ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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神縄湖へ

「さてと……そろそろ、行くかな……」

 

明久はそう言いながら、浴衣から着替え始めた。絃神島では分からなかったが、本土は真冬。動きやすいかつ寒さに強い服を着ていく。それは雪菜も同じで、冬服を着ていく。

 

「先輩、ここから神縄湖辺りは雪が深いそうですから、普通の靴では心許ないのでは……」

 

「ああ、うん……実は前に、母さんに連れられて社員旅行に行った先がスキー場でね……その時に、ブーツを買ってて、今回持ってきてたんだ……雪菜ちゃん、このサイズで行けるかな? 母さんのなんだけど……」

 

明久はそう言って、雪菜に一組のブーツを差し出した。それを受け取った雪菜は、サイズを比べて

 

「少し大きいですが、大丈夫ですね……」

 

と言って、履き始めた。そして明久は、頭を掻いて

 

「問題は、どうやって神縄湖にまで行くかだなぁ……」

 

と呟いた。少し前に見たテレビでは、まだ神縄湖方面への移動規制は続いていた。となれば、公共移動方法は使えないだろう。さて、どうしようか。と明久は唸り始めた。そこに

 

「ならば、私達がお手伝いしまーす!」

 

とオシアナスガールズが挙手した。

 

「へ、けど……」

 

「それに、今は戦力は多いに越したことはないと思いますよ、第四真祖様?」

 

明久が躊躇っていると、一人がそう言って車の鍵を掲げた。確かに神縄湖はわりと近いが、それでも徒歩となるとどれほど時間が掛かるか分からない。足が有るのと、戦力が増えるのは魅力的である。

暫く悩んだ明久は、顔を上げて

 

「お願いしても、いいですか?」

 

「OKです!」

 

明久のお願いに、オシアナスガールズは全員がサムズアップした。そして十数分後に、明久達は神縄湖に向かって出発した。なお、霧葉はここで別れた。

何でも、明久達に手を貸したのは霧葉の独断だったらしく、これ以上は流石に危ない橋を渡る羽目になるようだ。

それから約二時間後、神縄湖の湖畔に祭壇があり、その真ん中に凪沙が寝かされていた。

 

「さあ、これから始めます……風間三佐、そちらの準備はどうですか?」

 

「大丈夫です、吉井巫士……隊も既に展開済みです」

 

緋沙乃の問い掛けに、陸上自衛隊第一降魔大隊指揮官の安座真は頷いた。

第一降魔大隊

陸上自衛隊でも対魔に優れた部隊であり、日本国内で魔導災害や魔導テロが起きた際に即座に出撃していい独立権限が与えられている部隊だ。

緋沙乃はその部隊と協力し、神縄湖の湖底にある聖殲の遺産を利用して、凪沙の中に居る存在。

12番目の第四真祖(アブローラ・フロレスティーナ)の魂を排除しようと目論んでいた。

だが、それは間違いだったのだ。儀式がある程度進み、排除しようと術式の詠唱を始めようとした。

その時、緋沙乃の脳裏に

 

『ダメええぇぇぇぇ!!』

 

と凪沙の声が聞こえた。その直後、神縄湖一帯で、異変が始まった。

 

「え、地震……?」

 

「ち、ババアめ……しくじりやがったな……」

 

神縄湖だけだが大きい地震が起きて、それを座敷牢で感じた詩緒は姿勢を保つために体を低くし、牙城は舌打ちした。

 

「しくじったって、どういう……な!? 牙城、お前は何故牢の外に!?」

 

牙城の言葉が気になった詩緒は、牙城の方に顔を向けたが、気付けば牙城が座敷牢の外に出ていた。しかも、両手を拘束していた手錠まで目の前で落ちた。

 

「な……!?」

 

「死都に行って帰ってきたが、その時から俺はな、体の半分が死都の向こう側に置いてきちまってな……それ以来、こんな手品紛いの事が出来るようになったのさ!!」

 

そう言った直後、牙城の両手には長大な銃身の武器。軽機関銃が握られていた。

 

「死都帰り……そういうことか……!」

 

死都帰り、牙城の二つ名でもあり、そして同時にある特殊な魔術の名前でもあった。

死都から帰還した牙城だが、未だに体の半分は死都に縛られていて、その場所は巨大な武器庫らしい。牙城はそこに、大量の銃火器を収納。残された体の半分を中継点にして、自由自在に銃の取り出しや収納が出来るようになったのだ。

そして牙城が脇に挟むように軽機関銃を構えた直後、壁を突き破って見たことのない魔物が現れた。

見た目は、蜂と蛇が合体したような魔物だった。

 

「な!?」

 

「ハッハー!!」

 

詩緒は驚愕で固まるが、牙城は両手の軽機関銃の一斉射を始めた。詩緒は知らなかったが、M60軽機関銃から放たれる7.62mm弾は、遺憾なくその威力を発揮した。毎分550発という馬鹿げた速度で放たれる弾丸が、壁を突き破って突入してきた魔物を、蜂の巣にしていく。しかし、入ってくる魔物は、一体だけでなかった。次は天井を突き破り、牙城は右手のM60軽機関銃を上に向けて、左手のは壁の方に乱射しながら

 

「ほれ、いつまでも固まってないで、六式改を展開しな! 俺一人じゃ、長くは保たないぞ!!」

 

牙城はそう言って、弾が切れた軽機関銃を放り捨てると、今度は散弾銃を構えた。すると、詩緒はハッとしてから

 

「言われずとも! 六式改、起動!!」

 

足下の楽器ケースを蹴り開け、更に蹴り上げた六式改を掴むと音声認識入力で六式改を起動させた。詩緒が持つ六式改は、紗矢華の持つ六式の簡易仕様と呼べる兵器で、使い手を選ぶ六式の弓としての機能のみに分離・特化させたものだ。

そして、詩緒の六式改で付近の魔物を殲滅させると、牙城は予備の服を着て、靴を履き

 

「さあてと……娘を探しに行くか……ついでに、ババアは……まあ、あっちは生きてるか……見つけたら、回収してやるか」

 

と言いながら、外に出た。詩緒も外に出ると、驚愕した。確かに今は冬で、屋根には氷柱が付くこともある。しかし、湖が凍るというのは予想していなかった。

 

「一体、何が……」

 

「盛大に失敗しやがったな、あのババア……さて、凪沙はどこだ?」

 

「あ、待て!」

 

凪沙を探すために牙城は行動を始め、そんな牙城を詩緒は追い掛けた。

聖殲の遺産を廻り、戦いが始まる。


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