明久とグレンダが沈んだ時、雪菜達だけでなく聖殲派側も固まっていた。雪菜と唯里が呆然としていると
「三佐、これは完全に想定外です! まさか、グレンダが異郷に自ら飛び込むなど!?」
「分かっている! くそっ! これでは、我々の計画が!!」
と聖殲派の二人が、苛立った様子で会話していた。
そこで雪菜は、我に返って
「計画というのは、何のことですか?」
構えながら、二人を睨んだ。そこで唯里も我に返り、遅れて構えた。
「貴様らに、教える訳が……!」
「いや、計画は最早最終段階間近だ……どうせ、止められん……」
御影特尉を遮る形で、安座間三佐が前に出て
「……貴様らは、可笑しいとは思わないのか? なぜ、この世界には魔族などという穢れた存在が居るのか……本来この世界は、我々人間のみが住まう世界だ……」
と語りだした。雪菜は最後まで聞くつもりだが、油断なく構えている。安座間は動かないだろうが、御影が何時動くか分からなかったからだ。
「そうお考えになられた我らが神は、魔族を異郷に追いやり封じ込める為の戦い……聖殲を始めた。しかし、仲間に裏切り者が居て、負けてしまい、逆に異郷に追いやられ封印された……我らはその御遺志を継ぎ、魔族を異郷……魔力・霊力・呪力が使えない場所に追いやり封印することにした……密かに同志を集め、戦力を集め……そして、情報を集めた……その情報の一つに、この地に異郷を管理する龍……グレンダが封印された聖殲の遺跡が存在することを突き止めた」
そこまで聞いて、唯里が驚いた様子で
「まさか……今回の儀式は、その封印を解く為に!?」
「その通りだ、羽波攻魔官……蜂蛇が出てくることも想定していた……同志以外を生き餌にして蜂蛇を引き離し、その間に我らの誰かがグレンダを回収し、離脱するつもりだったが……吉井嬢に感応し、目覚めたのは予想外だった……おかげで、余計な手間と損害が出てしまった」
唯里の言葉に頷き、後半は何処か呆れた様子で首を振った。つまり安座間は、最初から聖殲派以外の人間全員を見捨てるつもりだったのだ。
しかし、幾つも予想外が重なり今に至る。
「グレンダは、数少ない異郷の出入口を作れる存在だ……そのグレンダを手中に収め、操れれば世界中の魔族を異郷に追いやれる……筈だった……」
安座間はそこまで言うかと、苛立った様子で持っていた鎗を地面に突き刺し
「まさか、そのグレンダが自ら異郷に飛び込むなど思いもしなかった!! たかが吸血鬼の小僧を追い掛け、異郷に飛び込むなどとはな!!」
と怒鳴った。
彼らにとってグレンダは、神が残した異郷の管理者。つまりは、使徒に当たる。その使徒が、排除すべき魔族の後を追いかけた。
確かに、彼らからしたら許しがたい事だろう。
だが
「……グレンダの気持ちは分かるよ」
「なに……?」
唯里の呟きを聞いて、安座間と御影は唯里を睨んだ。しかし唯里は、毅然とした態度で
「貴方達は、最初から犠牲を容認し過ぎてる! そんな貴方達が怖くて、グレンダは私達に着いてきた! グレンダは、自分の意にそぐわない事をしたくなかった!」
「貴様……!」
唯里の言葉を聞いて、安座間と御影は苛立ちを更に募らせた。その身から、殺気を感じさせる程だ。
しかし唯里は、確固たる意思で
「貴方達は、ここで倒す! それが、私達……獅子王機関の剣巫の役割!」
と告げて、六式改を構えた。その唯里に従うように、雪菜も構えた。その時、唯里が何かに気付いて視線をある場所。
明久とグレンダが沈んだ場所に向けて
「ゆっきー! あれ!!」
と指差した。それを聞いて、雪菜、安座間、御影の三人も視線を向けた。すると、一度は閉じた筈の黒い影。
異郷の門が、少しずつ大きくなっていたのだ。
「安座間三佐! あれは一体!?」
「私にも分からない! 何が起きている!?」
御影と安座間は困惑するが、雪菜にはある確信があった。その時、異郷の門から巨大な影が飛び出した。
最初はその風圧に全員が身構え、動きを止めたが、雪菜は反射的にその影を追って頭上を見上げた。
そこに見えたのは、鋼色の鱗の巨大な龍。龍の姿のグレンダと、その背中に乗っていた明久だった。
「先輩!」
「明久君!?」
雪菜と唯里は、嬉しそうに
「バカな!?」
「第四真祖!?」
御影と安座間の二人は、心底驚いていた。
すると明久はは、人間の姿に戻ったグレンダに持っていた上着を投げ渡して
「よう、お二人さん……そっちからしたら、予想外なようだけど……帰ってきたよ……」
と安座間と御影を睨んだ。すると安座間は、明久に鎗を突きつけて
「貴様……どうやって戻ってきた!? 異郷から帰るなど、今まで誰も出来なかったのだぞ!?」
困惑した様子で、明久に問い掛けた。すると明久は、背中にくっついてきたグレンダの頭を撫でて
「グレンダのおかげだよ……グレンダが、門を開けてくれたから戻ってこれた」
と告げた。
それは、安座間からしたら完全に予想外の事だった。
異郷では、あらゆる異能が使えなくなる。それは、以前から知っており、安座間はグレンダも例外ではないと考えていた。
だが、何事にも例外が存在した。
まず、安座間は勘違いしていた。グレンダが操るのは、異郷の力の行使、と安座間は考えていた。
しかし実際は、異郷の空間を操ることなのだ。異郷の力の行使は、その副産物に過ぎなかったのだ。
その勘違いに気付いた安座間は、笑いながら
「素晴らしい……素晴らしいぞ、グレンダ! その力があれば、間違いなく魔族を排除出来る! さあ……神の正統後継者たる私達に……」
とグレンダに手を差し伸べた。だが、グレンダは従わず
「や! あきひさと居る!」
と拒否した。グレンダの言葉に、安座間達が固まっていると
「という訳だ、安座間……あんたらにグレンダは渡せない……部下を見捨てて殺したた奴を、簡単に信じられると思うな……ここから先は、
「いいえ、先輩!」
「私達の
宣戦布告した明久の両側に、雪菜と唯里が立った。
今、最終局面に突入する。