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爆発が起きてから、数分後。
海沿いの公園のベンチに、スタジャンを着た少女が座っていた。そんな彼女の隣に停まっているのは、色褪せた白のスクーター。そして彼女に膝枕されて、制服姿の女子中学生が眠っていた。
対岸に見える建造物からは煙が立ち上がっていて、周囲からは悲鳴が聞こえてくる。
彼女はその光景を、ぼんやりと眺めていた。
そこに、一人の男が近寄り
「こんな所に居たのか、ディセンバー」
とディセンバーに、無造作に呼び掛けた。
「あれ? 毅人?」
その男こそが、那月が探していた人物。タルタロス・ラプスの千賀毅人。かつては東洋の至宝と呼ばれ、欧州方面の魔術界を震撼させた天才風水術士だ。
そんな千賀に、ディセンバーは親しげな様子で
「出歩いてていいの? 先にセーフハウスに入ってる筈じゃなかった?」
「お前からの連絡が遅かったから、捜しに来た……ラーンが心配していたぞ」
「あらー……心配させてたかー。さすがあたしのラーン。可愛いなあ」
千賀の言葉を聞いて、ディセンバーは頬を緩ませた。そんなディセンバーに、千賀はやれやれと首を振った。
千賀の年齢は、四十歳前後になる。それに対して、ディセンバーは十五歳前だ。
見た目年齢では二十歳以上離れているが、千賀はディセンバーを対等に扱っていた。
むしろ、ディセンバーの方が千賀を弟のように見ている雰囲気すら感じられる。
すると千賀は、ディセンバーが膝枕している少女を見て
「……無関係な一般人を巻き込んだのか?」
「ん? ああ、凪沙ちゃん?」
千賀が咎めるように問い掛けると、ディセンバーは凪沙の頭を優しく撫でながら、愉しそうに笑った。
それはまるで、家族に接しているかのように見える。
「この子の事なら、心配いらない。近くで起きた爆発に驚いて、倒れただけだから」
実はあの後、凪沙の居た場所の近くで爆発が起きて、それに驚いた凪沙は気絶。バイクを回収して戻ったディセンバーは、気絶した凪沙を見つけて比較的安全だった公園まで運んだのである。
「それに……この子、完全に無関係じゃないわ」
「なに? どういう事だ?」
千賀から見たら、凪沙は何処にでも居る女学生にしか見えず、首を傾げた。するとディセンバーが
「この子の中に、12番の魂があるの」
と語り、それを聞いた千賀は驚きの表情を浮かべた。
「まさか……それでは、その少女の魂が消えるぞ」
千賀が言ったのは、魂の存在力の点だった。
魂にも力関係があり、1つの体に2つの魂がある場合、力の弱い者の魂が消えて、力の強い者が体の主導権を得る。それが普通なのだ。
「どうしてかは分からないけど……間違いなく、この子と12番の魂は共存してる……」
「そうか……」
「それにこんな可愛い女の子が道端で倒れてたら、変態に襲われるかもしれないでしょ?」
「爆破テロを起こしている私達が言えた事ではないな」
ディセンバーの言葉に、千賀は半ば呆れながら突っ込んでいた。確かに、その通りである。
「……とりあえず、ラーンには無事だと伝えておく」
「うん、お願い……そういえば、毅人もこの島とは深い関係があるんでしょ? いいの?」
立ち去ろうとした千賀に、ディセンバーがそう問い掛けた。すると千賀は、立ち止まり
「……無関係ではないからこそ、許せないこともある」
とだけ言って、立ち去った。
その直後、凪沙の髪が黒髪から金髪に変わり
「あ、起きた? 12番?」
と気安い様子で声を掛けた。
すると、凪沙は少し驚いた表情で
「……汝は……何故、現今になって、此処に……!」
とディセンバーに問い掛けた。
しかし、ディセンバーは答えず
「大丈夫。12番は寝てていいよ……寝てる間に、全部終わるから」
と少しだけ、悲しそうな表情で告げた。