ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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命懸け

大きめの竹刀袋を持った明久と式札を回収した雪菜は、マンションから出ると

 

「さてと……行くよ、雪菜ちゃん」

 

「はい、先輩……!」

 

事件の解決の為に、動き始めた。

ほぼ同時刻、学校に程近い街中で

 

「基樹、大丈夫!?」

 

「悪い……足をヤられた……浅葱、50m何秒位で走れる?」

 

浅葱と基樹は、危機に陥っていた。

二人はモノレールの駅方面に向かい、そこからシェルターに入るつもりだった。しかし狙撃され、直撃は避けたものの車が爆発した際に飛んできた破片が基樹の左足に刺さり、基樹は走れなくなってしまったのだ。

 

「50m? 確か……7秒強ってところだけど……」

 

「だったら、何とかなるか……あのビルの屋上に、狙撃手が居る……姿勢を低くして、車から車の間を全速力で走れ。タイミングは、俺が指示する」

 

浅葱のタイムを聞いた基樹は、車の影からあるビルを指差した。その方向にあるのは、島内に誘致した海外企業のビルだ。その屋上に、狙撃手が居るようだ。

 

「狙撃手って、なんで居る位置が分かるのよ」

 

普通、狙撃手は相手に見つからないように狙撃してくるが、基樹は先の一発でその狙撃手の位置を特定した。

それを不思議に思った浅葱は、車の影から出ないように意識しながらビルを見た。

すると基樹は、耳を指差しながら

 

「俺の能力でな……空気を操る能力で、音に対して敏感なんだよ」

 

とボカしながら教えた。

 

「音に敏感……だから、ヘッドホンをしてるのね」

 

「これしなきゃ、まともに生活が難しいからな……浅葱、相手は対物(アンチマテリアル)ライフルを使ってる……威力は高いが、ボルトアクションだから、一発撃ったら次までは時間がある……何とか相手の意識を反らすから、その間に走って、此処から離れるんだ」

 

そう言って基樹は、懐から手鏡と携帯を取り出した。

どうやらその2つを使って、狙撃手の意識を取るつもりのようだ。

 

「だけど、基樹はどうするのよ!?」

 

「相手の狙いは、浅葱だ。俺は放置するだろうさ。そうすれば、何とか逃げられる。幸い、この辺りにはマンホールもあるし、地下区画への入り口もある……浅葱は、近くのEゲートに行け」

 

魔族特区警備隊の集まるEゲートならば、相手もおいそれと手出し出来ないだろう。確かに、そこならば安全だ。

 

(それに、どういう訳か二方向に相手は狙撃してるみたいだからな……どこに撃ってるんだ)

 

「……分かったわ」

 

基樹が考えてる間、浅葱はEゲートの方角を見ながら走る態勢に入った。それを確認した基樹も、手鏡に携帯を向けて

 

「今だ、行け!」

 

と携帯のライトを手鏡に反射させ、その直後に浅葱は走り始めた。その直後に轟音が鳴り響き、浅葱の走る先に合ったカーブミラーの鉄柱がへし折れた。

それを視界の端に見ながら、浅葱は少し離れた位置に停まっていた警備隊のだろう装甲車の影に隠れた。

短距離だったが、荒くなった呼吸を整えながら浅葱は基樹の方を見た。

基樹はまたもや、車の影に隠れていた。

次の目標は、約30m先の大型トラック。

そこまで走れば、その近くのビルに入って地下にある通路を通って、Eゲートにまで行ける。

息を整えた浅葱は、基樹の方向を見て親指を立てた。

それを見た基樹は、ヘッドホンを装着し

 

「行けぇ!!」

 

