翌日、明久と雪菜は学校帰りに物資集積所に寄り、配給を受け取る為に列に並んでいた。今朝、ニュースで配給制になったのがニュースで知らされた為だ。
長い列に辟易しながらも、明久は
「それで、雪菜ちゃん。何か分かった?」
「すいません、軽く調べた限りではまだ……しかし、絃神島のデータベースを見た限りですが……どうも、隠蔽されているような感じで……」
「隠蔽されてる?」
雪菜の言葉に、明久は怪訝そうな表情をした。そんな会話をしている内に、自分達の番が来た為に、二人はメールで送られてきた番号を係員に見せて、食糧を受け取った。
その直後、轟音が響き渡ると同時に物資集積所の一ヶ所で大爆発が起きた。
突然の事態に人々は悲鳴を挙げながら逃げ惑い、明久と雪菜は飛んできた瓦礫を弾きながら後退し
「なんだ!?」
「呪力は感じませんでした! 機械的な爆破! テロです!」
突然の爆発に驚きながらも、何とか状況を推測しようとしていた。その時、一台の車が甲高いブレーキ音を立てながら二人の近くに停車した。すると、運転席の窓が開いて
「お二人共、乗ってください!」
「菫さん!?」
浅葱の義母の菫が顔を出し、二人に車に乗るように促した。二人が乗ると、ドアが閉まり
「しっかり捕まっていてください、飛ばします!」
車は急加速で走り出した。Gでシートに押し付けられながら、明久が
「菫さん、何が!?」
「国際テロ組織、タルタロス・ラプスの襲撃です!」
「タルタロス・ラプス!?」
菫が告げた名前を聞いて、雪菜は驚いた。
タルタロス・ラプス
魔族特区の破壊を繰り返し行っている、黒死皇派に次ぐ国際テロ組織だ。その名前は明久も知っていたが、手段は知らなかった。
菫が運転する車は、もの凄い速度で街中を走っていて、それでも事故を起こしていない事から、菫の腕前が伺える。
明久は体制を維持しながら、周囲を見た。
爆破の煙は物資集積所だけではないらしく、他にも数ヶ所に煙が見える。
明久が何とか状況を把握しようとしていた時、菫が突如
「しっかり捕まっていてください!」
と告げて、急カープした。次の瞬間、車の真横で爆炎が上がった。どうやら下水道に爆弾が仕掛けられていることを、菫は察して回避したようだ。
「どういう感覚してるのさ!?」
「ここから、大きく行きます!!」
明久の言葉に被せる形で、車が大きく蛇行を始めた。
車が大きく曲がる度に、真横に爆炎が上がる。
明久と雪菜の二人は、最早翻弄されるばかりで、両手両足で踏ん張って耐えるしかない。そして迂闊に喋ったら舌を噛みそうなので、黙るしかなかった。
菫の素晴らしいドライブテクニックにより、次々と爆弾を回避していき、明久は菫が長年仙斉の専属ドライバーだった理由に納得した。
これ程のドライブテクニックと危機回避能力の高さならば、ミサイルや眷獣でも使わない限り、直撃しないだろう。
そして、どれ程経ったか分からないが、車の動きが大人しくなり
「ここならば、今は安全です」
止まった。そこは、明久と雪菜の家に程近い場所だった。どうやら、明久が武器を回収するつもりだったのを察したようだ。
「それと、こちらを持っていってください」
そう言って明久に差し出したのは、一振の刀。
「実は少し前に、牙城さんが訪問された際に当家に置いていった刀でして……」
「なにやってんだ、バカ親父は」
余りに予想外かつ傍迷惑な父親の行動に、明久は困惑した。すると、菫が
「こちらで鑑定させましたところ……銘は、村正・黄龍……」
「って、妖刀村正!?」
まさかの刀が出てきて、明久は驚いた。
妖刀村正
この銘を知らぬ日本人の方が少ないだろう。余りに血にまみれた刀で、特に有名なのは多くの徳川家が村正に関わって死んだ。
しかし、実は一部勘違いされているが、妖刀村正というのは、刀鍛冶の1つ。村正家の歴代が鍛えた刀の総称なのだ。
恐らく、牙城が見つけたのはその一振だろう。
「当家にあるより、君に渡した方が良い。私と旦那様はそう判断しました……頑張ってください、連牙」
菫はそう言って、車を発進させた。それを見送ってから明久は、部屋に武器を取りに戻った。