正体不明の騎士との交戦後、明久達は自衛隊との合流を目指しオシアナスガールズの装甲車に乗っていた。
「あいつら、一体なんなんだ……それに、グレンダも」
「うん……」
明久の呟きに、唯里は同意しながら唯里の膝枕で寝ているグレンダの頭を撫でた。そして、唯里は
「ただ、グレンダと会う前に龍を見たの……」
「あ、影なら一瞬見たけど……まさか、ねえ……」
明久は、寝ているグレンダを見た。今まで見たことの無い髪色、鋼色の髪色。それが気になっていた。その時、装甲車が止まり
「申し訳ありません、ここから先は通れないんです」
と男性の声が聞こえた。隙間から見てみると、窓の外に自衛隊隊員が見えた。怪我をしているようで、モニター画面のカメラを変更すると、正面に負傷者を運んでいるトラックが見えた。運転席近くに居た赤いバンダナを肩に巻いた一人は、明久を見て口パクで
(強攻突破しますか?)
と問い掛けてきた。確かに、それも手ではあるが、相手は怪我人ばかりなために躊躇われる。その時、雪菜が前に出て
「こういう者です」
と言って、一枚のカードを提示した。すると、その自衛隊員は驚いた表情を浮かべて
「太史局の、六刃神官の一人!?」
と声を挙げた。それは、妃崎が雪菜用に用意した偽造の身分証だ。
「何やら緊急事態と聞き、ここまで来ましたが?」
「そ、そうですが……え、29歳?」
自衛隊員が溢した年齢に、雪菜は一瞬青筋を浮かべた。設定年齢に、悪意しか感じられない。因みに、明久は24歳となっている。何故に逆にした。
「それで、確かここには獅子王機関も協力していた筈ですが、どうなったのですか?」
「はっ! それが、突如として多数の魔獣に襲われて、隊は散り散りに。安座真三佐とも連絡が取れなくなりました!!」
雪菜が強めに問い掛けると、その自衛隊員は敬礼しながら答えた。なお、雪菜は気付いていなかったが、必死に唯里は口元を抑えている。
「……ならば、次席指揮官は誰ですか」
「は! 沖山一等特尉になります!!」
自衛隊員の答えを聞いて、雪菜は口を開こうとした。その時、自衛隊側から警報音が鳴り
「総員降車! アンノウンが接近中!」
と大声が聞こえた。すると、トラックから比較的軽傷者が降りてきて、小銃を構えた。その直後、寝ていた筈のグレンダが上部ハッチから飛び出していった。
「グレンダ!?」
「僕達も行くよ!」
「はい!」
唯里は上部ハッチから顔を出し、明久と雪菜達は後部ハッチから飛び出した。すると、自衛隊員が小銃を向けた先には、あのワイバーンが居た。
時は少し戻り、自衛隊陣地の一ヶ所。
「……どういうつもりだ、斐川降魔官」
「安座真三佐……今回の作戦、最初から違和感だらけだった」
自衛隊側の最高指揮官たる安座真三佐に、志緖は六式弓改を向けていた。今この場には、負傷している緋娑乃と牙城。意識の無い凪沙、志緖の他に膝丸に乗っているリディアーヌと浅葱。そして、イブリスベールが居る。
安座真三佐は少し前に戻ってきたらしいが、一度は行方不明と聞いていただけに、疑うのは仕方ないかもしれない。だが、それより前に志緖はこの作戦自体に違和感を覚えていた。
「まず、この作戦に民間人を利用すること……確かに、彼女には私達でもよく分からない何かが取り憑いているみたいだが……それに、強力な霊媒体質だからといって民間を巻き込んでいい理由にはならない。それに、自衛隊に協力を要請するという点も」
「……事実、そちらだけでは蜂蛇に対応出来ていなかったようですが?」
