「戻ったぞ」
「お帰り、志緒ちゃん。獅子王機関はなんだって?」
「海上自衛隊や海上保安庁に連絡し、こちらに船を回してくれるそうだ……」
艦橋から獅子王機関に通信してきた志緒は、唯里からお茶を受け取りながらソファーに座った。
絃神島手前で転覆していた船は、全部で数十隻。更に飛行機も含めれば数百に迫ろうとしていた。
流石に一隻で全ての被害者を救助出来る訳がなく、志緒は獅子王機関に応援を要請。獅子王機関は即座に受諾し、応援を回したという。
そして、お茶を一口飲んだ志緒はソファーにグッタリと座っている沙矢華を軽く睨み
「……お前は、何をやっているんだ。煌坂」
「……何って、絃神島上空に展開されてるあの陣を解除しようとしてるんじゃない……おっかしいわね……八門屯行なのは間違いないんだけど……」
呼ばれた沙矢華は、気だるげに体を起こすとそう答えた。それを聞いた志緒は、驚いた表情で
「まさか……暗算でパターンを解析してたのか!?」
「そうよ……とりあえず、八門屯行までは突き止めたわ……あと、奇門屯行も使ってるみたいだけど……中心は八門屯行……ただ、乱数パターンが中々特定出来ないのよね……とりあえず、20パターンはやったんだけど、どれも外れだったし……」
沙矢華の言葉に、志緒は頬をひくつかせた。
本来それは、専用の計算機を使って計算を繰り返していくものだ。だが沙矢華は、暗算でやってのけている。
一応志緒にも出来ることだが、暗算の速さが桁外れだった。
志緒が離れていたのは、約10分程だ。その間に、沙矢華は20パターン分も暗算して試していたという。
それは、気だるげにもなる、と志緒は納得した。
すると、沙矢華の口にチョコレートを入れた唯里が
「……確か、今回の主犯はタルタロス・ラプスって話だよね……そのタルタロス・ラプスには、風水師が居たって情報だったから……太陽と月の位置を使った乱数パターンを使ってる……とかなのかな……」
と呟き、それを聞いた志緒と沙矢華が唯里を見た。
二人に見られて、唯里が困惑していると
「そうよ! 風水よ! なんで忘れてたのかしら! 太陽と月の位置を使ったなら、乱数パターンが合わないのは当たり前じゃない!!」
「煌坂。私が月をやる!」
「OK! 私が太陽をやるわ! 一時間以内に解除するわよ! 急がないと、救助に来た船まで転覆しかねない!」
志緒と沙矢華は、唯里からそれぞれチョコレートを貰うと、一気に乱数パターンの計算を始めた。
(速く終わらせないと、雪菜と明久が何をするのか分かったもんじゃないわ!!)
沙矢華は雪菜と明久の為に、計算をしていた。
それに対し、志緒は
(確か、絃神島には牙城の子供……私と同い年の少年……確か、吉井明久とあの凪沙が居るんだったか……凪沙はあの作戦で怖がらせてしまったから、助けたいし……二人の手助けをしたら……)
「牙城さんに、恩返し出来る……?」
「牙城は関係ないだろ!?」
「斐川、集中しなさい!!」
「すまん!?」
「私が原因です!?」
なんとも締まらない光景だが、三人は最善を尽くす為に行動していた。
この後、明久は最後の宴を終わらせる。