と大声を張り上げて、それを聞いた浅葱は走り始めた。

その少し後に轟音が聞こえたが、浅葱の方には着弾しなかった。何故かは分からなかったが、浅葱はそのまま大型トラックに到着し、ビルに入った。

さてこの時、何が起きていたか。

それは、件のビルの屋上になる。

そのビルの屋上には、タルタロス・ラプスの構成員の一人。獣人のカーリが居た。

カーリは獣人だが、その体は小柄で細く、華奢と言えた。

これは、ある意味で彼女の特異体質だった。

彼女はその小柄な体で非力な為に、獣人のコミュニティから弾き出され、かといって人間に捕まって違法な実験に使われ、生きることを一度は諦めていた。

それを助けたのが、ある特区を破壊しに来たタルタロス・ラプスのディセンバーだった。

ディセンバーに救われた後、カーリという名前を貰い、更にはその小柄な体が狙撃に向いていることが分かり、カーリはタルタロス・ラプス唯一の狙撃手になった。

二方向に撃っていたのは、ディセンバーの手伝いで明久・雪菜・那月の三人を撃っていたのだ。

最優先目標の一人たる、那月に呪式弾を撃ち込んで一時的に行動不能にした。

本来だったら、明久と雪菜もだが、明久は剣士としての勘が鋭いのか、50口径弾を斬られた。

雪菜は霊視で、直撃弾を与えられない。

これ以上は無駄弾になると判断したディセンバーの指示で、カーリは残弾が無くなった弾倉を排除し、最後の弾倉に交換した。

残り6発以内に、浅葱を始末しないといけない。

そう思ったカーリは、走り始めた浅葱を狙ったが、その瞬間に光で目潰しされて、一発目は外した。

だが慌てずにボルトを動かして、次弾を装填。

二発目を撃とうとした。その直後、異様な気配を感じて後ろに振り向いた。

その先には、二体の人型が居た。

 

(片方は、もの凄い風の音がする……もう片方は、影か……流石は魔族特区か。変な能力者が居る!)

 

カーリはそう思いながら、急いで対物ライフルをまず影の方向に向けて発砲。影の胴体を吹き飛ばして、撃破。

次に、排莢しながら風の人型の方に向けた。

だが、風の人型の方が動くのは早く、カーリは風の人型の攻撃を回転して避けた。

 

(早いな!?)

 

カーリは冷や汗を掻きながら、風の人型を狙い撃った。確かに50口径弾は風の人型の頭を吹き飛ばし、風の人型はバラバラになった。

相手を無力化したと判断したカーリは、急いで浅葱の居た方向を見た。しかし、見たのはビルの中に入っていく浅葱の姿だった。

現在地からの狙撃は無理と判断したカーリは、急いで浅葱を追い掛けようとライフルを背負い、ワイヤーガンでそのビル手前のトラックにワイヤーを撃ち込み、簡易ジップラインで追い掛けようとした。

その時

 

『行かせるかよ!!』

 

と声が聞こえて、カーリは振り向いた。

すると目前に、先ほど倒した筈の風の人型が再構成されていた。

 

(バカな!? これ程の能力を、短時間で連発出来る訳が無い!?)

 

カーリは慌てながらも、副武装の拳銃を向けて撃った。

確かに当たるが、風の人型は構わず突撃。暴風の刃でカーリの全身を切り刻み、カーリはビルの屋上から吹き飛ばされて、落ちていく。

その時、背負っていたライフルが紐も切れたことで落ちていきそうになり、カーリはライフルを何とか掴むと

 

「ディセンバー……ごめんね」

 

とライフルを抱き締めながら、ディセンバーに謝った。そしてそれが、彼女の最後の言葉になった。

 

「……げほっ……何とか、倒せたか……」

 

血の塊と一緒に過剰投与した薬のカプセルの残骸を吐き出し、基樹は力無く体を車に預けた。

浅葱が息を整えてる間に、基樹は持っていた強化薬品(ブースター)を一気に飲み干し、気流分身(エアロダイン)を発動。

一度攻撃された事で、ダメージのフィードバックが起きて、基樹の体の中はボロボロだが、それでも基樹は力を振り絞って気流分身を再構成し、カーリを攻撃した。

そこに、康太が現れ

 

「……無茶したな……」

 

と基樹に言った。だが、康太も歩き方がぎこちなく、更に腹部を抑え、口の端から血が流れている。

先ほどの影の人型は、康太の影分身体(シャドートーカー)だ。

こちらも、影で受けたダメージは本人にフィードバックされる。それにより、康太も内臓にダメージを受けたようだ。

 

「それは……お前もだろ……」

 

「……肩を貸す……行くぞ……医療班を待機させてある」

 

康太はそう言って、基樹に肩を貸して立たせた。

そして康太と基樹は、浅葱が入ったビルを見て

 

「ビルは……シャッターが降りたか……」

 

「ああ……あれなら、間に合うだろう」

 

二人はそう言って、地下区画に入るハッチを開けて、その中に入ったのだった。


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