「確かに、それは事実だ……だが、それは自衛隊もだ……いや、対応出来な過ぎと言っても過言じゃなかった。装備で確認していたのは、小銃と散弾銃レベル……第一降魔大隊の装備には、軽機関銃や重機関銃もある筈……しかし、私は見ていない」
志緖の指摘に、安座真の後ろに居た自衛隊の隊員達は困惑した表情を浮かべている。どうやら、彼らもその点には違和感を覚えていたらしい。
「それに、装甲車も対戦ヘリも見ていない……これは、どういうことですか、安座真三佐?」
「……我々自衛隊は、何かと制限が多い……それに、今回は我々の想定を超えていた……それより、なぜ戦王領域の吸血鬼がここに?」
志緖の問い掛けに答えた安座真は、そう言ってイブリスベールを見た。
「何を言ってる、この方は……」
「クックック……何故我が戦王領域の吸血鬼だと思った? 安座真とやら……我が、あの蛇遣いと一緒に居たからか? だがな、あの場に貴様は居なかった筈だぞ? そう……聖殲派の騎士たる貴様以外はな? それと、我の名前を言ってやろう……よく覚えておけ……我の名前は、イブリスベール・アズィーズだ」
イブリスベールが指摘しながら指差したのは、安座真が包帯を巻いていた右腕。実はここに来る前に、イブリスベールと今は居ないヴァトラーの二人は襲撃してきた騎士達に対して眷獣を放ち、その一人の右腕に負傷させていたのである。
そう、正に安座真の怪我と同じ場所だ。しかも、安座真は致命的なミスを犯した。
イブリスベールを戦王領域の吸血鬼と言った。イブリスベールは、滅びの王朝の王子であるのに。
安座真も自分のミスを気付いて頬をひきつらせ、自衛隊員達は困惑の表情を安座真に向けていた。
しかし、安座真は拳銃を抜いて
「もう一度言うぞ、斐川降魔官……吉井凪沙を引き渡せ。これは命令だ」
と命じ、安座真の背後に居た自衛隊員達も志緖に銃を向けた。自衛隊を含め、あらゆる組織は上からの命令は絶対である。例えそれが、疑いの掛かっている上官でもだ。
志緖も、今は自衛隊の指揮下に入っている。命令に従い、志緖はゆっくりと六式弓改を下ろした。
だがその時
『いや、従う必要は無いぞ。斐川詩緖よ』
という声が聞こえ、安座真の背後に居た自衛隊員達が一斉に安座真に銃口を向けた。
「今の声は……!?」
「
獅子王機関三聖の一人、闇白奈。
その正体は、魂だけになって自分に特性が近い少女に憑依し、これまで獅子王機関を支えてきた創設世代の一人である。その特性は、
『我々、獅子王機関を利用した気で居たか、安座真。だがそれは、こちらとて同じことよ……確かに、神縄湖の脅威を取り除くことも目的だったが……本当の目的は、貴様ら聖殲派の焙り出しと殲滅だったのだ……』
「まんまと、そちらの罠に引っ掛かったか……やはり、貴様らも
「なるほどな……最初から龍族が目的地だったのなら、凪沙が使われたのにも説明がつく……龍を覚醒させるための条件に合致していたのが、偶々凪沙だったって話だ……ついでに、その条件をあんたらに教えた黒幕は誰なねか、教えてくれねぇか?」
牙城はそう言いながら、安座真に機関銃を向けた。
「牙城、無理をするな!」
「はっ! 大事な娘を利用されたんだ……怒らねえ親が居るかよ……それにどうやら、あのバカ息子も来たみたいだしな」
志緖は心配して言うが、牙城は獰猛な笑みを浮かべている。やはり、かなりふざけているとはいっても一人の親のようだ。
『安座真元三佐……貴様に対する拘束命令が下された……場合によっては、射殺も許可されている。大人しくするのだな』
闇がそう言った時
『皆の者、伏せよ!!』
志緖の背筋に悪寒が走ったと同時に、リディアーヌがロボット戦車の外部スピーカーで叫んだ。その数秒後、そのテントを激しい衝撃が襲った。