明久達が菫によって送り届けられていた時から、少しばかり遡り
「うー……食べたいのに、凄い値段が上がってる……」
と凪沙があるアイス屋の値段を見て、唸っていた。
凪沙が知ってる年末から換算したら、二倍の値段になっている表示を見て、凪沙は財布の中を見た。
アイスは買える事は買えるが、買ったら暫くの間財布の中が北極圏の如く寒い事になる。どうしようか悩んでいると
「はい。るる屋のアイス、美味しいよね」
と横から、アイスが入った器を差し出された。
思わず横を見ると、そこには帽子を被った金髪の少女が居た。
頭痛と共に既視感を覚えていると
「相方が来れなくなったから、あげるわ」
と言われて、凪沙は受け取ってから
「ありがとう……けど、本当にいいの?」
とその金髪少女に問い掛けた。
すると、その少女は手を振りながら
「構わないわよ。いきなり相方が来れなくなって、どう消費しようか悩んでたくらいだから。気にしないで」
と言って、近くのベンチに座った。その少女が食べているのは、絃神島限定フレーバーのようだ。
凪沙はアイスが入った器を見てから、その少女の隣に座った。そして、凪沙は
「アイス、ありがとう……えっと」
「ディセンバー……それが、私の名前」
凪沙が何て呼べばいいのか迷っていると、それを察した少女。ディセンバーが名乗った。
「ディセンバーさん」
「あ、さんは付けないで。まるで、日付みたいだから」
「ああ……」
確かに、ディセンバーは12月という意味があり、そこにさんを付けたら、まるで12月3日という風にもなってしまう。
「だから、アタシの事はディセンバーで良いから」
「うん、ディセンバー。私は凪沙」
頷いてから凪沙は、アイスを一口食べた。
すると、ディセンバーが
「凪沙、貴女はこの島の住人なんだよね?」
「うん。ちょっと身体が弱くて、その治療の為に居るの」
「なるほどね……」
凪沙が軽く語ると、ディセンバーは少し悲しそうな表情を浮かべた。ディセンバーの顔を横目で見ていた凪沙は、徐々に強くなる頭痛を堪えながら
「今も、ちょっと頭が痛いしね」
「大丈夫? 無理しないで、病院に行きなさいよ?」
凪沙の言葉を聞いて、ディセンバーは心配した様子で凪沙に進言した。
「大丈夫。この位なら、割りと何時もだから」
「我慢強いんだね、凪沙は……」
凪沙の話を聞いたディセンバーは、凪沙の頭を優しく撫でた。その手つきが優しく、更に凪沙は撫で方に明久が重なった。
するとディセンバーは、ある方向を見て
「出来るなら、凪沙には島から脱出してほしいけど……もう、間に合わないか」
そう呟いた直後、複数の轟音が鳴り響き、空気が震えた。
「な、なに!?」
凪沙が立ち上がって周囲を見回すと、複数ヵ所で黒い煙が上がってるのが見えた。
「何が起きてるの!?」
周囲では逃げ惑う人々が居るが、凪沙は先ほどまでディセンバーが座っていたベンチを見たが、ディセンバーの姿は無く、空のアイスの器が有るだけだった。
場所は変わり、学園
「親父が行方不明って、どういう事だ!?」
基樹が電話で問い掛けたのは、爆発が起きた直後に送られてきたメールの送り主。基樹の兄に当たる幾磨だ。
『どういう事もない。第三駐車場全体に爆弾が仕掛けられていたようで、その第三駐車場が無くなるレベルで爆発が起き、会長……顕重の生体信号が途絶した』
「あのクソ親父が、その程度で死ぬタマじゃねぇだろ!! おい、俺も手伝う……おい、兄貴……!!」
基樹が呼び掛けるが、既に通話は切れている。
実はタルタロス・ラプスの事は数日前から警戒しており、人工島管理公社は動いていたが、実は船舶や飛行機の事故による物流の停滞。そして何より、管理公社の上級理事二名が殺されていた。
ここまでの損失は、絃神島が始まって以来初めてだった。基樹も度々能力でそれらの捜査に携わってきたが、全て空振りだった。
その時、浅葱もノートパソコンでタルタロス・ラプスを探していたのだが
「しまった! ヤられた!!」
と言って、そのノートパソコンを思い切り床に叩き付けて破壊した。
「まさか、
浅葱からしたら信じられないことに、警備隊のネットワークがハッキングされていたのだ。
浅葱は管理公社と南宮那月からの依頼で、タルタロス・ラプスの首謀者と見ている男。
風水術士の
「……明久達、無事でいなさいよ……」
浅葱は教室の窓から、空を見た。