけど、魔力の流れが少し変だから……多分、何らかの能力を付与しようと実験したのかな?」
「くっ……!」
明久の言葉に、アイスを持ってきた少女は驚きの表情を浮かべた。
彼女は今から数ヶ月前に、タルタロス・ラプスによって欧州のイロワーズ魔族特区から解放された魔族の少女だ。
「……話には聞いていたが、剣士としての感覚か……」
「まあ、剣術士は相手の魔力の流れから次に相手がどう動くのか、考えないといけないからね」
千賀は明久の感覚の鋭さに、驚いていた。
既に試合には出なくなったが、未だに明久は剣術士最強の一人と言われている。
その能力は速さと先読みに特化しており、公式戦では負け無しだ。
「やはり、欲しいな……」
「なに?」
千賀の言葉に明久が首を傾げていると、千賀は立ち上がり
「第四真祖……我々の仲間にならないか?」
と提案してきた。
「………………は?」
あまりに予想外だった為に、明久は困惑した表情を浮かべた。すると、千賀は
「何も不思議ではなかろう? 我々、タルタロス・ラプスは各魔族特区から囚われてる魔族を解放し、魔族特区と戦っている。直前のイロワーズ魔族特区でも、そうだったからな」
イロワーズ魔族特区
それは、今から数ヶ月前に壊滅したという魔族特区だったのを、明久はニュースで見ていたので覚えている。
原因までは言われていなかったが、どうやらタルタロス・ラプスが破壊したようだ。
「タルタロス・ラプスは、長い間そうやって活動してきた……何回も壊滅しかけ、ディセンバーを中心に復活してきた」
「ディセンバーを中心に……ああ、彼女吸血鬼だったね」
「……気付いていないのか?」
「何が?」
「いや、いい……」
千賀の反応に、明久は不思議そうにした。
そして、少し間を置いて千賀は
「さて、どうするかね。第四真祖?」
再度、問い掛けた。
「先輩……」
「大丈夫……」
雪菜が心配そうに明久を見るが、明久は微笑みを浮かべて雪菜の肩を掴んだ。そして、千賀を見て
「……なんか、前にも言ったような気がするセリフなんだけど……なんで、他の人を頼ろうとしなかったの」
と告げた。
「その様子じゃ、魔族特区の不正だけじゃない……多分、絃神千羅の何らかの計画に気付いたんだろうけどさ……なんでそれを公表せず、あんたらだけでやろうと決めたのさ……確かに、その決意は凄いと思うよ。自分達が悪になってまでも、大悪の計画を挫く……うん、凄いよ。多分、僕だったら出来ないと思う……けど、それを公表して、もっと多くの人の協力を得られたら、別の方法が見つかるって、なんで思わなかったの!?」
明久のその言葉に、ロギが怒った様子で一歩踏み出した。しかしそれは、怒気に反応した明久が抜いた刀で止められた。
「ロギ、止まれ」
「……分かりました……」
千賀に止められたロギは、不承不承という感じだったが、下がった。
それを見て、明久も刀を鞘に納めた。
そして明久は、更に
「これは、僕の知り合いのハッカーの言葉なんだけど……ハッカーっていうのは、他人の秘密を暴露したがる人種なんだってさ。だから、あんたらも知った情報を暴露したらよかったんじゃないの? そうすれば、無関係な一般人を巻き込むような事をしなくても良かった筈だ!」
怒声混じりに告げた。
すると、千賀は
「……確かに、それもひとつの手ではあるな……しかし、誰も信じなければ意味が無い」
と拒否した。
それに、明久が何か言おうとしたタイミングで
「それで、先ほど君が言った知り合いのハッカーというのは……藍羽浅葱の事かな?」
と浅葱の名前を出し、明久は僅かに動揺してしまった。
「どうやら、当たりのようだね……さて、彼女は無事かな?」
「どういう事だ!?」
千賀の言葉に、明久は刀の柄に手を伸ばした。
すると、千賀は
「さてね……そろそろ、お暇させてもらうよ」
千賀がそう言った直後、千賀達の足下に魔法陣のような紋様が現れた。
「風水陣!?」
どうやら雪菜は知っていたようで、すぐに鎗を展開して動こうとしたが
「では、我々は移動させてもらうよ……さらばだ、第四真祖」
僅かに早く、千賀達の姿が消えた。
「先輩!」
「つっ……人工島管理公社の警備隊を信じよう……僕達は、タルタロス・ラプスを止める!」
そう言って明久は、動物病院から出た。