ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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何時もの日常風景

「暑い……」

 

夏休みも終わって時は経ち、九月半ばのとある日の朝六時半頃

 

明久は珍しく自分で起きた

 

それは自分でも思っている事で、明久は思わず

 

「珍しい……起こされる前に起きた……」

 

と呟いた

 

第四真祖になる前は、部活の朝練等もあって普通に起きていたが、第四真祖になってからは、あまり起きられなくなった

 

故に、最近明久は周囲から《部活を辞めて気が抜けたダメ高校生》という認識であり、それは妹たる凪沙からも思われていた

 

その時に気づいたが、隣の凪沙の部屋から壁越しに楽しげな話し声が聞こえてきた

 

「誰か来たのかな、こんな朝早くに……」

 

明久はそう呟くと、顔を洗うために部屋を出た

 

そして手早く顔を洗うと、明久は居間に向かった

 

すると、机の上に凪沙が作ったらしいベーグルサンドとイタリアンサラダ、さらにはハムエッグが三人分有った

 

何時もより手が込んだ朝食と一人分多いことから、明久は

 

「珍しい……母さんが帰ってきてるのかな?」

 

と言った

 

明久と凪沙の母親は、島内にあるとある大企業の主任研究者である

 

そしてそういった役職故に、母親は一週間に一回帰ってこれるかどうかという勤務状態なのである(本来は来賓用の部屋を占拠して、そこに住んでいる)

 

明久は欠伸をしながら、凪沙の部屋のドアを開けて

 

「凪沙。母さん帰ってきて……」

 

と言っていて、明久の言葉は止まった

 

そこには確かに、凪沙が居た

 

だが、居たのは凪沙だけではなかった

 

凪沙の部屋には、もう一人の少女が居た

 

華奢な体格だが、どこか鍛え上げられた獣のような雰囲気を纏っている凛とした少女が居た

 

彼女の名前は、姫柊雪菜

 

凪沙のクラスメイトにして、吉井家の隣の部屋に住んでいる第四真祖たる明久の監視役の少女だ

 

しかし、問題はそこではなかった

 

二人はなぜか、二人揃って下着姿だったのだ

 

よく見れば、二人の足下には、お揃いのコスチュームがある

 

どうやら、それに着替えていたらしい

 

「なんでさ!?」

 

「何時まで見てるの、明久君!」

 

明久が驚愕し、凪沙はそんな明久を見ながら怒鳴った

 

次の瞬間、凪沙の近くに居た雪菜の姿が消えた

 

そして気付いたら、雪菜は明久の懐に肉薄しており、それを見た明久は、なんとか一歩下がろうとした

 

だがそれよりも早くに、雪菜は全身を使って、明久の顎に掌底を叩き込んだ

 

その一撃で、明久はまるで打ち上げられたロケットのように宙を舞い、廊下の壁に背中を思いっ切り打った

 

そして、ズルズルと廊下に倒れ込みながら

 

「本当に、なんでさ……」

 

と言いながら、明久の意識は闇に沈んでいった

 

なお、そんな明久が最後に見たのは、恥ずかしそうに顔を赤らめながら胸元を掻き抱いている雪菜の姿だった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

数十分後、明久達の姿はモノレール車内にあった

 

明久は首が痛いのか、首筋に手を当てて微妙な表情を浮かべていた

 

すると、雪菜がオロオロとした様子で

 

「だ、大丈夫ですか、先輩?」

 

と明久に問い掛けた

 

すると明久は、視線を雪菜に向けて

 

「ああ、うん、大丈夫だよ」

 

と答えた

 

すると、頬をぷっくりと膨らませた凪沙が

 

「心配する必要無いよ、雪菜ちゃん! 着替えを覗いた明久君が悪いんだからね!」

 

と言った

 

すると、明久が

 

「そもそも、なんで雪菜ちゃんが吉井家(こっち)で着替えてたのさ?」

 

と問い掛けた

 

すると、凪沙が呆れた様子で

 

「明久君、もう忘れちゃったの? 昨日の夕食の時に教えたじゃない。今度の球技大会で着るコスチュームの試着をするって」

 

と言った

 

すると、明久は数秒間唸ってから

 

「そういえば、そんな話を聞いたような……」

 

と呟いた

 

すると、凪沙が溜め息混じりに

 

「明久君の老後が心配だよ……」

 

と呟いた

 

それを聞いた明久は、心中で

 

(いや、老いることはないけどね)

 

と思ってから

 

「そもそも、なんで吉井家(ウチ)なのさ? 別に学校でもいいでしょ?」

 

と言った

 

すると、凪沙が

 

「家でやった方が、すぐに修正出来るでしょ? 後は雪菜ちゃんだけなんだよ」

 

と答えた

 

「そっか……でも、コスチューム?」

 

と明久が首を傾げていると、雪菜が

 

「頼まれたんです。応援してほしいって……」

 

と恥ずかしそうに答えた

 

「頼まれた?」

 

雪菜の言葉に明久が疑問符を浮かべていると、凪沙が

 

「そうだよ。クラスの男子達が全員土下座しながら『姫が応援してくれたら、死ぬ気で頑張って優勝を目指す』って」

 

と教えた

 

姫というのは、おそらく雪菜のあだ名だろうと明久は思いながら

 

「男子が全員、土下座?」

 

思わず呆然とした

 

確かに、雪菜はなんだかんだで押しに弱く真面目な性格である

 

そのように必死に頼まれたら、雪菜は断れないだろう

 

だが、いくらなんでも男子全員土下座とは、予想の斜め上であった

 

「それでいいのかな、中等部は……」

 

明久がポツリと呟くと、雪菜と凪沙は何とも言えない表情を浮かべた

 

すると

 

「いやぁ、最初はドン引きだったけど、思わず納得しちゃったよ。相手は雪菜ちゃんだしね。だから、女子達(あたし達)も協力するんだ」

 

と説明すると、ニヒヒと笑い出して

 

「あ、明久君も応援しようか?」

 

と問い掛けた

 

「いや、流石にいいよ。自分達のクラスだけにしな。余計な軋轢を生みたくないでしょ?」

 

明久のその言葉を聞いて、凪沙はあーと声を漏らしてから

 

「下手したら、明久君が亡き者にされそうだから、辞めとくね」

 

と言った

 

「待って、それはどういう意味さ」

 

明久が問い掛けるが、凪沙は答えなかった

 

「ま、こっそりと応援はするよ。ね、雪菜ちゃん」

 

「はい。応援します」

 

凪沙の言葉に、雪菜は半ば諦めた様子でそう言った

 

それを聞いて、明久が恥ずかし気に頬をポリポリと掻いているとモノレールが止まり、ドアが開いた

 

なので、明久達は何時ものようにモノレールを降りて改札へと向かった

 

何時もの日常風景で、何時ものやりとり

 

だが、明久達は港に見慣れない大きな豪華客船が泊まっていたことには、とうとう気付かなかった


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