先月末にコロナに感染し、暫く療養してました
「なあなあ、お前ら。年末年始、何処に行ってたんだよ?」
「僕はお婆ちゃんに呼ばれて、本土の神縄湖に行ってたの」
「アタシは、絃神島じゃ売られてない服を買う為に、本土に行ってたわよ」
基樹からの問い掛けに、明久と浅葱は適当に返答した。一応、ユステイナ・カタヤから聞いた本土に渡る理由を伝えた形である。
しかし、基樹は納得していない様子でいた。
新年が明けて、早二週間。明久達は普通に登校していた。凪沙はどうやら神縄湖で何があったかはよく覚えてないらしく、お婆ちゃんに会った事だけは覚えていた。
まあ、それも好都合だと思うし、教える理由は無いので話してはいない。
そして、授業が終わり、帰りに雪菜と一緒にスーパーに寄ったのだが
「……なんかさ、今年に入ってからどんどん値上がりしてるよね」
「そうですね……最低でも、50円は値上がりしています」
商品棚に並べられているあらゆる商品の値段が、全般的に値上がりしてきていた。
それだけでなく、並べられている数も少なく、棚の一部には空いてる所すら見える。
今見ている牛乳ですら、年末から50円は値上がりし、肉に至っては一部は100g100円近い値上がりになっている。
「どうなってるんだ? 確か、不作ってニュースも無かったよね?」
「はい。本土もですが、諸外国でも不作や不漁というニュースは確認出来ていません」
二人は何が現いで値上がり続きなのか分からず、揃って首を傾げながらも、なるべく安く買い物を終わらせた。
「絃神島には水耕栽培があるから、一部の野菜はそんなに値上がりしてないけども……」
「やはり、何か有った。と考えるのが自然ですね」
二人はそう言いながら、商業地区の一際大きな建物。
物資集積所を見た。そこには、海空問わずに絃神島に運ばれたあらゆる物理が一度集められ、物資集積所から各地区のあらゆる施設に物資が送られる仕組みになっている。
しかし、その物資集積所の全出入口には完全武装の警備隊が配置され、物々しい雰囲気になっている。
普段は居たとしても軽装備の警備員が、数人居る位なのだが、今は明久が確認出来る限り、30人近く居る。
しかも、今朝見たニュースでは、近い内に配給制になるかもしれない、と報道されており、一部では暴動になりかけている場所もあると噂を聞いた。
「……何が起きてるんだ……? 雪菜ちゃん、他の国の魔族特区で、似たような事件が起きた、とか知らないかな?」
「すいません、先輩。私は国内の事件なら大部分は把握してるんですが……外国ですと、沙矢華さんの方が詳しいかと……」
そう言われたら、明久としたら黙る他無かった。
確かに言われてみれば、雪菜は訓練生だったのを異例の抜擢で正規の剣巫になったわけで、そして剣巫は主に日本国内の事件を担当しているらしい。
そして、舞威姫たる沙矢華は外国の事件や何らかの外交関係を担当しているので、諸外国で何が起きているのか、どんな事件が起きたのかは殆ど把握しているという。
「……直感なんだけど、もう事件は始まってる……それも、かなりヤバイレベルのが……」
「私もそう思います……一応、私の方でも似た事件が過去にあったか確認します」
二人はそう会話して、家路に着いた。
そして家に帰ると、凪沙がレシートを見て頭を抱えていた。やはり、値上がりに驚き、どうすれば良いのか悩んでいるのだろう。
夕食後明久は、最近母から連絡がない事を考えていた。
一応、予定では年末年始のMARの社員旅行から帰ったら、一度帰宅し暫く休みの予定だったのだが、帰宅した形跡も無ければ、連絡すら無い。
「……それどころか、本土のニュースも見なくなったな……」
それを思い出した明久は、また外国に行っているらしい父親に一度電話を掛けようとした。
だが、虚しい電子音ばかりで繋がらない。
「……なんだ……まるで、絃神島が世界から切り離されたみたい……まて、切り離された……?」
自分の言葉に引っ掛かりを覚えた明久は、窓際に寄って空を見上げた。
「……空間遮断? いや、だったら那月ちゃんの空間魔術と相性が悪い筈……」
明久が考えていると、凪沙が
「ねえ、明久くん? お風呂空いたよ?」
と声を掛けてきた。その様子から、何回も言っていたようだ。
「あ、ああ。ごめん。入るよ」
まさか、ね。そう思いながら、明久はお風呂に入る準備に向かった。
そして翌日、一気に事態が動く事になるとは、この時は予想すらしていなかった。