序章
「……次の任務地が、まさか絃神島とは……」
「……そうだね。偶然だけど……」
そう呟いていたのは、船で絃神島に向かっている斐川志緒と羽波唯里だった。尚、唯里の膝を枕にしてグレンダが寝ている。
「確か、向こうは一年中暑いんだったか……」
「聞いた話だと、常に30度以上だって」
唯里の説明を聞いた志緒は、嫌そうな表情をしてから唯里を挟んで少し離れた席に座っている人物に視線を向けて
「それで、外国担当の筈が、何故絃神島に? 煌坂」
と沙矢華に問い掛けた。
すると沙矢華は、少し面倒そうにしながら
「任務に決まってるでしょ? 今絃神島には、滅びの王朝のVIPが居るのよ」
と答えた。
それを聞いた唯里は、少し考えてから
「……つまり、絃神島に剣巫と舞威姫が二人ずつ……計四人赴任するんだ……」
と何気なしに呟き、それを聞いた沙矢華は嫌な予感を覚えた。獅子王機関でも腕利きが揃う剣巫と舞威姫、それが四人も一ヶ所に集まる。
普通ならばあり得ない事態に、沙矢華は猛烈に嫌な予感を覚えた。
(まるで、あの島で何かが起きるみたいな……それを見越して、派遣した? まさかね……)
そう考えながら、沙矢華ほ時計を見て、もう少しで絃神島に到着する時間だから、下りる準備をしようと考えて、立とうとした。その瞬間、甲高い警笛が鳴り響き、船が急制動を掛けた。
「な、なに!?」
「なんだ!?」
「ダー?」
まだ実戦経験の少ない唯里と志緒、起きたばかりのグレンダは困惑していたが、沙矢華は異常事態だと気付いて
「甲板に行くわよ!!」
と言って、ケースを担いで上甲板に出る為の階段に向かって走り始め、僅かに遅れて唯里、志緒、グレンダの三人も走った。
「なっ……!?」
「な、なにこれ……!?」
「何が起きたんだ……!?」
「ウー……?」
沙矢華、唯里、志緒の三人は有り得ない光景に困惑し、グレンダは不思議そうに目前の光景を見た。
四人が乗る船の前方に、凄まじい数の様々な船が転覆し、浮いていたのだ。
その時、沙矢華はハッとした様子で
「斐川さん! 式紙で生存者の捜索をするわよ! 羽波さんは、船員に救助の準備をするように伝えて!」
と指示を出した。
「わ、分かりました!」
「了解した!」
唯里は艦橋に向かって走り、志緒は腰の呪符ホルダーから素早く数枚の式紙用の呪符を取り出した。
沙矢華も式紙の準備をしつつ、内心で
(絃神島で、何が起きてるのよ! 雪菜達は無事なの!?)
絃神島に居る雪菜と明久の安否を気にしながら、生存者の捜索を始めた。
そして、テロリストとの戦いが始まる。