「なんだ、ここは……」
黒い水溜まりの中に沈んだ明久は、気がつくと廃墟の中に立っていた。しかも只の廃墟ではなく、廃都市だった。それも、見覚えのある廃都市。
「絃神島……じゃないけど……凄く似てる……」
余りにも見覚えのある光景に、明久は一瞬自分が居るのが絃神島だと思った程だ。しかし、直ぐに違うと分かった。
その理由は、瓦礫に半ば埋もれていた道路標識に書かれている文字だ。日本語でも英語でもない、否、地球の言葉でもない、初めて見る文字だったからだ。
しかし、それ以外は余りにも絃神島と酷似していた。
モノレールの橋脚、バス停、そしてキーストーンゲートの建物。そのどれもが、絃神島と瓜二つだった。
だが明久は、ある考えに至った。それは
「まさか……絃神島は、ここをモデルにしたのか……?」
それは、絃神島が今居る場所のコピーだという考え。
そう考えたら、むしろ納得してしまえたのだ。
その時、徐々に周囲の光景が見えなくなり始めた。
「な、なんだ……!?」
明久が慌ててる間にも、周囲は闇に染まっていく。魔力すら使えない状況では、どうすればいいか分からなかった明久が固まっていると、とうとう何もかも見えなくなった。
それでも何かヒントを得ようと、明久は周囲を見回していた。その時、自分の体まで見えなくなってきていたことに気付いた。
「う、うそでしょ!?」
徐々に見えなくなっていく体に、明久は動揺した。体の感覚はあるが、見えなくなるというのは精神的に動揺してしまう事態だった。
完全に見えなくなった明久は、自分がまだちゃんと居ると自覚する為に、強く両手を握りしめた。
それから、一体どれ程の時が流れたのかはわからない。暗闇というのは、時間の流れすらも分からなくさせていて、明久は初めての経験に不安に押し潰されそうになっていた。
(一体……何時まで……)
そう考えていた時、不意に頭上に何かを感じた明久は視線を上に向けた。すると頭上に、光が見えた。
最初は眩しく思ったが、久しぶりの光に明久は無意識に右手を伸ばしていた。
脳裏には敵かもしれない、という考えが過ったものの、手を伸ばした。
最初は光の珠だと思っていたのだが、徐々に高度を下げてきていた光の珠の中心に、人影が見えてきた。
(人……なのか……? 一体、誰が……)
目を凝らしていると、光は徐々に収まっていって、人影の正体が分かった。長い鋼色の髪の不思議な少女、グレンダだった。
「グレンダ……!?」
「あきひさ!」
まさかグレンダが来るとは思わなかった明久は、驚きながらも降りてきたグレンダを抱き止めた。
「グレンダ! どうして、ここに!?」
「あきひさを、むかえにきた!」
明久の問い掛けに、グレンダはたどたどしく答えた。確かに、一人よりも二人の方がずっと気が楽になった。しかし
「迎えに来たって言っても、此処が何処かも分からないのに……」
「グレンダ……ここ、しってる……」
グレンダの言葉を聞いて、明久が驚いていると、グレンダはいつの間にか見えるようになっていた周囲を見回して
「ここは……
「
明久がおうむ返しに問い掛けると、グレンダはゆっくりと歩き始めた。明久もその後を追い掛けると、少しずつ周囲の景色が変わり始めた。廃墟は普通の街並みになり、そこを人々が駆けていく。
ただ、ぶつかると思った人がすり抜けていき、明久は
「これは……」
「この世界の記録……聖殲の記録……」
「聖殲の記録!?」
グレンダから告げられた言葉に、明久は驚いた。聖殲は遥か過去に起きたという世界を巻き込んだ大きな戦いだ。遥か過去というからには、文明も魔導以外は古い文明だと思っていた。
しかし、その技術水準は現代と変わらないものだ。
どういう事だと明久が混乱していると、周囲の景色はまた廃墟に変わり、また暗くなり始めた。
するとグレンダは、明久の方に振り向いて
「あきひさ」
と手を伸ばした。その手を握ると、グレンダの姿が変わった。雪菜、沙矢華、夏音、ラ・フォリア、優麻と次々に。それを見た明久は
「まさか、僕の血の記憶を読んだの!?」
と驚愕した。極一部だが、血の記憶を読める能力が有る存在が居る、という話を那月から聞いたことがあった明久は、グレンダが姿を変えた事から、自身の血の記憶を読んだと気付いた。そしてグレンダは、雪菜の姿で明久に抱きつき
「ねえ、あきひさ……かえりたいよね……?」
「当たり前だよ……待たせてるし、何より……まだ終わってない……!」
明久の言葉を聞いて、グレンダは頷いた。そして、着ていた服の胸元を開いた。明久は、グレンダの意図を察して
「……いいんだね、グレンダ?」
という明久からの問い掛けに、グレンダは無言で頷いた。それを見た明久は、グレンダを抱き締めてからその首筋に噛み付いた。