ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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明久の過去

ディセンバーの居場所を探しながら明久と雪菜は、色々と情報を調べていた。しかしなかなか決定的な物が見つからず、二人は公園で休憩していた。

明久が投げた古いバスケットボールが、緩い放物線を描いてゴールに入った。

 

「……嫌な雰囲気だね……嵐の前の静けさというか……」

 

近くの道路には、避難しようとしている人々や完全武装の警備隊が居る。特に避難している人々は、不安そうな表情で激しく黒煙を上げている物資集積所の方を見ている。

 

「……すいません。私が後手に回ったばかりに……」

 

「雪菜ちゃんのせいじゃないよ……」

 

落ち込み気味の雪菜の頭を、明久は優しく撫でた。

 

「しかし、私は獅子王機関の剣巫なのに……」

 

「見習いの剣巫、なんでしょ?」

 

「先輩……?」

 

明久は雪菜の隣に座ると、空を見上げて

 

「……雪菜ちゃん。僕が前に、剣術部に入ってたのは知ってるよね……?」

 

「はい……個人戦で優勝もしたことがあると……」

 

「……僕が引退した理由は、ある集団戦の時に相手に大怪我負わせたのと、準決勝中に怪我したからなんだ」

 

そこから明久は、引退した理由を語り始めた。

それは、明久が中等部の二年生だった時の話だ。その当時明久は、彩海学園中等部では知らない者は居ないと言える程に有名人だった。

それまで弱小部だった剣術剣道部を、全国大会に進出させる程に腕が立っていたからだ。

特に個人戦では負け無しで、連牙の吉井とすら呼ばれていた。

しかし集団戦の準々決勝の時、明久は加減を誤って対戦相手の一人に重傷を負わせてしまったのだ。

剣術の試合に於いて、怪我はよくある話だ。

それ自体は明久も分かっていたし、覚悟もしていた。

だが明久は相手が強かった為に気が昂ったとはいえ、力加減を間違えてしまい、相手の肋骨を折る怪我を負わせてしまったのだ。

流石にそこまでの大怪我となると明久も気が動転してしまい、準決勝時に意識が散漫となって相手の一撃を上手く防御出来ずに右腕を負傷。

準決勝は難とか突破したが、チームメイト達は意気消沈し、決勝戦で惨敗。

明久は引退を決意し、部活仲間の引き留めを振り払って引退したのだ。

 

「何やってんだ、って思った……怪我なんて、剣術の試合じゃよくある話だ……魔術で治療されたけど、決勝には出れなくて……その時のチームメイトはもう勝てないって諦めて……見てられない試合だったよ……」

 

「けど、それは……!」

 

明久のせいじゃない、そう言い掛けて、雪菜は止まった。

 

「……結局その時のチームメイトは、僕頼りだったんだ……僕が居れば勝てる……負ける要素が無いって、僕に頼りきりだった……」

 

それで、愛想を尽かしたと言うべきだろう。

明久は剣術道具も全て処分し、もう二度と剣術剣道部には顔を出さないと言って退部した。

今はどうやら、それなりの成績を出してはいるようだが、最早関係無いと明久は思っている。

 

「……世界最強の吸血鬼って言われて、良い気になってたのかな……絃神島を救えるって……そう思ってたのかもね。那月ちゃんから、余計なことはするなって言われてたのにね……」

 

そこまで聞いて、雪菜はさっきの話を明久が今と重ねてると気付いた。明久は解決しようと眷獣を呼び出したが、眷獣の制御をディセンバーに奪われてしまい、何とか制御していた時に目の前で那月を撃たれた。

幸いにも本体ではないから、時間が経てば那月は復活するだろう。しかし、それを明久は自分のせいだと思っているのだと雪菜は気付いた。

 

「しかし、それは……」

 

そこまで言って、また雪菜は止まってしまった。

まさかディセンバーが精神操作系の強力な使い手だとは知らなかったから、対処が遅れてしまった。

だがそれは、明久や雪菜。警備隊にも分からなかった事で、手の打ちようがなかったからだ。

はっきり言って、誰の責任でもない。

 

「……浅葱が、タルタロスの薔薇を調べてくれたらいいんだけど……」

 

タルタロスの薔薇

それが、タルタロス・ラプスの根幹に関わる事なのは、ディセンバーの言葉から気付いた。

だから明久は、浅葱に調べてもらおうとメールを送っていた。

そして明久は、空を見上げた。事件が起きてから、少しずつ濃くなってきている空の魔法陣。

明久と雪菜には分からず、それに気付いたのは那月であり、那月がディセンバーから引き出したのがタルタロスの薔薇。という言葉だった。

 

「……タルタロス・ラプス……魔族を解放する為に……か」

 

「しかし先輩……彼らが行っているのは……」

 

「分かってる……タルタロス・ラプスがやってるのは、ただのテロ行為だ……確かに、どうしようもない奴が居るのは否定出来ない……魔族を実験動物みたいに考えてる奴が居る……けど、無関係な一般人の方が圧倒的に多い……止めないといけない……この島に住む一人として……」

 

その言葉に、雪菜はハッとした。

今まで忘れていたが、本来明久は一般人なのだ。

本来だったら明久は、避難シェルターに居てもなんらおかしくはない。

だが明久は、力を持つ者の責任として、自ら最前線に赴いている。

言って止めても、明久は止まらないと、今までの付き合いから分かる。

だから雪菜は

 

「先輩……この事件、何としても終わらせましょう」

 

と明久に言った。


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